貞操逆転世界の退魔師   作:青ヤギ

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貞操逆転世界で唯一の♂退魔師

 

 静まりかえった夜のビル街を全力で走る。

 背後から迫ってくる追っ手から逃げるために。

 

『男ダァ! 男ダァ!』

『種ヲクレ? 魔羅(マラ)ヲクレ?』

『命ノ(モト)ヲ吸ワセロォ!』

『オ前ノ稚児(チゴ)、孕マサセテオクレ!』

 

 空中を飛翔する無数の白い影。

 一見すると髪の長い女性のシルエットをしているが、これを生きた人間と思う者はいまい。

 血のように赤く光る剥き出しの眼球。刃物のように鋭い鉤爪。芋虫のような下半身。

 耐性のない者が一目見れば、たちまち発狂するであろう女型の異形。

 それが群れを成して、たったひとりの男を狙っている。

 

 (おも)に、俺の子種を。

 

『男ォ! 種ヲ寄越セェェェ!!』

 

 冗談じゃない。

 バケモノなんかに大事に守ってきた童貞を奪われてなるものか。

 命と貞操の危機から逃れるため必死に走る。

 だが逃げ込んだ先には、すでに無数の異形たちが待ち受けていた。

 

「ほほほ。もはや逃げられんぞ小僧」

 

 異形の群れの中で一体だけ形の異なる個体が前に出る。

 まるで蜘蛛のような見た目をしたバケモノだった。

 

「男のくせにこんな真夜中を彷徨(うろつ)いている貴様が悪いのじゃぞ? まるで『襲ってくれ』と言わんばかりに美味そうなオスの匂いを撒き散らしおって」

 

 耳まで裂けた口から「じゅるり」と蛇のように長い舌が伸びる。

 

「そのメスを挑発するはしたない肢体の中で巡る極上の生命力! なんとうまそうなのじゃ! これほどの獲物は久方ぶりじゃあ!」

『男ォ! 精気、啜ラセロォ!』

「騒ぐでない! 最下層の第一等級どもが! まず第二等級である妾が先に味見をするのじゃ! 退魔師が来る前に、そのやらしい体と若き生命力をたっぷりと堪能させてもらうぞ!」

 

 欲情にまみれた眼光を向けながら異形たちが迫ってくる。

 

「これほどの生命力を取り込めば妾はさらに強力な【雌鬼(しき)】となれる! 第三等級……否、最上位である第四等級へと至れるはずじゃ!」

 

雌鬼(しき)】。

 それが、この異形たちの総称。

 男を犯し、生命力を奪い、力を増していく、人類の敵。

 

 この世界は惨い。

 男というだけで、こんな気色の悪いバケモノに狙われるだなんて。

 

「ちくしょう。最悪だ」

「嘆いても無駄じゃ。観念して妾に犯されるがいい!」

「わざわざ体張って結界までおびき寄せたっていうのに、こんな雑魚しか集まらないとはな」

「は?」

「親玉を引きずり出して、さっさと終わらせたかったが。まあ、いい」

 

 この結界の中なら街に被害を出さず遠慮なく()れる。

 

 左手をかざす。

 革製の手袋。その手の甲に埋め込まれた宝玉が光を発する。

 

霊衣(れいい)展開」

 

 光が俺の全身を包む。

 

「な、なにっ!? 貴様、その姿は!?」

 

 俺の装いは先ほどと変わっていた。

 首元から下の全身を覆う、ライダースーツのように体の輪郭が浮き出る黒の衣服。

 足首まで届く長さの純白マント。

 そして左手に握った鞘から刀剣を引き抜く。

 

「霊衣だと!? それに、その刀はまさか──【鬼哭刀(きこくとう)】! 貴様、退魔師か!?」

 

 獲物を前にあれほど嬉々としていた雌鬼たちが、いまや子羊のように怯えている。

 想像もしなかったのだろう。

 まさか狩るべき獲物が雌鬼(自分)たちの天敵だったとは。

 

「ありえん! 霊力を操れるのは女だけのはず! 男が退魔師になれるはずがない!」

「ああ、その通りさ。だが何事も例外は存在するものだ」

 

 この世界でただひとり、霊力を使うことができる男。

 

「それが俺──黒井戸雄護(くろいどゆうご)だ」

 

 身の内に宿る霊力を活性化させる。

 共鳴するように右手に握った刀が光を発する。

 

「なんだ!? そのデタラメな規模の霊力は!? ひぃぃぃ! 来るなァ!!」

 

 逃げようとしても遅い。

 お前たちはすでに俺の刃の届く範囲にいる。

 

