転生したらフェンリルだった件   作:ぐちロイド

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第9話 ファーム

ゴブリンの村の再建は、レンの加入によって劇的なスピードで進んでいた。

かつての牙狼族の襲撃で半壊していた柵は、レンが『氷結支配』で生み出した超硬度の氷柱を芯材にし、シルフィエッタの魔法で補強された強固な外壁へと変貌している。さらに、ホウリンの厳しい指導のもと、牙狼族たちは一糸乱れぬ連携(フォーメーション)を叩き込まれていた。

 

だが、防衛設備が整えば整うほど、一つの「欠陥」が浮き彫りになってくる。

 

連「……なぁ、リムル。これ、防衛拠点は『鉄壁』だけど、居住区が『初期村以下』だぞ」

 

レンは狼の姿のまま、村のあちこちに点在する粗末な掘っ立て小屋を見渡した。

雨風を凌ぐのが精一杯の、藁と泥で固めた家々。名付けによって進化したホブゴブリンたちの立派な体躯には、あまりにも不釣り合いで、今にも崩れそうなボロ屋ばかりだ。

 

リムル『うぐっ……。わかってる、わかってるよレン君。俺だって「シムシティ」みたいに一瞬で綺麗な住宅街を作りたいんだけどさ……』

 

スライムのリムルが、ぷるぷると震えながら弁明する。

 

リムル『前世の記憶を頼りに、なんとか「良い感じの家」のイメージを伝えようとしたんだけど……俺、ゼネコン勤務じゃないし。建築学なんてさっぱりなんだよ。設計図が引けないんだ』

 

連「……お前、あんなに便利な『大賢者』持ってて建築は無理か。まぁ、確かに職人の『技術(スキル)』がないと、いくらイメージが良くても形にはならねぇか」

 

レンはふと、自分が一晩世話になった、森の奥のあの家を思い出した。

レンガと石、木材を巧みに組み合わせた、機能的で美しいあの住処だ。

 

連「そういえば、シルフィ。お前たちのあの家、どうやって作ったんだ? お前が魔法で作ったのか?」

 

傍らで控えていたシルフィエッタが、優雅に小首を傾げた。

 

シルフィエッタ「いいえ、我が主。私は魔術の理論構築には長けておりますが、物理的な建築技術までは持ち合わせておりません。あの家は、約五十年前……この森を放浪していた腕利きのドワーフたちと知り合いまして。彼らに報酬を払い、数ヶ月かけて建ててもらったものなのです」

 

連「ドワーフか……。ファンタジーの定番(テンプレ)だな。やっぱり、モノづくりに関してはあいつらがナンバーワンなのか」

 

レンの言葉に、リムルが「ドワーフ!」と勢いよく跳ねた。

 

リムル『それだ! ドワーフなら、鍛冶も建築も超一流だろ! 前世の知識があっても形にできない俺たちの代わりに、あいつらに職人として来てもらえば……!』

 

その時、進化したゴブリンたちのリーダー、リグルドが誇らしげに胸を張って進み出た。

 

リグルド「リムル様、レン様! もしドワーフの助けが必要であれば、武装国家『ドワルゴン』へ向かうのが最善かと存じます。あそこには世界一の職人たちが集まっております。かつて私も交易のために赴いたことがございますので、案内も可能ですぞ!」

 

連「ドワルゴン……。いいね、新エリア開拓(スカウティング)か。……よし、リムル。早速メンバーを選抜して、職人の勧誘に向かうか」

 

レンはワクワクした様子で立ち上がった。新しい街、新しいNPC、そして新しい装備品。ゲーマーにとって、ドワーフの国ほど魅力的な場所はない。

 

だが、その瞬間。レンの隣でシルフィエッタの纏う空気が、一気に氷点下まで下がった。

 

シルフィエッタ「……ドワルゴン。……あそこは、人間たちの出入りも激しい場所ですね」

 

シルフィエッタのライムグリーンの瞳から、一切の感情が消える。

彼女は主であるレンに向き直り、静かだが、断固とした拒絶の意志を孕んだ声で告げた。

 

シルフィエッタ「……申し訳ございません、我が主。ドワルゴンは『自由組合』の人間たちや、欲深い商人どもが跋扈する場所。……あのような汚らわしい連中と同じ空気を吸うのは、私にとって拷問に等しい苦痛です。主のお供をしたいのは山々ですが……私は、同行を控えさせていただけないでしょうか」

 

連「……あ、そうだったな。お前、人間嫌い(重度)だったわ」

 

レンは思い出した。彼女が過去に受けた屈辱。無実の罪を擦り付けられ、民衆から石を投げられた記憶。人間が密集する場所に彼女を連れて行くのは、確かに酷な話だ。

 

さらにホウリンも、無言でシルフィエッタの側に寄り添い、短く告げる。

 

ホウリン「……私は、シルフィの護衛。……主の命令なら行くが、シルフィを一人にするのは、嫌。……あと、人間……弱いから、イライラする」

 

連「……ハハッ、二人とも極端だな」

 

レンは苦笑した。この最強の二人がドワルゴンで「あ?」とメンチを切れば、外交問題どころか物理的に国が滅びかねない。

 

リムル『……レン君。シルフィさんたちがそう言うなら、無理に行かせるのは良くないよ。……ここは俺とリグルド、あと何人かのゴブリンで行ってくるよ。あんたはどうする?』

