転生したらフェンリルだった件   作:ぐちロイド

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第5話 銀髪エルフとの出会い

洞窟の出口が近づくにつれ、岩肌に差し込む光は白さを増し、空気の密度が劇的に変化していくのがわかった。レンは四足歩行の感覚を確かめるように、あえて人間形態を解き、本来の銀狼――フェンリルの姿で悠然と歩いていた。

 

連(なあナビ、さっき言ってた「この洞窟の主」……ヴェルドラとかいう竜種について、もう少し詳しく教えてくれ。出口付近にその残滓があるってことは、相当なヤバい奴だったんだろ?)

 

歩を進めながら、レンは念話で問いかける。

 

『解。個体名:ヴェルドラ。この世界に四体しか存在しない最強の種族「竜種」の一柱であり、「暴風竜」の異名を持つ天災級の存在です。約300年前、勇者によってこの洞窟に「無限牢獄」で封印されましたが、つい先日、その反応が消失しました。消失の原因は不明ですが、彼が放っていた膨大な魔素の「毒」が消えたことで、洞窟内の生態系が活性化しています』

 

連(勇者に封印された天災か……。まさにRPGの裏ボス設定だな。そんなのがいた場所にリスボーンしたと思うと、俺の運も相当なもんだぜ)

 

レンがそんな軽口を叩きながら、最後の角を曲がろうとしたその時。

 

?「――っ、はぁっ、……まだ来るのですか……!」

 

鋭い空気の破裂音と、凛とした、しかし明らかな疲弊を孕んだ女性の声が響いた。

戦術演算が即座に前方の広場をスキャンし、無数の赤色マーカーを視界に投射する。

 

連(エンカウントか? ナビ、状況を!)

 

『報告。前方広場にて、単身の知的生命体(種族:エルフ)が魔物の群れに包囲されています。敵対個体:アーマザウルス、ジャイアントバット等、計28体。エルフ側は魔素の枯渇により、生存確率が急速に低下しています』

 

角の向こう側。そこは洞窟の出口に直結する巨大なドーム状の広場だった。

中央には、息を荒くして膝をつく一人の女性がいた。

銀髪を高い位置でポニーテールに結び、漆黒と赤を基調としたエレガントなゴスロリ風のワンピースを纏ったその姿は、およそこの血生臭い洞窟には不釣り合いなほどに美しい。

 

だが、彼女を囲む状況は絶望的だった。

足元には十数体の魔物の死骸が転がっており、彼女の「四元素魔術」の実力の高さが窺えるが、残りの群れがじりじりと包囲網を狭めている。

エルフの女性――シルフィエッタは、肩を大きく上下させ、震える指先で魔法を構築しようとするが、その指先からは火花のような魔素が漏れるだけで、発動には至らない。

 

シルフィエッタ「くっ……ここで、果てるというのですか……。あんな汚らわしい人間たちのために隠遁した私にふさわしい、皮肉な最期ですね……」

 

アーマザウルスの一体が、勝利を確信したように咆哮を上げ、彼女の喉元を目掛けて跳躍した。

 

連(――チッ。初対面が美人のピンチとか、ベタすぎて笑えるな。……だが、見捨てて後味悪い思いをするのはゲーマーの流儀に反する)

 

「ガアァァァッ!!」

 

突如、洞窟全体を震わせるような、地を這う咆哮が轟いた。

跳躍していたアーマザウルスは、空中で不可視の衝撃波に打たれたように吹き飛び、氷の壁に激突して肉片と化した。

 

シルフィエッタが驚愕に目を見開く。

逆光の中、出口から差し込む光を背負って現れたのは、白銀の毛並みを輝かせる巨大な「死神」だった。

 

連(ナビ、20%限定解除を維持。精密射撃モードだ。周囲の雑魚だけを「掃除」する!)

 

『了解。ユニークスキル『遊戯者』による演算サポートを開始。氷結支配、座標固定――実行』

 

レンが前足で地面を叩くと、広場の天井付近に無数の蒼い魔法陣が展開された。

それは、彼が前世の弾幕シューティングゲームで見た「ハメ技」の再現だった。

 

「キィィィィッ!?」

 

逃げ惑う間もなかった。

氷で作られた鋭利な「槍の雨」と、礫のような「氷弾」が、雨あられと魔物たちに降り注ぐ。

それだけではない。レンの放つ氷結魔法は、対象の体内の水分を直接凍結させるという、極めて残忍で効率的な「即死」の権能を帯びていた。

 

一秒。

わずか一秒で、広場を埋め尽くしていた魔物の群れは、一本の例外もなく、内側から破裂した氷の像へと成り果てた。

 

シルフィエッタ「あ、ぁ……」

 

シルフィエッタは、そのあまりにも圧倒的で、芸術的ですらある「蹂躙」を目の当たりにし、言葉を失った。

自分を追い詰めた魔物たちが、羽虫のように払われた事実。

そして、目の前に立つ白銀のフェンリルから放たれる、天災級の魔素の圧。

 

張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。

 

 

シルフィエッタ「……ありがとう……ございま……」

 

 

彼女はそのまま崩れ落ちるように倒れ、意識を手放した。

 

レンは静かに彼女の傍らに歩み寄り、大きな鼻先を寄せて安否を確認する。

 

連(死んじゃいないな。だが、魔素欠乏(マジックダウン)と過労か。……ナビ、さっきの『フルポーション』の出番だ。作れるか?)

