転生者とTS聖女とTS悪役令嬢と追放系ハズレスキルが集まった結果。 作:RGN
その日もその日で、ラガンはいつも通り暮らしていた。
数時間もあれば行って帰って来れる程度の簡単な依頼を纏めて受け、纏めて達成して。
報酬金を受け取り、その後が暇だったらギルドに居座る。
そうしていれば誰かが勝手にラガンに話しかけに来るので、暇をする事がなかった。
だから予定の無かった今日も、ラガンはそのようにしていた。
「失礼します。ラガン・ゼム金等級冒険者はいらっしゃいますか?」
しかしその日は、ラガンにとっていつも通りと呼べるものでは無かった。
ラガンの下に訪れたのは、教会のシスターだったのだ。
(……マジか)
何とも珍しい……どころではない。
少なくともラガンがこの街に転生してから、このような事は一度も無かった。
ラガンは教会に自ら足を運ぶ事はあれど、呼ばれて行った事はない。
という事はつまり、何かが起こったと考えるのが妥当だろう。
「俺ならここだが……何かあったか」
「すみません。事情が事情で、どうにも公にはできず……教会にお越しになってから説明させていただきたいのです」
「……そうか」
厄介事だな。
ラガンはそう察した。
(それも恐らく、知った以上は巻き込まれざるを得なくなるやつだ)
知識、情報とは即ち力だ。
知っているか、知っていないか。そこには天と地ほどの隔たりがある。
知らなければ良かった。知らなければ幸せだった。
相違も得る事柄は数知れず、恐らくこの件もそれに類するものだろう、と。
ラガンは結論付ける。
(……行きたくねぇ…………)
目に見えている厄介事にわざわざ首を突っ込みたくない。
それがラガンの本音に他ならなかったが、しかし教会の頼みとなると断ったら後が面倒そうだ。
何より、あの神父には個人的にも色々と世話になっているところがないわけでもない。
(断るとなんか気まずいし……受けとくか)
ラガンはこう言うところが根っからの日本人であった。
「行こう。まずは話を聞く」
「ありがとうございます。では、こちらへ」
と、シスターを引き連れて、ラガンは教会へと向かう。
そうして教会に入ると、そこで出会したのは──────一人の少女と、その付き人だった。
「くはっ!」
付き人の方はまだいい。
普通だ。言っちゃあ何だが、極めて平均的な冒険者だ。
だがその少女は、明らかに只者では無かった。
農家のような格好をしていたが、流麗なブロンドの髪と、帽子の下から覗く美貌。
そして……全身から放つ神聖魔法を煮詰めて固めたようなオーラから鑑みれば、その正体は自ずと察する事ができると言うものだった。
「お前…………お前がラガン・ゼムか……!」
「……聖女だな。さては」
聖女が歯を剥き出して獰猛に笑い、転生者の頬に冷や汗が伝う。
こうして、転生者と聖女、そして追放系は邂逅を果たしたのだ。
(コイツヤベェ! マジでヤベェ! 何だこのステータス! 何だこの無茶苦茶な強さ!?)
アルマの『看破』が丸裸にしたラガン・ゼムの能力は、化け物のそれと表現する他なかった。
魔力が低い。最低値近くだ。技量に関しても平均より幾らか高いだけ。
ただ、それ以外があまりにも高すぎた。
特に攻撃力と防御力、生命力に関してはもはやチートの域である。
戦闘スタイルは……見た目通りに判断するのなら、徒手空拳だろう。
功夫服に似た動き易さを重視した細めのスタイルの服に、黒い無骨な手甲と足甲。
使い古された様子のあるそれらは、彼の歴戦を物語っていた。
「……なるほどなァ、聞いてた通りのバケモンだ!」
アルマの頬に冷や汗が伝う。
この力量差じゃあ、カイルとアルマが束になってかかっても、数秒と保たずに肉塊だ。
アルマが居る以上、肉塊になることと負ける事が必ずしもイコールで結び付くわけではないが。
しかし手も足も出ない事は間違いない。
「こっちとしちゃあ、思ってたのと随分と違うのをお出しされた気分だがねぇ……神父」
「正真正銘、聖女様その人です。少なくとも3つ、確認できました」
「そうかい。そりゃあまた、随分と……」
ラガンの眼がジロジロと無遠慮にアルマの体を貫く。
……が、欲望は全くと言っていいほど発されない。
恐らく、
「で? ご用件は?」
「単刀直入に言う。アンタに力を貸して欲しい」
「……単刀直入すぎて文脈が読めんな。もうちょっと詳しく話して欲しいモンだが」
「そこは、僕から話します」
「……あ?」
アルマの後ろに控えていたカイルが発言する。
怪訝な様子のラガンの目線がカイルを貫いた。
「問題ねぇ。俺よりも、コイツの方が話が上手い」
「……そうか。では、頼む」
「はい。……率直に申し上げますと、我々は現在、
「……本当に率直だな」
ラガンがチラリと入り口を見遣る。
そこにはシスターが待機していて、外からは誰も入ってこれないようにしているらしかった。
「クーデター、な。まぁ、それはいい。どうせ腐った教会上層部を一掃しようとか。そう言う話だろう」
「……話が早くて助かります。貴方もご存知の通り、現在の教会上部は腐敗に腐敗を重ね、悪徳の温床と化しています。聖女様は、その是正のために遣わされた御方でして……」
「だが、力が足りなくて消されかけた。違うか?」
「…………その通りです」
だろうな、と。ラガンは言う。
カイルは得体の知れない恐怖を覚えていた。
今までに相手をした事がないタイプだったからだ。
少なくとも、かつてカイルが会話をした事のある冒険者の中には、このように会話を先回りする人間はいなかった。
(これが…………金等級! これが、ラガン・ゼム……!)
