転生者とTS聖女とTS悪役令嬢と追放系ハズレスキルが集まった結果。 作:RGN
「おぉーい! ラガーン!!」
「………………………………」
「ちょっ、逃げんなー!!」
と、アルマがラガンを追いかけ続けている裏で。
カイルが何をしていたかと言えば、情報収集であった。
「すみませんご婦人、ラガン・ゼム金等級冒険者についてお伺いしたいのですが……」
「え? あぁ、あの子の保護者さんね。えぇまぁ、少しならお話しできますよ。とは言っても他の人たちが知ってる情報と大差ないとは思うのですけれど……」
「いえいえ……」
かつてパーティ内のあらゆる雑用を任されていたカイルだ。
現地民との会話など、造作も無いというものだった。
街の中に散らばっていたラガン・ゼムに関する情報を、次々と回収してゆく。
その速度は凄まじく、グレイが二週間かけてようやく集めたそれを優に超えるだけの情報量をその手元に収めていた。
「……とんでもないな」
すっかり夜も更けた教会で、カイルはひとり驚嘆の言葉を呟く。
対象は当然ながら、ラガン・ゼムだ。
ワイバーン、グリフォン、ヘカトンケイルとかいう意味の分からん戦歴に加え、ダンジョンの単騎攻略とか正気ではない。そりゃあこんな辺境でも金等級まで上り詰めるわけだし、宝石等級候補とさえ言われるわけだ。
そんな人物が味方になると考えると、頼もしいことこの上ない。
……が、その前に。
「大事なのは、あの人を動かす方法だよなぁ……」
ラガン・ゼムはアルマとカイルに自分の動くだけの理由を提示して見せろと言った。
彼のそんな要求に対し、アルマは直接的な要求を繰り返すことで本人の心変わりを促すつもりのようだが、カイルはそれではラガンは動いてくれないと判断していた。
彼は今の生活が好きで、今の生活を失いたくないから協力したくないと言っていた。
となれば、現状の生活が動くだけの何かなければきっと彼は動いてはくれない。
こう言っては不敬極まりないが、たかが小娘一人が付き纏ってくるくらいで彼がそれをわざわざ手放す気になるとは到底思えないのである。
「……こうなったら、街全体を動かす必要があるかな」
幸いなことに、起爆剤はある。
アルマの存在がまさにそれだ。
神の御遣いにして正義の象徴たる聖女は、その言動一つで人の心を揺り動かす。
教会上層部が迷いなくその力を利用しようとする程度には、その力は凄まじいものだ。
街の住民たちを扇動するなど、容易いと表現する他ない。
……が、現状大々的に動くわけにもいかないのもまた事実。
聖女の力を大っぴらに使うのは、避けたい。
「最悪、物理的にこの街に居られなくすることも出来なくはなさそうだけど……」
流石に色々な面でダメすぎると、自らの中に生まれた邪悪極まる案を焼き捨てる。
彼の心証を徒に悪くするのは最悪手と言っていい。
彼にはきちんと、心の底から協力してもらわねばならないのだから。
それに、追放されるというのは、存外に辛いものである。
痛みを知るものだからこそ、他人にもその痛みを強要することは、憚られた。
「だから、出来る限り穏便にやりたいけど……うーん……」
「お困りですか」
唸る彼に声をかけるのは、教会の神父だ。
神の敬虔な信徒である彼は、当然ながら腐敗した現状の改革を強く望んでおり、二人を教会内部で快く匿ってくれていた。
匿われているはずの人間が隙を見つけてはラガンやグレイの所へ突撃しに行っているのには少々冷や汗の出る思いであるが、まぁ、仕方ないものとする。
「それがですね……どうにかして街の人たちの総意を、ラガン金等級冒険者に行動してもらう方向に動かしたいのですが……上手い方法が思いつかず……」
「街の者に……ですか。ふぅむ……成程、良い案ですな」
「そう思いますか」
「えぇ」
神父は鷹揚に頷く。
