ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第1話:『天才』との邂逅

 俺の名前はルシアス・アルスター。年齢は15。外見の特徴としては、眼が泥のように濁っている……らしい。

 

 そんな眼を開くと、満天の星と三日月が見える。空気は清涼としていて少し冷たく。少しだけ顔を動かして横を見ると、鼻腔へ草の匂いが刺さり、青々とした芝生が広がっているのが目に入る。どうやら俺は、外で寝てしまっていたようだ。

 

「――っ!」

 

 とりあえず起き上がろうとした瞬間。鋭痛が俺の頭を駆け巡り、力が抜け、再び芝生に体を沈める。だが、それで、こうして外で寝ている原因を思い出した。それは――前世の記憶が流れ込んできた情報負荷と精神的ショックのせいだ。

 

 その記憶によれば、前世の俺は異世界人で。この世界は、昔の家庭用ハードゲーム『ソル&ヴァルキリー』、通称『ソルキリー』という――ヒロイン育成系魔法学園の世界らしい。

 

 『ソルキリー』とは。地に落ちた神の使い――戦乙女(ヴァルキリー)を空へ導く神の代弁者――魂導者(ソル)となり、ヒロインと契約して学園の頂点を目指したり、世界を救ったりする。ジャンルとしては育成、学園、RPGを全部盛りしたゲームだ。

 

 『主人公に選ばれなかったヒロインは幸せになれない』という容赦のなさで話題となったこのゲーム。容赦のなさがゲーム部分にまで影響したせいか、初見でのハッピーエンドはほぼ不可能で、シナリオとシステムの二重で鬼畜ゲーとなっている。

 

 前世の俺は、この『ソルキリー』にドハマりし、我ながら引くほどに推し活に人生の全てを――具体的には数十年もの年月を捧げていた。

 

 その愛とも言える熱量が世界の壁を越え、俺へ宿ったのだろう。

 ……信じがたいが、受け入れるしかない。

 

 頭痛が収まってきたため、まず右手を確認する。すると、そこには、魂導者(ソル)の証である魔法痣がいつもと変わらない青色を誇っていた。

 

「……ふぅっ」

 

 頭痛が終わった安心感と、ゲームの世界で生きているかもしれないという高揚感が混ざったままに体を起こす。すると、照明によって輝く豪華なお城のような白銀の建物――『ソルキリー』の舞台、聖レギンレイヴ女学園(アカデミー)の校舎が見えた。前世の記憶のせいか、()()()()()()()()()()()()()という不思議な感覚に襲われる。

 

「あっ……」

 

「……うん?」

 

 アルトボイスのした方を見ると、そこには少女がいた。銅色の長髪を持つ少女であることは分かるが……学園から漏れる光が逆光となっていて、顔はよく見えない。

 

 ……顔が見えていないせいで断言はできないが、俺はこの子のことも見たことある気がする。まだ整理できていない脳の中から、無理やり情報を引っ張り出そうとしていると、少女が意を決したように一歩前に出て来た。

 

「だ、大丈夫? なんか倒れてるのが見えて、助けようと思ったら起きて……えっと、水あるけど、飲む? あ! まだ口付けてないよ!」

 

 しどろもどろになりながら、俺へ水筒の魔法道具を差し出す銅髪の少女。それを見た俺は、今の自分が酷く喉が乾いているのに気づいた。

 

「ああ、もらおうか」

 

 水筒を受け取り、口を付けないよう浮かした状態で傾ける。流れてきた水は、乾いた大地に雨が降るかのように確実に俺の喉を潤してくれた。

 

「ふぅ、ありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

 補給が終わり、少女へ水筒を返した瞬間――校舎から白銀の光が放たれた。光は弧を描いて伸び、俺と少女の間に着弾した。着弾の勢いで突風が吹き、少女が飛ばされそうになる。

 

「……っ!?」

 

「わぁ……っ!?」

 

