転生したらフェンリルだった件   作:ぐちロイド

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第8話 協力関係構築

ジュラの大森林の片隅、ゴブリンの村の入り口。

数分前まで殺気立っていた牙狼族(ガロウゾク)たちが、今は一様に尻尾を巻き、地面に伏せている。それもそのはずだ。彼らにとっての「上位種」どころか、伝説の頂点に君臨する神獣フェンリルが、悠然とそこに佇んでいるのだから。

 

白銀の巨狼、レン。その左右を固めるのは、冷徹な美貌を湛えたエルフのシルフィエッタと、無言で鋭い視線を放つハーピィのホウリン。

対するは、ぷるぷると震える一匹の青いスライム、リムル。

 

連「……で。お前、その姿で何やってるんだ? 効率厨(こうりつちゅう)の俺から見れば、スライムがゴブリンの村を再建するなんて、かなりの『縛りプレイ』に見えるんだが」

 

レンが魔力感知を通じた「声」で問いかけると、リムルは一瞬たじろぎ、やがて意を決したようにポヨンと跳ねた。

 

リムル『……いや、まあ。色々あってさ。成り行きでここの用心棒やってたら、いつの間にかリーダー(村長)に祭り上げられちゃって。今は、牙狼族との戦争が終わった後の「戦後処理」と「村のインフラ整備」の真っ最中ってわけ』

 

連「用心棒から村長か。……ハハッ、クエスト報酬が重すぎだろ」

 

レンは狼の口元を歪めて笑った。その会話の端々に混ざる、この世界の住人には理解できない「語彙(ボキャブラリー)」。リムルは確信を深めたように、少しだけ距離を詰めてきた。

 

リムル『……やっぱり、あんた。……日本人、だよな?』

 

連「ああ。暁連(あかつき れん)。……死因はガス爆発だ。雪の降る登校中、いきなり『爆発(イベント)』に巻き込まれて、気づいたらこの白銀の毛皮(アバター)になってた。お前は?」

 

リムル『俺は三上悟、37歳。……後輩を庇って通り魔に刺された。……いやー、まさか同じような境遇の奴に、こんな森の奥で会うとは思わなかったよ! しかもフェンリルって……。俺、スライムだぞ? 格差ありすぎだろ!』

 

連「スライムの分際でその魔素量(ステータス)の方がおかしいだろ。……お前、なんかエグいユニークスキル持ってるな?」

 

リムル『……まあ、多少はね。……あんたこそ、その横の二人……ただの配下じゃないだろ? 凄まじいプレッシャーを感じるんだけど』

 

リムルの視線がシルフィとホウリンに向く。

シルフィエッタは優雅に一礼し、ホウリンは無言で小さく頷いた。

 

連「紹介しよう。右の銀髪がシルフィ。左のメッシュがホウリンだ。……洞窟を出てすぐのところで『スカウト』した。二人とも、俺が『フェンリル』だってことに惚れ込んでくれた、最高に頼もしいパーティメンバー(配下)だ」

 

シルフィエッタが、主の言葉を受けてリムルに語りかける。

 

シルフィエッタ「リムル様、とお呼びすればよろしいでしょうか。我が主レン様は、この世界の『理(システム)』を遊戯(ゲーム)として捉える高潔な御方。主があなたに興味を持たれたのであれば、私たちがその交流を妨げることはありません」

 

ホウリン「……主の友。……無礼はしない。……多分」

 

ホウリンの言葉に、リムルは『……多分って何だよ、怖いな!』と心の中でツッコミを入れたが、レンの醸し出す不思議な親近感に、少しずつ警戒を解いていった。

 

---

 

村の中央。即席で作られた焚き火を囲み、レン(狼形態)とリムル(スライム形態)は「前世談義」に花を咲かせた。

ゴブリンたちが遠巻きに「リムル様が伝説のフェンリル様と談笑されている……!」と畏怖と尊敬の眼差しで見守る中、会話の内容は極めて世俗的だった。

 

連「……マジか。お前、三上って言ったか。……『三上さんのPC、ハードディスクの中身を消しておいてください』って、それ伝説の遺言じゃねぇか。潔いな、おい」

 

リムル『笑うなよ! こっちは必死だったんだから。……レン君、君は高校生だったんだろ? 青春真っ只中で転生ってのも、それはそれでキツいな』

 

連「まあな。でも、こっちの世界の方が『攻略しがい』がある。……魔素、魔法、スキル、名付け……。ゲーム脳の俺からすれば、ここは最高に自由度の高いオープンワールドRPGだ。……特に、この『名付け』ってシステム、ヤバくないか?」

 

レンは、周囲で明らかに「ランクアップ」しているゴブリンたちを見回した。

 

連「……お前、この全員に名前をつけたのか? 魔素の消費、とんでもなかっただろ。普通なら魔素枯渇(MP切れ)で死ぬか、休眠(スリープモード)に入るはずだ」

 

リムル『……あはは、実は三日ほど寝込んでた。……でもさ、放っておけなかったんだよ。俺を頼ってきた連中を見捨てるのは、俺の「美学」に反するっていうか』

 