「流石のラガンさんも、民衆から求められては動かざるを得ますまい。直接民衆から求められれば、今まで通りの生活を維持することも難しくなるでしょうからな」
「はい、そこまでは分かっているんですが……」
ラガンは先日、教会がいかに腐敗しようと、自分たちに問題は起こらない、仮に起こったとして自分がどうにかする、という旨の発言をしていた。
そしてその言葉に偽りは、きっと無いのだろう。
しかし、ラガン・ゼムが語っていたのは、あくまでも外部からの影響だ。
内部から……つまり、自分が守ると言った民衆は、あくまでも受動的な態度を崩さない、という事をラガンは前提としている。
つまり逆説的に言えば、民衆に積極的に動くよう促せば、ラガンも動かざるを得なくなる。
ラガンが維持したくて溜まらない『今の生活』の、その土台から動かいてしまうのだから、今の生活を理由としたラガンの拒絶は、根底から崩れる。
「……それを穏便に、かつ秘密裏にやる方法が、少し」
「…………ふむ」
そう考えると、難しい。
秘密裏に、かつ不特定多数の人間を同時に動かすなど、そんなことが可能なのだろうか?
今は雌伏の時にある。それは間違いない。
だから、我々の動きを、正体を知る人間は、出来る限り少なく、それも信頼できる人間に絞りたい。
壁に耳あり障子に目あり。
カイルが
どこからどのように情報が漏れるかなど、わかったものではないからだ。
しかし、かと言ってそれ以外の方法でラガンを動かすのも、難しそうだ。
「いっそのこと、脅しでもやってみますかな? この街そのものを人質に取って」
「ラガン金等級の心証は悪くしたくありません。出来る限り穏便に、後腐れなく済ませたい。それに、聖女様が納得されるかどうか……」
聖女とは正義の化身である。
そのような卑劣な手段を認めるとは思えない。
だからこそ、あのように愚直に行動なさっておられるのだろう。
「………………難しいものですな」
「えぇ、本当に」
ラガン・ゼムは、決してメリットだけでは動いてくれない。
かと言ってデメリットを強調した取引をしようにも、それは脅しと何が変わるのだろうか。
「手段を選ぶ必要があるって、大変だな……」
手段を選ぼうとしなければ、取れる手は幾らでも転がっているのに。
「やっぱり、脅しが最も単純でやりやすいのか……?」
本人の心証を悪くせず、と言う話が、まずそもそも無理な話だったのかも知れない。
信頼関係など後から幾らでも作れると割り切って、今は先ずラガン・ゼムを仲間にすることを優先させた方がよいのでは、と。
こうも手詰まりだと、そう思えてしまう。
聖女アルマが反対しようにも──────
「ん?」
「おや?」
「……いや、待てよ……?」
ラガン・ゼムがメリットで動きそうにない以上、デメリットで動かすしかない。
そして、そのためには何かを人質に取った取引こそが最適である。
ここに関しては間違いない。
問題なのは聖女アルマだ。
ラガン・ゼムの心証は多少悪くしても仕方ないものとして、アルマが認めるか否かが問題だ。
アルマは卑劣な手を良しとしない。街の住民の命をそのまま天秤にかけるような行為を、彼女は決して許しはしないだろう。
であるならば、聖女アルマが反対しないようなものを人質に取ればいい。
「だったら……いける」
「何を思いつかれたので?」
「簡単な話ですよ──────」
カイルは、自らの思いついた案を神父に説明する。
「……………………………………やってみる価値は、ありそうですな」
神父の顔は浮かない。
楽観的に見ても、賛成しているようには読み取れない表情だ。
ただ、一定以上の効果が認められそうであることは、彼の視点から見ても同じらしい。
「では早速、聖女様にお伺いを立ててきます」
「わかりました」
そう言って、聖女の泊っている部屋へとカイルは赴いた。
聖女は爆睡していた。