* * *
この世界の男たちは基本的に通信教育で学習するため、学園には通わない。
性欲の強い女ばかりが通う学び舎に、わざわざ足を踏み入れる物好きはいないからな。
小学生の女児はさすがにそれはないだろうって?
いや普通にいかがわしいことしてくるけどね彼女らも。
男の子の体に興味津々だもん。
というか小4の時点で性知識が豊富な上に発育具合がヤバい娘ばかりだから、女児といえど油断ならない。
最高学年ともなると「え? 君って本当に小学生?」と目を疑うようなロリ巨乳娘しかいないからね。
マジで何なのこの世界?
そういうわけで俺も12歳までは学園には通わなかった。
前世の知識がある分、小学校範囲の勉強はほとんど必要なかったしね。
たまに興味のある分野を復習するくらいだった。
俺の幼少期のほとんどは、母さんとの修行と、雌鬼退治の旅に使われた。
俺にとっては実戦経験を学ぶほうが勉学よりも重要だったしな。
だが母さんが亡くなってから事情が変わった。
本来、退魔師として活動するには何かしらの組織に所属する必要がある。
それまでは母さんの付き添いとして特別に容認されていただけだった。
もしも野良の退魔師としてやっていくとしたら、いろいろと面倒な制限が発生するらしい。
さすがの俺もそこまで強情に野良の退魔師を続ける勇気はなかった。
なので実家から最も近い、退魔師養成機関である
各地に点在する退魔師専門の学園。
基本的に中高一貫制。
実戦訓練を終えれば、すぐに実動部隊として任務に駆られることになる。
一般科目の授業もあるにはあるが、大半は訓練、退魔庁から与えられる任務、その作戦会議にあてがわれる。
退魔師が成人で霊力が衰える以上、全盛期は13~18歳。
なので学園というよりは、現役退魔師を抱えた軍事組織というべきかもしれない。
お給料も出るしね。
その他の補助も充実している。
最初は渋々の入学ではあったが、退魔師としてやっていくなら間違いなく学園に所属するほうがメリットは多い。
……デメリットとしては俺以外の生徒が全員女子ってことくらいか。
俺を除いて退魔師は女しかいないんだから仕方ないんだけどさ。
女子校にひとりだけ男が紛れ込んだような状態だから、まあ落ち着かないったらない。
こればっかりは入学してから4年目でも慣れない。
幸いなことは、退魔師の娘たちが基本的に育ちの良いお嬢様ばかりってことだろうか。
どの娘も礼儀正しく接してくるので、入学前に懸念していたような男女トラブルなどは比較的少ない。
これが一般の学園だったら煩悩まみれの女子たちに日々童貞を狙われていたことだろう。
……まあだからといって、まったく彼女たちからアピールされないわけではないのだが。
「く、黒井戸様! よ、よろしければ、ご昼食をご一緒してもよろしいでしょうか?」
「黒井戸様のためにサンドイッチを作って参りました! よろしければ召し上がってください!」
「わ、わたくし、黒井戸様から強さの秘訣を知りたいのです!」
「【八連刀星】の一角である黒井戸様に是非ご教授を!」
「ああ、黒井戸様……本日もなんてお麗しいのでしょう……」
「はふぅ……こんなにもお美しくお強い殿方と同じ学び舎に通えるだなんて……」
「私たちってなんて幸運なんでしょう♡」
昼休みに廊下を歩いているだけで、女子生徒たちにこれだけ声をかけられる。
まさにモテ期! 学園の王子様扱いだ!
その気になれば学園ハーレム生活だって実現できてしまう人気ぶり!
……しないけどね。
本当はしたいけど。
今日も今日とて童貞を守るため黄色い声はスルーしていきますよっと。
健全なお付き合い前提なら別に交流深めてもいいんじゃない? とは思ったけど……無理。
絶対に俺の理性がもたないから。
だって女子生徒の全員が美少女だぞ。
発育具合だって高等部ともなると、もう凄いったらない。
どの娘も「バルンバルン」とバカデカい胸を揺らしていやがる。
制服だって胸がやたらと強調されるデザインだから、あまりにもエッチである。
コルセットみたいなの付ける必要ある? ただでさえ皆ウエスト細いのに。
あと、お洒落だとは思うんだけど、皆スカート短すぎない?
屈むだけで大きなお尻とショーツが見えますわよ?
