貞操逆転世界の退魔師   作:青ヤギ

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新種の雌鬼

 

 灰柱が言うには、釧路の退魔庁に緊急の通信が入ったらしい。

 

 ──第四等級と思われる個体と遭遇、と。

 

 報告をしてきたのは釧路の精鋭部隊。

 数々の第三等級の艶術を相手に生き残ってきた実力者たちだったという。

 

 その全員が、謎の雌鬼によって瞬殺された。

 

『通信が途中で途絶したため断片的な報告になってしまったそうなのですが……』

「第四等級で、ほぼ間違いないと?」

『退魔庁はそう見ています。実際、第三等級に遅れを取るような方々ではありませんでしたから……』

 

 憂いを込めて灰柱はそう言う。

 

『お救いできなかったことが無念です』

「お前が駆けつけられなかったってことは……敵はお前の()()を潜り抜けたってことだな」

『はい。【八連刀星】でありながら情けないです』

「それだけ未知数の相手ってことだ。悔いる暇があるなら次の犠牲者を出さないことを考えるべきだ」

『……はい。雄護さんのおっしゃる通りですね』

 

 自分を責める灰柱だが……俺からすれば彼女は充分すぎるほど頑張っている。

 なにせ北海道は広い。

 広大な大地を灰柱はひとりきりで守り切っている。

 灰柱の鬼哭刀はそれを可能にする力だ。

 

 ……その力を持ってしても捕捉できなかった雌鬼が、やはりイレギュラーということだ。

 

『雄護さんは第四等級がどのような形態をしているかご存知ですか?』

「過去のデータは一応閲覧している。いずれも人型に近いらしいな」

 

 大型の第三等級と異なり、第四等級は小型で人間に近い形態をしている。

 映像記録を見た印象としては、特撮に出てくる怪人のような異形だった。

 

『釧路の方々も、遭遇した雌鬼が人型であったことから第四等級と判断したようです。ですが……』

「どうした?」

『その第四等級らしき雌鬼は、過去のデータに該当しない、まったく新しい人型だったそうなのです』

「何?」

『報告をしていた退魔師も激しく混乱していたようです。「こんな雌鬼は見たことがない」と』

 

 灰柱の言葉に、俺だけでなく隣のユアも息を呑む。

 

『……過去にも考察はされてきました。第四等級は、本当に雌鬼の最上位なのかと』

「まだその先があると?」

『断定はできませんが……これまでに例のない【新種の雌鬼】が現れたことは間違いないでしょう』

 

 歴戦の退魔師ですら驚嘆したほどの【新種の雌鬼】……。

 いったい、どれだけおぞましい姿形をしていたというのだろうか。

 その能力すらも未知数ともなれば……確かに最優先に対処しなければならない脅威だ。

 

「情報提供に感謝する。灰柱の言うとおり、敵地に攻め込んでいる場合ではなさそうだな」

『少なくとも敵の正体が判明するまでは、こちらの世界に留まるべきかと』

 

 もしも本当に第四等級がこちらの世界に来ているのなら、被害がどれだけ広がるかわかったものじゃない。

 そのときに【八連刀星】ほどの退魔師たちが不在というわけにもいかない。

 

『雄護さん。我々の世代は、もしかしたら過去にないほどの熾烈な戦いを強いられるかもしれません』

「かもな。だがもとより覚悟の上だ。俺は雌鬼を全滅させるつもりで戦っているんだからな」

 

 やることは変わらない。

 相手がどれほどのバケモノだろうと倒すだけだ。

 

『……心強いですね。それでこそ雄護さんです』

 

 そう言って灰柱は控えめに笑顔を浮かべた。

 うっ。かわいい。

 表情の堅い娘が不意に見せる笑顔は卑怯だぞ?

 

『お話できて良かったです。おかげで不安が晴れたです』

「不安?」

『ビデオ通話にしたのは雄護さんのお顔を見て話したかったからです。もしかしたら、これが最後になるかもしれないと思って』

「灰柱、お前……」

『もちろん死ぬつもりはないですよ? でも、絶対はありませんから』

「……死ぬはずがないだろ。お前ほどの女が」

『ありがとうなのです。もう一度、雄護さんにお会いするために生き残る気満々になりました』

 

 むんっと気合いを入れる灰柱を見て、俺も覚悟が固まった。

 相手が【新種の雌鬼】だろうと必ず生き残ってみせると。

 

「……ぐぬぬ。強者同士で信頼し合っている感じが妬ましい~」

 

 ユアは隣でまた嫉妬していた。

 

『雄護さんなら心配はないと思いますが……どうかお気を付けて』

「ああ。最善を尽くす」

『本日はお時間をいただき感謝です。最後にこれだけお伝えしておきます』

「なんだ?」

『雄護さん。(ちゅ)きです』

 

 古典的にズッコケそうになった。

 隣のユアはひっくり返って、またパンツ丸出しになっていた。

 脈絡のない告白をした当人は「噛んじゃったのです~」と恥ずかしそうにしていた。

 

『あっ。もちろん、あいらぶゆ~の意味での好きです』

「なななななな。なに急に雄護に告白してんだこのアマあぁぁ!?」

『「素直に告白できるヒロインは最強」とラブコメ漫画に描いてあったので実践してみたのです』

「だからってこのタイミングでする!?」

『護衛の白風さんが美人さんなので、氷美子プチ嫉妬してたのです。なので牽制なのです』

「こ、これが【八連刀星】!? 恐ろしい娘っ!」

『あっ。お返事は結構なのです。氷美子の思いを知ってほしかっただけですので』

「マイペースすぎる!」

『白風さん。淑女がそんなにカリカリしちゃメッなのです。カルシウムを取りましょう』

「煽られてる? 私の胸見て『カルシウム足りてなくて草』って煽ってないこの娘?」

『今度北海道の牛乳をお送りするです。たくさん飲んで素敵な淑女になるのです~』

「やっぱ煽ってるよね!?」

『では雄護さん。またお会いできる日を楽しみにしているです。ん~ちゅっ』

 

