転生者とTS聖女とTS悪役令嬢と追放系ハズレスキルが集まった結果。   作:RGN

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令嬢と受付嬢と故国

 グレイがこの辺境の街に訪れて二週間ほど。

 すっかり街に馴染んだ……と言うわけではなかったが、しかし少なくとも一人目の友人を手に入れることはできていた。

 底辺貴族の生まれであった受付嬢だ。

 元々は貴族の生まれだったと言うこともあり、いわゆる憧れという感情をグレイに抱いていた彼女と最初のお茶をするのはそう難しいことではなく、そうなればそこから友人関係にまで発展させるのも簡単だった。

 

 彼女との交流は、男女問わず向けられる様々な欲望なり嫉妬なり何なりにげんなりとしていたグレイの精神に対する素晴らしい清涼剤となっており、数少ない癒しの時間だった。

 特にグレイはこの世界に生まれ落ちてから、そういう損得勘定の存在しない友人を得る事が出来ていなかったからこそ、喜びは大きかった。

 ……が、完全に損得勘定が無いかと言われればそうではなかった。

 

「その時はラガンさんがですねぇ〜……」

 

 こうして話す事が増えてから知った事だが、彼女はラガン・ゼムの話題を好んだ。

 ラガン・ゼムに好意を向けているというわけでは無く、推している、という感じだろうか。

 前世の妹がグレイに対し、推しを布教する時と同じような表情をしていたので、気付いた。

 かつての妹と同じように、受付嬢もグレイにラガンを、推しを布教したいようだった。

 

 彼女の推しに対する好感情を利用するようで申し訳ない気持ちにはなるが。

 ラガン・ゼムに関する情報を欲していたグレイにとって、彼女からの布教は実に都合のいい情報源であった。

 

「で、その話を聞いたラガンさんが向かってですね……」

 

 そうしてラガン・ゼムに関する情報を聞いていく中で、グレイは一つ理解した事があった。

 

(……アイツ、並のネームドじゃないな?)

 

 こう言うのは何だが。

 彼女の語るラガン・ゼムの活躍は、知識のある者であればあるほど嘘に聞こえる。

 つまるところ、普通に考えればあり得ないのだ。

 特に信じられないのが─────

 

(ダンジョンの単騎攻略)

 

 ラガンの活躍は複数ある。

 飛来したワイバーンの単騎撃破。

 ヘカトンケイルに殴り勝つ。

 グリフォンの撃退。

 しかしそのどれも、金等級であるのならできない道理はないと考えられるものだ。

 成程、ラガン・ゼムという冒険者は、金等級たる偉大な冒険者の一人として、恥ずない実力を持っているのだろう。それで話は終わる。

 

 ただ、だからと言ってダンジョンの単騎攻略が出来るかどうかはまた別問題だ。

 

 ダンジョン。高位の悪魔や怪物が作り出す、魔の巣窟。

 形は様々で、洞窟のような形のものもあれば、迷宮のようなもの、塔のようなもの、城のようなものまであるが。

 そのどれもに共通しているのが、悪辣な罠の数々と数多の怪物。

 鋼等級の冒険者が役割を明確にしたパーティを組んで、ギリギリ攻略できるか否かとされるもの。

 

(それを、単騎)

 

 ダンジョンという補給の効かず、常に罠や怪物の脅威に晒され続ける場所では、一人か二人かで難易度は数段違う。

 当然、高いのは一人の方だ。

 ロクな休憩も取れない状況下で、罠の察知と解除、怪物との交戦、荷物の保持と管理、マッピングのような、幾つもの作業を並行して行わねばならないからだ。

 要するに、ダンジョン単騎攻略を達成するには、単純な『強さ』以上のものが求められるのだ。

 

 だからこそ、ダンジョンの単騎攻略が本当なら、この辺境の地であっても金等級を拝領し、史上8人目になる宝石等級もあり得るなんて言われるのも納得というもの。

 彼の持ち帰ったという戦利品から鑑みる限り、よほど小規模で、ダンジョンとも呼べないようなダンジョンの攻略だったとかそういう話でも無さそうだ。

 

(……だが、そうなると……)

 

 今度は不思議なのは、ラガン・ゼムの目的だ。

 グレイにはどうにも、ラガンの行動がチグハグなように感じてならないのである。

 

 この街での慎ましい暮らしを所望するのなら、活躍などする必要はない。

 だが、彼はダンジョンの単騎攻略という偉業を成し遂げている。

 

 英雄として華やかな生活を望むのなら、この街に留まる理由はない。

 しかし、彼はこの地に留まり、どうにも動くつもりは無いらしい。

 そうでなければ清掃隊とやらを設立する事なんて無いだろうし、立派な家を建てて各地のあらゆる書籍を集める事も無いだろう。

 

 となれば、彼が華やかな活躍をしつつもこの街を動かない、別の理由が考えられそうなものであるが……

 

(……うん、やっぱりダメだな。わからん)

 

 たった一度。されど一度。

 その一度のノイズが、あまりにも大きすぎた。

 直接彼に話を聞ければ、わかる事もあるのだろうが……

 

(……まだだな。少なくとも今は、情報が足りなさ過ぎる)

 

 正直なところ、グレイはこの街で暮らしていく事を半ば確定させていた。

 街が綺麗なのは元より、こうして友人も出来た以上、動く理由は無かった。

 元々動く理由といえば冒険者達程度のものだったが、しかしそれもラガンの力が封じ込めているのだから、動く理由はいよいよ皆無に近かった。

 

