【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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 俺は焦っていた。

 様々な可能性を考えた結果、俺に残された時間が思ったより少ないかもしれなかったからだ。

 今がどの時期か正確に分からないが、俺には明確なタイムリミットが存在する。

 

 

 それは知性巨人の存在が発覚するまでだ。

 

 

 エルヴィン団長やアルミンは非常に早いタイミングで、人間の中に知性を保ちながら巨人化出来る存在がいることを理解していた。超大型巨人や鎧の巨人もそうであろうことも。

 

 つまりエレンという知性巨人の存在が発覚した後に俺が接触し、意思疎通を図った場合、俺は明らかに敵側の知性巨人だと判断されるのだ。超大型巨人や鎧の巨人と同種だと。だって壁外にいるんだもん。

 

 いや知性巨人だと思われるのはまだいい。話が早そうだ。問題は、壁外にいる俺が敵側だと思われ、知性巨人だと思われ、『とりあえずうなじ削いで人間にして捕獲しよう』と思われるだろうということだ。俺は九つの巨人ではない。しかし知性を示せば間違いなくそうだと向こうは思うだろう。無抵抗だとしても、とりあえずうなじから能力者を取り出そうと思うはずだ。

 

 そうなれば詰み。俺はうなじを削がれ呆気なく死ぬ。

 

 

 ウォールマリア陥落後である今、タイミングはもうエレンが巨人だと発覚するトロスト区襲撃前しかないのだ。それなのに今が何年かも分からないから、いつトロスト区の襲撃が起きてもおかしくない。俺は今すぐにでも人類と接触するべきなのだ。

 トロスト区襲撃に合わせて壁内に入る手も考えたが、これはナシだ。リスクが高すぎる。壁内に入った時点で、討伐か捕獲かしかないからだ。エレンが壁を塞ぎ、俺はトロスト区に閉じ込められる。

 エレンの大岩運びを手伝う?

 いや、エレンに近付いた時点で兵長と同じアッカーマンであるミカサに殺されるな。

 トロスト区奪還後、無抵抗なら捕獲を狙えるだろうが、あそこまでがちがちに捕獲されると筆談も出来ない。意思疎通に手間取ってる内にマルコの立体機動装置を使ったアニ達に殺されてしまう。

 やはりトロスト区襲撃前の今しかない。

 

 

 既に俺が巨人になってから数ヶ月が経過していた。何の成果も得られていない。

 誤解しないで欲しいが、何もしていなかったわけではない。色々試したのだ。どれも不発だっただけで。

 

 

 まず試したのが置き手紙作戦だ。予め地面にメッセージを書き残してみた。ところが、調査兵団の壁外調査ルートは回によってかなり異なり、狙い通りに書き置きのところを通らなかったり、書き置きが他の巨人に踏み荒らされてしまったりでなかなか上手くいかなかった。

 もちろん手当り次第書き置きを残したのでいくつかは調査兵団のルート上に残っていたが、調査兵団の方々は皆必死で索敵をしており、そもそも悠長に地面に目を向けてくれなかった。また、巨人の書き置きだから真上から見ないと文字として認識できず、ただよく分からない跡だと思われたらしい。そして馬と巨人に踏み荒らされた俺のメッセージはほとんど無残に消し去られた。

 

 

 次に試したのは遠距離からのジェスチャー作戦だ。壁や調査兵団に向かって攻撃されない遠くから色々なエモートを試した。どう思われたかは定かではないが、何の反応もなかったので恐らくそもそも気付かれていなかったか奇行種と判断されたと思われる。そこそこ変な巨人として話題になったかもしれないが、精々その程度だ。途中からヤケクソになってソーラン節を踊ったりしてた。結構楽しかった。

 クソッ、奇行種という存在が厄介すぎる……!原作でも笑っちゃうような変な行動する奇行種居たもんなぁ。生半可な奇行では足りないということか。

 

 

 あとは、そうだな。敵の敵は味方作戦も試した。壁や調査兵団から見える距離で、他の巨人に攻撃を仕掛けるというものだ。これは結構分かりやすいアピールだと思ったのだが、反応は無く、上手くは行かなかったようだった。

 この敗因は俺が調査兵団を怖がりすぎて近寄れなかったからだろうな。遠すぎてよく分からなかったんだろう。じゃれてると思われたかも。

 居たもんなぁ、原作でも。あのウトガルド城の時にじゃれて耳ちぎったりしてた子供の巨人たち。エレンも最初は奇行種だと思われてたし、巨人が巨人にちょっとした攻撃をするのは全然あることなのかもしれない。

 

 あまり思い出したくないが、調査兵誘拐作戦もやった。ただの兵士一人なら俺も殺されないし、最初は脅迫みたいになっちゃうけど、ゆっくり話を聞いて貰おうと思ったんだけど……。

 

 

 本隊からはぐれた一人の兵士は、言葉を話す訳でもないどう見てもただの巨人である俺に捕まっている事実に耐えられず()()した。

 

