ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第10話:『天才』と『ツンデレ』

「師匠、紅茶とコーヒーとジュースを持ってきたから、好きなのとって!」

 

「だから、別にそういうことはしなくてもいいし、……そんなにいらんだろ」

 

「大丈夫! 余ったのはわたしが全部飲むから!」

 

「……お腹たぷたぷになるぞ」

 

 俺と原作主人公――ミタマは談話室を出て、シャンデリアに照らされた大広間へ来ていた。なんでも、勉強ではなく相談をしたいそうだ。

 

 正直、原作主人公もかませの敵である俺にとっては破滅の象徴の一つなのだが、あえて関係をそのまま維持することにした。

 というのも、俺は凡人(モブ)でミタマは主人公だ。今は俺を師匠と呼んではいるが、すぐに俺なんかが必要ないくらいに成長し、師弟関係は自然に解消されるだろう。

 

 だとすると、将来的に敵になる可能性があるため、近くで動向を見守っておきたい、というのが狙いだ。ククッ……。俺なんかに師事して、本来主人公として掴むべき栄光が曇っちまっても責任はとれないってこった。

 

 まあ……ミタマは主人公だし、どうせ俺がいなくても成功を掴めるだろうけど。

 席に着いたミタマが、対面の席にいる俺へ話しかけようとした瞬間――。

 

「あ、ルシアス!」

 

 俺達に気づいたスカイが走り寄ってきた。

 

「……ん? あぁ、スカイか。どうしてここに?」

 

「実は、この辺で知り合いを見かけたんだ。でも、見失っちゃって……」

 

「ほう、知り合いか」

 

 その時、俺の対面に座っているミタマに気づいたスカイが、若干怪訝そうな顔をした気がした。

 

「……この人は?」

 

「わたしはミタマ。師匠の弟子!」

 

「説明端折りすぎだ。何言ってるか分かんねえぞ」

 

「……ルシアス。弟子、とったの?」

 

「成り行きで、なんかついてきた」

 

「……ふーん。こんなにお胸の大きい子を、弟子にしたんだ」

 

 すると、スカイは俺の隣に座り……ミタマに見えない位置で俺の服の袖をくいっと引っ張ってきた。その頬は少し膨らんでいる。

 

 ……知り合いはどうした?

 そんな俺の考えをよそに、スカイはミタマに顔を向けた。

 

「ボクはスカイ。ルシアスの、戦乙女(ヴァルキリー)だよ。よろしくね」

 

「あっ! あのすごい炎の竜を出した子! 師匠の戦乙女(ヴァルキリー)だったんだ。あんなすごい魔法使えるなんて、流石!」

 

「え、あ、う、うん……。褒めてくれて、ありがとう……?」

 

 ミタマが身を乗り出して、スカイを興味深そうに眺める。するとスカイは、どう返すのが正解か分からないようで、気まずそうに体を引いた。

 

 ……初対面の相手だし、人見知りしているのかもしれないな。

 

「それで、相談なんだけどさ……実はわたし、戦乙女(ヴァルキリー)との仲がよろしくないんだ」

 

「……仲が良くない、ねえ。具体的にどう良くないんだ?」

 

「あっちから不干渉を突き付けられちゃった。できれば仲良くしたいと思ってるんだけど、取り付く島もないっていうか。契約はしてくれたから、嫌われてはない……と思う」

 

 ミタマは主人公。ならば、その相方である戦乙女(ヴァルキリー)はヒロインだろう。その上で、ミタマに対して不干渉となると……。

 

 ……1人、心当たりがある。

 

「……別に、迷惑かけているわけではないからいいでしょ」

 

 不機嫌そうなその言葉と共に現れたのは。()()()()そのもの。

 

 白磁の陶器のようにきめが細かく色素が薄い肌と、人形と見まがうほど整った顔立ち。蒼銀色の髪をポニーテールにした、古風な騎士装束を身につけた長身の美少女。

 

 彼女の声を聞いたミタマとスカイが、それぞれ彼女の名前を呼ぶ。

 

「あ、イリスだ」

 

「イリス! え、あ、もしかしてイリスの魂導者(ソル)って……」

 

「お察しの通り、そこのミタマが、私の魂導者(ソル)よ。と言っても、私には魂導者(ソル)なんて必要ないから、契約したのはただの温情なんだけど」

 

 ツンとミタマから顔を逸らすイリス。彼女の名はイリス、本名イリスフィア・アダマス・フィンブル。だが、色々事情があって、今は本名を捨てている。

 

 原作ヒロインの一人にして……。

 