一掃(いっそう)しろ──【墨柘榴(すみざくろ)】」

 

 刀を横薙ぎに一閃。

 刀身から墨汁のような黒い液体が溢れ、雌鬼に向かって撒き散らされる。

 

『ギギャアアアアアアアアアア!!!?』

 

 墨汁を浴びた雌鬼たちの体が次々と切断されていく。

 浴びた墨汁の箇所が多ければ多いほど細切れに切り裂かれていく。

 

「バカな……妾が、男なんぞに狩られるなどぉぉぉぉ!!」

 

 蜘蛛型雌鬼も例外なく、周囲の雌鬼と同じ運命を辿った。

 

 悪夢のような光景は一瞬で過ぎ去り、夜の静けさが戻ってくる。

 だが気は抜けない。

 あの群れを率いてやってきた大型の雌鬼がまだどこかに潜んでいるはずだ。

 もう一度結界の外へ出て、おびき寄せるか。

 

「雄護様!」

 

 静けさを破るように少女の声が響く。

 ビルの屋上から飛ぶ人影。

 赤色のメッシュが入った長い黒髪をツーサイドアップにした少女が、月を背にして降りてくる。

 少女は重力など無いかのように難なく着地すると、わずかな怒気と不安を滲ませて俺のもとへ駆けてくる。

 

「また単独で雌鬼退治を! 出撃する際は私たち護衛を帯同するようにと、あれほど申しているではないですか!」

 

 少女の装いは俺と同じく、体の輪郭がくっきりと浮き出る生地が薄めのスーツを身につけ、腰元に鬼哭刀を提げている。

 彼女も退魔師だ。

 それも退魔名家の一角である赤凪(あかなぎ)家の令嬢──名を赤凪羽月(あかなぎはづき)という。

 役職は一応、俺専属の護衛ということになっているが……。

 

「そっちこそ同じことを何度も言わせるな。俺に護衛は必要ない。このとおり、ひとりでも戦える」

「で、ですがあなた様の身に何かあったら!」

「……俺が第一、第二等級ごときに遅れを取るとでも?」

「そ、そうは言ってはおりませんが……万が一ということもあります! もしも第四等級が現れたら!」

「ここ数年ほとんど出現報告が無いだろ。京都でそれらしき影が確認されたとは聞くが……仮に出てきても倒すだけだ」

「だからといって雄護様のやり方は危険すぎます! 自らを囮にして雌鬼をおびき寄せるだなんて!」

「このほうが手っ取り早いからやっているだけだ。いちいち【(さそ)()】を焚くのも面倒だ」

 

 まあ肝心な親玉が残念ながら引っかからなかったようだが。

 

「護衛なら向こう側にユアを待機させている。何かあればアイツが駆けつけてくる。だから羽月は先に帰れ。残りも俺がやる」

「いえ! お供いたします! 雄護様をお守りするのが私の使命なのですから!」

 

 羽月はやはり頑固だ。

 こうなるとわかっていたからコイツが実家に帰省している間に雌鬼退治を済ませたかったのに、随分と戻るのが早いじゃないか。

 

「私とて赤凪家の娘! 必ずお役に立ってみせます!」

 

 使命感に燃えた羽月がズイズイと迫ってくる。

 

 確かに戦う仲間が多いに越したことはない。

 命がけの戦いをしているのなら尚更だ。

 わかってはいる。

 だが俺にとっては羽月の同行が逆に死亡フラグになりかねない。

 なぜかって?

 それは……。

 

「雄護様! どうか私をおそばに!」

 

 ──ばいん♡ ぼいん♡ むっちむち♡

 

 コイツの格好がエロ過ぎて戦いに集中できないんだよ!!

 

 ただでさえ息を呑むほどの美少女!

 体つきも10代の娘とは思えない暴力的な発育!

 煩悩の集大成とばかりのドスケベボディを持った美少女が、さらにドスケベな『ぴっちりスーツ』を着てるんだぞ!

 戦いに専念できるか、こんな格好した娘が横にいて!

 

 だいたい何なんだよ、この霊衣とかいう戦闘服は。

 運動性の重視? 円滑な霊力の循環?

