貞操逆転世界の退魔師   作:青ヤギ

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ああ、素晴らしき貞操逆転世界

 

 

    * * *

 

 

「体はもういいのか?」

「ええ。ご心配おかけしました」

「……本当か? 無理してないか? 辛ければそこのソファー横になっていいぞ? 膝枕しようか?」

「いえ、本当に大丈夫ですから、そう気を遣わず……」

「気を遣うに決まっているだろ。本当に、本当に、よく生きてくれた……」

 

 倫子さんはそう言って大粒の涙を拭う。

 

 威刃羅との戦いから3日が経った。

 第四等級相手に見事に勝利した俺だが、実はあの後、丸2日ほど寝込んでいた。

 

 魔眼の負荷による影響か、とつぜん意識が落ちてしまったのだ。

 未来さん曰く『脳を回復させるための強制シャットダウンだろう』とのことだ。

 つまり、それだけ新たな魔眼の使用は代償が大きいということだ。

 

 できることなら使いこなしていきたいが、何日も意識が無くなるようではリスクは大きい。

 俺が寝込んでいる間に新たな第四等級が来るかもしれない。

 その可能性を考えると、使いどころは慎重に見極めねばならないだろう。

 

 実際こうして総督室に足を運ぶのにも3日を要してしまった。

 魔眼で得た雌鬼の情報を一秒でも早く倫子さんに伝えるべきだったというのに。

 

「……第四等級は神の力を求めている、か。つまり雌鬼は神のごとき存在になれるということか」

「威刃羅は明らかに格上らしき存在に怯えていました。母を手にかけたのも、あるいは……」

 

 話題が母のことになると、倫子さんの顔つきが険しいものに変わった。

 

「今回は敵の術中に嵌まる失態を犯した。二度とこんな過ちは起こさん」

 

 それは俺も同じだ。敵に裏をかかれ、危うく羽月たちを失うところだった。

 雌鬼を、人間の真似事をしているケダモノと侮っていたのかもしれない。

 だが第四等級は人を欺く知恵を身につけた。油断していれば足をすくわれかねない。

 中には、より交渉術や戦略に秀でた個体もいるかもしれない。

 今回のことを教訓として、やつらの言葉に、動向に、より目を光らせる必要があるだろう。

 

「君たちの世代は、より過酷な戦いを強いられることになるだろう。だがそれでもどうか力を貸して欲しい」

「もちろんです」

「私も全身全霊を捧げて総督の役目を全うしよう。跡継ぎを産めない私にとって、世界に貢献できることはそれだけなのだから……」

「……そのことなんですが」

「ん?」

「倫子さんの体、治せると思うんです」

「え?」

 

 極色の魔眼を発動させる。

 少しだけなら、使っても大丈夫だろう。

 ……うん、イケる。

 雌鬼によって傷つけられた器官。数年の歳月経った傷は墨柘榴でも修復ができなかったが……。

 

 ──墨柘榴・赤炎万象。

 

 そんな理不尽な事象を赤い墨で焼き尽くす。

 そして黒い墨で倫子さんに『理』を書き足す。

 安産、と。

 

「っ! こ、これは……」

 

 肉体の変化に倫子さんは気づき、下腹部に手を添える。

 

「問題はないと思いますが、一応診察を受けて確認してください」

「あ、あ……」

「本当はすぐにでも試したかったのですが、まだ新しい力を使いこなせてなかったので」

「わ、私……もしかして?」

「はい。倫子さんは、もう子どもを産めます」

 

 生前に母さんが言っていた。倫子さんは、とても子ども好きだと。誰よりも母になることに憧れていた親友の未来を奪った雌鬼が許せないと。

 ……そうだな、母さん。こんなにも思いやり深い人が子宝に恵まれないだなんて間違っている。

 だから、俺がその運命を覆す。

 

「総督として身を粉にする姿勢は否定しません。でも……あなただって、女としての幸せを得てもいいはずだ」

「……いいのか? 私も、母親になって……」

「俺たちが、必ず雌鬼のいない世界にしてみせます。新しい命が安心して産まれてこれるように。だから、そんな世界でいつか、本当のお母さんになってあげてください」

 

 雌鬼を滅ぼす以外にも、やるべきことを見つけた。

 雌鬼によって幸せを奪われた人たちを、この力で救っていくことを。

 

「この世界の悲劇は、俺がすべて塗り潰します。必ず」

 

 伝えるべきことを伝え、総督室を後にする。

 涙を流して打ち震える倫子さんを、いまは一人にしてあげよう。

 

「……ありがとう、ユウたん」

 

 ユウたん?

