転生したらフェンリルだった件   作:ぐちロイド

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第12話 運命の出会い

数日が経過し、カイジンたちドワーフ三兄弟の手によって、村の「居住区」は劇的な変貌を遂げつつあった。レンがファームしてきた『鋼鉄杉』は強固な柱となり、『金剛石』は美しい石畳や基礎へと姿を変えていく。

 

村の発展を眺めながら、連は白銀の巨狼の姿で、リムルと共に村の境界付近をパトロールしていた。

 

連「……なぁ、リムル。ドワーフたちの作業効率、バグってないか? あのスピードで家が建つなら、一ヶ月後には『都市』になってるぞ」

 

リムル『あはは、カイジンさんたち、連が持ってきた素材が良すぎてテンション上がっちゃってるんだよ。「こんな良い木材、一生に一度触れるかどうかだ!」ってさ』

 

スライムのリムルがポヨンと跳ねる。二人の転生者がそんな軽口を叩き合っていた、その時だった。

 

『警告。前方より複数の生体反応。……逃走状態にある知的生命体、およびそれらを追跡する魔物を検知』

 

ナビの無機質な声が連の脳内に響くのと同時に、前方の茂みが激しく揺れた。

 

カバル「た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

 

エレン「ちょっとカバル、情けない声出さないでよ!」

 

 

ギド「死ぬ、マジで死ぬってば!」

 

飛び出してきたのは、いかにも「冒険者」といった風貌の三人組だった。重戦士のカバル、魔導師のエレン、そして盗賊風のギド。彼らは必死の形相で走り抜け、その後ろからは、巨大な蟻のような魔物『バウンド・アンツ』の群れが、カチカチと顎を鳴らしながら迫っていた。

 

そして、その三人組の殿(しんがり)を務めるように、一人の小柄な人物が、静かに、しかし鋭い身のこなしで後退していた。

その人物は、顔に奇妙な意匠の「仮面」をつけており、手には一本の古びた剣を握っている。

 

連「リムル、客兵(ゲスト)のお出ましだ。……掃除、手伝うぜ」

 

リムル「ああ、頼むよ連!」

 

連は地を蹴った。

20%限定解除を維持したまま、白銀の閃光となって魔物の群れの中央へと突っ込む。

 

連「『氷結支配』――絶対零度の吐息(コキュートス・ブレス)!!」

 

連の咆哮と共に、極低温の魔素が扇状に放射された。

襲いかかろうとしていたバウンド・アンツたちは、その鎌を持ち上げたポーズのまま、一瞬にして蒼い氷の彫像へと変貌した。分子レベルでの運動停止。熱を奪われた魔物たちは、連が前足で軽く地面を叩いた衝撃の余波だけで、ガラス細工のように粉々に砕け散った。

 

エレン「……ひ、ひぇぇ!? 一瞬で……!?」

 

カバル「銀色の……狼……? ランクA、いや、特Aオーバーの個体……!?」

 

冒険者三人が腰を抜かしてへたり込む中、仮面の女性――シズだけが、その場に立ち尽くしていた。彼女の仮面が、激しい戦闘の拍子に紐が緩んでいたのか、足元へと力なく落ちた。

 

リムルがその仮面を拾い上げ、彼女へと歩み寄る。

 

リムル「あ、これ。落ちましたよ」

 

シズ『あ……ありがとうございます。助かりました……』

 

シズが顔を上げ、仮面を受け取ろうとした、その瞬間だった。

 

魔物を全滅させ、ゆっくりと歩み寄ってきた銀狼――連の動きが、凍りついたように止まった。

 

連(……え?)

 

連の視界が、ぐにゃりと歪んだ。

『戦術演算』がエラーを吐き出し、視界のUIがノイズで乱れる。

目の前にいる、黒髪をなびかせた、どこか悲しげで、しかし凛とした美しさを持つ女性。

 

その目元。

鼻筋。

そして、周囲に漂う、懐かしくも胸を締め付けるような、優しい陽だまりのような「気」。

 

連「……な、……んで……?」

 

連の声が、魔力感知を通じた合成音声ではなく、彼自身の魂の叫びとして漏れ出た。

 

連「……母さん……? なんで……母さんが……ここに……っ!?」

 

銀狼の巨体が、目に見えてガタガタと震え始めた。

連にとって、前世の記憶の中で最も深い傷であり、最も温かい避難所であった存在。雪の降るあの朝、「いってらっしゃい」と笑って送り出してくれた、最愛の母親。

 