より気を引き締め、カイルは再び口を開く。
「我々には正義と大義があります。しかし力が足りません。勢力が足りません。今は雌伏し、力を集めなければなりません」
「……で? それと俺とに何が関係ある?」
「貴方には、聖女様の護衛をお願いしたいのです。この先、聖女様に待ち受けるであろう試練は数知れません。教会上層部の連中は─────」
「そこまででいい」
「!」
カイルの言葉に強引に割って入り、ラガンが言う。
「つまり、アレだ。お前らが俺に言いたいことってのはつまり、アンタらに協力しろって事。それだけだ。そうだろ?」
「……ま、要点をまとめるとそうなるなァ。で、どうだ?」
「どうだってのは?」
「俺たちの話を受けてくれるかってトコだよ」
わかってんだろ? と。アルマが問う。
するとラガンは数秒ほど瞑目して、目を開くと同時に言った。
「当然、断る」
「「!?」」
驚いたのはアルマとカイルではない。
無論、アルマとカイルとて相応の反応は見せたが、それよりも反応が大きかったのは、神父とシスターだった。
「ど、どうされたのですか、ラガンさん。教会の腐敗に対し、苦悩していたのは貴方とて同じはずでは……」
「そうだ。それは否定しない。否定しないぞ神父。だがな……」
ラガンは再び瞑目し、今度は先程より少し長く沈黙してから、言葉を発した。
「俺はな。現状に満足してしまっているんだよ」
「……と、言いますと」
「教会の腐敗。確かに問題だ。それで? 今のところ俺の生活に実害は出ているか?」
「…………出ていない、でしょうな。この辺境の街に及ぶ腐敗の象徴としましては、税程度のものでしょうが……」
「そうだ。俺は冒険者だ」
冒険者に納税の義務は発生しない、と言うのは有名な話だ。
いつぞやに冒険者の戦争不参加・政治不参加の際に同時に採択されたルールの一つ。
無論、その周りに関しては悪用できないよう様々な細々とした規則が定められていたが、純正の冒険者であるラガンに納税の義務は発生しない。
つまり、ラガンは徴税量増加の実害を受けていないということになる。
「……まぁ、ダラダラ喋るのも性に合わんから、こちらも率直に言わせてもらうが……俺の主張は極めて簡単だよ。『協力する理由がない』これに尽きる」
……言われてみれば、そうなのかも知れない。
ラガン・ゼムは間違いなく強者だ。
故に、教会の腐敗程度では揺るがない。
特にこの辺りなど、都市圏から離れた辺境。教会の及ぶ力は更に弱くなる。
要するに、ラガン・ゼムは
だから彼にはこの話を受ける理由がない。そう彼は主張している。
だが、ここでハイそうですかと引き下がるわけにもいかない。
「……それは貴方個人の話でしょう」
「無論、その通りだ」
「貴方の周囲には影響が出る」
「そうだろうな。だが、そこは俺の手の届く範囲だ」
「無辜の民の多くが騙されている」
「クーデターを起こせば、その無辜の民とやらは多く死ぬだろうな」
「連中は、神の声を偽っている!」
「その割には、天罰は下らないようだが?」
「っ……!」
それは、その通りだ。
聖女の存在は、天罰と言えないこともない……が。
しかし、現状はこの通りだ。
こうして仲間を集めなければ、まともに力を振るうこともできそうにない。
「…………」
説得は難航する。
幸いにも、時間はある。
今日無理だったとしても、明日。
明日無理だったとしても、明後日挑んでやる。
と、カイルとアルマが本日中の説得を諦めかけた直後、再びラガンが口を開いた。
「……勘違いしないで欲しいのは、だ。俺とて、教会や国の腐敗に何も思う事がないってわけじゃあない事だ」
「……」
「確かにアンタらの話は正しい。腐敗する上層部。苦しむ下民。その構造が悪であり、正さねばならない。そしてアンタには正義を証明できるだけの印があり、行動しなきゃいけない。正しい事をしているよ。俺が保証する」
「……じゃあ」
「その上で、俺は今の生活を手放したくない」
恐らく、それがラガン・ゼムの本音だ。
「正直なところな。俺は今の生活が一番心地いいと思っている。軽い冒険の後に本を読み、木を彫り、たまに説教会に顔を出す。この生活が一番幸せだと思っている」
だから、と。
ラガンが言葉を続ける。
「俺は要求しよう。
要求、と言ったが。
圧倒的な実力差を伴った強烈な威圧感と共に叩きつけられたそれは。
どちらかと言えば、命令に近かった。
あまりの恐怖に、カイルは思わず膝をつきそうになってしまう。
「……嫌だ、と言ったら?」
そんな中で不敵な笑みを浮かべてラガンに噛み付くのは、アルマだ。
「……ほう?」
「俺はどーしてもお前が欲しい。お前以外は嫌だ。お前以外じゃ嫌だ」
アルマの『看破』はラガンの言葉に嘘を見出さなかった。
アルマの『邪視』はラガンの安寧への渇望を見た。
その上で、アルマはラガンを欲した。
「そうか。……そうだな。どうしてもお前らが俺を動かしたい。そう言うんなら、
ラガンはそれだけ言うと、踵を返して帰ってしまった。
「……カイル」
「はい」
「やるぞ。絶対に。俺とお前、ラガンにあの女……最強パーティだ……!」
「…………ええ。仰せのままに」