 

レンは少し考えた。ドワルゴンには興味があるが、留守番役も必要だ。

それに、村の建築をドワーフに頼むにしても、そのための「素材(リソース)」が圧倒的に足りていない。

 

連「……よし。俺も今回は残るよ。……リムル、お前らがドワーフを連れて帰ってきた時に、『材料がないから何も作れません』じゃ格好つかないだろ? 俺はこっちで『木材』や『石材』、あと『魔素を帯びた良質な鉱石』のファーム(素材集め)をしておく」

 

リムル『お、助かる! レン君なら、一人で一個小隊分……いや、一国分の資材を集めてくれそうだもんな』

 

連「任せとけ。……『貯蔵者(ミタスモノ)』の容量は無限だからな。この森の最高級素材、根こそぎインベントリにぶち込んで待ってるぜ」

 

シルフィエッタ「……感謝いたします、我が主。お心遣い、痛み入ります」

 

シルフィエッタが、救われたような表情で深く一礼した。

 

---

 

翌朝。

リムル率いる「ドワルゴン遠征隊」が村を出発した。

レンは村の入り口で見送りながら、脳内のナビゲーターを起動する。

 

連「さて……。本格的なファームの開始だ。……ナビ、この周辺で最も『建材』として優秀な樹木と、石材として価値の高い岩盤の座標を表示しろ」

 

『了解。……スキャン完了。……北西3キロ地点に、魔素を吸って硬化した「鋼鉄杉」の群生地を確認。また、その奥の断崖には、建築の基礎として最適な「金剛石」の露頭が存在します』

 

連「鋼鉄杉に金剛石か。……いいね、初期装備じゃ加工すらできないレア素材ってわけだ。……シルフィ、ホウリン。準備はいいか?」

 

シルフィエッタ「はい、レン様。周囲の魔物の掃討、および素材の『鮮度』を保つための防護魔法は私がお引き受けします」

 

ホウリン「……私は、運搬……は主ができるから、伐採の補助。……任せて」

 

レンは白銀のフェンリルへと姿を変え、力強く地面を蹴った。

向かうは、森の深淵。

 

連「攻略(ファーム)開始だ! 目標、インベントリがパンパンになるまで! ――行くぞ!!」

 

レンの咆哮が森に響き、三つの影が疾風となって消えていく。

 

到着した「鋼鉄杉」の群生地は、まさに異様な光景だった。

一本一本が高さ五十メートルを超え、その樹皮は金属のような光沢を放っている。普通の斧を振るえば、刃が砕けるどころか、火花が散るだけの代物だ。

 

連「……硬そうだな。……だが、俺の『氷結支配』なら分子レベルで脆くできる」

 

レンは前足で地面を叩き、地面から這い出るように氷の蔦を木々に巻きつかせた。

瞬間冷却。急激な温度変化によって、鋼鉄以上の硬度を誇る大樹が、パキパキと音を立てて内部から悲鳴を上げる。

 

連「ホウリン、行け!」

 

ホウリン「……了解。……武器召喚、巨斧」

 

ホウリンの手の中に、身の丈を超える巨大な戦斧が具現化した。

彼女は翼を羽ばたかせ、一閃。

本来なら数日がかりで切り出す大樹が、まるで豆腐を切るかのように容易く断たれ、地響きを立てて倒れ伏す。

 

連「シルフィ、枝打ちを頼む!」

 

シルフィエッタ「承知いたしました。……『魔術創造』――風刃・旋風鎌(ウィンド・カッター)!!」

 

シルフィエッタが指先を振るうと、無数の風の刃が倒れた巨木を包み込み、一瞬にして不要な枝葉を削ぎ落として、完璧に整えられた「建材」へと加工していく。

 

連「――インベントリ、起動!」

 

レンがその場に立つだけで、整えられた巨木が次々と虚空へと吸い込まれていく。

 

『鋼鉄杉の原木(特級)を獲得しました。……個数:1。……個数:10。……個数:50……』

 

連「ハハッ、快感だなこれ! 効率厨にはたまんねぇぜ!」

 

レンの笑い声が森に響く中、三人の「超弩級」の働きによって、森の一部が驚異的なスピードで更地へと変わっていく。

それはもはや「伐採」という生易しいものではなく、大地そのものを「徴収」していくような、圧倒的な略奪的収集だった。

 

連「……よし、次は石材だ。……あそこの断崖、全部削り取ってやる」

 

レンの紅い瞳が、次なるターゲットである「金剛石」の断崖を捉える。

 

リムルたちが帰ってきた時、彼らが目にするのは、完璧に整えられた村の区画と、山のように積み上げられた(あるいはインベントリに詰まった)伝説級の建材たち。

そして、それらを前に「さぁ、何でも作ってくれ!」と不敵に笑う、銀狼の姿だった。

 

連(……リムル、ドワーフの説得は任せたぜ。……俺は、この世界の『物理リソース』を完全に支配して待ってるからな)

 

白銀のフェンリルの背中で、シルフィエッタが楽しげに魔法を編み、ホウリンが無言で次の獲物(岩盤)を定めている。

最強の遊撃隊による「素材収集イベント」は、夜が更けるまで終わることはなかった。

 

 

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