転生したらフェンリルだった件   作:ぐちロイド

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第2話 説明

洞窟の奥、蒼い氷が発光する静寂の中で、銀狼の姿となった連は自身の内側に意識を向けた。

 

連(さて……キャラメイクが終わって初期リス地に立ったのはいいが、自分のステータス画面も見れないんじゃ攻略の立てようがないな。さっきの『世界の言葉』とかいうシステム音声、もう一度詳しく教えてくれないか?)

 

連が心の中で問いかけた瞬間、脳内に直接、無機質だがどこか「ゲームのナビゲーションAI」を彷彿とさせる、小気味よい声が響いた。

 

『解。個体名:レンの要請を確認。ユニークスキル『遊戯者(アソブモノ)』の権能:戦闘補助を起動します。これより、所持スキルの詳細解説(チュートリアル)を開始します』

 

連(お、出た。大賢者……じゃなくて『戦闘補助』か。いいぞ、これだよこれ。UIが脳内直結なのは近未来的でワクワクするな)

 

連は狼の姿のまま、どっしりと氷の上に腰を下ろした。目の前の空間に、半透明の光の膜が広がり、前世で慣れ親しんだステータス画面のような情報が羅列される。

 

『まず、個体名:レンの根幹を成す権能――ユニークスキル**『遊戯者(アソブモノ)』**について。これはあなたの「遊びへの執着」と「効率的な攻略志向」が形となったものです』

 

画面には、三つの主要項目が浮かび上がった。

 

『一つ、**思考加速**。知覚速度を数千倍に高めます。これにより、飛来する矢や魔法、敵の微細な予備動作が「フレーム単位」で視認可能となります』

 

連(格ゲーの「目押し」が余裕になるわけか。FPSでいうところのバレットタイム。これはプレイスキルで圧倒する俺のスタイルには必須だな)

 

『二つ、**戦術演算**。戦場を俯瞰し、最適な回避ルートや攻撃の最短経路を導き出します。敵の弱点部位の強調表示、および攻撃範囲の可視化(予兆表示)が可能です』

 

連(……ハハッ、まじかよ。敵の攻撃範囲が床に赤く光って見えるのか? まさにレイドボスの攻略サイトを見ながら戦ってるようなもんだな。クソゲーどころか超絶親切設計(ヌルゲー)になりかねないな、これ)

 

『三つ、**戦闘補助**。現在私が行っているナビゲーション、および身体操作の最適化サポートです』

 

連は満足げに頷いた。この『遊戯者』こそが、彼が異世界で「ゲーマー」として君臨するための最強のデバイスだった。しかし、次の項目に移ると、ナビゲーションのトーンがわずかに変わった。

 

『次に。個体名:レンが最も執着し、かつ世界の言葉が最も不可解と判断した権能――ユニークスキル**『縛る者(グレイプニル)』**について解説します』

 

視界に表示されたのは、先ほど魂に巻き付いていた赤黒い鎖の3Dモデルだった。それは脈動するように不気味に光っている。

 

『これは、あなたの「縛りプレイ」という特異な精神構造から生まれた、自己完結型の強化スキルです』

 

連(「縛りプレイ」がスキルになるなんて、世界(運営)も粋な計らいをするじゃねぇか。詳しく頼む)

 

『第一権能、**「常時発動:自己制限(リミッター)」**。現在、あなたの魔素出力、身体能力は、本来のスペックの**12%**に固定されています』

 

連(12%……。思ったより絞られてるな。でも、さっき歩いた感じじゃ、これでも十分「化け物」の域だぞ?)

 

『肯。本来のフェンリル(聖魔霊次格)の出力は、この周辺一帯の生態系を瞬時に壊滅させる規模です。現在の制限状態は、隠密性を極限まで高める副次的効果があります。周囲からは「魔素をほとんど持たない無害な個体」として認識されるでしょう』

 

連(「初心者狩り」の逆バージョンか。弱そうに見えて実は……ってのは、RPGの隠しボスっぽくて嫌いじゃない)

 

『第二権能、**「蓄積機能:経験値ブースト(スタック)」**。制限によって出力されなかった余剰魔素は、この鎖の中に高密度で圧縮・蓄積されます。現在も毎秒、純度の高い魔素がスタックされています』

 

連(貯金みたいなもんだな。いざって時に引き出せば、一撃必殺の「オーバーキル」が狙えるってわけだ)

 

『第三権能、**「権能:鎖の具現化」**。自身の魔素を実体化させ、対象を拘束します。特筆すべきは、この鎖に触れた対象には、あなたと同じ「自己制限」を強制付与する点です』

 

連(……おい、それって。相手を無理やり「縛りプレイ」に引き摺り込むってことか?)

