気がついたら転スラ世界だった件   作:叡知の石板

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転スラの知識そんなにないけどなるようになる

 

 ふと意識が浮上する。眩い光に思わず手で遮り目を細めながらもあたりを見渡せば、視界には現代の日本ではあり得ない大自然が目の前に広がっていた。

 

 どういうことだ。私は普通に生活していたはず……うん? あれ、なにしていたんだっけ。ダメだ前後の記憶が全く思い出せない。

 

 思い出せるのはどうも常識だったり技術的な経験したもの、あるいは知識ぐらいだ。思い出……エピソード記憶みたいなものがごっそり抜け落ちているというのを感覚的に理解する。

 

 自分が何者なのか全く思い出せないのは気持ち悪いがそこは現状においては重要ではなさそうだ。

 

 それよりもいまの私は着の身のままでなにも持っていないということ。そんな状態でこの大自然をどうにかできるとは思えない。あいにく私にはサバイバル知識みたいなものはアニメや漫画とかのそれっぽいなにかぐらいしか知らないのだ。

 

 それにこの状況。どうにも創作物によくある異世界転移モノの導入みたいじゃないか。

 

 まずは夢かどうかを疑わないって? ないだろ。こちとら裸足で地面の細かい石や小枝が刺さって痛いのよ。その段階は結構早くに過ぎてしまってるのさ。

 

《確認しました。物理攻撃耐性を獲得……成功しました》

 

 おや、足裏の痛みがなくなった。というか物理攻撃耐性? ただ足が痛かっただけなのにもう耐性を獲得したのか。なんというかぬるいなぁ。

 

 物理耐性……どこまでが物理として適用されるのか。たとえば斬撃とかも対象に入ったりするのかな。

 

《解。斬撃、刺突、打撃による影響を軽減します》

 

 なるほどね。これはご丁寧にありがとう。というかこの頭に響く声はなに? 

 

《解。ユニークスキル『理解者(ココロツヨキモノ)』によるものです。》

 

 理解……ああ、なるほどね。たしかに理解してくれる人がいたら心強いもんね。でも意味あってるのそれ? 色々結びつきそうでつかない感じのネーミングだったもんでさ。しかしユニークスキル……ね。

 

 知識の奥底でどこか既視感のようなものが出かかったが、一旦置いておく。

 

 それでどんな効果なの?

 

《解。ユニークスキル『理解者』の効果……

   思考加速・解析鑑定・並列演算・精神支配無効・森羅万象の五つが主な能力となります》

 

 ほうほう。思考速度を千倍にしたり、森羅万象は見たもの瞬時に理解したりできると……名前負けな気がするけど、知り得ないことでも情報を得ることができるので間違ってないのか? あと精神支配無効って一応心が強いって意味も踏襲しているのね。

 

 この説明……やっぱり引っ掛かるんだよなぁ……どこかで見たことがある気がする。うーん……このなんか無機質に説明してくれる感じ……知識層の部分だな……それも主にオタク知識のところ。つまりアニメや漫画でみたことあるってことか。

 

 これか……? そうだこれだ! 『転生したらスライムだった件』!

 

 『大賢者』のスキルの感じに酷似しているんだ。となるとここは転スラ世界なのか。あいにく読んだの十数年以上も前だし、WEB版のものだ。一応完結までは読んだから、この世界は主人公であるスライムのリムルがいないと詰むってことぐらいは覚えているが……。

 

 しかも物語後半はとんでもなくインフレしていたはずだ。

 

 時系列がわからないが、リムルに会いたかったら大森林にいけばいい。とはいえ私はリムルに関わるつもりは今のところはない。

 

 少なくともリムルが魔王になるまでは関わらない予定だ。うっすらとしか覚えてないんだが、たしかリムルが魔王になれたのも様々な偶然が奇跡的に絡み合った結果によるものだったはずだ。

 

 リムルは魔王になる気はなくて、でも状況的にならざるを得ないことになってなったという経緯なのを覚えている。そして魔王になってくれないとこの世界はヤバい……だったはず。

 

 なので私が関わることで変に原作の流れが拗れたら不味いのだ。

 

 それを踏まえて私の今後の動きは……森には基本的に近づかない。どっかの国で冒険者として活動する……あ、たしかリムルが魔王になるとき国の軍が一瞬で殺戮されていたよな……どこだっけ……そこに所属するのは不味い。

 

 こんなことならもっとちゃんと原作を読んどけばよかったか。まだ致命的なものではないと思っておこう。

 

 ええと、数万の軍を一瞬……だからそれほどの戦力を持ってるとなると結構でかい国だよね。となるとできるだけ大国は避ける……でいいはずだ。少なくともリムルが魔王になるまでは。

 

「よし、とりあえず今後の方針はまとまったかな」

 