まったく、なんて股間に悪い学園だ。
ここってグラビアアイドルの養成所かな? ってときどき錯覚しそうになるよ。
「下がってください皆さん! 雄護様にご用事のある人は、まず護衛である私を通してください!」
「赤凪さん! またそうやって黒井戸様を護衛の皆さんで独占して!」
「護衛だからってズルいですわ! 私たちだって黒井戸様とお話ししたいのに!」
「だからといって毎度このように集団で来られては雄護様も迷惑でしょう! ご覧なさい! あのご機嫌を損ねられたお顔を!」
「まあ! 本当になんて不機嫌なお顔!」
「でもそんなところも素敵!」
そりゃ不機嫌にもなるわ。
こんな爆乳美少女たちに囲まれていて満足にモテ期を堪能することもできないのだから。
すべては雌鬼のせいだ。
おのれ雌鬼。
絶対に滅ぼしてやる。
「まあまあ。わざわざ雄護くんにお食事を用意してくださったんですか~? とてもありがたいのですが雄護くんのお昼は私の(愛情たっぷり)お弁当を用意していますので。そちらはご友人がたと分け合ってください♪」
「で、でましたわ~! 京都特有の遠回しなお断りですわ~!」
「黄泉路さん! たまには私たちのお料理も黒井戸様に召し上がってほしいですわ!」
「申し訳ありません。雄護くんには栄養バランスの整った献立を召し上がってほしいもので♪」
「え~ん! 遠回しに『あなたの料理、体に悪そう』って言われましたわ~!」
「食費も無駄になってしまいますし、今後はこのようなお気遣いは結構ですよ~? ええ、卒業する日まで。金輪際」
「ひぃ~! 目が笑ってませ~ん!」
美少女たちに群がられるのは悪い気はしない。
だが満喫できないのであれば、騒々しいだけでしかない。
昼休みくらいはゆっくり過ごしたいからな。
ここは護衛の少女たちに任せて、俺は静かな場所で食事を取るとしよう。
「さあ雄護くん♪ 今日は中庭でいただきましょうか……ってあれ? いつのまにお弁当がない?」
「雄護様ったら、またおひとりでいずこかに! せっかく一緒にお昼ご飯食べたかったのに……」
「あ~っ! 本音が出ましたね赤凪さん! やっぱり黒井戸様を独占したいだけじゃないですか!」
「あなたがた護衛の3人なんて今年から転校してきた新参者のくせに!」
「私なんて中等部の頃から黒井戸様をお慕い申し上げていましてよ!」
「なっ!? 変な勘ぐりはおやめください! 私はあくまで護衛として……」
さて弁当は持ったし、屋上にでも行くか。
* * *
ただひとりの男子生徒である俺に、学園はいろいろ気を利かせてくれる。
なので屋上に行きたいと言えば、素直に鍵を渡してくれた。
屋上はひとりきりで静かにいられる、俺のお気に入りスポットだ。
「平和だね~」
澄み渡る空の下で、七乃花の手の込んだ弁当を食べる
やっぱ解放感のある場所で食べる飯はひと一倍うまい。
「あっ、雄護はっけ~ん」
む。この声はユアか。
せっかくソロタイムを楽しんでいたのに、見つかってしまったようだ。
というか上から声がしたような?
