転生者とTS聖女とTS悪役令嬢と追放系ハズレスキルが集まった結果。 作:RGN
ラガンが教会から再び呼び出しを受けたのは、その2日後のことだった。
(今日はアイツが付き纏ってこないと思ったら……そう言う事かよ)
断っても良かったが、やはり行かずに面倒なことになっても嫌である。
というか現在進行形で面倒なことになっているが、これ以上面倒になると流石に気苦労が凄い。
それに、自分が動きたくなるように思わせろ、と言ったのはラガン自身である。
恐らくそれに関連する話であろう。
であるなら、しっかりと出向いてやるのが礼儀である。
(……さて、連中は何をダシに俺を動かそうとするのか)
しかし自分で言っておいてなんだが、俺が動きたくなることなんて、早々ないぞ、と。
そんなことを思いながら、ラガンは教会に辿り着く。
中では以前と同じように、神父と聖女、付き人の三人が揃っていた。
「来たぞ」
「おう、今日は逃げなかったな!」
「……」
自分から追いかけておいて何言ってやがるテメェこの野郎、と思うラガンであったが、口には出さなかった。どうせ言っても無駄だと思ったからだ。
溜息を一つ吐き、ラガンは聖女を睨み付けた。
「……それで? 用件は分かっているつもりだが、一応聞いておこう。何が目的だ?」
「じゃあ改めて言うぞ? 俺達の仲間になれ、ラガン!!」
「そうか。では俺が仲間になりたいと思わせるような何かを示せ」
両手を広げたアルマに、吐き捨てるようにラガンは言う。
それに対し、アルマは真っすぐにラガンを見据えて、答えた。
「俺の命」
「……あ?」
「俺の命だって言った。お前が俺の仲間になって、最後まで協力してくれたら、俺の命を好きにしてくれていいぞ。お前が望むんならそういうことをしても────」
「──────馬鹿にしてんのか?」
轟。
ラガンの顔が怒りに歪み、教会の中に殺気と怒気が吹き荒れる。
「男は皆薄皮一枚剥がせば獣だとでも? 俺がお前に欲情する不浄な変態とでも言いたいのか? あ?」
それはラガンにとって屈辱だった。
確かに、冒険者と言うのは粗野で、野蛮で、欲に目が無い。
麗しの聖女を犯せる、と聞けば、誰しもが股間を膨らませて駆けだすだろう。
だが、ラガンはそうではない。
少なくとも、連中と同じように見えないように、最大限の努力はしていたはずだった。
弱肉強食の色の強い異世界であるからこそ、理知的で、かつ理性的な人物で居続ける努力を怠ったつもりはなかった。
同業者連中が痛い目を見るたびに、俺はああはなるまいと、気を引き締めていたつもりだった。
だと言うのに、本質的な所では、やはり連中と同様の獣だと。
言外にそう告げられては、流石に噴出する怒りを抑えきることはできなかった。
「というか、俺がそれで動く気になると、よくもまぁ思えたな? オイ」
「落ち着いてくれラガン。流石に成功報酬が無いのはよくないと思っただけだ。アンタが他の冒険者と違う事は、ここ数日で良く分かったつもりだぜ」
このまま椅子を蹴って立ち上がり、すぐにでも帰ってやろうか、と。
そう思ったラガンだったが、しかし話には続きがあるらしい。
「申し訳ないが、俺達じゃアンタの満足できそうなモノを用意できそうに無かったんでな。こういうのを用意させてもらった」
アルマが合図を出すと、神父が一枚の羊皮紙をラガンに手渡した。
中身を覗いてみれば、そこには十数名ほどの見知った人間の名前───聖女や神父、シスターのものもある───と、その下に赤いシミが滲んでいるのが読み取れる。
「…………こいつァ、まさか」
ラガンには、この書式に見覚えがあった。
そう、確か、歴史の授業か何かで……
「それは自分の名前と、血の指紋を残すことで、約束の契りを交わしたことを示す……まぁ、言っちまえばちょっと重めの宣誓書みたいなモンだ」
「………………そうか」
ラガンの記憶が正しければ、これは血判状。
日本の江戸時代などに用いられたものだ。
それを知っているなど、まさか、同郷出身か? と、ラガンは戦慄するが、すぐにそれは考えにくいと思い直す。
自分と同じ転生者ならば、
しかし今はそんなことはどうでもいい、この瞬間に大事なのは、この血判状が何を示すものであるかという事だ。
「……これが、何になる」
「そいつぁ既に俺の同志になったことを示すモンだ」
「………………それで?」
