転生者とTS聖女とTS悪役令嬢と追放系ハズレスキルが集まった結果。   作:RGN

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令嬢と聖女と追放者と教会

 グレイは教会が嫌いだった。

 それは教会上層部が『信者と書いて儲けると読む』を地で行くクソゴミしかいないから……

 と言うのも勿論あったが、しかしそれ以上に気に食わないのが神の存在である。

 

 現代社会で生まれ育った彼女は本来、神なんて居るわけないとする科学主義者であったが、しかしこんな事……TS転生なんて事態が起こってしまった以上、神の存在を信じないわけにもいかなくなった。

 特に神聖魔法の無法具合や祝福(ギフト)のチート具合を教養として知ってしまった以上、その存在を疑う事は出来なくなってしまった。

 科学を知っていたからこそ、彼女は神の存在を認めずにはいられなかったのだ。

 

 その上で、彼女は神を嫌った。

 理由は単純。神が現状の腐った国や教会に天罰を下そうとしなかったからだ。

 彼らは平気で戒律を破り、敬虔な信徒達を食い物にした。

 いわば彼らは悪魔のような存在なのだ。その存在を赦してはいけないはずなのだ。

 しかし彼らは我が物顔で権力の椅子にふんぞり返り、私欲を神の意見として押し通す。

 それに対して咎めは無い。

 

(ふざけんな)

 

 これが前世ならば良かった。

 神の不在を確信していたあの頃ならば、神は居ないのだから仕方がないと言えた。

 しかし、今はそうでは無かった。

 神はいる。確実に存在する。

 

 だからこそグレイは神が、教会が嫌いだった。

 それは勢力という意味での教会でもあったし、建物という意味でもあった。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。

 その言葉を自ら体現しているようだった。

 

(……ここの神父さんとシスターさんがいい人なのは知ってるんだがなぁ……)

 

 自分でもアホらしいと思いつつも、やはり嫌わずには居られない。

 自分の肉体がいわゆる『神の奇跡の産物』であることも、それに拍車をかけていた。

 

(……はぁ、こんなこと考えてても仕方がない。とっとと依頼をこなしに行こう)

 

 そう考えたグレイが止まっていた足を動かし始め、街の外へ向かったその瞬間だった。

 

「ああああああああああああああああああああああああっ!!」

「いいっ!?」

 

 いきなり近くで叫ばれ、ビクリと身体が震えてしまう。

 一体何事だと周囲を見渡してみれば、そこに居たのは一人の冒険者であろう男と、農家の装いに身を包んだ少女。

 指を差しているところを見るに、どうやら声の主は少女の方であったらしい……

 

(……え? いや待て。アイツ、ヤバくね?)

 

 そう思ったのは、グレイに向けて指差す少女の顔が目に映ったからだった。

 気圧されるような美貌に、明らかに特殊な瞳。

 そして───────

 

(デッッッッッッッッッ…………!?)

 

 あまりにも立派であった。

 本当の本当に立派であった。

 農家の割としっかりとした服の上からでもわかるレベルで立派であった。

 グレイとて二次元女子。立派は立派であったが、しかし目の前の少女には及ばない。

 元日本男児であるグレイは、しっかりとそこに視線を吸い込まれていた。

 

(ハッ! いかんいかん……あれは絶対にネームドだ。それに護衛もいるんだから只者じゃない……どうせラガン関連のイベントだろうし、ここはやり過ごして……)

 

 と、そう思ったグレイであるが、しかしふと思い出す。

 そう言えば、あの少女が指を差していた方向にいたのは─────

 

「魔法使い! 魔法使いだ! 魔法使いだろう!?」

「ええっ!?」

 

 気が付けば、既に少女はグレイのすぐ側まで来ていた。

 キラキラとした目でグレイを見上げ、満面の笑みを浮かべている。

 

「ちょっ、ちょっと! せい……アルマさん! いきなり初対面の人にグイグイ行っちゃダメでしょう!?」

「だがカイル! コイツすごいぞ! 今までに見たどんな魔法使いよりもすごい!」

「「!?」」

 

 アルマの言葉に驚愕を示したのは二人。

 片や初見で見抜かれた事に、片やアルマがそこまでの評価をした事に。

 

(嘘だろ……? まさか、そういう祝福(ギフト)か……?)

 

 グレイは魔力制御に関しては完璧と言って過言では無かった。

 それは無駄な魔力使用を抑えるという目的もあったが、主目的はやはり実力の隠匿。

 魔力は感じ取れる人間には感じ取れるものであり、そこから自身が文字通り『ラスボス級』の実力者である事を見抜かれる可能性があったからだ。

 そしてその目論見は今まで上手くいっており、多数の実力派魔法使いを保有しているギルドでさえグレイの実力を高くて銀相当と評価していた。

 逆に言えば、それはギルドでさえ彼女の実力を測りきれなかったという事だ。

 

 だが、アルマはそれを見抜いた。

 その上で、アルマの特殊な瞳──祝福(ギフト)は外見にその特徴が出る──だ。

 全く関係が無いと断ずる事は、まず不可能だった。

 

「なぁどうなんだアンタ、魔法使いだろう!?」

「……え、えぇ……まぁ……そうですが……」

「なぁ、俺たちの仲間になってくれないか!? ちょうど魔法使いが欲しいなって思ってたところなんだよ! アンタが居てくれりゃあ百人力! どうだ!?」

 

(俺!?)