空を見上げてみる。
「ぶっ!?」
青い空。
黒のニーハイソックス。
真っ白いムチムチの絶対領域。
ピンクの過激なデザインのショーツ。
スカートが風ではためくのも気にせず、ユアが空にプカプカと浮いていた。
「やっほ~。一緒にお昼食べよう~♪」
「……お前な。少しは淑女として慎みを持て」
「? べつに入り口以外から屋上に入っちゃダメなんて校則ないでしょ? せっかく空飛べるんだから有効活用しなくちゃね~」
そう意味で言ったんじゃねーよ。
……まあ確かに便利そうだけどさ、ユアの自由に飛び回れる能力は。
パンチラどころかパンモロを披露しながら、ユアはゆっくりと降りてくる。
「へぇ~、ここいいね~。私もお昼休みはここで過ごそうかな~?」
「ふざけるな。俺の貴重な聖域だぞ」
「つれないこと言わな~い。大丈夫だって。他の連中にはバラさないからさ」
ユアは遠慮無しに俺の隣に座り、メロンパンとミルクティーを食し始めた。
「あっ、出汁巻き卵ちょうだ~い」
「こら勝手に。行儀が悪いぞ」
「そんなにいっぱいオカズあるんだから一個くらい貰ってもいいじゃ~ん。ん~♪ ナノちゃんの料理は冷めててもおいしいね~♪」
「そんなに食いたいなら俺みたいに弁当作ってもらえばいいだろ」
「さすがにそれはナノちゃんに悪いしね。護衛のお昼ご飯は各自で用意するって決めてるの」
まあ確かに4人分の弁当を毎日用意するのは大変そうだ。
「お礼に私のメロンパンの一欠片をあげましょう」
「いらんわ。千切ったメロンパンほど、もの悲しい食べ物はない」
「まあメロンパンは丸ごと齧りつくからこそおいしいもんね~。じゃあ……」
「ミルクティーもいらんぞ?」
「ちえっ。間接キス失敗」
つまらなそうに「ちゅー」とストローを啜るユア。
本当に淑女らしくない女だなコイツ。
ぶっちゃけ一般の学園に通ってそうなタイプなんだよなユアって。
なので良家のご息女ばかりが通っているこの学園では少々浮きがちだ。
ユアも良いとこのお嬢さんのはずなんですけどね~。
……まあ、その分、俺としては気安く接することができる数少ない相手だったりするが。
お嬢様がたのお堅い態度を前にするとついつい肩肘張っちゃうからな。
でもユア相手ならフランクで乱暴な態度でも気にならないというか(日頃の行いがアレなだけに)。
そう考えると、もしかしたら結構相性いい存在だったりするんだろうか?
「……こうしてると架空作品の中でしかもう見られない『カップル』みたいだね~雄護~?」
「ええい。肩を寄せてくるな」
前言撤回。
こんなエロい顔で迫ってくる女とふたりきりでいたら、やはり危険だ。
変な空気になった矢先、タイミングよくスマートフォンが鳴る。
ユアのスマートフォンも同時に鳴っているあたり、退魔庁からの指令だろう。
「ほら、指令が来たぞ。ユアも確認しろ」
「ちえっ。せっかくいいところで」
退魔庁から支給されるスマートフォン。
主な任務はこの端末から降される。
今回の任務の内容は、以下のようなものだった。
『雌鬼の討伐に向かった退魔師数人が失踪』
『以降、退魔師が男性を攫う事件が各地で発生』
『目撃情報によれば、男性を攫ったのはいずれも失踪した退魔師だった』
『現在、元凶と思われる雌鬼の拠点を別動隊が調査中』
『雌鬼本体、または失踪した退魔師を発見次第、改めて報告』
『それまでは待機を命ずる』
退魔師の失踪……。
確かに最近、他の班の行方がわからなくなっていると聞いた。
そんな彼女らが、男を攫っているだと?
「……この失踪したっていう退魔師たち。明らかに操られてるよね? 雌鬼の艶術に」
「そう見て間違いないな。働き蜂のように男を集めさせられている」
男が住まう場所には厳重な雌鬼避けの結界が張られている。
第一、第二等級のような雑魚ではその結界を突破することはできない。
……だが艶術を操る第三等級以上になってくると話は変わってくる。
ヤツらは、あらゆる手段を用いて結界内にいる獲物を捕獲する。
今回の件も、そんな雌鬼の手口のひとつだろう。
「退魔師を複数操る艶術……そんなの聞いたこともないよ」
「しかも雌鬼の姿は確認されていない。本体は離れた場所から退魔師たちを操っている可能性があるわけだ」
「もしそうなら……相当ヤバいやつなんじゃない?」
「第三等級の中でも上位に位置する雌鬼なのは間違いないだろうな。あるいは……」
「……まさか、第四等級?」
俺とユアの間で、緊張が広がる。
これだけの情報では、まだ断定はできない。
だが……これまでの雌鬼とは明らかに異質な気配がする。
沈黙を破るように俺のスマートフォンが鳴る。
追加の指令かと思ったが、個人的なメッセージだった。
「
「……は?」
メッセージには『いまからビデオ通話できますか?』と書かれていた。
俺は『構わない』と返信する。
「ちょっと待って雄護。灰柱って北海道にいる【八連刀星】だよね? 何でそんな女と連絡先交換してるの?」
「昔、母さんと北海道に遠征したときに会って交換したんだ。いまでもたまに話すぞ?」
「私たちとは任務用のグループチャットでしか話さない雄護が!? なんで!? 私のDMは拒否するくせに!?」
だってしつけーんだもんユアのDM。
どうでもいい話題を延々と振ってくるし。
しかも「見よ、この肉体美を」とか言ってエロい自撮りばっか送ってくるし。
画像だけは全部保存してすぐに着信拒否しましたわい。
「ズルいズルい! 同じ【八連刀星】じゃなきゃ雄護とメッセのやり取りしちゃダメってこと!?」
「そんなわけねーだろ。一番常識人の灰柱だから交換したんだよ」
他の【八連刀星】には絶対に教えるつもりないもんね。
特に青龍院と緋焔寺には。
「おっと、着信が来たから出るぞ」
「ぐぬぬ。私の雄護と密談しようとするなんて。いやしい女のツラを拝んでやる」
「お前のものになった覚えはない」
通話ボタンを押す。
画面いっぱいに真っ白いふたつの膨らみが映った。
……ん? 何だこれ? 大福か?
