間に合え!間に合えッ!
俺は懸命に走っていた。
こんなに走ったのは二連続の留年がかかったテストの日の朝に寝坊した時以来だ。何してんだ俺の馬鹿野郎。
途中巨人と何度もすれ違うが、どいつもこいつも壁の方に歩いていきやがる。くそぅ、もう壁破られたっぽいな。調査兵団のみんなも早目に気付いて戻って来てくれ〜!
どんどん巨人の密度が増えていく。いよいよまずい。
ドン、ドンと花火大会のような音が聞こえてくる。この世界で花火がやっている訳もなく、当然これは大砲の音に違いなかった。きっと駐屯兵団の方々が必死に巨人を迎撃しているのだ。無意識に足の回る速度が上がる。
ようやく壁が見えてきた。至る所巨人まみれだ。正門に向かって巨人達が歩いていく。歩いていった巨人たちの頭やら腕やら足やらがちぎれ飛んだ。
結構頑張ってんな、駐屯兵団。
しかし多勢に無勢といったところか。少なくない数の巨人がどんどんと中に入っていく。よし、俺も中に……
結構弾幕凄いな?
いや大砲なんかじゃ巨人を倒せないのは分かってる。でもさ、ダメージは入ってる訳じゃん。
じゃあ運悪くうなじにクリーンヒットしたら死ぬよね?
え?結構怖くない?
人類のために頑張ってくれてるのは分かるけど、今はその努力の結晶が恨めしい……!
だが迷っている時間は無い。壁が破られてからどれくらい経っているのか分からないが、見た感じそこそこ経ってそうだ。先遣班がそろそろ全滅するとかそんな感じかな。介入するなら早くしないと犠牲が増える。一人でも多く助けなくては。
勘違いしないでよねっ!私を擁護してくれる兵士が多い方が良いだけなんだから!
……こんなくだらないことを考えるくらいには俺は焦っている。よし、覚悟を決めろ。大丈夫だ。大砲なんかに撃ち抜かれるわけがない。どんな確率だ。
ふーっと一息ついて、俺はクラウチングスタートを切った。あの鎧の巨人が如く。
最高速度でぶち抜いたるっ!!
怖いから早く通り抜けてしまおう。その判断は正しかったと思う。しかし今回はそれが良くなかったようで。
「うわあああああ!なんだあの巨人!(驚愕)」
「突っ込んでくるぞ!!(恐怖)」
「アレが鎧の巨人!?(錯乱)」
クラウチングスタートを切る俺の姿は駐屯兵団の方々の恐怖心を煽りすぎてしまったらしい。
俺は走り出して2秒で集中砲火を食らった。
ぐわああああああああ!!!
痛ァい!痛くないけど!!
いろいろと弾け飛んだ俺はごろごろと勢いのまま地面に転がる。
なんで!?なんでそんなに撃つの!?
うなじは守ったが、両手と左足、脇腹とかその他諸々がぶち抜かれた。
酷い!!俺が何したって言うんだ!!
俺がのたうち回っているうちに大小の巨人達がぞくぞくと中に入っていく。
ずるい!!
しかしそんなことを喚いていても仕方がない。幸い大砲の装填にはかなりの時間がかかる。それよりも俺の再生速度の方が早い。
意識して左足の再生を優先する。十秒経たずに完治した。うん、再生能力が高いのは便利だな。
まだ大砲は次弾を装填できていなそうだ。俺はクラウチングスタートは切らずに(てか両手ないから出来ない)再びダッシュした。あっという間に正門をくぐり抜ける。
なんかすれ違いざまにとんでもなく絶望した駐屯兵団の人の顔が見えたけど、そんなに気にしなくていいよ、善良な一般巨人だから。ちょっと傷付くからやめてね。
さて、中の様子は……。
うーん、地獄。
先遣班はまだ全滅してないみたいだが、今入ってきた俺に構う暇もないくらいには劣勢だ。やっぱり調査兵団に比べると動きが悪いな。これなら俺もうっかり討伐されることはないだろう。うなじは最優先で守ってるし。唯一の懸念点のミカサは確か後方だ。
そんなことを考えているうちに砲撃で吹き飛ばされた部分の再生が粗方終わった。
さて、考え事に耽っている場合ではない。俺はもう決めたのだ。一人でも多く助けると。
俺はその場から駆け出し、一番近くにいた兵士を襲う10m級を蹴飛ばす。そのまま足をひっかけて転ばせ、うなじをかかと下ろしの要領で踏み潰した。
転ばせて全力でうなじを踏み抜く。
これが俺が考えた中で最速の巨人討伐方法だ。エレンなら拳で一撃でぶち抜けるが、俺はまだそれが出来ていない。一撃でやるなら、足で全体重をかけ潰さないと、俺は巨人のうなじを完全に破壊できない。
足払いは得意だ。
空手でもよくやってた(姑息)。
この方法で俺は移動時間を考えなければ理論上五秒に一体のペースで巨人を殺せる。
理論上はね。
巨人を無理やり転ばせ、足を振り上げる。狙いがずれ、うなじではなく顔面を破壊してしまった。
ほらね、こういうことがあるから。
もう一度踏み直しっと。
……やっぱグロいから、精神にクるな。
……ええい!
