[短編集] 異世界で暮らす女の子達の日常、又は夢の中で見るような非日常   作:よちぇさん

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 現実の話です。
 辛く思うことがある時、誰かも同じ思いをしています。
 それが少しでも心の支えになったならと思います。


現実 4月6日 会社に行きたくない誰かに

 私は日記帳を開く。

 

 

 

 日記帳といえどもそれは日記帳の体をなしていない。

 左手でページをめくりチラリと見えた左側の日付欄には、本来在るべき日付は黒く塗りつぶされ、かわりにその日の天気が記入してある。

 右側の自由記入欄には細かく小さく、全ての言葉を納めるかのようにびっしりと何かが書いてある。次のページへめくるとまた違う日の天気と同じくびっしりと何かが記録されてある。いつの日か記録したそれは、また開いてみるとき私に安らぎを与えてくれる。

 これは日々の記録ではない。いつかの未来への言葉だ。自分いや、自分だけじゃないその他の誰かに向けた「ことば」の薬だ。

 

 

 

 

 胸が痛い。手が震えている。外の世界はこんなにも寒い。

 冬仕様の暖房が付いている座っている電車の席だけが暖かい。

 

 

 耐えきれずスマホを開く。と、すんでのところで開くのを耐えて電源を落とす。

 いつもなら迷わずに開くだろう。せまい画面に目を張り付けて、周りをシャットダウンするだろう。どうしようもないような短尺動画を開いて気を紛らわすだろう。

 でも私には時間がないのだ。そんなことをしている暇はない。

 着いてしまう。駅に。

 終わってしまう。私の時間が。

 始まってしまう。労働が。

 今日だけはどうも耐えられないみたいなんだ。

 

 

 

 

 私の心はまだ、家を出ていない。体だけが突き動かされて、義務を理解して動いて今ここにいる。無理やり動かして来たのだ。

 

 辛い。耐えられない。

 

 呼吸をしたい。うまく呼吸ができない。

 

 

 そうだ、こんなときのためにこれは存在しているのだ。

 私が私であるための最後の砦。それを守るためのもの。

 

 

 

 大事に付箋が貼ってあるページ。数あるページの中でとりわけしわがついて角が取れているページを開く。

 左下には96ページと書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『時々暴風、だいたい小雨だった日。』

 

 

 

『辛そうなおねーさんいるね。え、お兄さん?それはどっちでもいいんだけど。

 

 あなた、今悩んでいるでしょ。

 理由は知っているよ。疲れてるよね。もう疲れたくないんだよね。

 

 

 

 突然だけどさ、世間の大人ってすごくない?時間と規律を守ってさ、自分の時間と体力を犠牲にして、それで平然としているの。実は心の中はボロボロなのかもしれないけれど、あたしにはそうは見えない。

 だって現実で話してみなよ。そんな重い雰囲気も、自殺なんて言葉が出てくる気配なんてひとつもない。疲れたとはいいつつ、その口から出てくるのは楽しそうな趣味の話と楽しそうなひどい客の愚痴と楽しそうな上司の愚痴の話。

 

 

 大人っていつなるんだろうね。いつ切り替えるだろうね。なりたくないね。

 

 

 だって、無機質で夢もじゃん。もう変にその先の進む道が見えるのが嫌。働いて、食って、寝て。娯楽で頭をリセットして、働いて食べて寝る。どうせ休日なんて遅くに起きて、YouTubeをだらだらみてご飯食べるだけで終わるよ。

 

 その過程の詰め合わせで出てくる結果は何?

 ひとりで食えるぐらいのお金、もしかしたら伴侶?。後はなんだろうね。自由と孤独?

 

 でもそれで終わりじゃん。それで終わるんじゃん。

 ここからは耐えるフェーズ。耐えて耐えて、耐えるためにお金を使って、周りのうるさい声を黙らせるために結婚をしていわゆる普通を手に入れる。そうやってやっと世間は合格判定をくれるらしい。

 

 子供の頃だって別に天国だったわけじゃない。

 むしろ辛かった。

 だって将来に向けての準備期間だったんだから。いつか社会に出たときのためにと言われ色々やってきたじゃないか。もちろん耐えて耐えて生きるための準備だよ。私達は耐えるために準備してきたんだ。

 

 頑張って耐えて準備したご褒美?勉強と就活を頑張ったご褒美?

 

 そんなものあるわけないよ。

 あるのはこれから働き続けるという事実と有無を言わせず背負わせる責任と今でにない失敗と注意と叱咤の数々。

 

 

 

 私達って悪いことしたかなぁ?人より勉強は頑張っていたし、変な奴らの変な遊びにも付き合わず、あるべき学生でいたよね。

 犯罪なんてしてない。

 辛いことがあっても耐えて頑張ってある程度結果も出してきた。

 

 

 その結果がこれ?