連「美学、か。……効率は悪いが、組織ビルド(ギルド運営)としては正解かもな。……忠誠心(ロイヤリティ)がカンストしてる。……実際、牙狼族まで配下にしてるしな」

 

レンは、少し離れたところでシルフィとホウリンに(恐る恐る)挨拶を試みている牙狼族のリーダー、ランガを見た。

ランガはレンの影に隠された「本物のフェンリル」の威圧感に当てられ、プルプルと震えながらも、リムルの忠犬としての義務を果たそうとしている。

 

リムル『……それでさ、レン君。……単刀直入に聞くんだけど』

 

リムルが、少し真面目なトーンで(スライムの体が少し引き締まったように見えた)切り出した。

 

リムル『……あんた、これからどうするんだ? ……俺は、このゴブリンたちと、牙狼族。……あと、これから合流するかもしれない他の種族も含めて、みんなが安心して暮らせる「町」を作りたいと思ってる』

 

連「町、か。……シムシティ的な楽しみ方だな。悪くない」

 

リムル『……もしよければ、さ。……あんたさえ良ければ、協力してくれないか?』

 

レンの紅い瞳が、リムルを見据えた。

 

リムル『あんたみたいな強くて、しかも話が通じる「同郷の士」がいてくれたら、これ以上心強いことはない。……あんたの配下たちも、もし良ければ一緒にさ。……もちろん、あんたたちの自由は拘束しない。……「協力関係(アライアンス)」って形でもいい』

 

リムルの提案に、背後に控えていたシルフィエッタがピクリと反応した。彼女にとって、主であるレンが他者の軍門に下るような真似は許しがたい。だが、リムルの言ったのは「協力」だ。

 

レンはしばらく沈黙し、視界の端で『遊戯者(アソブモノ)』の演算を走らせた。

 

連(……リムル=テンペスト。……この世界の『メインシナリオ』の中心にいる個体。……こいつと一緒にいれば、間違いなく最高難易度のイベントが次々と発生する。……一人で森を徘徊してレア素材を掘るのもいいが、国家運営(ギルド運営)のトップに食い込むのは、ゲーマーとして無視できない「コンテンツ」だ)

 

何より、リムルの持つ「漫画」や「日本食」の再現という報酬は、オタク気質のレンにとって抗いがたい魅力だった。

 

連「……協力、か。……いいぜ、乗った。……ちょうど、この森で拠点をどこにするか考えてたところだ。……お前の『町作り』、俺も一枚噛ませてもらう」

 

リムル『――本当か!? やった! ありがとう、レン!』

 

リムルが嬉しそうにポヨンポヨンと跳ねる。

 

連「……ただし。俺は『遊撃隊』みたいなポジションがいい。……面倒な行政事務や、村の細かい揉め事の仲裁は全部お前に投げる。……俺は、外敵の排除や、新エリアの開拓、あとは……面白い『強敵(ボス)』が出てきた時の討伐。……そういう「攻略(攻略)」に特化した役割でな」

 

リムル『……わかってるって。……あんたみたいな「超大型ユニット」をデスクワークに縛り付けるほど、俺も無能じゃないよ。……よし、決まりだ!』

 

レンは狼の姿のまま、右の前足を差し出した。リムルもまた、スライムの体の一部を伸ばし、握手(のような動作)を交わす。

 

連「シルフィ、ホウリン。……というわけだ。……今日から、このスライム……リムルの町が俺たちの『ホームポイント』になる。……異論はないな?」

 

シルフィエッタは優雅に膝をつき、微笑んだ。

 

 

シルフィエッタ「主がお決めになったこと。……それに、このリムルというお方……少し不思議な魅力があります。……主の右腕として、この町の発展に尽力いたしましょう」

 

ホウリンもまた、短剣を消し、静かに頷く。

 

 

ホウリン「……主の望み。……守る。……ついでに、この村の連中。……鍛えてやる。……弱すぎる」

 

リムル『……う、うわぁ。……なんか心強いけど、めちゃくちゃスパルタになりそうな予感……。……あ、そうだ。レン! 協力してくれるお礼に、後で「特別な報酬(差し入れ)」を考えてるんだ。……楽しみにしててくれよ』

 

連「……漫画か? それともラーメンか? ……期待してるぜ、村長(ギルドマスター)」

 

白銀のフェンリルと、蒼いスライム。

二人の転生者が手を組んだ瞬間、ジュラの大森林の、いや、この世界の運命は、もはや誰にも止められない「攻略完了(クリア)」へのルートへと突き進み始めた。

 

連「よし。……じゃあ、まずはこの村の『防衛設備』の構築から始めるか。……ナビ、戦術演算による村の防衛拠点案を数パターン作成。……シルフィ、魔法によるトラップの設置。……ホウリン、牙狼族の再訓練だ。……行くぞ、野郎ども! 攻略開始(レイドスタート)だ!」

 

「「「御意!!」」」

 

レンの力強い号令が、夜の森に響き渡る。

ゴブリンの村の焚き火は、かつてないほど明るく、未来を照らすように燃え上がっていた。

 

 

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