転生者とTS聖女とTS悪役令嬢と追放系ハズレスキルが集まった結果。 作:RGN
すっかり農家の格好になったアルマは、割としっかりとしている服の作りに感心しつつ、カイルと共に都市から離れる道を歩いていた。
「で、聖女様。行き当たりばったりの旅であると言う事は理解しましたが、しかしそれにしても明確な目標くらいは設定すべきでは?」
「仲間を作るって言う明確な目標があるだろうが」
「……すみません。どんな仲間を作るか、具体的な中身を決めませんか、と。そう言うつもりでした」
「……あー……」
そー言われればそうかもしれない。
アルマはこういうところを細かく考えずに行動してしまうタイプの人間だった。
当然、どんな人物を仲間にするか、も。そこからどうやって世直しに発展させていくか、も。
何一つとして具体的な案を考えることができていなかった。
「……ってなると、やっぱり民衆?」
「最終的には必要でしょうね。最初からそうしようとすると、勘付かれる気もしますが」
「まぁ、そっか」
アルマが行おうとしている事は『世直し』の看板を掲げているとは言え、本質的にはクーデターである。
そうである以上、達成には民意が必要だった。
腐敗した現体制の打破という大義に加え、五つの
正直なところ、それでどうにかなるかと問われれば多分そうではない。
(俺は確かに頭が悪いし、行き当たりばったりで行動してばっかだが……これはダメって行動くらいは、まだ分かる)
何しろあの腐ったバナナよりもグチャグチャしてそうな腐敗具合である。
アルマをして『どこまで腐敗が及んでいるか』を察する事はほぼ不可能であったから、下手に行動を起こした瞬間に思いもよらぬところから刺される可能性は否定できなかった。
それに何より、あのクソデブ共は保身に関しては犬よりも鼻が効く。
現教会上層部の打倒、その機運の高まりと広まりを察知した瞬間、広まりきっていないところを速攻で押し潰されない……とも限らない。
要するに。大々的かつ表面的に動くには早すぎる、という事だった。
「そうなると、少数精鋭で、水面下での活動。という事になりますか」
「そーだなぁ……仲間になる人間は選ばないとなぁ」
あまりに仲間の輪を大きく広げすぎると、どこから情報が漏れるか分からない。
必要な人材で、かつ信頼できる人物を、出来る限り最小限の人数。
それが理想だった。
「必要な人材……必要な人材……うーん……まぁ、影響力の強いヤツ……は、俺がいるからいいとして、多方面に根回しが得意なヤツ、国の各地に口が効くヤツ、諸々の必要な物品を用意できるヤツ……」
「要するに、商人ですね」
「まぁ、そうか」
確かに商人なら根回しは得意だし、各地を渡り歩いてそうだし、行商をしているのなら色々と物品を用意することが出来るだろう。
「あとは、教会の関係者」
「聖女様の捜索が本格的に始まった時に匿って頂けるでしょうし、各地の教会にも接触しやすくなりそうですね。聖女様がそう望まれるのなら、敬虔な神の信徒である彼らも命をかけて動いてくれるでしょう。……まぁ腐ってなければ、の話ですがね」
「そこは大丈夫だ。俺はそういうのが分かる」
「…………流石です」
アルマの持つ『邪視』は
「それと……物理的に強い仲間も必要だよな?」
「聖女様の護衛、という観点から考えるのなら、必要でしょうね。……まぁ、自分で言うのもアレですが、僕はそこまでですし」
まぁ、そうだろうな、と。
アルマは内心でカイルの言葉を肯定する。
と言うのも、アルマの保有する『看破』の
例えばカイルのステータスで言えば、一般的な人よりも攻撃力や防御力、技量が高く、魔力もそこそこあるが、そのどれもがそこまで飛び抜けて高いわけではなく、冒険者の中では平均的と言わざるを得ない……と言ったところだ。
(『栽培』も、使い方によっちゃあ強力なんだろうがなぁ……種が無い以上はどうにもなぁ……)
一般的な冒険者とのタイマンでもワンチャン負ける。訓練を受けた騎士や
アルマの支援があれば勝率はどれもグンと上がるだろうが……正直なところ、護衛としては頼り無さすぎると言わざるを得ない。
一応アルマにも『聖撃』の
ちゃんとした護衛は、確かに欲しい。