 本当に悪い事をした。巨人の恐怖というものを舐めていたし、俺も自分がその化け物であるという自覚が足りていなかった。

 この作戦の途中、他にも何人かの兵士の最期を看取った。はぐれた兵士を探していたのだが、ほとんどが死亡、または瀕死の状態だった。どうにか助けようと巨人を追っ払ったり、治療してあげようと思ったんだけど、この大きすぎる手でそんな器用なことが出来るはずもなく。皆最期に俺という化け物を見て絶望して死んでいった。

 

 

 おれは、ばけものだ。

 

 

 俺は、もはや人類の役に立たなくては彼らに申し訳が立たない。

 

 この数ヶ月、調査兵団の戦いを眺め、俺は彼らに何かをしてあげたいと切に願うようになった。

 何かのために命を燃やすその姿は美しかった。

 俺は最初作り物を見てるような気分だったんだ。この世界ではみんな本気で生きているのに、俺だけゲーム感覚だった。

 もう細かいことを気にするのは止めよう。

 俺は、俺ができることをやろう。トロスト区の襲撃も、止めれるなら止めよう。みんな漫画の中のキャラとかじゃなくて、ちゃんと生きてるんだ。見殺しになんて出来ない。

 俺も、彼らのように。巨人の身ではあるけれど。

 

 

 心臓を、捧げたい。

 

 

 ……そうか。なんでこんな簡単なこと気付かなかった。あるじゃないか、こんなに分かりやすいのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音が聞こえる。馬が駆ける音だ。

 遂に来た。約一ヶ月半ぶりの壁外調査だ。

 

 俺は巨大樹の裏に身を潜めていた。今回の作戦は一番最初の接触と同じ。

 巨大樹に隠れ接近し、調査兵団の真正面に姿を現す。最初のこの作戦とも呼べない行き当たりばったりの行動を、俺は最後の作戦として選んだ。

 もういつトロスト区が破られるか分からない。この壁外調査中に破られるのかもしれない。もう後がないかもしれない。

 

 

 勝負は今、ここで決める。

 

 

 今回は巨大樹の森スレスレは通ってくれないみたいだ。少し走って真正面に立つか。出来ればエルヴィン団長の目の届くところが良い。

 調査兵団の陣形が近付いてくる。ドドッ、ドドッと規則正しい足音が重なりこだましている。遭遇(エンゲージ)まであと30秒ってところか。

 俺は今陣形の右翼側の巨大樹の森に隠れている。この森から飛び出し、走って中央前方まで行かなければならない。

 

 

 あと20秒。

 

 俺は全速で森から飛び出し中央を目指し走る。力の扱いにはもう慣れている。今の俺は調査兵団の馬よりも格段に速い。

 すぐさま黒の煙弾が上がる。判断が早いな。鱗滝さんもびっくりだ。まぁどう見ても今の俺は奇行種だからな。

 気にせず走り、あっという間に陣形中央が通過する位置に俺は陣取った。真正面から調査兵団を待ち構える形。

 

 

 接触まで10秒。

 緑の煙弾が真上に上がる。真上?緑の煙弾は進行方向を示すもののはずだが……

 

 ……あぁなるほど、全隊停止の合図か。エルヴィン団長は俺の迎撃も回避も間に合わないと判断し、陣形が食い破られないように停止させることにしたのか。好都合だ。

 

 さて、最初はこれと同じ作戦で失敗した。俺の行動が奇行種止まりだったからだ。先程も言ったように、生半可な奇行ではいけない。

 

 なら、とびっきりの奇行をしてやろう。巨人が絶対にしないこと。

 俺は直立し、左手を後ろに回し、右手で握り拳を作り大きく振り上げた。

 絶対に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 この、()()()()()()()()()()()()を。

 

 

 

 俺は、振り上げた右の拳を思い切り左胸に、己の心臓に打ち付けた。ドォンと俺の中に衝撃が響く。

 

 心臓を、捧げよ。

 

 言わずと知れた、あのポーズである。こんな簡単なこと、もっと早く思い付くべきだった。

 作中のアルミンの演説を思い出す。俺も怖いさ。次の瞬間にはうなじを削がれているかもしれない。それでも。

 俺はアルミンのように賢くないが。それでも。アルミンのように勇敢に。

 

 

 既に調査兵団の先頭との距離は十数mである。先頭にいるエルヴィン団長と目が合う。

 

 あなたなら分かるはずだ。いや、あなたでなくとも、人類に命を捧げると誓ったあなたたちなら。

 

 

 数秒経つ。なんの反応もない。

 攻撃もしてこないが、もう一押しか?

 

 

 俺は少し迷って声を張り上げた。

 

 「ィンゾウ、ヴォッ!ザア゙ゲォ!」

 

 発声練習はこの数ヶ月頑張ってきたが、この程度だ。大して進歩しなかった。だが、このポーズと合わせれば、伝わるかもしれない。

 諦めず俺は声を張り上げる。

 

 

 「シンッオ゙ヴ、ヲ!ア゙ア゙ゲォ!!」

 

 

 心臓を捧げよ、と。

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