転生したらフェンリルだった件   作:ぐちロイド

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第3話 戦闘

蒼い氷に覆われた洞窟の通路を、レンは軽やかな足取りで進んでいた。

前世の記憶にある「ファンタジーゲームの初期ダンジョン」にしては、あまりにも空気中の魔素が濃く、視界に映る氷柱一本をとっても一級品の魔導素材になりそうな気配が漂っている。

 

連「なあ、ナビ。この世界の物理法則や魔素の性質を解析すれば、前世の物……例えばコーラとか、ポテチとか、あるいはゲーム機本体とかの再現は可能なのか?」

 

歩きながら、レンは脳内の相棒に問いかけた。

 

『解。理論上は可能です。コーラの成分である糖分、炭酸、香料などは、この世界の植物や鉱石から抽出・合成できます。ただし、ゲーム機などの精密電子機器に関しては、演算回路を魔法回路で代替する必要があるため、膨大な解析時間と、個体名:レン自身の「創造」に関するスキルの獲得が推奨されます』

 

連「魔法回路で代替か……。ハードウェアを魔法でエミュレートするってことだな。面白い、最高のやり込み要素じゃねぇか」

 

レンは口角を上げた。当面の目標は「異世界でのゲーミング環境の構築」。そのためには、まずこのダンジョンを攻略し、素材と資金、そして何より自分自身のレベルを上げる必要がある。

 

連(まずは人間形態での戦闘に慣れておかないとな。フェンリルの姿は強力すぎるし、リミッター解除の感覚も掴んでおきたい)

 

そう思考した矢先、戦術演算が前方の角の先に「赤い光」を感知した。

 

『警告。前方より敵対個体接近。個体名:アーマザウルス。ランク:B。外殻の硬度に特化した爬虫類型の魔物です』

 

連「アーマザウルス……。装甲トカゲか。最初の雑魚にしちゃあ、見た目が厳つそうだな」

 

角を曲がった先にいたのは、体長3メートルほどの巨大なトカゲだった。その全身は鈍く光る鋼鉄のような鱗に覆われ、背中には鋭い棘が並んでいる。

 

「グルゥゥ……!」

 

アーマザウルスがレンを視認し、地響きを立てて突進してくる。

レンは慌てず、右手に氷の刀を形成した。

 

連(思考加速、開始。――よし、遅いな)

 

レンの視界の中で、突進するトカゲの動きがスローモーションになる。

戦術演算が、トカゲの眉間に「クリティカルポイント」のマーカーを灯した。

 

連「一撃(ワンパン)だ」

 

レンは最小限の動きで突進を紙一重で回避。すれ違いざま、逆手に持った氷刀でトカゲの眉間を正確に貫いた。

硬いはずの鱗が、凍てついた刃の前ではガラス細工のように容易く砕ける。

 

『個体名:アーマザウルス1体の沈黙を確認』

 

連「ふん、プレイスキルがあれば12%でも余裕だな。……ん?」

 

背後から、複数の地響きが聞こえてきた。

一匹倒すと二匹、三匹と、暗闇からゾロゾロと同じ個体が這い出してきたのだ。

 

連「増援かよ。リンクしたか?」

 

「ギャォォォン!」

 

三体のアーマザウルスが同時に飛びかかってくる。レンはバックステップで距離を取りつつ、氷刀を振るって次々と斬撃を叩き込む。

一体、また一体。重厚な装甲を誇るはずの魔物が、少年の振るう細い刃に翻弄され、次々と氷の彫像へと変わっていく。

 

最後のアーマザウルスを両断し、レンがふぅと息を吐いた瞬間。

上空から、鋭い風切り音が迫った。

 

「――ッ!」

 

戦術演算が即座に回避ルートを青く照らす。

レンは反射的に身体を捻り、真上から急降下してきた影を避けた。

 

「キィィィィ!」

 

それは巨大な翼を持つ蝙蝠、ジャイアントバットだった。それも一匹ではない。天井の影という影から、数十匹の蝙蝠が群れをなして襲いかかってきた。

 

さらに、先ほどのアーマザウルスとの戦闘音が洞窟内に反響したせいか、周囲の通路からも新たな魔物の気配が押し寄せてくる。

 

連「おいおい、トレインした覚えはないぞ。湧きすぎだろ、このエリア!」

 

『報告。戦闘による魔素の乱れと音響により、周辺の魔物達が「捕食」を目的として集結中。推定個体数、50以上』

 

連「チッ、人間形態での練習はもう十分だ。……感覚は掴んだぜ」

 

レンは一度、氷刀を消散させた。

群がる蝙蝠たちの超音波攻撃を「思考加速」で回避し続けながら、彼は魂の奥底にある「鎖」へと意識を向ける。

 

連「ナビ、リミッターを一時的に引き上げる。――**20%限定解除(アンロック)**」

 

『了解。ユニークスキル『縛る者(グレイプニル)』、出力20%まで開放。……成功』

 

ガキィィン! と、レンの首元と手首に巻き付いた「赤黒い鎖」が激しく火花を散らし、わずかに緩んだ。

その瞬間、少年から放たれる威圧感が、倍加どころではない爆発的な上昇を見せる。

 

連「――戻るぜ(リ・フォーム)」

 

光が爆ぜた。

少年の姿が膨れ上がり、一瞬にして、巨大な白銀のフェンリルへと回帰する。

だが、先ほどの12%の状態とは、纏う空気の「密度」が違った。

 