「あっ、紹介するね、ルシアス! この子はイリスって言って……訓練校でボクを気にかけてくれた、恩人なんだよ」

 

「……別に、そんな恩を感じられるような行いをした覚えはないわ」

 

「ボクには、あるよ」

 

「…………」

 

 原作ゲームの時点でスカイと交友関係がある子だ。

 

「へぇ……そうなのか。俺はルシアス。スカイの魂導者(ソル)をやってて、一応、ミタマの師匠もやってる」

 

「スカイの魂導者(ソル)。ということは、あなたが、スカイの才能を見出した……」

 

 スカイの話を聞いたイリスは、俺の顔をじっと眺めてきた。

……なんでそんな、珍しい物を見た感じで見てくるんだ。

 

「イリスー。やっぱさ、わたしとイリスは契約関係にあるんだから……」

 

「嫌よ。契約の時言ったでしょ。私は一人で勝手に強くなるから、あなたの干渉は不要だって」

 

「えー……嫌だよ。このままだと、いつ繋がりが切れるか分かんないじゃん」

 

「切れたら、縁がなかったってことで諦めなさい」

 

 ミタマの勧誘を、冷たく躱すイリス。そんなイリスの心を溶かし、どうにか絆を育んでいく――というのが、イリスルートのざっくりとしたシナリオだ。

 

「スカイも。入学式の時にも言ったけど、もう私達は鎬を削り合う敵同士なんだから、そういう馴れ合いはやめましょう」

 

「あっ、ちょっとイリス! もう少しミタマと話を……。……行っちゃった」

 

「くぅ……悔しい! なんか、わたしにできることとかないかな……」

 

 スカイの引き留めも聞かず歩き去るイリス。これ以上話をしたくないという態度を隠さずぶつけられたミタマは、初対面以上にしょんぼりしている。

 

 すると、イリスの背中を見ていたスカイが肩をすくめた。

 

「まったく。相変わらずイリスってみんなの前だと恥ずかしがるよね!」

 

「……どういうこと?」

 

 スカイの衝撃発言に目を見開くミタマ。それは去っていくイリスにも届いていたようで、立ち去る足をピタリと止めた。

 

「イリスってみんなの前だとツンツンしてるけど、二人きりになると優しくなるんだよ。一晩中魔法訓練に付き合ってくれたり、ご飯抜きにされた時は、お菓子を差し入れしてくれたりさ。ボクが退学って話になった時も、真っ先に抗議に――」

 

 スカイが訓練校時代のイリスとのエピソードを話し始めた瞬間、イリスはUターンし、すごい勢いでこっちへ走り出した。

 

「――スカイ! 飴あげるから黙って!」

 

「えっ、今はいい――むぐっ!?」

 

 イリスが懐から取り出した飴玉を射出する。薄桃色の軌道は綺麗にスカイの口の中に吸い込まれた。飴を叩きつけられたスカイは口を閉じたが、一度発したことが撤回されたわけではない。

 

 ミタマの視線がイリスに突き刺さる。

 色素の薄いイリスの頬は、いつの間にか飴玉と同じ色に染まっている。

 それを見たミタマは、にぱっとした緩い笑顔になった。

 

「まあわたしもイリスが優しいことは知ってるんだけどね。だって、記憶喪失で、誰でもないわたしと契約してくれたんだから――」

 

「うるさい、黙って」

 

「……でも、ほんとのことでしょ?」

 

「…………」

 

 二人の視線がかち合い、微妙な空気が流れる。

 

「……もし、本気なら」

 

「……え?」

 

 意外にも、先に口を開いたのはイリスだった。

 

「もし、本気で私の魂導者(ソル)をやるつもりなら、もっと強くなりなさい。今の素人同然のあなたでは何も導けないでしょ」

 

 それは口調こそ厳しかったが、イリス側からの譲歩の言葉だった。実際、イリスルートでは、隠しステータスである『主人公の強さ』が求められるため、これは的を射たアドバイスと言えるだろう。

 

「……! 絶対振り向かせてやるからね、イリー!」

 

「……イリー?」

 

 これがチャンスと言わんばかりに愛称で呼び、距離を詰めるミタマに、イリスは怪訝な顔をした。だが、これ以上付き合うのは面倒くさいといわんばかり、イリスはスカイへその鋭い眼光の照準を変えて――。

 

「――そして、スカイ」

 

「んぐっ……!?」

 

 ドスの聞いた声で、飴を舐めているスカイへ詰め寄った。驚いたスカイが、すでに小さくなっていた飴を飲み込む。

 

「あなたも、ルシアスという優秀な魂導者(ソル)に見出してもらったんだから、彼を落胆させないよう、訓練校時代を忘れず努力をしなさい。今あなたが得ている力は、自分一人のものではないんだから」

