転生者とTS聖女とTS悪役令嬢と追放系ハズレスキルが集まった結果。   作:RGN

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転生者と令嬢の会話

「よ、ラガン! 俺の仲間になってくれ!」

「あ! 魔法使いのねーちゃん! ちょっと話聞いてってくれよ! ちょっとでいいからさァ!」

「ヘイ、ラガン! 偶然だなぁ!」

「あ、ねーちゃん名前グレイって言うんだってな! 受付さんから聞いた!」

「ラガーン! 今日こそ俺の仲間になってくれよー! 頼むよー!」

「グレーイ! 俺とも一緒にお茶会しよーぜー!」

 

 ……アルマとカイルがこの街を訪れて一週間ほど。

 既にラガンとグレイはアルマから10を超える勧誘を受けていた。

 

「ラガンさん。どうかお願いです、これも神の思し召しであると、私は思うのです……」

「あの……私は構いませんから、アルマちゃんと……どうでしょう?」

 

 そして何より恐ろしいのは、なんだか自分よりも先に周囲の方が陥落している気がする事だ。

 外堀を埋める、と言うやつであろうか。

 なんだか段々と逃げ場がなくなって来ている気がする。

 

「…………」

「…………」

 

 そんな中で、ラガンとグレイは何だかよく分からない連帯感というか、仲間意識のようなものが芽生えている気がした。

 ほんの数日前まで互いに目線すら合わせようとしなかったのに、今では互いに目が合うと『お互い大変だな……』と視線で語り合う事さえあった。

 

 そして今、ついに二人は同じテーブルを挟んで向かい合っていた。

 もはやラガンの定位置として定着していたその席に先に座っていたのはやはりラガンの方だ。

 その後に空いている椅子を見てグレイが座ったのだ。

 

(……色々と不安要素はある。が、ラガン・ゼムと直接会話をする好機は、今だ)

 

 互いに明確に交わっていないが、しかし妙な連帯感が生まれている今ならば。

 多少は、踏み込んだ事が聞ける。そう思った。

 

「……そこに座ったのなら、何か話してくれ。こういう気まずいのは、苦手だ」

「では、あの人についてですが……」

「…………その様子だと、詳しい事情は知らないらしい」

「はい」

「なら、知らないままの方がいい。アレはそういう類だ」

 

 やはり互いに警戒心は拭えない。

 ただ、敵というわけでは無い。断じて。

 であるのなら、会話はできる。

 

「……とんでもなく大きい事態が裏で動いている。それは理解できます」

「だろうな。……それが理解できないような育ちではないだろう」

「……私の生まれを知っているのですか?」

「知らん。……が、俺もお前と同じく、俺には理解も及ばない何かが起きている事だけはわかっているつもりだ」

 

 事実、ラガンはグレイの生まれやら何やらには微塵の興味も無かった。

 とは言っても無関心というわけではない。

 グレイの生まれは、そして現状は、間違いなく厄介事の火種だ。

 

(ただでさえ聖女とかいう爆弾がこの街に持ち込まれたんだ。連鎖爆発なんざされてたまるか)

 

 ラガンがグレイに抱くのは、そう言った危惧だ。

 だからこの話し合いは、ラガンにとっても有意義なものであると言えた。

 

「この際だ。お前が腹の内にとんでもないモノを抱えた人間であるという事を理解した上で、ハッキリと言ってしまおう。あの女が抱えている案件は、お前の抱えているそれに匹敵するか、あるいはそれ以上の災厄だ。関わりたくないんなら、逃げる事をお勧めする」

「…………一体、何が起きるんですか……?」

「それを知れば、後戻りはできない。さっきも言ったが、これはそういう類いの話だ。何も知らず、何も関わらず……去れ」

 

 それは確かにラガンの配慮であったが、しかし同時に打算的なものも含まれていた。

 

(これでこの女がこの土地から去ってくれるのなら、万々歳だが)

 

 ラガンにとってグレイは、自分と同じ苦労を共有する仲間……のようなものであるが、やはりそれ以上に厄ネタの塊だ。

 出来る事ならさっさと遠ざかって欲しい。

 彼女がここに滞在して1ヶ月近くが経過した今でも、その願望は消えたわけでは無かった。

 

「……お気遣い、有難うございます。……ですが」

「この街に留まる……か。分からんな。何がお前をそうさせる?」

「この街が気に入った、と言うのもありますが……友人が、できましたので」

「……受付嬢か」

「はい」

 