 

 オレっ娘マジ!?

 グレイは危うく白目を剥きかけたが、しかし今世で鍛えに鍛えた鉄仮面を保つ。

 そして同時に確信する。

 あっこれ絶対どっかの作品のヒロインだ、と。

 

「どうだじゃないでしょうアルマさん! すみません、いきなりこんなこと聞いちゃって……ただ、魔法使いが欲しいというのは本当でして……」

「は、はぁ……まぁ……それは理解できますが……その、冒険者の方々……ですよね?」

「違う! 俺たちは─────」

「ちょっ!? ちょっと待ってください! それはまだ言っちゃいけないヤツです!」

 

 と、何かを言いかけたアルマの口を、男が塞ぎにかかる。

 

(あっコレもしかしなくてもとんでもない厄ネタだ)

 

 グレイはそんなやり取りを見て一瞬でその事を理解した。

 それと同時に絶対関わらないことも決めた。

 グレイ的にアルマという少女は癖にブチ刺さりであったが、それはそれとして厄介事に首は突っ込みたくないのがグレイのスタンスである。

 

(……とは言っても、いずれは追い付いてくるだろうツケの清算から逃げ続けるわけにもいかないのだろうが……それはそれとして、今はまだこの平穏を享受していたい)

 

 それがグレイの本音だ。

 彼女は別に、自分が死ぬまで逃げ続けてやろうなどとは思っていない。

 彼女の出奔により、狂った歯車は無数にある。

 そのどれがいつ彼女に牙を剥いてもおかしくはなかった。

 だからそうなった時は、彼女もきちんと問題に向き合わねばならないと自覚していた。

 

 だが、今はまだそうではない。

 この平穏が砂上の楼閣のようなものだったとしても、退廃的なものだったとしても。

 慣れぬ悪意と欲望に晒され続け、すっかり疲れ果ててしまっていたグレイには、今の生活を手放す気にどうしてもなれなかった。

 

「……すみません。私、冒険者で。依頼を受けているんです。失礼してよろしいでしょうか」

「えぇ!? ちょっと待ってくれよ! ちょっとくらい話を聞いてくれても……!」

「ちょっ、関係ない人を巻き込むわけにはいかないでしょう!?」

 

 グレイが足速にその場を去ろうとすると、アルマはそれを止めにかかるが、更にそれを男が止めに入った。

 

「すみません」

 

 グレイはそれだけ言って、二人に背を向け、街を出た。

 彼女らに事情があること、そのために優秀な戦力が欲しいこと。

 その事は察することができたが……自分はそれに関わるべきでない。

 ……いや、関わりたくない。

 あの二人が求めているのはきっとラガン・ゼムの方だ。グレイではない。

 そのはずだ。

 

(……クソッ! 何で罪悪感を抱くんだ、俺は……!)

 

 関係ないことのはずだ。

 関わらなくていい事のはずだ。

 だというのにも関わらず、彼女の中に生まれたその感情。

 

 やはり彼女は、悪女になどなれはしないのだろう。

 

 

「……クソ、早速優良物件を見つけたと思ったのに……!」

「聖女様、どうかその辺で。無理矢理はダメです。慎重にならなければ。今の我々の立場なら、特に……!」

 

 仮にその辺の魔法使いに声をかけたとして。

 その人物が聖女の仲間になることより、聖女を売る事を選んだとして。

 その事をアルマが察知できても、知られてしまった以上はどうにもならない。

 

 誰か一人にでも裏切られれば終わる。

 それが今の二人の置かれている状況だった。

 

 あくまでも慎重に。

 信頼できる相手を選んで話をし、着実に着実に、ゆっくりと勢力を広げるしかない。

 急いだ瞬間に終わる。そう言っても良かった。

 

「それはそうだ。それはそう、なんだがなぁ……」

 

 アルマが思い起こすのは先程の魔法使いの能力。

 とんでもないとしか言いようがなかった。

 アルマが今までに見てきたどんな魔法使いよりも魔力と技量が高かった。

 それも、飛び抜けて。

 それこそ銀等級と言われていた魔法使いのそれよりも、圧倒的に。

 

「……絶対に欲しい、絶対に、絶対にぃ……!」

 

 彼女と、噂に聞くラガン・ゼム。そしてアルマ。

 この三人が揃えば、間違いなく誰にも止められない最強軍団が完成する。

 そこに『栽培』のギフトを持ったカイルが居れば、鬼に金棒どころの騒ぎではない。

 

「……まずは教会に行きましょう。まずはこの街の教会が味方たりえるを判断して……時間をかけて、じっくりとラガン・ゼムを手に入れる。それが最初です」

「…………そうだな。その通りだ。……だがな、カイル」

「何ですか?」

「俺は絶対に諦めないぞ。あの女は絶対に仲間に引き入れる、絶対にだ」

「………………まぁ、聖女様がそうおっしゃるのなら、僕はそれに従うまでですが…………焦らず、慎重に、ゆっくりと行きましょう」

「ああ」

 

 そう言って、二人はこの街の教会へ向かう。

 その結果、教会の神父とシスターが()()()()であったかは、もはや語るまでもないだろう。

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