 機能美を追求した結果こんな際どいデザインになったらしいが、立案したやつも採用したやつもどうかしている。

 

 これ以外の戦闘服がないから俺も渋々装着しているが、はっきり言ってめっちゃ恥ずい。

 ラバースーツみたいにテッカテカに濡れ光ってるし。

 (へそ)が透けるくらい薄めの生地だし。

 股間なんてもろにモッコリ。ケツもパッツパツだ。

 あまりにも落ち着かないので、こんなダサい白マントで全身を覆っている。

 決してかっこいいと思って付けてるわけじゃない。

 

 けれど俺の霊衣のデザインなんて、まだマシなほうだ。

 羽月の霊衣など、もっと凄い。

 

 なんと切れ込み(スリット)がある。

 ドスケベな体格を主張しつつ素肌まで露出していやがる。

 もちろん羽月が露出狂というわけではない。

 一応、理由はある。

 

 退魔師には生まれつき【霊気孔】と呼ばれる霊力を放出しやすい部位がある。

 出力が多ければ多いほど動体視力は向上。

 霊力による障壁も強固となり、広範囲に展開できる。

 これを霊衣で塞いでしまうと逆に出力を妨げてしまうため霊気孔がある部位にはスリットを入れて、素肌を露出させる必要がある。

 見た目だけだと危なっかしいことこの上ないが、霊力が最大出力されるので逆に最も頑丈な箇所だったりする。

 

 ちなみに羽月の霊気孔は三箇所ある。

 二の腕。

 脇周り。

 そして背中全面。

 

 霊気孔が多ければ多いほど優秀な退魔師として賞賛されるそうだ。

 さすがは赤凪家はじまって以来の秀才。

 スリットいっぱいの霊衣が着れて家の人たちも鼻が高いだろうね!

 バカじゃねえの。

 ほとんど『童貞を殺すセーター』と同じ露出具合じゃねえかよ。

 戦闘時でもチラチラ見てしまうわこんなの。

 

 てか、もしも霊気孔がケツにあったらケツ丸出しになるってこと?

 あぶねえ。俺の霊気孔が「眼・口・耳」でよかった。

 

 普通はこんなエロい格好、女の子は嫌がるものだ。

 ジロジロ見てたら「きゃー! エッチ~!」って反応されるはずだが……。

 しないんだな、これが。

 だって。

 

 ここ貞操逆転世界だもん。

 

 男女の役割も、性欲も、価値観も丸ごと入れ替わった世界。

 上半身裸になっておっぱい曝け出しても彼女たちは気にしない。

 だから海パンよりも布の面積が多い霊衣を恥じらうほうがおかしいというわけだ。

 

 とんでもねえ世界に転生させてくれたもんだよ。

 雌鬼なんて性被害を起こすバケモノまでいるし。

 エロゲーだったらそういう犠牲者は女性になるものだが、貞操逆転世界だから男性が襲われるわけである。

 勘弁してほしい。

 

「とつぜんボーッとされてどうされました雄護様!? どこかご気分が優れませんか!?」

 

 ええい、それ以上寄るんじゃない爆乳。

 歩く度にデカパイが「ばいんばいん」揺れるんじゃ。

 

 くそっ、見れば見るほどエロいなこの娘。

 勃起が止まらん。

 勃起のせいで動きにくいねん。

 だから護衛はいらんと言っとんじゃ。

 

 まずい。

 完全にフル勃起した。

 股間が痛い。

 こんな状態で雌鬼が来てしまったら……。

 

 ドオン、という衝撃音と共に大地が揺れる。

 

「もう辛抱たまらぬ! これほど極上の生命力を嗅がされて隠れ潜んではおれぬわ!!」

 

 砂埃の中からコウモリのような翼を広げた巨大な異形が現れる。

 

 ほ~ら、来ちゃったじゃないか~。

 気配からして間違いなく上位種の第三等級だよコイツ。

 

「第三等級!? どうしていまここに……!」

 

 それはね羽月。君が俺を勃起させたからだよ?

 雌鬼は男の生命力……即ち精気に誘われて襲来してくるからね。

 

 まいったな。

 もともとおびき寄せるつもりだったけけど、このタイミングはまずい。

 ちょっと待ってくんない?

 勃起が鎮まるまで時間をくれ。

 

「馳走じゃ! 男でありながら退魔師! これほどの馳走はない! その生命力、根こそぎ搾り取らせてもらうぞぉぉぉ!!」

 

 ダメみたいですね。

 これは犯されるまで1秒前。

 勃起してても()るしかない。

 

「おのれ雌鬼! 雄護様は(けが)させない! お下がりください雄護様! ここは私が!」

 

 やかましい! お前こそ下がれ!

 胸にそんなバカデカい脂肪ぶら下げて刀が振れるのか!

 振れるから不思議だよな!