 そうか、と。ラガンは天を仰ぐ。

 ラガンとて、最近のグレイと受付嬢の急接近を知らないわけではない。

 ラガンが依頼の報告をする度に、彼女は喜んでグレイさんと何々をしただの、何々を話しただのと仔細に報告して来るのだから、どちらが報告をしているのか分からなくなる事もあった。

 そんなだから、彼女が本気でグレイを慕っているのだろうと言うことは、すぐに理解できた。

 

 目の前にいるグレイの表情も、心なしか柔らかい。

 未だ憶測でしかないが、彼女ほどの生まれであれば、友人と呼べるものなどまず作れはしなかっただろう。

 否、名目上の『友人』は作れたのだろうが、それはきっと損得勘定に塗れた、心を許し合える仲ではなかったはずだ。

 貴族社会とはそう言うものだと、受付嬢からそう聞いていたから知っていた。

 

 そうである以上、この場所……冒険者ギルドの受付嬢と、一冒険者という彼女達の立場は、仕事上ある程度の制限こそあるとは言え、心を許し合えるという点で言えば……

 

(貴重なもの、だろうな)

 

 特に彼女らは、冒険者から良からぬ目を向けられる事も多い。

 それは女性冒険者からの嫉妬や羨望も含まれる。

 更に、同じ悩みを共有できる人間は、このような場所にはまずいない。

 そこまで考えれば、彼女達のような関係性は、ますます貴重なものだ。

 

(手放したくない、か……)

 

 共感は、できる。できてしまう。

 それはラガンも持ち併せる感情だ。

 そうである以上、これ以上の事をラガンの口から言うことは出来ない。

 

「……なら、精々彼女を諍いに巻き込まないよう、努力することだ」

「当然です……が、あなたもそれは同様では?」

「理解している。ああ、理解しているとも」

 

 そう、理解はしている。

 理解はしているが、しかしどうしたものかと苦悩もしている。

 

 ラガンとて、この街は好きだ。

 とは言っても、最初から好きだったわけではない。

 むしろ最初は嫌いだった。

 街は臭いわ、辺りは糞まみれだわ、周囲の人間達は皆ラガンの見た目と魔力の低さを蔑み、嘲笑うわ。

 アジア系の顔立ちは、卑しい生まれの象徴で。低い魔力もまた、同様だった。

 

 ふざけるなと思った。

 こんな街に誰が居てやるかとすら思った。

 マトモな衛生観念さえ持たない原始人共、と。心の中で散々に罵倒した。

 

 だが、親切な人は居た。

 仲良くしようとしてくれる人もいた。

 そして何より、自分の事を認めてくれる場所があった。

 

 だから、住んでみようと思えた。

 より良くしようと思えた。

 そして最終的に、この街を好きになる事ができた。

 

 だからこそ、ラガンは出来る限り、この街をあらゆる厄介事から遠ざけたかった。

 しかしこうして、厄介事の塊のような人間がこの街に現れてしまった。

 

(さて、どうするべきだろうな)

 

 ラガンはこの街の要であり、砦でもある。

 ロクでもないこの世界で、この辺境の街がここまで平和で健やかな暮らしを営む事ができているのは、ラガン・ゼムが居たからだ。

 そうでなければ、この街はとっくに二度、ともすれば三度、破壊の憂き目に遭っている。

 

 ラガン・ゼムはアルマとカイルに対し現在の生活に満足しているから動きたくないと言った。

 しかし、それはだけではない。

 ラガンが満足していることは元より、ラガンがこの街に居ることこそがこの街にとって最善であるから、と言うのも。ラガンがアルマの誘いを断った理由の一つだった。

 

(だが、彼女は俺を欲している。そして、そこを動かすことはなさそうだ)

 

 困ったものだ。

 実に、実に困ったものだ。

 

 教会の腐敗はなんとかしたい。

 この街を離れるのは嫌だ。

 ずっと安寧を享受していたい。

 

 この三つがそれぞれ独立し、互いに互いを邪魔しあっている。

 

「……難しいものだな。色々と」

「………………えぇ、本当に」

 

 強い力を持っていようと、ままならない事は幾らでもある。

 その事を身をもって理解している二人は、この時ばかりは心の底から通じ合えた。

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