 

 

    * * *

 

 

 予後の診断も兼ねて、俺は未来さんに呼ばれていた。

 ……なぜか「退魔庁の職員には秘密裏で」と釘を刺されて。

 

「雄護さん。改めて謝罪を。私が『熟睡の霊符』を渡したばっかりに、危うく取り返しがつかなくなるように事態に……」

「未来さん、そのことはもういいですって。親切心で造ってくれたのでしょ?」

「違うのです」

「え?」

「ある職員に、言われたのです。『このような霊符を造ってみてはどうか?』と。雄護さんの健康面を考慮して、私は疑いも無く造りましたが……」

 

 未来さんは周囲を気にするように小声で呟く。

 

「……私にそう言った職員が、3日前から行方不明になっています」

「え?」

「あとで調べてみると、その職員の経歴はすべて詐称でした。存在しないはずの人間だったのです」

「っ!?」

「雄護さん、おかしいと思いませんでしたか? 退魔庁があっさりと雌鬼に占拠されたことに。いくら相手が第四等級だからといって、他地方の退魔庁に危険を知らせる防衛システムが作動すらしなかったのです」

「それは、つまり……」

「裏切り者がいる。その可能性があります」

 

 耳を疑う言葉だった。

 そんな……雌鬼のようなバケモノに与する人間が、存在するというのか?

 

「威刃羅は交渉を持ちかけてきました。似たような誘いをされて、それを拒む賢人が……はたして世の中に何人いることでしょう」

 

 確かに威刃羅は言った。

 永遠の美貌と若さ、強大な力を権力者に与える、と。真実かはわからない。だが……。

 もしも他の第四等級がいまこの瞬間も、似たような交渉を人間相手に持ちかけているとすれば?

 その提案に魅力を感じてしまう人間がいたとしたら?

 

「雄護さん。ひょっとしたら私たちが思っている以上に、すでに雌鬼の魔の手は人間社会に紛れ込んでいるのかもしれません」

 

 未来さんは、窓から射し込む朝日に目を細めた。

 日の昇っている世界は、雌鬼の干渉を受けない聖域のはずだった。

 だが……もしも雌鬼の手先となった人間が暗躍しているとしたら、もはや昼間ですら安全とは言えない。

 

「私は早急に密偵対策用の霊符やシステムを開発します。そして雄護さんの霊交練成についても、現段階では秘匿すべきでしょう」

「まさか、退魔師の中にも裏切り者がいるとでも?」

「完全に否定することはできません。である以上、やはり霊核を強化すべき退魔師の選別は、より厳しくしてく必要があります」

 

 未来さんの予想が正しければ、確かに人類の裏切り者の力を強めるわけにはいかないが……。

 

「……俺は、信じます。そんな退魔師は一人もいないことを」

 

 ただの願望かもしれない。

 それでも、命を賭して戦う彼女たちの高潔さを、俺は信じたい。

 

「自分の目で見極めます。共に力を高め合うに相応しい仲間かどうか」

 

 俺のやることは、変わらない。

 語り合い、理解し合い、心を通じ合わせた少女たちと共に強くなる。

 そして、雌鬼の誘惑に屈しない強さを示していく。

 そうすれば、後に続く者が増えていく。

 そう、信じる。

 

 

    * * *

 

 

 数日後、山のような手紙が屋敷に届いた。

 どうやら退魔庁を通して、全国各地から俺宛に送られてきたようだ。

 

「うひゃ~。凄い数のファンレターだね~」

「第四等級を倒したんですもの。ますます雄護様が注目を浴びてしまうわね」

「あら~。ドサクサに紛れてラブレターやお見合いのご提案までありますね~。庭で焼き芋でも焼きましょうか? 薪代わりがたくさん手に入ったことですし~」

「「怖いってナノちゃん(七乃花さん)……」」

 

 俺が第四等級を撃破したことはすでに全国に知れ渡っている。

 そんな俺に憧れを強めた退魔師たちのファンレターや、ここぞとばかりに婚姻を目論む手紙が数多く舞い込んだ。

 

「雄護様。こちらは【八連刀星】の方々からのお手紙のようですので、別箱に纏められていました」

「ん、そうか」

 

 羽月から七枚の手紙を受け取る。

 青龍院と緋焔寺の手紙だけ抜き取って、迷い無く破いた。

 

「……え~? よ、読まないんですか?」

「この二人はどうせ碌でもないことしか書いてないからいいんだ」

 

 青龍院はきっと「第四等級を倒したからって調子にのるな! いつか私はお前を越える!」ってブチギレ構文だろうし。

 緋焔寺は()()()()()()で書いたか知らんが、どちらにせよ「婿になれ」って要求を交えた怪文書だろう。

 

 藤瓦はお返事書かないと怖いからちゃんと読んでおこう。礼儀作法にうるさいからなアイツ。

 水名城もちゃんと返事送らないと泣くな。あの娘のポテンシャルが下がったら香川県民が大変だ。

 緑王巣と琥珀堂は手紙だけでなくフルーツとお菓子も送ってきてくれている。さすがにこっちも何かお返ししておくか。

 灰柱の手紙は実にシンプルだった。

 

『雄護さんなら勝つと信じていました。ますます惚れました。好きです』

 

 ……やはり、こうストレートに好意を向けられると照れくさいものだな。

 というか灰柱には、ちゃんと告白の返事もしないとな。

 俺も灰柱のことは嫌いじゃない、どころかかなり好き寄りだし。実力も人格面でも【八連刀星】の中で一番信頼を置いている。

 ……あれ? もしかして新しい霊交練成の相手として最有力候補なのでは?