 白銀の光が晴れる。光の正体は人間だった。白いローブを身にまとった銀髪の女性が……()()()()()()()()()()()()、佇んでいる。女性は俺達を視認すると、右手で魔法陣を展開し俺へ向け、左手を少女を守るように差し出した。

 

「――学園に戻ってなさい。ここからは、私がやるから」

 

「え、で、でも……」

 

「いいから」

 

 女性に言い聞かされ、少女は躊躇いながらも校舎へ戻っていった。それを確認した銀髪の女性は俺へ魔法陣を向けたまま話を始めた。

 

「さて、まず貴方の身分やここに来た目的を示せるものはあるかしら?」

 

 凛とした口調。恐らく俺を、学園に不法侵入した不審者だと思っているのだろう。こんな外で寝てたわけだし、納得の扱いだ。

 

 身分を証明できるものか。一番手っ取り早いのは()()だな。

 

「……あら」

 

 右手の青色痣、魂導者の証に魔力を込め青色に光らせる。すると、銀髪の女性は眼を見開き、身に纏わせる雰囲気を僅かに緩ませた。魔法陣は俺へ向けたままだが。

 

「その若さで魂導者(ソル)になるなんてやるじゃない。何十年かけても合格できない人はできないのに」

 

 俺を品定めする銀髪の女性。ローブのサイズが合っていないのに前かがみになっているせいか、谷間が見える。前世の記憶が正しいのなら、彼女は……。

 

「目指すのが早かっただけですよ。……学園長?」

 

「あら。流石に学園の主の顔くらいは知ってるのね」

 

 ……合ってた。ということは、本当にここは『ソルキリー』の世界なんだな。

 

「改めて、私はこの聖レギンレイヴ女学園(アカデミー)の学園長よ。門の近くで倒れている不審者がいるって報告があったから来てみたわ。なんか変なことしようとしたら拘束するから、そこはよろしくね」

 

「……了解です」

 

「さて、じゃあどうして倒れていたのか、自己紹介も兼ねて事情聴取させてもらおうかしら?」

 

 ……学園長が探るような視線を向けてくるが、別に隠す気はない。前世の記憶が混ざったせいか今世の記憶が混濁気味だし、その整理も兼ねて説明させてもらおうか。

 

「俺は、ルシアス・アルスターっていいます」

 

「……アルスターってあの、修行と称して子供を谷底に突き落とすって噂の?」

 

 ……うちの実家、酷い噂流れてんな。いや、噂じゃないか。だって、実家の拷問に近い鍛錬のせいで俺の髪は真っ白になったんだから。

 

「はい。その、アルスター騎士家です」

 

 俺の返答に、学園長は同情的ながらも腑に落ちないように首を傾げた。

 

「どうしてそんな騎士家の子が、魂導者(ソル)になったのかしら?」

 

「それは……」

 

 まず、騎士になりたくない理由は、目の前にいる学園長を見れば一目瞭然だろう。世界で唯一『攻撃魔法』を使え、一人前になると空を飛翔する『羽』を持つ存在、戦乙女(ヴァルキリー)。そんな『主役』がいる世界で、騎士はかませのモブでしかない。

 

 

 人間は、空を飛べない。

 だから俺は、騎士になる理由を見つけられなかった。

 

 

 その代わりに俺が魂導者(ソル)になろうと思った理由は単純、金だ。この世界の武力は戦乙女への依存が始まっており、故に『稼げる』。魂導者(ソル)としてそのおこぼれを貰って、ある程度溜まったらすっぱり辞めて自由に暮らす。実家で自由なく拷問……もとい鍛錬を行わされていた反動のせいか、そんな煤けた夢を持ってしまっていたのだ。

 

 ただ、この理由をそのまま学園長に伝えるのは流石にちょっと憚られる。

 ……適当に誤魔化すか。

 

「――新しい可能性を見つけたいんです」

 

「新しい、可能性?」

 