 

『解。その通りです。レベル100の敵を、強制的にレベル12相当の出力まで引き下げ、あなたの「土俵」に立たせます。これは相手のスキル発動さえも阻害する、極めて強力なデバフ(封印)効果を持ちます』

 

連は思わず、狼の鋭い牙を剥き出しにして笑った。

自分が弱くなるだけではない。相手も同じ地獄に落とす。これこそ、格ゲーでハメ技を繰り出し、相手のコントローラーを置かせる時のあの快感そのものではないか。

 

連(最高だ。相手の最強技を封じて、こっちは蓄積したスタックで叩き潰す。……これ、対人戦(PvP)なら切断レベルの嫌がらせだな)

 

『最後に、種族固有スキル**『幻氷狼(フェンリル)』**。これには「氷結支配」、「空間跳躍」、「神獣の覇気」が含まれます。特に「氷結支配」は、周囲の熱を奪うことで「熱変動耐性」を無視した物理的な停止(凍結)を引き起こします』

 

連(熱耐性があっても、物質そのものを分子レベルで止めちまえば関係ないってことか。物理演算の裏を突くような仕様だな。……よし、だいたい把握した)

 

連は立ち上がり、大きく伸びをした。

銀色の毛並みが、蒼い光を受けて波打つ。

 

連(あとは、この「デカい犬」のままだと、ゲームをするにも刀を振るにも不便だ。……「人化」はできるか?)

 

『解。可能です。魔素の構成を前世の記憶情報に基づき再構築します。実行しますか?』

 

連(ああ、やってくれ。ただし、前世そのままじゃ面白くない。少し「調整」を加えたい)

 

連は、脳内のナビゲーターに詳細なオーダーを出した。

基本は日本人の高校生。だが、この世界に馴染む美学。

右目は隠す。本気を出すまでは、その「真実のスペック」を隠すのが、様式美というものだ。

 

『了解しました。擬態:人間形態――プロセス開始』

 

瞬間、銀狼の巨体が淡い光に包まれた。

莫大な魔素が凝縮され、収束し、一つの形を作っていく。

四本足の感覚が消え、二本の足で大地を踏みしめる感覚が戻ってくる。

毛皮は質の良い衣服へと変わり、鋭い爪は繊細な指先へと形を変えた。

 

光が収まった時、そこに立っていたのは、一人の少年だった。

 

黒髪。少し長めの前髪が右目を覆い隠している。

身長は前世よりわずかに高い177cm。

身に纏っているのは、フェンリルの毛皮をイメージしたような、銀縁の刺繍が入った漆黒の外套。

その首元と両手首には、赤黒く明滅する「鎖」が、装飾品のように巻き付いていた。

 

連「……ふぅ。やっぱり、二足歩行の方が落ち着くな」

 

連は自分の手を見つめ、握ったり開いたりした。

声は、前世よりも少し低く、澄んでいる。

 

連(ナビ、今の俺の見た目はどうだ?)

 

『解。外見評価:極めて良好です。前世の「隠れイケメン」という自己認識を200%強化して反映しました。周囲の知的生命体に対して強力な魅了(パッシブ)効果を及ぼす可能性があります』

 

連「おい、盛りすぎだろ。……まあ、いいけどな」

 

連は、氷の壁に映る自分の姿を見た。

右目を隠した髪の間から、鋭く、紅い左目が覗いている。

その姿は、まさに彼が夢想した「最強の転生者」そのものだった。

 

連「よし。スキルも確認した。アバターの調整も済んだ。……あとは、このダンジョンの外に何があるか、だな」

 

連は、右手の掌の上に、魔素で一本の刀を形成した。

『氷結支配』によって生み出された、透き通るような蒼い氷の刀身。

それはどんな鋼よりも硬く、触れるものすべてを凍てつかせる死の刃。

 

連「縛りプレイ(グレイプニル)、起動。……戦闘補助、思考加速、準備完了(レディ)」

 

彼は前髪を軽く整え、隠れた右目の奥で、蓄積され続ける赤黒いエネルギーを感じ取った。

 

連「さて、記念すべき第一戦(ファーストエンカウント)の相手は、誰かな? せめて、フレーム単位の回避が必要な程度の強敵だといいんだけど」

 

少年は、軽やかな足取りで、光の射す洞窟の出口へと向かった。

その背中には、伝説の神獣の威厳と、クソゲーを愛するゲーマーの不敵な笑みが同居していた。

 

転生者、暁連。

彼の「縛りプレイ」による異世界攻略が、今、本格的に幕を開けた。

 

連(まずは……食いもんだな。この世界に、コーラとポテチはあるのか? なければ作らせる(開発する)しかねぇな)

 

そんな場違いな思考を巡らせながら、彼は銀世界の王として、一歩を踏み出した。

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