激しく降る雨で体がびしょ濡れになる。だが、どうもでよかった。
あてもなく走り続ける。
「雄護様! いけません、こんな大雨の中、傘もささずに!」
「風邪ひいちゃうよ雄護!」
「雄護くん! せめてどこかで雨宿りを!」
護衛の少女たちが慌てて追いかけてくる。
ああ、こんな雨の中でも俺を心配して駆けつけてくれる、おっぱいの大きい美少女たちが3人もいる。
だが……俺は、そんな彼女たちとセックスが許されない! なのにキスをしてエッチなお触りはしろと言う! ふざけるのも大概にしろ!
「雄護様! お願いです! どうか止まって!」
「いやあああ! 来ないでぇぇぇ!」
乙女のような悲鳴を上げてしまう。
やめてよ! 優しくしないで! これ以上、思わせぶりなことして期待させないでよ!
ますます……お前たちのこと好きになっちゃうだろ!
そうしたら今度こそ、歯止めが効かなくなっちゃうかもしれないじゃないか!
お前ら、女としてどれだけ魅力的だと思ってるんだ!
いますぐにでも求婚したいくらいなのに。
本当は恋人のような日々を過ごしたいのに。
いつも身の回りのお世話をしてくれることに感謝したいのに。
そんな気持ちを抱えたまま、彼女たちと濃密に触れ合ったら……もう俺、我慢できる自信がないよ!
「あ……あぁっ!」
濡れた足場で滑り、倒れてしまう。何て、惨めな姿か。
「あああああああっ!!」
空に向かって叫ぶ。どれだけ叫んだところで、この悲しみが消えることはない。
「雄護様、そんなに泣かれてっ。そこまで、おいやなのですね! 女性と触れ合うことが!」
「もう、いい! もう、いいよ雄護! そんなに辛いなら断ればいいんだよ!」
「そうです! いくら人類のためだからって、それで雄護くんの心が壊れてしまったら!」
少女たちの目には、俺が性的行為を強いられたことに嘆き、絶望しているようにしか見えないだろう。
この貞操逆転世界では、そうとしか思われない。
……そうさ。おかしいのは俺だ。俺が、この世界で異物なんだ。
毎日何度もオナニーをして、頭の中はスケベなことでいっぱい。
そんなことが世間にバレたら、女からは好奇の目で見られ、男からは白い目で見られるだろう。
だからずっと隠し続けていたが……これからも、それを続けるのか?
ずっと涼しい顔をして、人類のために美少女たちと乳繰り合わないといけないのか?
「は、はは……あははははは!」
逆に笑えてきた。大粒の涙を流しながら笑い続ける。もう心はグチャグチャだった。
「あ、ああ、雄護様っ! お気を確かに! 私たちが、あなたを守りますから!」
「大人たちの言うことなんて聞く必要ないって! 雄護に理不尽なことするなら、ぶっ飛ばしてやるから!」
「ここまで雄護くんを追い詰めるなんて……許せない許せない許せない……潰してやるっ……雄護くんを苦しめるものすべてっ!」
少女たちは本気で俺のことを慮って、社会と対立する覚悟まで見せてくれる。
嬉しいなぁ。でも虚しいなぁ。そんな温かい思いやりすら見当違いでしかないのだから。
……ああ、何かもう、どうもでよくなってきちゃったな。
「雄護様! 私たちはあなたの味方です! 『霊核』の強化がおいやならば、私たちが代わりに桃源橋さんを説得して……」
「違うんだ!」
「え?」
「いやじゃない! 全然いやじゃないんだ! だって……」
我慢の限界だった。これ以上、ひとり孤独に秘密を抱えていたくない。
だから……。
「俺は女の子が大好きだから!」
「……え?」
すべて打ち明けて、楽になろう
「体にも興味津々だ! 丸い尻が好きだ! ムチムチの太ももが好きだ! 何よりもクソでっけぇおっぱいが大好きだ!」
「ゆ、雄護?」
「触りたい! 揉みたい! 吸いたい! あわよくばエッチしたい! そんなことばかり考えているんだ!」
「ゆ、雄護くん?」
「俺は、そういう男なんだ! 俺はエロいことが、大好きだァー!!」
溜め込んできた本音が、口をついて出てくる。その叫びは、まるで世界に轟かん勢いだった。
* * *
「『雄護はムッツリスケベ』……まさか私の予想が当たっていたとは」
そういうわけだよユア。お前のような勘のいいメスガキは嫌いじゃないぞ。
まあ性癖をバラした以上、もうオープンスケベかもしれないがな。ははは。