「お前が仲間にならないなら、そこに書かれてる全員で首を吊る。正確には、そう言う魔法を発動させて、全員で死ぬ。そのための血だ」
「…………………………………………………………………………テメェ」
やりやがった。
街の連中を巻き込みやがった。
ラガンの怒りが再燃する。
拳に力が入り、羊皮紙には皺が刻まれ、再び殺気が部屋に充満した。
「お前が思ってる以上に、教会の腐敗をそのままにしていいって思ってる奴は少ないんだよ、ラガン」
しかしそんなラガンに対しても、聖女は態度を崩さない。
「そこに書いてある人達には、当然俺の正体と目的は明かした。そして、協力してくれると言ってくれた。命をかけてもいいって言ってくれた」
「…………」
「お前がどう思ってるかはともかく、改革はやっぱり必要だ。多くの人間がそう思ってる。それだけの人間が苦しんでいるんだ」
きっとそうなのだろう。
この血判状に書かれている連中は、皆気のいい奴らで、敬虔な信徒だと、ラガンは知っていた。
「そしてそいつらには、お前に関しての話も、当然してある。お前が断ったら全員で死ぬって話もな」
つまり、ここに血判を押した人間は、皆、ラガンを信用しているのだ。
ラガンならば、自分たちを見捨てたりはしないだろうと、信じているから判を押せたのだ。
ここでラガンがこの話を断るという事は、ラガンは彼らの信頼に背き、彼らを殺すことになる。
「悪魔みてぇな発想しやがるな。聖女って肩書はどうした」
「相応の覚悟を持って臨むことにしたってだけだ。俺も、そいつらもな」
「………………………………………………………………………………そうかよ」
さて、困ってしまった。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、という諺があるが。
今のラガンは馬を完全に射抜かれた状態である。
そして、今まさに引き絞られた矢が、ラガンの眉間に照準を合わせていた。
(…………なんか納得は行かん。行かんが……)
どさりと、椅子にもたれかかり、大きく息を吐く。
そして、白旗を上げた。
「わかった。俺の負けでいい。なってやるよ、仲間」
ここでゴネて本当に首を吊られても嫌だ。
見知ったヤツが自分のせいで死ぬというのは、後味が悪すぎる。
「マジ?」
「あぁ、マジだマジ。だから首吊るとかはやめろ」
目を輝かせて近づいてくるアルマから目を逸らしながら、気怠げに答えるラガン。
この数分のやり取りのみならず、ここ10日ほどのアルマを避け続けていた疲れが、負けを認めたことで一気にドッと出ているようだった。
「……はぁーっ……はぁーっ……き、肝が冷えました……」
「あれが、金等級冒険者の殺気……!」
「うぅ……い、生きてる……」
近くに控えていたカイルと神父、シスターは、至近距離でラガンの殺気に当てられて酷い動悸と呼吸困難を引き起こしており、死にそうな顔で呼吸を繰り返していた。
「ぃいよっしゃああぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああッッ!! ラガン・ゼム、ゲットだぜえぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!」
グロッキーな4人の様子とは対極的に、唯一元気に溢れているアルマは全身をフルに用いて喜びを表現している。
ハッキリ言って煩かったが、そんなことを指摘することさえ今のラガンには面倒臭かった。
「一応聞いておきたいんだが……誰の策だ?」
その代わりに、アルマの近くで息も絶え絶えになっていた連中へとラガンは質問する。
「僕です……僕が、考えつきました……」
「お前は……」
「カイルです……。無関係な人を、巻き込みたくないなら、無関係じゃなくすれば、聖女様も文句は言えないと思いまして……。元々、いつか、仲間に取り入れる、つもりでしたから……」
「……………………そうかよ」
はぁぁぁぁ、と。
ここしばらくで一番大きい溜息を吐いて、ラガンは目を瞑った。
遂に平穏な日々とはお別れである。
いやまぁ、ここ最近は平穏とは言い難い日々が続いていた気もするが。
しかし今この瞬間からは、明確なお別れだ。
「…………無事に、終わると良いんだがね」
本当に俺達を見守ってるんなら、加護の一つや二つくらい授けやがれ、と。
そんなことを思いながら、再び溜息を吐くラガンだった。