連「死んだはずだ……。俺と一緒に、あの爆発で……! なのに、どうして……この世界に、居るんだよ……ッ!!」

 

連は取り乱した。

普段の冷静な「ゲーマー」としての皮面が剥がれ落ち、中から現れたのは、ただの、母親を亡くした少年だった。

彼は狼の姿のまま、狂乱に近い足取りでシズへと詰め寄る。その圧倒的な圧迫感に冒険者たちは悲鳴を上げるが、シズだけは逃げなかった。

 

彼女は、自分を見つめる銀狼の瞳の中に、凶暴性ではなく、ちぎれそうなほどの「孤独」と「混乱」を見た。

 

シズ『……あなたは、私を知っているのですか?』

 

シズが静かに問いかける。

連は返事ができない。視界が涙(魔素の結露)で滲み、彼女の姿が母の面影と重なっては消える。

 

連「あ、あああぁぁぁ……ッ!!」

 

パニックに陥り、魔素が暴走しかけたその時。

シズが、一歩前へ踏み出した。

そして、恐れることなく、銀狼の巨大な額に、その白く、温かい手をそっと添えた。

 

シズ『……大丈夫ですよ。落ち着いて。……私はここにいます。……よし、よし……』

 

彼女の掌から伝わってくる温もり。

それは、前世で熱を出して寝込んだ時に、ずっと頭を撫でてくれていたあの感触と、全く同じだった。

シズの声は、激昂していた連の心を、深い海の底へ沈めるように穏やかに鎮めていく。

 

連「……あ……」

 

連の震えが、次第に収まっていく。

ナビの警告音が消え、乱れていた視界がクリアになる。

目の前にいるのは、母ではない。髪の色も、年齢も、生きてきた背景も違う。だが、その魂の根源にある「優しさ」が、連の傷ついた心に共鳴していた。

 

シズ『……もう、大丈夫。悲しまないで、銀色の狼さん』

 

シズが優しく微笑む。その微笑みは、確かに母のものに似ていた。

 

連「……すまない。……取り乱した。……人違い、だったみたいだ」

 

連は、ようやく絞り出すように声を出し、少しだけ距離を取った。

その様子を隣で見ていたリムルは、驚きに目を丸くしながらも、連の抱える深い闇の一端に触れたような気がして、そっと寄り添った。

 

リムル『連……。お前、大丈夫か?』

 

連「……ああ。……悪い、リムル。少し、バグっただけだ。……もう大丈夫だぜ」

 

連は深呼吸をし、自分を律した。

だが、その視線は、どうしてもシズから離すことができなかった。彼女が何者なのか、なぜこれほどまでに懐かしい気配を纏っているのか、それを知らずにはいられない。

 

リムルは空気を変えるように、明るい声で冒険者たちとシズに語りかけた。

 

リムル『えーと、君たち! 行く当てもないなら、俺たちの町に寄っていかないか? 美味い飯と、フカフカのベッドくらいなら用意できるぜ。……もちろん、この狼……連も、歓迎してるからさ』

 

カバル「え、マジで!? 助かるぅ~!」

 

 

エレン「カバル、あんた現金ね……。でも、助けてもらったのは確かだし、お言葉に甘えちゃおうかな」

 

 

ギド「銀狼様も、さっきは怖かったけど……今はなんだか、すごく優しそうだもんな」

 

冒険者三人が立ち上がり、泥を払う。

シズはもう一度連の瞳を見つめ、小さく頷いた。

 

シズ『……ありがとうございます。お言葉に甘えて、少し休ませていただきますね』

 

連「……ああ。……案内する」

 

連は、先ほどまでの狂乱が嘘のように、静かに、そして彼女を守るように先頭に立った。

その横を歩くシズ。

彼女の背中を見つめながら、連は心の中で自分に言い聞かせた。

 

連(母さんじゃない。……わかってる。……でも、この出会いには、きっと意味があるはずだ。……ナビ、この女性……シズの解析を、最優先で行え。……彼女が抱えている『熱』の正体を、突き止めるんだ)

 

『了解しました。……解析を開始します』

 

白銀の狼と、仮面の少女。

二人の運命が交錯したこの日は、リムルの村にとって、そして連の「転生」の意味を問う物語にとって、忘れられない一日となるのだった。

 

 

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