──だっぷぅぅぅん♡ ぶるるるるるん♡
大福が凄まじい揺れを起こす。
それはもう盛大に。
『失礼。カメラの角度を誤ったです。機械はやはり苦手なのです』
気が抜けそうなダウナーボイスと共に、大福よりも小さな顔が映る。
……え? ちょっと待って?
いまのってまさか……おっぱい?
倫子さんのよりデカくなかった?
「っ!? っ!?」
隣にいるユアも目を丸くしながら、自分の胸と見比べている。
うん。お前だって相当デカい部類なのにね。
いまの見たら小さく見える不思議。
『雄護さん。お久しぶりなのです』
灰色の長髪にカチューシャをつけた色白の美人が手を振る。
俺よりひとつ年下の【八連刀星】。
数年ぶりの顔合わせだった。
「おう。しばらくぶりだな」
『……ぽっ』
「どうした?」
『久しぶりに雄護さんのお顔を見れて、氷美子の心臓はドキドキです』
「そ、そうか」
『ますますかっこよく成長なされましたね。あまりのイケメンぶりに目を合わせられないのです。きゃーきゃーなのです』
そういうわりには灰柱の声の抑揚と表情には変化がない。
相変わらずリアクションがわかりにくい娘だな。
まあ頬が赤らんでるから本当にドキドキしているんだろうけど。
「そっちも、まあ、なんだ……見ないうちに育ったな」
いや本当に。
初めて会った頃からすでに凄いスタイル抜群だったけどさ。
ビデオ越しでもわかるくらいに圧巻の成長をしている。
『毎日牛乳をたくさん飲んでいるので健康に成長したのです。ブイブイなのです』
牛乳ね。
なるほどね。
栄養満点そうだもんね、北海道の牛乳。
『ところでお隣にいらっしゃる人は? 氷美子は人見知りなので初対面さんを前にビクビクなのです』
「ど~も~。雄護の護衛やってる白風ユアで~す」
ドスの利いた声でユアが名乗る。
「な~んか~? 雄護とは~? 仲良くやってるみたいっすね~?」
『雄護さんの護衛でしたか。なら怖い人じゃないです。雄護さんを守っていただき感謝なのです。感謝の歌を送るのです。たらららら~ぴぱぴぱ~♪ ふぅ~いえ~なのです』
「……変わってるね、この子」
ユアが小声で言う。
灰柱のあまりの毒気の無さに、嫉妬心をいだいていたユアも調子が崩れてしまったようだ。
「それで? 用件はなんだ?」
『今朝、そちらの退魔総督さんからのメッセージを確認したです』
その件か。
雌鬼の次元に攻め込む有志を募る、という呼びかけ。
倫子さんはちゃんと約束を守ってくれたようだ。
『まずは意思表示なのです。氷美子はいつでも雄護さんのためにお力を貸す所存なのです』
「そうか、感謝する」
『……そして、もう一件は警告なのです』
「警告?」
『雌鬼の次元に攻め込む前に、我々【八連刀星】が対処すべき脅威が迫っているかもしれない、ということです』
灰柱の声に、氷のような鋭さが宿る。
頂点の一角としての自覚を持った顔つき。
その変貌に、隣のユアが息を呑んでいる。
『情報はすぐに共有されるとは思いますが、雄護さんには真っ先にお伝えすべきだと思ったのです』
「何をだ?」
『京都で第四等級の出現を仄めかす一件がありましたよね?』
「……ちょっと待て。まさか」
『はい……北海道の釧路でも目撃情報がありました』
第四等級。
ヤツらはすでに、こちらの世界に来ているかもしれない。
灰柱はそう告げた。