「しかし、強いヤツって一口に言ってもなぁ。どこに居るんだそんなの」
「冒険者……ですかねぇ。上位冒険者であれば実力は申し分無いのでしょうが……」
「上位下位の制度があるのか」
「いえ厳密には無いのですが、昇級のために必要な条件がそのラインで変わって、多くの者が振るい落とされるので、そう呼ばれているんです」
「へぇ……で、その上位冒険者はどこに居るんだ」
「いえ、流石にそこまでは……」
同じ冒険者ギルドという組織に所属する仲間とは言え、他所の支部の事など知るわけがない。
大まかに、この辺りのギルドにはこれくらいの難易度の依頼がこれくらい割り振られますよ、みたいな物は公開されているものの、そこにどんな冒険者がどれだけ居るかは公表されないし、誰も気にしない。
ある程度有名になれば、吟遊詩人か何かが歌にしたり何だったりで、風の噂として耳に入る事はあるが……
「……あ」
「ん?」
「いえ、その強い冒険者の事ですが……一人だけ心当たりがあるかも知れません」
「へぇ、そりゃあいい! ……で? ソイツはどういうヤツなんだ?」
「金等級。ラガン・ゼム。出現する怪物のレベルが低いはずの辺境の地に居座っているにも関わらず金等級への昇格を許された、異例とも言える存在で……もしかすれば、大都市圏のギルドへ移籍すれば最高位たる宝石級にも届くのではないか、とも言われている人物です」
その言葉を聞き、アルマは口角を吊り上げる。
どうやら最初に仲間にすべき人材は、決定したらしい。
「……ン?」
一方その頃、ラガンは得体の知れない寒気に身を震わせていた。
「どうかしましたか? ラガンさん」
「……いや、少々寒気がしただけだ。気にするな」
「そうですかね」
「ラガンさん、風邪とかじゃないんですか?」
「えぇ? でも、ラガンさんが風邪をひくことなんてあるんですか……?」
「いやそれは流石に……でも、想像はできない……」
ラガンと共に酒場のテーブルを囲うのは、ラガン自らが設立した街の清掃部隊の面々であった。
今日が給料の支払日であったので、そのついでにと皆でこうして飲みに来ているわけである。
「流石の俺も風邪くらい…………なる。はずだ」
「なんで本人も自信ないんですか」
「ここ数年、体調を崩した事すらなくてな」
より正確に言うのなら、ラガンがこの世界に訪れてから、と言った方がいいだろう。
異世界産のラガンの肉体が持つ免疫は、どうやら中世ヨーロッパ的な衛生観念を持つ世界でも十分に通用するらしかった。
(天然痘や寄生虫にペストだとか、あとは癌と糖尿病か。その辺の不安なのは不安なんだがな)
だからこそ、ラガンはその辺りには気を付けていた。
ペストや寄生虫は清掃部隊の彼らに。癌や糖尿病、その他の生活習慣病は自分で。
出来る限り対策はしているつもりだった。
……流石に牛を使って天然痘ワクチンを作るつもりは無かったが。
「……そう言うお前らは大丈夫なのか? 最近、体調が悪いと感じた事は?」
「無いですね。健康そのものです」
「破傷風とかにはちゃんと気を付けてますよ」
「服装もしっかりしてますし」
「……なら、良いんだが」
ラガンとていくらそれが仕事で、自分が決して安く無い給料を払っているとは言え、知り合いが病気に罹り、苦しんで死ぬと言うのは、嫌だった。
(……一応、病気になっても、デカい教会に連れて行けば回復させて貰えるんだろうが……)
今の教会は金の亡者である。
流石に対価は必要で、それが命に換えられない物だと言うのは理解しているが。
しかしそれでも、法外な料金を要求して来るだろう教会には、いい気分ではいられなかった。
常日頃から人々から布施という形で金を徴収しているのだから、もっと安くすればどうだ。
(……いや、無理だろうな)
ラガンは以前に訪れたことのある、大聖堂とでも呼ぶべき街の教会のそれとは比べ物にならないほど広大で、豪華絢爛な建物を思い出す。
ああいう事に金を使っているからこそ、より多くの金が必要になるわけだ。
清貧とは、よくもまぁ言ったものである。
(……今日は教会の腐敗についてよく考える日だな)
だからと言って、祈る以外の何ができるわけでもないが。
と。そんな盛大なフラグを立てながら、ラガンは酒を呷るのだった。