「はい。それが何なのかは、俺にもまだはっきりとは見えてないですが。

……それでも、スタートラインに立たないと何も見えませんから」

 

「へぇ……」

 

 黙って俺の言葉を聞き終えた学園長は、俺へ向いている魔法陣を解除した。

もういいのか。もっと深掘りとかされると思っていたんだが。

 

「もう、いいんですか?」

 

「ええ。事情聴取はここまででいいわ。戦乙女(ヴァルキリー)を泣かせなければ、魂導者はいくらでも欲しいしね。以上、貴方の言う可能性を、楽しみにしているわ」

 

 その言葉と共に学園長は、甲高い音と共に白銀の羽を広げて飛翔し、白銀の光と化して校舎へ戻っていった。

 

 金目当てなのだからあまり期待されても困るのだが……それは一旦置いておき、俺もとりあえず、校舎へと歩き出した。

 

 芝生を踏みしめながら、前世と今世の記憶をすり合わせる。校舎内に人が集まっているせいか外には人の気配がなく、風によって木々が揺れる音などの環境音に満ち、深い思考に沈むには丁度いい。

 

 …………。

 

 すり合わせの結果、ゲーム上の俺――()()()()()()()は、『ラスボスちゃん』という通称を持つ、最強ヒロインルートのみで出てくるかませ犬だと分かった。

 

 俺はまず、『ラスボスちゃん』の強さと奔放さを引き立たせるため戦乙女(ヴァルキリー)ごと叩き潰され、魂導者を辞めさせられる。それが原因で俺は『ラスボスちゃん』へ執着し、魔族に魂を売って何度も立ちはだかるが、それでも勝てず――爆発四散して死ぬ。

 

 爆死を避けるために学園から出ようにも、俺には社会的立場がない。身分を証明できず、その日暮らしの生活を続けた果てで実家に捕捉され、強制送還からの自由のない訓練(拷問)漬けの日々に戻るって所が関の山だろう。

 

 つまり俺は、進むも地獄、戻るも地獄というわけで……あれ? もしかして、結構詰んでる?

 

 ……いや、分かってるならやりようはあるか。

 

 今の俺には前世の知識――ヒロインの育成論がある。育成論が分かっているヒロインと契約を結ぶことさえできれば、一流の戦乙女(ヴァルキリー)を育てることで、最強ヒロインに叩き潰されずに済むはずだ。

 

 執着が破滅を呼ぶのであれば、誰にも執着しない凡人(モブ)となろう。凡人(モブ)なまま原作知識でヒロインを育て、そのおこぼれで手に入れた金で、騎士も戦乙女もいない土地でゆっくりと過ごす。それが再構築した、俺の人生プランだ。

 

 そうと決まれば、こうしちゃいられない。早く大広間へ行って、ヒロインと契約を行わなければ。今この瞬間にも、契約が成立してしまっているかもしれない。

 

 破滅を回避するための第一歩を踏み出そうとした瞬間――ドサッ、という何かが倒れる音が耳へ入ってきた。

 

「…………」

 

 見逃してもいいが、もし、誰かが俺みたいにぶっ倒れていて、それを俺が見逃したせいで……とかだったら気分が悪い。一応、様子を見に行ってみるか。

 

 そうして辿り着いたのは、端っこだけ明かりの付いた、薄暗い屋外訓練場。魔石製の無機質な照明の下、先程出会った銅髪の少女が魔法の訓練を行っていた。

 

「はぁっ……はぁっ……! ファイアボーーール!」

 

 息も絶え絶えの少女が手を突き出し、的へ向かって力強く初級炎魔法の詠唱を行う。しかし、少女の手からは何の魔法も放たれることはなかった。

 

「う、ぐぅううう……っ!」

 

 少女はその体勢のまま魔力を放とうと手に力を入れているが、まるで反応はない。それどころか、時間が経ちすぎたせいで集約されていた赤色の魔力が弾け――。

 