 自分の能力を把握しながら、まずは人のいる場所を目指して動こう。

 

 そして歩きながら色々試したりして、ひとまず能力はあらかた把握した。ちなみに『理解者』による解析鑑定での私の能力はこんな感じだ。

 

ステータス

 

 名前:No name

 種族:人間

 加護:なし

 称号:異世界人

 

 魔法:なし

 

 技能:ユニークスキル『理解者(ココロツヨキモノ)

    思考加速・解析鑑定・並列演算・精神支配無効・森羅万象

    ユニークスキル『自由人(アユミトメヌモノ)

    適応・最適化・重力操作・空間操作

 

    エクストラスキル『魔力感知』

 

 耐性:物理攻撃耐性

 

 どうやら私には名前がないらしい。自分で付けてもいいのかな? あとでなにか考えとこ。

 

 それよりもユニークスキルはどうやらもうひとつあったらしい。『自由人』だってさ。一瞬で耐性を獲得したのはこのスキルによるものだったみたいだ。

 

 まさかの重力と空間が操れるらしい。めちゃつよ能力でテンション上がったよね。

 

 最適化は……まだ活躍する場面はないかな。たぶんスキルとか増えて来たら統合させたりしてより上位のスキルにするみたいなものだと思う。

 

 魔力感知は能力を把握するときに獲得したものだ。これがかなり便利で、目をつむってても周囲を把握することができるんだ。

 

「しかし結構歩いたけどまだ人の手の入ったものを見ていないな。こういうのってわりとすぐに街道とか見つけられるものではないの?」

 

 今のところは平原が続くばかりである。だが私の思いに応えてくれたのかやっと平原以外の景色が見えてきた。

 

 森である。

 

 うん……森だね。今はリムルに関わらないって決めたはずなんだけどなぁ。

 

 しかし、結構歩いてきたせいでお腹も空いてきている。野生動物とすら遭遇することないもんだから、このままだと餓死してしまう。

 

 そんなときに森だ。少なくとも平原よりは食べられそうなものは見つけられると思う。『理解者』があるから、危険なものを食べるという心配はない。

 

「本人と関わらなければセーフか……? それに町とか作ってるはずだから事前に察知はできると思う……となれば」

 

 そんなに深く入り込まなければ大丈夫なはず。ある程度食料を回収したら出て、森沿いに進んでみればいい。

 

 そんな感じで展望を描き、私は森の方へと足を進めるのだった。

 

 ◇◇◇

 

「ふむふむ。これは食べられる果実……このキノコも食べられるね。適応があるからあえて毒とか摂取してみる? 回復手段がないから流石に無しだな」

 

 随分と肥沃な森のようで、まぁ食べられそうなものが出るわ出るわ。解析鑑定して片っ端から空間操作による異空庫に放り込んでいる。

 

 他にも薬草だったり毒草だったり、木材とかも使えると思うので回収してる。

 

 梨に似た形の果実……味は桃のようなものを食べながらも私は油断なく周囲の気配を探りながら歩いている。

 

《確認しました。スキル『気配察知』を獲得……成功しました》

 

 相変わらずスキルの獲得はぬるいな。と、気配察知に反応あり、集団だな。

 

 気配はそんなに大きくない。魔素を感じるから魔物だな。

 

 気配を殺しながら、私は待機する。

 

《確認しました。スキル『気配隠匿』を獲得……成功しました。スキルが最適化されます。エクストラスキル『気配操作』を獲得しました》

 

 ああ、さっきの気配察知と統合したのね。というかいちいち報告は鬱陶しいかも……ええと、『理解者』? 勝手に獲得とか最適化とかしてもらっていいから、一旦……そうだなユニークスキルとかじゃなければ報告はなくてもいいよ。

 

《……》

 

 『理解者』から了解みたいな感覚が返ってくる。『自由人』がチート過ぎるんだよね。やりたい行動に合わせて適応されてすぐにスキル獲得みたいな感じになるからこのペースだととんでもない量のスキルを獲得することになりそうだ。

 

 さて、気配の先なんだけどさっき獲得した気配操作と魔力感知の合わせ技で遮蔽物を無視して気配の存在を認識し立体映像みたいな感じで正確に捉えることができるようだ。

 

 それによれば、矮躯の人型。みすぼらしい布切れを身にまとっていて、おそらくだけど小鬼族(ゴブリン)だろう。

 

 正体が判明したので、私はゴブリンたちに気づかれないように迂回してその場から離れる。

 

 進化はしていないからまだリムルの関係者ではないだろうけど。これが別の世界ならサクッと力試しに戦いに行ったかもしれないけどねぇ。

 

 やれやれ、もっと魔物らしい魔物と遭遇しないものかな。

 