 俺に次ぐ№2の実力者なのだから、強化すべき退魔師としての優先度も高い。

 

 つまり……もしも灰柱が承諾してくれれば、あの特大の大福を好きにできると。

 

「おいコラ雄護。さては灰柱ちゃんのおっぱいのこと考えてるでしょ」

「ユア! なぜわかった!」

「女の勘だよ」

 

 灰柱の手紙を読みながら大福おっぱいのことを考えていると、ユアがジト目で睨んできた。

 

「どうせ灰柱ちゃんのあのクソデカおっぱいで『霊交練成して~』とか思ってるんでしょ?」

「も、もう新しい霊交練成のお相手を考えておられるのですか雄護様?」

「ああ、そんな! 雄護くん、私のおっぱいに飽きてしまったのですか?」

「そんな筈ないだろ! おっぱいは一生揉んでいたって飽きない素晴らしいものだ!」

 

 切なそうに涙目を向ける七乃花を安心させるべく爆乳を揉みしだく。

 

「あん❤ 雄護くん、そんな明るい内から❤」

「霊交練成だから! この先、戦いはより過酷なものになる! だから、お前らもやるぞ!」

 

 羽月とユアも抱き寄せて、そのデカパイを思う存分に揉む。

 

「んうううう❤ ゆ、雄護様、こうすれば私たちを誤魔化せると思ってませんか?」

「ふうううん❤ この先、新しい女が増えるたびにこんなノリではぐらかされそう」

 

 そんなことはない! ちゃんとお前たちを平等に愛するという意思表示だ!

 

「まあ、第四等級があんなに強い以上、今後は戦力を増やしていくしかないよね。理屈の上ではわかってるんだ」

 

 嫉妬はしつつも、ユアも戦力の拡大には賛成は示してくれているようだ。

 次なる第四等級が、いつ襲来してくるかわからない。

 未来さんの言う裏切り者の件は気になるが、できる限り早めに次の候補を見つけたいところだ。

 

「まあ、誰が加わったとこで正妻はこのユアちゃんだけどね~」

「「は?」」

 

 ユアの一言で空気が変わった。

 

「何を言っているんですかユアさん。最初に霊交練成をした私こそが正妻に相応しいでしょ」

「順番も関係ないでしょう~。どれだけ雄護くんを愛しているかどうかでは~?」

「は? だったら私が一番雄護のこと好きだし」

「いいえ! 私です!」

「私に決まってるじゃないですか~」

 

 いかん。いつか起こるのではないかと恐れていた女子同士の喧嘩が始まってしまった!

 やめて皆! 俺のために争わないで!

 

「こうなったら雄護様に」

「決めてもらうしかないね」

「誰が正妻に相応しいかどうか~」

「え?」

 

 気づくと3人に押し倒されていた。

 3人は服を脱いで下着姿となり、上気した顔で迫ってくる。

 

「雄護様❤ 羽月が一番気持ちよくしてさしあげますから、どうか私を正妻に❤」

「わふわふ❤ 私ならいっぱいイタズラしていいんだよご主人様❤ だからユアを正妻にして~❤」

「雄護くんがいけないんですからね❤ 私たちをここまでエッチな娘にした責任、ちゃんと取ってください❤」

 

 息を荒上げながら美少女たちが最後の一枚を脱いでいく。

 

「あの、皆さん? 本番はダメだからね? わかってるよね? 聞いてる? お~~い!」

 

 その後、完全に発情した娘たちに、こってりと愛された。

 あっ、最後の一線は、ちゃんと守り切りました。

 ぶっちゃけ雌鬼との戦いよりも過酷でした。

 

 うん、やっぱりこの生殺し生活つれーわ。

 一刻も早く雌鬼を滅ぼすしかねーわ。

 

 待っていろ雌鬼! 必ず俺たちの世代でこの戦いを終わらせてやる!

 そして、心置きなくこの貞操逆転世界を満喫してやるんだ!

 

「あっ、ついでに誰が雄護の童貞貰うか決めておこうか」

「え?」

 

 というわけで、もう一戦頑張った。

 滅茶苦茶、霊力が漲った。

 





これにて一章終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
初めて書いた貞操逆転ものでここまで好評いただき感謝の極みでございます。
次章もまたよろしくお願いいたします。

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