 

 私達は辛いだけ。 

 これが当たり前なのだから慰めてくれる恋人も友達もいない。

 当たり前に受け入れろとばかりに時間だけが進む。

 

 ほんと、ちょっとは立ち止まって休む時間くれたっていいのにね。

 

 

 

 ねえ、

 

 

 

 会社行かなくて良くない?

 

 

 ネットの声を見てみてよ。いるでしょ。もっとひどい人だっている。

 ほら、メールでさ、ごめんなさいってだけ言って帰ろう?

 

 もう、外に出ちゃってるかもしれないけれど引き返そう?

 ひたすら来る会社関連のメールもおやすみモードにして知らんぷりして帰ろ?

 

 今日家出るの辛かったでしょ。 頑張って起きて歯磨きしてご飯食べたでしょ。

 家事もした?そうならもっとすごい。

 

 もういいよ。

 これから疲れに行かなくていいよ。

 充分頑張ってるし、頑張ってなくても私達は生きるので精一杯なんだから。

 

 帰ってさ、いやもう家から出なくてもいいよ。布団に入ったらあったかいよきっと。今日は疲れなくていいんだ。休んでいいんだって。

 

 

 目を閉じてさ、幸せなことばっかり考えようよ。

 何が食べたい?どこに行きたい?

 私はちょっと古ぼけた旅館に行って、豪華じゃなくても手の籠った温かみのある料理が食べたいなぁ。

 

 いっしょに行く?

 いいよ。行こうよ。

 今日でも明日でも行こうよ。

 あなたのお家にいって、ほら行こう?って迎えにいってあげるから。

 あなたは準備しないでもいいよ。一緒に準備してのんびり出かけよう?

 一緒に新幹線乗ってさ、仕事なんてどうやったってできない場所に行って2人でお酒飲もう?

 なんか豪華なかんこーちってよりは、静かで穴場な旅館に行きたいよね。女将さんが優しくてちょっとボロいけどご飯が美味しいところ。

 

 あ、私もお金があるわけじゃないから折半ね。

 ふふふ。

 楽しみになってきっちゃったね。

 

 

 ああ、ダメダメダメ!!!

 目を開けちゃだめだよ。周りを見ちゃダメ。私だけをみて。

私の目をみて。

 息を吸って深呼吸して。私に寄りかかってもいいから。

 

 んう、もう!

 ほら、そのまま抱きついて。

 私の胸に耳を当てて深呼吸。 

 そう、すってー、はいてー。

 すってー。はいてー。

 

 ……ちょっとは落ち着いた?

 

 電車の音も目覚ましの音も気にしなくていいからね。

 ここには私とあなたしかいない。

 私とあなたの心臓の音しか聞こえない。

 あいつもあいつらもあの人もいない。

 やらなきゃいけないことも責任も義務もない。

 

 

 ここだけは安心してあなたがあなたでいられる場所だから。

 

 

 だからさ、そんな切羽詰まったような辛い顔をしないで。

 なんどもここに戻って来ていいから。私を呼んでくれていいから。

 

 そしたら私が連れて行ってあげるからどこか遠くへ。

 私とあなたがおしゃべりをして、遊ぶ遊ぶだけでいいようなそんな世界へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、行っちゃうの?

 

 

 

 

 うん。

 そっか。

 

 

 

 大人だからね。やらなくちゃいけないよね。

 行かなくちゃいけないよね会社に。

 

 

 

 えらいね。

 

 うん。えらい。

 

 

 

 

 

 

 

 今日は辛かったよね。よくわからないけどとびきり辛かったよね。

 行きたくなかったよね。

 そんな時に頑張っていけるあなたは凄いと思う。

 休んだっていいんだよ?ほんとに。

 

 

 

 でも頑張るって決めたんだもんね。

 それなら私は背中を押すしかないなぁ。

 

 

 

 ふう。

 ほら、もうそろそろみたいだよ。

 

 絶対帰ってきてね。ボロボロでも以外とへっちゃらでも良いから。

 私は相手してあげるから。

 

 

 

 

 じゃあ、いってらっしゃい。

 

                               』

 

  

 

 次は五反田、五反田。お出口は右側です。東急池上線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。

 

 

 

 

 

 日記帳を閉じてカバンに入れる。

 もう行かなくてはならない。

 カバンのチャックを閉じたら周りの人にすいませんと謝ってから立ち上がってドアの方へ。

 しばらく待機していると電車がキキーと甲高い声を出して止まる。

 

 

 ベルが鳴る。

 ドアが開く。

 

 私は足を踏み出した。前へ。




辛くなったとき、耐えられなくなったときはこの子を呼んでください。

コメントをして私を呼んでくだされば、あなたのために書きます。
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