 ていうか後ろからでも脇乳が見えるって、どんだけデカいねん。

 尻もデケぇな。

 腿もデケぇな。

 全身エロいな。

 ああ、どうしよう。

 ムラムラして戦いに集中できん。

 

「舞い散れ──【紅鳳蝶(くれないあげは)】」

 

 俺が悶々としている間に、羽月が鬼哭刀の力を解放する。

 赤い刀身から炎が燃え上がり、火の粉が蝶の形となって飛翔していく。

 

「っ!? 貴様、炎使いか! ぐわああああ! 我の体が燃えるぅぅぅ!」

 

 赤く光る無数の蝶は雌鬼の体に止まり、激しい炎を起こす。

 そのまま雌鬼を火達磨にするかに思えたが……。

 

「第三等級を甘く見るでない!」

「なっ!?」

 

 コウモリ型の雌鬼は巨大な翼で風を巻き起こし、なんと炎を掻き消した。

 まずい。股間が痛いとか言っている場合じゃなさそうだ。

 

「退魔師どもめ! 我が幻術を思い知るがいい! こはぁぁぁぁ!」

 

 コウモリ型の雌鬼が口から桃色の煙を吐き出す。

 ぐらり、と視界が歪み始める。

 一手遅かったか。

 

「魅了の幻惑!? いけない……この規模は……コイツ、第三等級の中でも別格っ……」

 

 雌鬼が吐き出す吐息は特殊だ。

 浴びたが最後。

 性別に関係なく強烈な発情をうながす。

 そして、その人間が強く求める幻を見せる。

 

 変わっていく。

 コウモリ型の雌鬼の醜い姿が、だんだんと魅惑の女体へと変化していく。

 

『雄護様ァ。私のお体を存分にお楽しみください』

 

 霊衣姿の羽月が艶然と微笑んでいる。

 蠱惑的なポーズを取りながら、霊衣をゆっくりと脱いでいく。

 

 普段の羽月であれば決してこんな真似はしない。

 こんなもの幻だとわかっている。

 そうわかっていても簡単に理性で振り払えないのが雌鬼の恐ろしいところだ。

 性欲が減退した男であっても催淫してしまう魅了。

 鍛え抜かれた退魔師も相手の力量によっては、まんまと術中に嵌まってしまう。

 

 俺だけなく、あの羽月もあっさりと幻惑にかかった。

 この雌鬼、第三等級の中でも特に強い部類か。

 

『雄護様ァ♡ あなた様を勃起させてしまうイケナイ牝犬をどうか躾けてくださいまし♡』

 

 幻の羽月はより過激に俺を誘惑してくる。

 さっき羽月に対して勃起したせいだろう。

 いまの俺にとって都合のいい幻を仕掛けてくる。

 

 こういうことになるから、なるべく単独で戦いたいんだ。

 任務中に発情してしまうと、わざわざ敵に付け入られるような材料を与えてしまう。

 

 ……まあ、もっとも。

 

「塗り潰せ──【墨柘榴(すみざくろ)】」

 

 それでも俺には関係ないけどな。

 

 俺の鬼哭刀──墨柘榴(すみざくろ)から放たれる墨汁。

 その墨汁によって幻の羽月を塗り潰す。

 

 目に毒なものを見せつけられたら?

 塗り潰せばいいだけだ。

 それで事は済んだ。

 

「なん、だと……?」

 

 幻が消える。

 目の前には真っ二つになったコウモリ型の雌鬼。

 

「我が、たった一撃でっ!」

 

 断末魔の叫びを上げる間もなく、雌鬼は粒子となって消滅した。

 

「……はっ! 幻惑が解け……っ!? 第三等級を一瞬で……さ、さすがです、雄護様」

 

 あまりに呆気なく終わった戦いを前に羽月は呆然としていた。

 

「羽月。怪我はないか?」

「え? は、はい! 雄護様のおかげで何とも……」

 

 気まずそうに頬を赤らめる羽月。

 戦いに貢献できなかったことを恥じているのだろう。

 

「これでわかったろう? 俺に護衛は必要ない」

「……っ!」

「そもそも、この護衛任務だって赤凪家にうるさく言われてイヤイヤやっているだけだろう? そんなものに従う必要は……」

「イヤイヤではありません!」

「っ!?」

 

 とつぜん、きゅっと手を握られた。

 わぁ! 女の子の手って柔らかい!

 

「私は私の意思で雄護様の護衛をしているのです! そのような悲しいことをおっしゃらないでください!」

 

 羽月は俺の手を取りながら、忠誠を誓う騎士のように(ひざまず)く。

 

「先ほどは情けない姿をお見せしました。赤凪家の娘でありながら恥じ入るばかりです。今後さらに精進してまいります。あなた様のお隣に立つにふさわしい退魔師になるために」

 

 羽月のルビーのように赤い瞳から情熱的な眼差しを向けられる。

 

 ……おかしいなぁ?