場所は退魔庁に隣接している彩雅学園。
その空き教室で雨宿りをしつつ、俺はこれまで隠してきたことを少女たちに洗いざらい話した。
まあ転生の件はさすがに混乱させると思ったので、そこは省いたが。
とりあえず俺がとんでもないスケベ男であることは包み隠さず打ち明けた。
「お前たちが思い描くような【
クールで貞淑で、女に靡かない男剣士。それがこれまで少女たちがいだいていた俺の印象だろう。
残念でした。そんな少女漫画に登場するような都合のいいナイスガイなんて存在しないのさ。
「幻滅したか? それとも気味が悪いか? ずっと裏で下心を向けられていたことに。そうさ。俺は乳のでかい女とあらば、見境無く惚れるような気が多い俗物なのさ」
改めて口にすると中々に酷いな。これでは築き上げてきた信頼もガタ落ちだ。
……まあ、もともとそんなもの築くつもりもなかったんだけど。
そっか。彼女たちと距離を置くなら、嫌われ者を演じるよりも最初から本性をバラしていたほうが手っ取り早かったんだ。
だって元の世界で例えるなら俺って『男なら誰彼構わず大胸筋に興奮して、チンコのことばっかり考えてる処女ビッチ』みたいなもんだろ?
どれだけツラが良くても御免だわ、そんな異性。
「護衛を辞めたければ自由にしろ。お前たちも今更こんな変態な男と暮らしたいとは……」
「……いや、そんなつもりは全然無いんだけどさ」
「え?」
「そりゃ雄護が女の体に興味津々なことには驚いたけど。そんなことより、もっと重要な話があるでしょうが」
ユアが眼力を強めて俺に迫ってくる。
「つまりさ、雄護は私たちが好きってことでいいんだよね?」
「え!?」
「仲良くなるとエッチが我慢できなくなっちゃうから、わざと嫌われ者を演じて遠ざけていたわけでしょ?」
「えっと、はい、そうです……」
「まあ全然できてなかったと思うけどね。嫌われ者役」
「嘘!?」
「アホか! あんなのただの女の願望詰め合わせ理想の男ムーブじゃわい! こちとらすっかり心奪われちまったよ! 責任取らんかい魔性の男!」
「お、俺はそんなつもりじゃ……」
「それより答えんかい! 私たちのこと好きなわけ!? 嫁にしたいわけ!? エッチしたいわけ!?」
「そ、それは……」
「はっきり言わんかい!」
「……す、好きです。嫁にしたいし、エッチもしたいです」
かつてないユアの迫力に呑まれて、口が正直に開く。改めて言葉にすると照れくさい。
「よっしゃー! 言質取ったぞ女子どもぉぉぉ!」
「ゆゆゆ雄護様が私を? お嫁に? しかもエエエッチもしたいと……ぶはあ!」
ユアはガッツポーズを取り、羽月は困惑しつつ興奮から鼻血を噴出した。
「ま、待て。好きと言ってもかなり肉欲が含まれてるぞ? そんな気持ち向けられて嬉しいか?」
「そんなのこっちだって同じだよ! 雄護のドスケベボディにどれだけ発情させられていると思っている!」
やっぱり俺の体そういう目で見てたの!? 女子って最低! まあ俺も最低だけど!
だって3人の女の子に気があるんだもん!
「お、お前ら全員をそういう目で見てるんだぞ! 不純極まりないだろ!」
「べつにいいんじゃない? ほとんど形しか残ってないけど一応この国『一夫多妻制』だし。むしろ雄護は世間的に褒められるよ?」
……そうなんだよな。多妻が推奨されてるから男が複数の女の子と関係を持っても前世ほど非難されないどころか、絶賛されるんだよな。
まあ、そんな物好きな男はこの世界に居ないわけだが。俺という例外を除いて。
「……そっか。だから雄護は女の子好きであることを隠してたんだね。バレたら悪い大人たちに利用されるかもしれないから」
ユアも察したようだ。
人工授精に頼らざるを得ないこの世界で俺のように並以上の性欲を持つ存在は、ある意味で救世主だろう。
それは同時に『種馬』として飼い慣らされる危険性も孕んでいる。
こちらの事情など関係なく、大人たちの身勝手な思惑によって、俺の人生が振り回されるかもしれない。
だからこそずっと黙っていたわけだが……。
「おっけー。じゃあ、このことは私たち4人の秘密だね?」
「え?」
「もう。そういう事情があったなら早めに言いなよ。そしたら私たちだって協力したのに」
「ユ、ユア。お前……」
普段セクハラ三昧しているユアから、そんなセリフが出てくるなんて!