「わっ!? ……っぁ!」

 

 その勢いに負けた少女の体はひっくり返り、地面へ叩きつけられた。言葉にならない叫び声や衝突音と共に砂埃が舞い散り、汗を吸って少女の体を汚していく。さっきの音の正体はこれか。

 

「見苦しいわね――無駄な努力って。もうやめたらどう?」

 

 もっと近くで見ようと一歩踏み出すと、反対側の出入り口から、複数人の男女が訓練場に入ってきた。第一声からして、銅髪の少女を明らかに見下している。

 

 中心格っぽい男と女の服にはそれぞれ違った伯爵家を表す紋様がある。貴族家同士で契約した魂導者(ソル)戦乙女(ヴァルキリー)ってところか。よくある話だ。

 

「無駄な努力だなんて、そんな……」

 

「あと、一ヵ月と言わず、今すぐ出て行ってくれないかしら? ここは、数百年の歴史がある王国最高峰の戦乙女育成機関、聖レギンレイヴ女学園(アカデミー)。アンタみたいな落ちこぼれがいていい場所じゃないのよ」

 

「そうそう、魂導者(ソル)も人生がかかってるのにさ、可哀そうだろ? 手前みたいな、無能のグズと契約結ばされたらよ。経歴に傷がついちまう」

 

 あの少女は俺の恩人だ。恩と言っても水を貰ったぐらいだが、だからといってこんな目の前でいじめられるのは看過できない。止めるため、なるべく足早に訓練場へ入り少女達へ近づく。

 

「う、うぅ……っ。それでも、ボクはっ……!」

 

 銅髪の少女は涙でその顔を濡らしながら、拳を握りしめ、震える声で貴族達に反論をしようとしている。

 

「ボクは天才だって。お母さんが、そう言ってくれた、から! 努力し続ければ、きっとボクにも、魔法が――!」

 

「うるさいなあ! 落ちこぼれのグズが、天才なんてほざくなよ!」

 

「ぁ……」

 

 集団の中の一人、金髪の男が握りしめた拳を振りかざし、影が銅髪の少女を覆う。銅髪の少女は殴られることを覚悟したのか、眼をぎゅっとつむった。

 

 ……暴力まで振るうのは想定外だったが、この距離なら、間に合う。

 

「おい。それはねえだろ」

 

 諍いの現場に着いた俺は、少女へ向かって振り下ろされている手を受け止め、腕をひねり上げた。

 

「うああああっ!? なんだっ!? このバケモンみたいな力は!?」

 

 すると、金髪の男が急に叫び出した。

 ……そんな強くは握ってないはずなんだが。

 

「なに、アンタ!? 何しに来たの!?」

 

「何って、暴力を止めに――っ!?」

 

 赤髪の戦乙女と受け答えをしながら、横目で魔石の照明に照らされた銅髪の少女を見た俺は……眼から入ってくる情報と脳内にある前世の記憶が一直線に繋がり、声が出そうなほど絶句した。

 

 膝下までの長さを持つ紺色のジャケットと短めのショートパンツを身に着け、普遍的な愛らしさを持つ中性的な顔つきを、涙で濡らしたボクっ娘。

 

 何か見覚えがあると思ったが、この子はヒロインの一人――『天才ちゃん』だ!

 

 このイベントは本来、主人公が割って入る流れのはずなのだが……俺以外に人はいない。ということは、主人公は『天才ちゃん』を()()()()()()というわけか。

 

 『ソルキリー』で主人公に選ばれなかったヒロインは幸せになれない。そんな事になるくらいなら、俺がスカウトしても誰も文句を言わないだろう。

 

「訂正する。魂導者(ソル)として、戦乙女(ヴァルキリー)を、探しに来た」

 

「えっ……魂導者(ソル)だったんだ」

 

 俺が受け答えすると、『天才ちゃん』は小さく驚きの声をあげた。そういえば、

この子には言ってなかったな。

 