 俺はずっと彼女に素っ気ない態度を取ってるのに、なんでこんなに慕われているんだろう?

 まあこの世界の男たちは基本的に女性に冷たいから、理不尽な扱いに慣れているだけかもしれないが。

 それでも、ここまで(うやま)われるようなことしたかな俺?

 うぅ、それにしてもやっぱり顔がいいなこの女。

 

「羽月はあなた様を心よりお慕いしております。どうか役立ててくださいまし。雄護様のためなら、私はどんなことでも……」

「どんなことでも?」

 

 ゴクリ。

 じゃあ夜伽をお願いしたら聞き入れてくれたりするんだろうか。

 するだろうな。

 だって貞操逆転世界だもの。

 女は常に男に飢えている。

 ちょっと誘惑しただけで喜んで体の関係を結んでくれることだろう。

 前世では冴えなかった俺もでこの世界ならあっという間に童貞卒業を……。

 

「……はっ!?」

 

 いかん!

 羽月が魅力的すぎるあまり、危うく願望を口にしてしまうところだった!

 

 ダメだぞ俺。

 まだ童貞を捨てるわけにはいかない。

 だって……。

 

 童貞喪失したら霊力使えなくなっちゃうんだもん!!

 

 退魔師には退魔師としての寿命がある。

 10代を終えること。

 そして……純潔を失うこと。

 

 退魔師はうら若き処女にしかなれない。

 一定の年齢に達したり、生娘でなくなると途端に霊力は弱体化する。

 どうやら若き生命力に溢れ、清い体であることが霊力を使える条件らしいのだ。

 

 だったら俺だって例外ではないはずだ。

 成人したら、童貞を失ったら、俺はただの人となるだろう。

 

 今年で俺は16歳。

 霊力が弱体化するまで恐らくあと4年ほど……。

 それまでに雌鬼を全滅させなければならない。

 でないと俺は一生、雌鬼に怯えて生きることになる。

 そんなのは御免だ。

 

 だから()めてくれ羽月!

 そんな切なげに俺を見つめるな!

 あとさり気なく手を爆乳に誘導するな!

 すっげえな!

 底無し沼みたいに手が乳肉に沈んでいきやがる!

 

 再び勃起!

 いかん!

 せっかく雌鬼を倒したのに、また新手が向こう側の次元から来てしまう!

 

 いまは昼間には出てこれない雌鬼が獲物を狙う逢魔時(おうまがとき)

 夜明けまで、まだ数時間。

 これ以上の勃起はまずい!

 理性をフル稼働して羽月の手を「パシン」と振り払う。

 

「あ……」

「俺の隣に立つだと? 自惚れたことを抜かすな。第三等級ごときに遅れを取るような退魔師が俺と肩を並べられると思うな」

 

 敢えて高慢な発言で羽月を突き放す。

 

 ……うわ~心が痛いよ~!

 でもこうやってわざと冷たい態度を取らないと羽月の忠誠心はきっと消えない。

 そもそも本当に何で俺はこんなに慕われているんだ?

 この世界の男たちと同じように、俺だって女の子たちに辛辣に接しているはずなのに。

 

 本当はこの貞操逆転世界で『唯一女の子に優しい男ムーブ』をすることでモテモテ生活を満喫したかったさ。

 だが、そんなことをしたら俺の童貞が危うい!

 性欲の強い女の子たちにあっさりと食べられてしまう!

 というか俺のほうがきっと先に理性プッツンする自信があります!

 

 だから俺は貞操逆転世界で敢えて『嫌われ者ムーブ』を貫く!

 こんな悲しいことがあるだろうか!

 

「雌鬼は必ず俺の手で滅ぼす。羽月たち女の退魔師が出る幕はない。せいぜい安全な場所で一般人の護衛でもしていればいい」

「雄護様! しかし、それでも私はっ……」

「何を言われようと俺の考えは変わらない。戦うときは俺ひとりでいい。必要以上に構うな」

 

 ごめんよ羽月!

 せっかくの思いを無下にしてしまって!

 退魔師としてのプライドを傷つけるようなことまで言っちゃって!

 でもやっぱり君の格好エッチすぎるからさ!

 どうか今後もビジネスライクな距離感でお願いします!

 

「先に帰還する。後始末は頼んだ」

 

 羽月を残し、その場から離脱。

 

 ……うおおおおおお!!!

 早く帰ってオナニーしなければ!

 

 せっかく貞操逆転世界に転生したのに今日もオナニー三昧。

 なんて惨めな生活。

 おのれ雌鬼め。

 必ず駆逐してやる。

 頑張れ俺。

 いつか心置きなく童貞を捨てるために。

 




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