「……なんとなーく失礼なこと考えてるのわかるよ?」
「ギクッ!」
「あのね~。いくら私でも弁えるべきところは弁えるよ。だって雄護がもしもエッチしちゃって霊力を失って戦えなくなったら、大変じゃん」
「……それは、貴重な戦力が欠けるからか?」
「え? 違うよ。雄護の命が、危なくなるからだよ」
「──」
ユアのその何気ない言葉は。
長らく閉ざされていた俺の心を、ほぐした。
「羽月もそれでいいよね? これからは雄護の命と貞操を守るだけじゃなくて、雄護の秘密がバレないように私たちがサポートするってことで」
「……ええ。雄護様の護衛として、新たな使命、しかと胸に刻みます」
羽月は俺の前で跪き、深々と頭を下げる。
「雄護様。あなた様の長きに渡る苦悶に気づけなかったこと、どうかお許しください。ですがこれからは、あなた様の理解者として支えになりたく思います。どうか、お一人ですべてを背負わないでください」
そして、と赤らんだ顔を上げて、羽月は真っ直ぐに俺を見つめる。
「一人の女として、あなたを心よりお慕い申し上げております、雄護様。どうか、このお気持ちをいだくことをお許しください」
「あっ、ズルっ。抜け駆けで告白すんなし」
おっほん、とユアが珍しく照れくさそうに色白の顔を桃色に染める。
「最初は気に食わなかったし、屈辱に思うこともあるけど……こんな私のこと見てくれる男なんて雄護しかいないだろうし……もう、離れてやらないんだから。だから、ちゃんと最後まで面倒見てね、ご主人様?」
首元のチョーカーを突つきながら、ユアはぷいっと顔を逸らした。
「ほら、ナノちゃんも何か伝えなよ。ていうかさっきから静かだねナノちゃん……ナノちゃん?」
そういえば先ほどから七乃花の反応がない。
ユアにつられて、俺と羽月も七乃花のほうを見てみると……。
「雄護くんに好きって言われた雄護くんに好きって言われた雄護くんに好きって言われた。エッチもしたいって言われた。待って心の整理が追いつかない。嬉しい嬉しい嬉しい嬉しすぎて死にそう。叶えなくちゃ。雄護くんの望みは絶対。ああ姉さん私いま生まれてきて良かったって心から思うの……きゅぅ~」
「ナノちゃんが嬉しさのあまり気絶した~!?」
そんなことある?
* * *
「黄泉路七乃花の心は、あなた様と出会ったあの日から、すでに決まっております。永遠の忠誠を。そして永遠の愛をあなた様に。ああ、雄護様、身も心もすべてあなた様にお捧げしま……」
「はい、ナノちゃん、そろそろ終わろう。もう充分伝わっただろうから。ねえ、雄護?」
「ウン。アリガトネ七乃花」
小一時間続く告白ってあるんだね。あら、外の雨もすっかりやんでいるわ。
「見てください、雲の隙間から天使の梯子が。まるで私たちのこれからを祝福してくれているようですね」
いまだに夢見心地でいる七乃花は世界が輝いて見えてしょうがないらしい。
「私たちのこれからか……まず優先すべきことは、やっぱり」
「ああ、威刃羅を倒そう」
俺たちの関係性はこの瞬間に変わった。だがいま、その変化を享受している暇はない。
第四等級という脅威を退けなければならない。
そのためにすべきことは、もう決まっている。
「『霊核』の強化をしよう」
「よろしいのですか? いえ、雄護様が望むのであれば我々は喜んで協力しますが……」
「現状これが威刃羅を倒す確実な方法だ。やらない理由はない。未来さんのサポートを信頼しよう」
さっきまでだったら童貞喪失の危機に怯えて拒否し続けていただろう。
でもいまなら……。
「俺は、お前たちを信じている。お前たちとなら、怖くない」
護衛の少女たちの頬が赤らむ。
俺の本性を知っても、支えとなると言ってくれた少女たち。
そんな彼女たちとなら、過ちを起こすことなく『霊核』を強化できると信じる。