 そんなことを考えていると、貴族の集団の中心と思わしき赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)が肩をすくめた。

 

「あーら、残念。ご所望の戦乙女(ヴァルキリー)はここにはいないわ。ここにいるのは契約相手が決まっている私達と、()()退()()()()()()()()()()、魔法も使えない落ちこぼれだけよ」

 

 そう、『天才ちゃん』は、入学して一ヵ月後に退学することが決まっている。当然のように、退学後のフォローは一切なく、むしろ死んでいることが暗喩される。

 

 発売当時は、この理不尽な処遇のせいで育成する方法が分からず、育成不可能ヒロインとしてプレイヤーからも落ちこぼれ扱いされていた。

 

 だが、熱心なファン(前世の俺)が検証を重ねて専用の育成論を組み上げた結果、『天才ちゃん』は一ヵ月で退学を覆せるほどの才能を持った最強キャラだと判明したのだ。

 

 そこからの『天才ちゃん』は、『ラスボスちゃん』と並んでtier1(最上位層)ヒロインの座を譲らなかった。『天才ちゃん』というファンからの愛称も、半分畏敬の念が入ったものだ。

 

 だから、俺は今のこの状況に、内心ガッツポーズしている。この子は天才だ。

 ゲーム知識通りに育てれば確実に、超一流の戦乙女(ヴァルキリー)になってくれる!

 

 『天才ちゃん』は誰にも譲らない。ここで確実に、俺と契約させてもらおうか。

 

「そうか。じゃあ、俺がこの子と契約しても誰も文句は言わねえわけだな」

 

 『天才ちゃん』を腕で守りながら発した俺の言葉に対して、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)はその顔に嘲笑を浮かべた。

 

「ぷぷっ……! アンタ、話聞いてた? それは魔法も使えない落ちこぼれで――」

 

 

「――俺の前で落ちこぼれ呼ばわりはやめてもらおうか。この子は、天才だ」

 

 

「……ふえっ!?」

 

「は、はぁ!?」

 

 俺の返答に、『天才ちゃん』は頬を赤らめて息を飲み、貴族達は圧倒されたかのように冷や汗をかきながら、俺から一歩後ずさった。

 

 ……しまったな。少し、語気強めに反論をしてしまったかもしれん。前世のせいか、ヒロインを侮辱されるのが思ったより許せなくなっていたようだ。

 

「……何コイツ。頭おかしいんじゃないの?」

 

「ま、まあ。()()()()してくれるならいいんじゃないか? ライバルが一人減ってくれるんだしさ」

 

「そうね。アンタも魂導者(ソル)の才能なさそうだし、落ちこぼれ同士、精々地べたを這いつくばってなさい!」

 

 そう口々に捨て台詞を吐いて、貴族達は立ち去っていった。

 ……確かに俺は魂導者(ソル)の才能なんてない凡人(モブ)だ。だが、そんな俺でも、天才にあやかれば成功できるんだよ。

 

 そのために、まずは『天才ちゃん』と契約を取り付けないとな。

 振り向くと、『天才ちゃん』は顔を伏せて、おずおずとしていた。

 ……まさか、さっきの流れでどっか痛めたりしたのか?

 

「大丈夫か? 怪我とかしてないか?」

 

「うぅん、大丈夫。それよりさっき契約するって言ってたけど、本当にボクでいいの? その、ボクは魔法が使えなくて、一ヵ月後には退学することが決まってて……」

 

 『天才ちゃん』は、もじもじと手遊びをしながら、俺の反応を窺っている。

 ……なんか、改めて見ると滅茶苦茶可愛いなこの子。

 ゲームでは一枚絵(スチル)がドットでちょっと荒かったけど、こうして高解像度(リアル)で見ると、小動物みがすごい……。

 

 いや、何考えてんだ俺! 破滅が掛かってんだ。

 相手に怪しまれないよう、ちゃんと受け答えをしろ!