 

『解。ヒポクテ草を抽出し、魔素を充填。純度100%の『フルポーション』の生成を完了しました』

 

レンは影の中から、水晶のように透き通った青い液体が入った瓶を空間操作で取り出した。

狼の姿では飲ませるのが難しいため、瓶の蓋を魔力で弾き飛ばし、中身を彼女の全身へと振りかける。

フルポーションの雫が彼女の肌に触れた瞬間、淡い光が広がり、数々の擦り傷や打撲、そして枯渇していた魔力が急速に修復・充填されていくのが見えた。

 

数分後。

銀髪のポニーテールが微かに揺れ、彼女のライムグリーンの瞳がゆっくりと開かれた。

 

シルフィエッタ「……ここは……。私は、死んだのでは……?」

 

彼女は上体を起こし、自分の体を確認した。傷一つない。それどころか、今まで感じたことがないほど魔力が満ち溢れている。

そして、目の前にいる存在に気づき、息を呑んだ。

 

白銀の巨大な狼が、静かに自分を見守っている。

その紅い瞳には、魔物特有の凶暴性はなく、どこか知的な、それでいて面白がっているような光が宿っていた。

 

シルフィエッタ「あなたが……助けてくださったのですか?」

 

レンは、肯定の意味を込めて短く「グルル」と喉を鳴らした。

だが、当然ながら言葉は通じない。

 

連(くそ、狼の姿だと喋れないのが不便だな。ナビ、なんとかならないか? 念話スキルを覚えるとか)

 

『解。個体名:レンは既に膨大な魔素を保有しており、周囲の魔素の動きを感知・操作する「魔力感知」を習得することで、空気の振動や意思の伝達が可能になります。獲得しますか?』

 

連(即答だ。頼む!)

 

『了解。エクストラスキル「魔力感知」を獲得。……成功しました。併せて、言語理解・意思伝達の最適化を実行します』

 

レンは、自身の感覚が劇的に拡張されるのを感じた。

目で見ずとも、背後の空気の流れや、彼女の心拍、さらには彼女が発しようとする「意思の波長」までが手にとるようにわかる。

 

連(……よし。マイクテスト、マイクテスト。聞こえるか?)

 

連「――驚かせてすまない。まだ、意識ははっきりしているか?」

 

洞窟内に、低く、しかし響きの良い青年の声が反響した。

それはレンが直接声帯を震わせているのではなく、魔力を用いて周囲の空気を震わせ、直接彼女の脳へと届けた「声」だった。

 

シルフィエッタは、驚きに目を見開いた後、深く頭を下げた。

 

シルフィエッタ「……失礼いたしました。伝説に聞く神獣フェンリル様が、これほどの知性を持って語りかけてくださるとは。私は、シルフィエッタ・ルナ・エリュシオンと申します。……この恩、何とお礼を言えばよいか」

 

彼女は跪き、高貴なエルフらしい所作で敬意を示した。

だが、その瞳の奥には、先ほどまで抱いていた絶望とは違う、もっと熱を帯びた、深い「関心」の光が宿っていた。

 

連(シルフィエッタ……シルフィか。いい名前だな)

 

連「俺はレンだ。行きがかり上の助太刀だ、礼には及ばない。……だが、こんなところでエルフが一人で何をしてたんだ?」

 

レンの問いに、シルフィエッタは一瞬、悲しげに目を伏せた。

だが、すぐに彼女は顔を上げ、レンの紅い瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

 

シルフィエッタ「……私は、種族を問わず、真に実力ある主(あるじ)を求めて放浪しておりました。……そして今、確信いたしました。あなたが、私の探していた「御方」であることを」

 

連(え、いきなりスカウト? 展開が早すぎないか?)

 

レンは心の中で苦笑したが、彼女から放たれる、一切の打算がない、純粋で苛烈なまでの「忠誠」の気配を感じ取り、少しだけ考えを改めた。

 

連「俺はただの自由人だぞ。期待に応えられるかは保証できないが……」

 

シルフィエッタ「構いません。あなたのその圧倒的な力、そして私を救ってくださった慈悲。……このシルフィエッタ、一生を賭してお供させていただきます、我が主(マイ・ロード)」

 

その言葉と共に、彼女はレンの前足の側にそっと膝をつき、恭しく頭を垂れた。

 

連(……まあ、いいか。一人よりは二人の方が、攻略も捗る。それに、秘書役が美人のエルフってのは、いかにも「異世界転生」の醍醐味だしな)

 

連「わかった。好きにするがいい、シルフィ。……さて、それじゃあこの薄暗い洞窟から、外の世界へ「初ログイン」といくか」

 

白銀の狼と、銀髪のエルフ。

奇妙な主従関係を結んだ二人は、眩い光に満ちた洞窟の出口へと向かって歩き出した。

 

ジュラの大森林。

そこは、後に最強の魔国連邦(テンペスト)が築かれる場所。

そして、一人の「遊戯者」と、彼に付き従う「創造の魔女」の伝説が始まる場所でもあった。

 

 

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