 さて進化してないということは少なくともまだ大森林の盟主にはなってないということだな。

 

 たしかリムルは森の魔物たち全員に名付けしていたはずだから。つまり序盤も序盤か。もしかしたらまだ町すら作ってない可能性もある。

 

 物語の後半にはインフレしていくから、リムルと足並みを揃えながら自分も強くしていけると考えると僥倖ではあるか。

 

 ユニークスキルの質ではリムルに劣ってはいないはずだから順当に成長すればインフレについていけないってことはないと思う。

 

「ひとまずおおよその時系列を把握できたのは大きいね」

 

 当面の飢えをしのげる程度には食料は集まった。あとは水だが……果実で誤魔化すことはできるし、そろそろ本格的に人間の町探しをするか。

 

 こちとら重力も空間も操れるんだ。空を飛ぶことなんて容易だろう。

 

 実際に術の行使は『理解者』がやってくれるから、私はイメージするだけで良いのだからぬるいもんよ。

 

 自身がふわりと重力を無視して浮かび上がるイメージをすると体が重力に逆らい上昇していく。

 

 それを空間操作で指向性を持たせてやれば進みたい方向に体が勝手に移動を始める。

 

 初めての飛行だが、空を飛んでいるという実感が私の中の感動を呼び覚ます。

 

 飛び始めのぎこちなかったのがあっという間に適応され、さらに最適化されたようで、もはや自由に空中を飛び回れるまでに至った。

 

 しばらく我を忘れて、空中でアクロバティックに飛ぶ。

 

「ははっこりゃあいいや。空飛ぶことがこんなに気持ちいいなんてね……と、忘れちゃいかん。町を探さなきゃ」

 

 眼下には先ほどまでいた森。どこまでも広大な大森林だ。やはりというかこの森は転スラの舞台となっている大森林で間違いないだろう。

 

 そして上空だからこそ発見できたのだが、その森に隣接するように村がいくつかあって大きな街がひとつある小さな国っぽいものが見える。

 

 よかったどうやらそう遠くない距離に国があったようだ。遠目からはわからんがおそらく人間の国だと思いたい。

 

「行くしかないでしょ。とはいえ空からそのまま向かったら怪しまれるだろうから、ある程度近づいたら降りて歩いて向かおうか」

 

 そうと決まれば一気に加速させ、私は手前の村に向かって飛んでいく。

 

 重力や空気の影響を無視できるから体感では感じにくいけど凄まじい速度で飛んでいるはずだ。

 

 森なんてもはや緑に塗りたくられた板みたいな景色となっている。

 

 数分したぐらいで私は手前の村付近に着き、地面に降りたってそこから歩いて村へ向かうのだった。

 

 のどかな風景が広がる農村だ。

 

 聞くところによれば国はブルムンド王国というらしい。そして王都までの定時馬車が日に二回あるという。ちなみに言語の問題はとくになかった。たぶん『理解者』がうまいことやってくれたんだろう。

 

 馬車の移動で三時間ほどの距離があるらしいので、本日中にあと一回は馬車が王都に向かうらしいのでそれまでは時間が空いた。

 

 そこで適当な食事処でご飯……と考えてふと思い立つ。

 

 あれ、そういえばお金とか全く持ってないということに。

 

 やっべぇ……どうしようか。ようやくまともなご飯にありつけると思ったのに。こうなると馬車にも乗ることができない。

 

 完全にお金のことを失念していた。

 

 自由組合(ギルド)支部があるのもどうやら王都のようだし、せっかく村に着いたはいいもののしばらくは森でサバイバルすることになりそうだな。

 

 とりあえず私が考えているのは、森で知能のなさそうな異形っぽい魔物(リムルと関わりがおそらく低いから)を狩り、その魔物の素材を王都の自由組合支部に持ち込んで買い取ってもらう。あとついでに冒険者登録もする。

 

 みたいな案でいこうかなと考えてる。お金がないから残念ながら王都までは歩いていくことになるね。

 

 だからその分も考慮して食料と飲み水を貯めとく必要がありそうだ。

 

「ま、最悪関わることになったらなったらでその時に考えればいいか」

 

 その場合はうまいことリムルを魔王へ誘導させる必要が出てくるだろう。

 

 私にできるかと言われたら正直、非常に厳しいと言わざるを得ない。なにせ原作知識はほとんど抜け落ちているのだから。確実に原作の流れを逸脱してしまうだろうことは間違いない。

 

 あるいは私の考えすぎなのか。なんやかんや修正力みたいなものが働いてどうにかなる場合もあるかもしれないし、もっと気楽でもいいのかもしれない。

 

「考えても仕方ないよね。とりあえず森に向かおうか」

 

 私はせっかく訪れた村を後にして、森の方へと向かったのであった。

 

 

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