 

 ……なんか、妙に俺が高評価だな。今訂正するのは野暮だから止めておくが。

 

「大丈夫だよ。イリスへの感謝もルシアスへの恩も、一瞬でも忘れたことはないからさ」

 

「……そう」

 

 顔を綻ばせて感謝を語るスカイに、イリスの表情は一瞬緩んだが、すぐに眉間にしわを寄せた。

 

「……あと、人の恥ずかしい話を勝手にばらまかないで」

 

「別に、イリスとの思い出は恥ずかしい話じゃ……」

 

「私にとっては恥ずかしいの。――いい?」

 

「……う、わ、分かった」

 

「分かればいいのよ。またね」

 

 スカイが圧力に屈したのを確認したイリスは、今度こそと言わんばかりに歩き去った。

 

「そろそろ俺達も訓練場に行くか」

 

「うん! 行こっか!」

 

「…………! ちょっといい?」

 

「どうした?」

 

「わたしも、師匠とスカイさんの訓練について行きたいんだけど、ダメ? 色々と参考にさせてもらえないかなーって!」

 

 意を決した表情で俺達へ提案を行うミタマ。

 

 ……そういえば、ミタマは主人公だし、ゴーレム訓練場を自力で見つける可能性あるんだよな。自力で発見されて多くの人に広められるよりも、あらかじめ口止めした状態で見せた方がいいか?

 

「俺は内容を口外しないならいいと思っているが……スカイはどうだ?」

 

「ボクも大歓迎! イリスに認められるようにいっぱい頑張ってこう!」

 

「良かったー、快諾してくれて。土下座せずにすんだ」

 

「そんなことするつもりだったの!?」

 

 ミタマの突飛な発言に、スカイが眼を剥く。

 スカイはそのまま手を開き、制止のポーズをとった。

 

「そんなことしなくても、ボクとミタマは、えっと……そう! もう、ともだちだから!」

 

 友達という言葉を聞いた瞬間、ミタマの表情がぱっと晴れた。

 

「友達……! にひひ~初めての、繋がりだ……!」

 

 ……主人公とヒロインが友人になるって原作ゲームではなかった展開だから、どうしても不思議な感じになるな。こういうのを見れるのもある意味、凡人(モブ)の特権ってやつか。

 

 さて、仲も深まったところでゴーレム訓練場へ……あ、忘れ物した。部屋に水分補給用のマジックアイテム置きっぱなしだ、回収するか。

 

「悪い、ちょっと部屋に忘れ物を取りに行ってくる。ここで待っててくれ」

 

「分かった! じゃあ、ミタマとお話してるね! 何話そう?」

 

「じゃあ……わたしが知らない師匠の話とか聞かせてよ」

 

「いいよ! まず、ルシアスは料理がとっても上手でね! 特にハンバーグが……」

 

 スカイが変なこと言いださないか気になるが、とりあえず部屋に戻らなくては。

 

…………。

なんか、尾行されてる。しかも、これは……。

 

「――何の用だ。イリス」

 

「別に、大した用じゃないわ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「お礼が言いたいの。スカイの才能を見出してくれたことへの。ミタマもあなたに懐いているみたいだし……」

 

 俺を直視せず、ばつの悪そうな顔で謝辞を述べるイリス。その頬はわずかに朱に染まり、よく見ると眼も泳いでる。

 

 ……もしかして。お礼言うためだけについてきたのか?

 だとしたら……情が深すぎるぞこの子。

 

「……それだけスカイ達のことを想ってるのなら、直接言ったらどうだ?」

 

「……別に、想ってるわけじゃない」

 

「それは無理があるだろ」

 

「うるさい」

 

 そういえば思い出した。イリスのファンからの愛称は『ツンデレちゃん』だったわ。なんというか……ツンデレって舞台裏から見るとこんな感じなんだな。確かに愛称通り、素直じゃない。

 

 ……俺の視線に気づいたのか、イリスは腕を組み、ジト目になった。

 

「一応言っとくけど。スカイやミタマに変な事したら氷漬けにするから」

 

「分かってるよ、そんなことはしない」

 

「……そう。じゃあ、話は終わり。行っていいわ」

 

「あ、あぁ」

 

 扉の前から歩き去っていくイリス。だが、俺が部屋に入ろうとした瞬間――。

 

「スカイを、よろしくね」

 

 かすかに、だが確かにそう聞こえた。

 振り向いたが、イリスはもうどこにもいない。

 

 ……素直じゃないというか、ちょっとめんどくさいな!

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