人が食われる方が精神にクるわ!!
どけどけい!!
無理やり自らを鼓舞し、俺は巨人を倒し続ける。
やばい。全然減らない。
次から次へと巨人が入ってくる。キリがない。
というか、実際は俺があまり巨人を倒せていない。俺が一体巨人を倒している内に二人食われるからだ。巨人から人を守ることを優先した結果、巨人ともみくちゃになり、時間をとられている。
こんなの、対症療法に過ぎない。
もお〜〜!!先遣班の人早く逃げてよぉ〜!!
ああ、敵前逃亡死罪だっけ……。クソが。
しかしいよいよ本当にまずい。巨人の数が増えてきて守りきれなくなってきた。視界の端でまた一人、また一人と兵士が食われていく。
前衛はもう見捨てて、中衛と後衛を助けた方が、救える人数は多いのではないか?
前衛じゃなければ巨人の数は少ない。ちゃんと巨人を殺しきって、ちゃんと人を救える。
そんな酷く合理的で、恐らく正しい思考が俺の頭の中によぎる。多分、一人でも多く救いたいならそうすべきだ。
「うわあああああッ!!やだあああああ!!」
また一人、巨人に捕まりその大きな口に運ばれて行く。
ああ、クソッ。見捨てろ。より多くの人を救え。どうせ今そいつを助けても、すぐまた捕まって食われて死ぬ。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッ!!」
俺は叫びながらその巨人を打ち倒す。そして、あえなく転倒した巨人のうなじを踏み潰した。
見捨てられるかよ……!
こちとら立派な現代日本の道徳の授業受けてのんびり育ってんだよ!
トロッコ問題で「えー?どっちにしよー?」とか言って悩んで生きてきたんだよ!
わかんねえよ!!
鬱憤を晴らすようにまた別の巨人を踏み付ける。疲れた。巨人の身体はほぼ疲れないのに。
つかれた。
ふと、街の中央の方から咆哮が聞こえた。普通の巨人ならまずあげない大きさの叫び声だ。
これは……エレン?
感覚的にだが、そうだろうなと確信する。仮にも始祖の巨人の叫びだからだろうか。
そうか、エレンが巨人化したか。
じゃあ、俺は助けられなかったわけだ。エレンの班員達を。トーマスやミーナ達を。
途方もない無力感に襲われる。しかしまだだ。義務感だけで身体を動かし、巨人を殺す。
そう言えば俺、「エレンを助けてしまったら巨人の力に気付かないままかも」とか心配してたっけ。
はは、要らない心配だったよ。俺はそんな有能じゃなかった。正しい判断も出来ずに、エレン達も助けられなかったよ。
そんなことを考えながら、目の前の人を助ける。巨人を殺す。人を助ける。殺す。助ける。殺す助けるころすたすけるころすたすけるころすころすころすコロスコロス……
鐘の音が鳴った。撤退の鐘だ。
ああそうか。エレンが巨人化したならそろそろのタイミングだよな。
駐屯兵団の制服を着た兵士が俺の横を通り過ぎ、壁を登り始めた。
ガス残ってたんだ。優秀だね。
ガスが残って無さそうな絶望顔を浮かべているやつがいたが、俺が近付くと決死の表情でアンカーを打ち込んできたのでワイヤーを掴んで、雑で悪いが一か八かで上にぶん投げてやった。駄目ならキャッチしようと思っていたが、ガスは少しなら残っていたらしく、無事に壁の上に登った。
俺は何人助けた?まばらに居る壁面や壁上の兵士を見上げる。
……少ないな。両手の指で数えられるくらいだ。
見るとガスが足りずに壁にぶら下がっている兵士がいる。助けてやりたいが、過去の自害した調査兵のトラウマで触れない。そう俺が思い悩んでいるうちにそいつは他の兵士に抱えられ登っていった。
やっぱりみんなガスギリギリだったんだなぁ。壁を登るのに思ったよりガス使うっぽいんだよな。原作でも皆そこそこガスありそうだったのに壁登れなくて嘆いてた、し……
そうだ。まだ訓練兵の皆が残っている。
撤退の鐘が鳴ったのにガスが足りずに壁を登れない子達が。
まだ、助けられる人がいる。
ちなみに主人公の警告を受けて、エルヴィン団長がそれとなく駐屯兵団に働きかけていたので、何かあると察したピクシス司令はこの一ヶ月程トロスト区の防衛を強化していました。
なので原作よりも駐屯兵団の人員が増えていたりします。まぁそこまで大した変化では無いんですけどね。
あと感想とか誤字報告、ここすきありがとうございます!なんか日間ランキングにも載ってて、ホント有難いです!