「ただ……俺のほうが我慢できなくなるかもしれないから……そのときは何としても止めてくれな?」
「……ぷっ。雄護って、本当にスケベなんだ」
「これは大人たちに絶対にバレないように、私たちが精一杯フォローしないといけませんね」
「はい。雄護くんのこんな一面を知っていいのは、いまのところ私たちだけですから」
少女たちが笑い合う。つられて俺も口角が上がった。
「雌鬼を全滅させるために力を貸して欲しい。俺たちの世代で、この戦いを終わらせよう」
思いもしなかったな。こんな誓いの言葉を、彼女たちに向ける日が来るなんて。
でも大事なことだからな。今後の俺たちのためにも。
だから、これもちゃんと伝えないといけない。
「戦いが終わったら、改めてお前たちにさせてほしい」
「何を?」
「その……正式なプロポーズを」
「雄護。それ、死亡フラグだよ?」
うるせー。大事なことだろうが。
俺はもう決めたぞ。雌鬼の存在しない平和な世界で、コイツらを嫁にすると。
惚れさせた責任を取れ、というのならお前たちにも取ってもらうぞ。
「……そう言うなら、あの時のやり直しをして欲しいな?」
「やり直し?」
ユアがちょんと唇に指を当てる。
「ファーストキスが、さすがにアレじゃ~ね」
「えっと……わ、私もできればもっとロマンチックな雰囲気が望ましいです」
「わ、私のときだって事故でしたから! しっかりとさせていただきたいです!」
「お、おう」
確かに。どのキスも事故だったり緊急の措置だったりで、色っぽさのカケラも無かったからな。
「えーと、じゃあ、一人ずつ……」
「「「ごくり……よろしくお願いします」」」
かくして。
ただの主従関係でなくなった俺たちは、誓いも兼ねて順番に口付けを交わすのだった。
「「「「……ンオオオオオオオ❤❤❤」」」」
でもキスするたびに霊力が漲るのは何とかならないもんかな?
* * *
「未来さん、申し訳ございません。とつぜん抜け出してしまって」
「雄護さん! 戻ってきてくれたのですか!?」
退魔庁でデータの整理していた桃源橋未来は、雄護が戻ってきたことで目を見開いた。
「まだお時間があるようでしたら、どうか『霊核』強化のサポートをしていただけないでしょうか?」
「よろしいのですか? 正直、私訴えられてもしょうがないと覚悟していたのですが……」
「とんでもない。俺、決めました。雌鬼全滅のために、この力を十全に使うことを」
雄護の目に決意の光が宿っているのを未来は感じた。彼は、本気なのだ。
「ただ当面は護衛の彼女たちと強化をおこないます。増員に関しては、俺が信頼できる退魔師を見つけ次第ということでお願いします」
それが交換条件だと言外に伝えていた。未来は了承した。
実際、強化すべき退魔師の選出は、実力と人柄も含めて厳格な審査を必要とするだろう。
つまり護衛の少女たちは、雄護に認められたということだ。
「早速、強化を始めましょう。皆、準備はいいな?」
「はい、いつでも」
「強くなるためなら何でもするよ」
「ええ。すべては雌鬼を滅ぼすために」
護衛の少女たちも、雄護と同じく強い使命感に燃えているようだった。
ゴゴゴと音が鳴りそうなほどの圧を前に、未来は思わずたじろいだ。
「(何という凄まじい覚悟……これが今世代の退魔師たち!)」
平和を手にするためならば、恥辱な行為であろうと躊躇わない。
雄護と少女たちはそう心構えを身につけて戻ってきた。未来の目には、そう映った。
そして見当違いである。
「(嫁たちとのイチャイチャハーレム。それを実現するためにも俺は雌鬼を滅ぼす!)」
「(雄護様のお嫁になるためにも一日でも早く雌鬼を滅ぼす!)」
「(ぐへへ。エロいことして雌鬼を滅ぼしてもっと雄護とエロい毎日を送るんじゃい!)」
「(結婚結婚結婚。雌鬼を滅ぼせば雄護くんと結婚。頑張る頑張る頑張る!)」
使命感以上に、その頭の中は煩悩まみれであった。