 だからこそ、ラガンとはいつか接触する事が確定していた。

 この街で暮らす以上、影響力の強過ぎるあの男を回避することなど出来ないからだ。

 無論、今の平穏な暮らしを崩す気は微塵も無かったが。

 

「…………そういえば」

 

 ふと、思い出す。

 グレイの平穏を脅かすのは、ラガンだけではないと言う事を。

 

「はい?」

「あの、隣国の戦争の話を最近聞きませんでしたか?」

「隣国……あぁ、アルデンの事でしょうか? そう言えば、そろそろ戦争が起きそうみたいな話になってから、もう2年くらい経ってますよねぇ」

 

 事実、そうだった。

 少なくとも、原作開始時点……グレイが15歳を迎えた時には、アルデンと現在グレイのいるオーリオは戦争が起きるとかなり前から叫ばれていた。

 理由は領土問題。互いに主張する領域が被り合っており、ずっと前から睨み合いが続いていたのだ。

 互いの国力が互角に近いからこそ両国は衝突を避け、膠着状態にあったが。

 そこを現オーリオ王が揺るがした。アルデンの背後のセマニと急接近したのだ。

 

 もし同盟が成立すれば、アルデンは忽ち滅ぼされるだろう。

 原作ではそこをいち早く察したグレイが、まず最初に国を売った。

 

 グレイ陣営が手引きをする。貴国の勝利を約束する代わり、グレイを傀儡と化した国の王に据えろ。政治はそっちで勝手にやればいい。グレイ陣営を豊かにしてくれるのなら。

 

 そう言う契約をアルデンと結び、セマニとの交渉にも一役買う事も約束した。

 しかしそれらの契約を悉く阻止したのが原作主人公であり、自国の使者を殺された事にブチ切れ、攻勢を開始したオーリオの軍を蹴散らしたのも原作主人公。

 そしてグレイの企みを暴露し、売国奴であるグレイを────と言う流れだった。

 

 しかし、現在はそうはなっていない。

 グレイはオーリオと契約を交わしていないから、グレイの不審な行動からオーリオの計画を察知していた原作主人公はそれに気付くことは出来ないはずだ。

 と言うか何より、そこに至るまでの様々なイベントが起きていないので、原作主人公が原作通りの活躍をするための立場を得ている事も無いはずなのだ。

 だからこそ、どうなっているのか気になった。

 

「……ううん、流石にここまで話は聞こえてこないですねぇ。まぁ、この場所も国境に近いあたりではあるので、戦争関連で何かがあれば軍が来るでしょう」

「そうですか……」

「戦争が不安なのはわかりますが、まぁ……我々は冒険者ですので」

「そう……ですよねぇ」

 

 冒険者は戦争に参加しない。

 と言うかそもそも政治関連の諸々に関わらない。

 そう言うルールだった。

 

「人類共通の敵たる怪物や悪魔と戦う冒険者を巻き込んだ結果、冒険者全体が機能不全に陥ったら人類お終いじゃね?」(意訳)

 だとか。

「冒険者達を前線に出して全員死んだら、怪物の退治はどうすんねん」(意訳)

 だとか。

 

 そういう真っ当な指摘が建前だった。

 過去には普通に冒険者達も国民だと言う事で、むしろ積極的に前線に出されていたまである。

 だが、事情が変わったのは数十年ほど前。

 6人目の宝石等級、紅玉(ルビー)がバリバリ現役だった時代。

 バケモノみたいな強さを誇る紅玉(ルビー)を前に、周辺国家は揃ってこう考えた。

 

「あの国だけ宝石等級の冒険者がいるとかズルじゃね?」

 

 と。

 だから口裏を合わせて冒険者は戦争に参加させない、何なら政治にも参加させない、というルールを作り上げたわけである。

 当然、戦争の時だけ冒険者を辞めるのも禁止だ。

 ……まぁ、双方冒険者には手を出してはならない事を知ってはいるものの、もしかしたら冒険者であるにも関わらず攻撃を受けてしまう事が()()()()()()()()ので、そう言う時は()()()()、冒険者も反撃を許される事になっている。

 戦争間近になると有力な冒険者が国境付近に集まったりするが、その理由は不明だ。

 

 しかし何であれ、冒険者が前線に出される事はない。

 それが絶対のルール……そう言う事になっていた。

 

「……出来る事ならば、平穏無事に暮らしたいものですが」

「あはは……そうですよね……それが難しいのですけど……」

「ええ、本当に……」

 

 少なくとも、非業の死を遂げる運命は脱した。

 そう考えたい。だがやはり、恐ろしいものは恐ろしい。

 

(……そう言えば、邪教の存在も気がかりだよな……)

 

 原作において連中は、混沌の世界の来訪を望む危険集団だったが。

 原作主人公がどうにか出来なかったとしたら、あの集団がどう動くのか。

 そう言うところも、やはり怖いところではあった。

 

(そう考えると……ラガン・ゼムを味方に付けておくのも、悪いことではないのか……?)

 

 話を聞いた限りだと前衛職として無類の強さを誇るラガン・ゼムと、後衛職最強と言っても過言ではないグレイが揃えば、大抵の事態は何とかなるだろう。

 下手にラガン関連のイベントに巻き込まれるのは嫌だが、しかし自分に降りかかるかも知れない火の粉の事を考えれば、そこも考慮しなければならない。

 

(……難しいな)

 

 そう考えて、グレイは紅茶を傾けた。

 宮廷で飲んだことのあるそれよりも幾段もグレードの低いであろうその紅茶だったが、しかし少なくとも、グレイにとっては宮廷のものより、今飲んでいるものの方が美味しいと感じられた。

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