 

「ああ。さっき水貰ったから、その礼とでも思ってくれ。……嫌だったか?」

 

「え!? い、いや、そんなわけ!」 

 

「じゃあ、決まりだな。早速契約……の前に、自己紹介ぐらいはしとくか? まだお互い、名前も知らないだろ」

 

「あ、うん! じゃあ、ボクから行くね!」

 

 すると、『天才ちゃん』は手を大きく広げた後、満点の星空に向かって人差し指を掲げ、芝居がかった笑顔で宣言を行った。

 

「――ボクは、スカイ・ジーニアス! キミはとっても幸運だよ、天才のボクと、こうして契約できるんだからさ! 空まで届く大天才に置いてかれないよう、頑張ってついてきてね!」

 

 ゲームで何回も見て、よく知っている宣言を終えた『天才ちゃん』――スカイは、チラチラとこっちの反応を窺っている。

 

「……かっこいい自己紹介だな」

 

「本当!? ありがとう!」

 

 俺の感想に、くりくりの眼をこれ以上ないほどに輝かせるスカイ。

 確か、この宣言は昨日の夜寝ずに考えた自信作なんだっけか。

 

 ……じゃあ、こっちも相応の宣言(本音)を返してやるか。

 

「次は俺だな。ルシアス・アルスター。世界一の天才と組める――世界一の幸せもんだ。足を引っ張らない程度には頑張るから、よろしく頼む」

 

「ふえっ……!? あ、あぅ……」

 

 宣言を返してくると思っていなかったのか、スカイは顔をみるみるうちに赤くして、俯いてしまった。

 

「……どうした?」

 

「せ、せかいいちは、いいすぎだよぉ……」

 

「……? いや、言いすぎじゃねえだろ」

 

「え、えぇ……?」

 

 実際、『ソルキリー』プレイヤーに「ヒロインの中で誰が一番才能ある?」という質問をしたら満場一致でスカイ(天才ちゃん)の名前を挙げるだろう。だから、世界一の天才で間違いない。

 

「ほら、契約するぞ」

 

「う、うん」

 

 青痣のある右手を差し出し、スカイが赤色の痣がある左手を重ねる。すると、紫色の発光と共に頭の中に祝詞が流れ込んできた。スカイと目線が合い、お互いにうなずいて……祝詞の詠唱を始める。

 

『――全ての羽の祖、主神・オーディンへ請い願う!』

『――我らの断ち切れぬ絆の下に!』

『――迷える戦乙女(ヴァルキリー)の魂を、天へ導き給え!』

 

 詠唱を終えると赤と青の痣が混ざり合い、紫の光が灯る。急に視界が暗転すると、一瞬だけ、スカイと一心同体になったかのような錯覚に陥る。いや、原作知識によると本当に魂が同一化しているらしい。

 

「――はっ!」

 

 数秒して視界が元に戻ると、そこはさっきまでと同じ訓練場だった。体に異変はないし、右手の痣は青色に戻っている。しかし、痣からは神の使徒との契約という重みが、魂へ流れ込んできているのがはっきりと感じられた。

 

 この繋がりが切れたらバッドエンド、二度目(コンティニュー)はない。

 ……大切に、しないとな。

 

 改めて、スカイを見る。彼女も契約の重みを感じることができたようで――涙という朝露をにじませた花が咲くかのように、初めて俺へ本当の笑顔を見せてくれた。

 

「ふえへへへ……契約、しちゃったね」

 

「ああ、そうだな」

 

 表情を緩めて返事をすると、スカイが再び手を差し出してきた。

 

「これから、よろしくね! ルシアス!」

 

「こちらこそよろしくな。スカイ」

 

 最強ヒロインと上手いこと契約できた。その事実に高笑いしそうになるのを抑えながら、スカイの差し出した手を握り返す。

 

 ククッ……。凡人(モブ)な俺を、天へ導いてくれよ、『天才ちゃん』。

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