銀色の毛並みの隙間から、赤黒い魔力の稲妻がパチパチと放電している。

レンは深く息を吸い込み、押し寄せる魔物の群れを一瞥した。

 

「『神獣の覇気』――少し黙ってろ」

 

連「グオォォォォォン!!」

 

フェンリルの咆哮が洞窟を揺らした。

20%の出力で放たれた「覇気」は、物理的な衝撃波となって通路を駆け抜け、ジャイアントバットの群れを文字通り「叩き落とした」。

恐怖と圧力に耐えきれず、接近していた魔物たちがその場に平伏し、あるいは泡を吹いて絶命していく。

 

連「さて、次は魔法戦闘のテストだ」

 

レンは前足で地面を軽く叩いた。

『氷結支配』が発動する。

だが、それはただの氷ではない。20%に引き上げられた魔素によって強化された、超高密度の「絶対零度の牢獄」だ。

 

連「凍れ(フリーズ)」

 

レンを中心に、蒼い幾何学模様の魔法陣が瞬時に展開される。

次の瞬間、通路の四方八方から巨大な氷の槍が突き出し、逃げ惑う魔物たちを串刺しにしていった。

炎を吐こうとした個体も、酸を飛ばそうとした個体も、その予備動作すら完了させる前に、分子レベルで運動を停止させられ、砕け散る。

 

連「……ふむ。20%にするだけで、演算処理のキレが全然違うな。エフェクトも派手になっていい感じだ」

 

数分後。

周囲には、山のような魔物の死骸が転がっていた。

アーマザウルス、ジャイアントバット、その他にも名前も知らぬ奇妙な魔物たち。

 

レンはフェンリルの姿のまま、それを見渡して少し困った顔をした。

 

連「……なあ、ナビ。これ、どうすんだ? 放置して腐らせるのも勿体ないし、かといって食い切れる量じゃない。素材として剥ぎ取るにしても、道具もなけりゃ持ち運ぶ手段もないぞ」

 

『回答。個体名:レンの現在の出力上昇、および「収集・管理」への強い欲求を検知。……個体進化の余波により、新たな権能が芽生えています。……ユニークスキル**『貯蔵者(ミタスモノ)』**を獲得しました』

 

連「『貯蔵者』? 新スキルか!」

 

レンがステータス画面(脳内UI)を確認すると、そこには「インベントリ」というゲーマーにとって最も馴染み深い言葉が並んでいた。

 

連「……異空間収納、時間停止、攻撃吸収。……おいおい、これ神スキルじゃねぇか! 運営の回し者かよ俺は」

 

『解。個体名:レンの「アイテムを溜め込みたい」「最高の状態で保存したい」というゲーマー特有の執着が具現化したものです。これを使用すれば、周囲の死骸を劣化させることなく収納可能です』

 

連「最高だ。早速試させてもらうぜ」

 

レンはフェンリルの前足を、近くに転がっていたアーマザウルスの死骸にかざした。

 

連「インベントリ、オープン」

 

すると、足元の影がドロリと広がり、巨大なトカゲの死体を一瞬で飲み込んだ。

重さも感触もなく、ただ「リスト」の中に【アーマザウルスの死体×1】という項目が追加される。

 

連「おお……! 本当に消えた。……よし、このエリアのドロップアイテムは全部回収だ!」

 

レンは楽しげに鼻歌(のような鳴き声)を漏らしながら、広範囲の影を操作し、周囲に散らばっていた数百の死骸を次々と収納していった。

わずか数分で、血生臭かった洞窟の通路は、何もなかったかのように綺麗さっぱりと片付いてしまった。

 

連「完璧だ。これでアイテムの所持重量制限(重量オーバー)に悩まされることもない。……ナビ、この『貯蔵者』、他にも応用が効きそうだな」

 

『肯。収納内のアイテムの慣性を保持したまま射出する「空間操作」を組み合わせれば、先ほどのアーマザウルスの死骸を時速数百キロで撃ち出す「質量兵器」としての運用も可能です』

 

連「死体を発射する大砲か……。絵面的には最悪だが、威力は期待できそうだな」

 

レンは満足げに頷き、再び人間形態へと姿を戻した。

首元の鎖は、再び12%の制限状態へと戻り、赤黒い光を静かに収めている。

 

連「20%の解放でこれなら、フルアンロックした時はどうなるんだか。……まあ、それは『裏ボス』に出会うまでのお楽しみにしておくか」

 

レンは、収納した「食材」や「素材」のリストを眺めながら、再び歩き出した。

 

連(次は火を通すための『火炎魔法』でも覚えるか……? いや、氷でレンズを作って太陽光を収束させるのもありか……)

 

少年の足取りは、さらに軽やかになっていた。

彼にとって、この未知の異世界はもはや「恐怖の対象」ではない。

膨大なアイテムを収集し、スキルを磨き、環境を整えていく――最高にエキサイティングな「オープンワールド・サバイバル」の舞台へと変貌していたのだ。

 

連「よし、次のエリアへ進もうぜ、ナビ」

 

連『了解しました。進路の安全を確認中。……次は、もう少し「歯ごたえ」のある敵を検索しますか?』

 

連「ハハッ、言ってくれるね。……ああ、最高難易度で頼むぜ!」

 

蒼い氷の洞窟に、少年の不敵な笑い声が響き渡った。

 

 

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