 不器用な投げキッスをして灰柱は通話を切った。

 

「なんなの、あの女ァ!? ちくしょう~! いつか私の【銀天狗】でギッタンギッタンにしてやる~!!」

「やめておけユア。お前が敵う相手じゃない」

「そ、そりゃ【八連刀星】なんだからめちゃ強いんだろうけど、私だって関東を代表する白風家の娘だよ?」

 

 まあ【八連刀星】はあくまで『その地方で一番強い退魔師』って括りだからな。

 関東や近畿は全体的にレベルが高いので他地方の【八連刀星】に追随できる猛者もいるだろう。

 

 ……だが、それでも。

 灰柱には勝てない。

 

「お前の実力は認めている。その上で無理だと言っている」

「……そんなに強いの?」

「俺以外の【八連刀星】が一度も灰柱に勝てていない」

「っ!?」

「本来なら『最強』の称号はアイツに贈られるはずだったのさ」

 

 初めてだったもんな。

 俺が「負けるかもしれない」と思った相手は。

 ……いや、マジでアイツの鬼哭刀チートすぎるからね?

 【墨柘榴】の能力じゃないとほぼ詰むだろ、あんなの。

 

 しかも、それも数年前の話だ。

 あれから、どれだけ成長しているのか。

 想像するだけで身震いしそうだ。

 

「いま戦ったら、どうなるかな」

 

 そういう意味でも、いずれ再会したい相手だ。

 

 ……できれば期間を置いてほしいけどね。

 不意打ちの告白に結構ドキドキしてるからね、これでも。

 

 

    * * *

 

 

 そろそろ昼休みが終わるのでユアと一緒に教室に戻る。

 

「えーと、次の時間なんだっけ~? 雄護覚えてる~?」

 

 ユアが何か言っているが、俺の頭は【新種の雌鬼】のことで占められていた。

 

 もしもソイツが本当に第四等級だとしたら、雌鬼の秘密を探るチャンスでもある。

 もちろん対話が成立すればの話ではあるが……。

 

 しかしやはり気になるのは、姿形がこれまでに見たことのない雌鬼だったということ。

 より戦闘に特化した形態になったということなのか?

 

「う~ん。何か大事なこと忘れてるような~」

 

 まあ情報が不足している状態でアレコレ考えていても埒が明かない。

 新たな指令も来ていることだしな。

 

 退魔師を操る艶術使い。

 いまは、こちらの討伐任務に集中するとしよう。

 あるいは、この雌鬼こそ【新種の雌鬼】である可能性もあるのだから。

 

 そう考えながら教室のドアに手をかける。

 

「……あっ。思い出した。ちょっと待って雄護。いま教室に入ったら……」

 

 ドアを開ける。

 着替え中の女子たちがそこにいた。

 

「「「あ」」」

 

 色彩豊かな下着姿。

 全員がこちらを見て固まる。

 

「……あ、あの、雄護様? お次は身体検査のお時間ですので……」

「お、お着替えをさせていただいております~」

 

 羽月と七乃花が照れくさそうに言う。

 

 体が資本の退魔師。

 そんな彼女たちは定期的な身体検査で健康状態を確認する。

 ああ、そういえば今日はその日だったね。

 すっかり忘れてたよ。

 

「お、お見苦しいものを見せてしまい、申し訳ございません」

「きょ、今日はCTスキャンもありますので上も外さなくてはいけなくて~」

 

 いえいえ、お気になさらず。

 学園指定のブルマ姿、たいへん素晴らしいと思います。

 ノーブラの体操着も。

 偉いですね、ちゃんとお医者さんの指示通りにしてて。

 あっ、でもそこのおっぱい丸出しの娘さんはせめて隠していただけます?

 

「……失礼。着替えを取ったら退出する」

 

 俺も検査があるので体操着を回収して教室を出る。

 たちまち背後から姦しい声が上がる。

 

「きゃ~ん黒井戸様に半裸を見られてしまいました♡」

「は、恥ずかしい~♡」

「ドキドキしちゃった~♡」

「で、でも男の人に見られるのって癖になるかも~♡」

 

 照れくさそうでありながら、満更でもない女子たちの声。

 ……うん、わかるよ。男子だらけの教室で着替えてるときに、気になる女子が来たら恥ずかしいけどテンション上がるよね。

 そういうノリになるわけだよね、貞操逆転世界だと。

 ああ、よかった。

 悲鳴を上げられて女子たちから目の敵にされるような世界じゃなくて。

 ははは。

 ……さて、ここまで歩いたら、もう我慢しなくていいよな?

 

「うおおおお! どうしてブルマ指定なんだ、この学園はよぉぉぉ!!」

 

 簡易更衣室に向かう前に、俺のためだけに設けられた男子トイレに籠もる。

 実質俺専用の個室。

 気兼ねなくオナニーできる。

 

「ちくしょう! 本当に生殺しが過ぎるぞこの世界は!」

 

 【新種の雌鬼】こととか、任務のことはどこへやら。

 頭の中はすっかり女子たちの生着替えのことでいっぱいなのであった。

 




灰柱(はいばしら)氷美子(ひみこ)

 誕生日 5月12日 牡牛座 血液型 AB型
 T169cm/B140cm(W cup)/W61cm/H92cm

・鬼哭刀:不明
・趣味:歌 作曲
・習慣:お昼寝
・好きな食べ物:牛乳 炬燵で食べるアイス
・好きなタイプ:強い人
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