ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
「こんな所に訓練場あったんだ! しかも、設備もすっごい!」
「ルシアスが見つけたんだよね!」
「師匠が、ここを見つけたんだ……。ほんと凄いね。師匠!」
スカイ、ミタマと共に、訓練場へ入るための岩製エレベーターに乗る。すると、ミタマが感嘆の声をあげながら振り返り、俺のことを尊敬に満ちた眼で見てきた。
……いや、そんな眼で見られるようなことはしてないんだが。そんなことを考えながら訓練場へ入ると、ゴーレムさんが俺達の前に出て、恭しく礼をした。
「ルシアス様。お待ちしておりました。そちらの方は……」
「ミタマっていう……まあ、同行人だ」
「なるほど…………!?」
ミタマの方を見たゴーレムさんの動きがピタリと止まる。ああ、そうか。そういえば、ミタマは天の御子の子孫で、神の血が混じってるから魂の格がめっちゃ高い。急に格の高い魂を見せつけられて、たじろいでる……ってところか。
ゴーレムさんは、そのまま数秒間、体を硬直させた後、首をゆっくりと横に振り、ミタマの前に出た。
「いえ、私は魂で人を判別するのはやめました。なので、お互いをゆっくりと知っていきましょう。よろしくお願いします――ミタマ様」
「……? ま、よろしく」
ミタマへの挨拶を終えたゴーレムさんが、合図をする。
すると、いつものように訓練用ゴーレムが集まってきた。
「では、本日も訓練を始めましょう。スカイ様」
「うん! 頑張るね!」
*
「せいっ! はっ! とりゃぁっ!」
スカイが訓練用ゴーレムの攻撃を受け止め、カウンターの攻撃をぶつける。この訓練場を利用し始めた頃は数分走っただけでへばっていたスカイが、二週間程度でここまで成長するとは……流石、竜の血が混じった天才だな。
「スカイちゃん。頑張ってるねー」
「……ミタマ様も訓練を行ってみますか?」
「えっ!? いいの、やるやる!」
そんなスカイの立ち回りを見物していたミタマに、ゴーレムさんが提案を行う。
乗り気のミタマがゴーレムさんから訓練メニューを受け取ると、しげしげと眺め始めた。
「良縁を引き寄せるための訓練とかないかな~」
「あるわけねえだろ。……魔法訓練とか、どうだ? 魔法、使いたがってただろ?」
「……師匠はわたしに、魔法の才能があると?」
「断言はできねえが、やるだけやってみてもいいだろ」
……実は断言できたりするんだけどな。
ミタマは『ソルキリー』の主人公。天界から落ちてきた尊い血を引く存在故に……後半になると、特別な魔法が使えるようになる。
その特別な魔法がなるべく早く使えるようになれば、その分ゲームオーバー確率も減るため、通常プレイでは場合によって主人公を鍛えることもできるこの『ゴーレム訓練場』が一番効率のいい場所になっているわけだ。
「……やってみるか! 魔法が使えるようになったら、イリーも少しはわたしを認めてくれる、はずだし!」
「承知いたしました。訓練メニューは既に作成が終わっておりますので、あとはミタマ様が来られるのみです」
「はーい、練習メニューって何するんだろ~」
ミタマがビブラートを効かせながらゴーレムさんへついていき、訓練場へ入る。スカイの方は……他のゴーレムより体格が一回り大きく、光沢の眩い金属製のゴーレムと対峙していた。恐らくあのゴーレムはボス格だろう。
「オオオオオッ!」
「っと! あぶないっ!」
巨大なゴーレムの大振り攻撃を軽快に避けるスカイ。避ける際に、拳を叩き込んだりしているが、硬いボス格ゴーレムにはあまり通っていないようだ。
「だったら……!」
スカイは右腕に魔力を溜め、ゴーレムの体に潜り込んで一撃を食らわせた。クリティカルヒットしたスカイの一撃は、ボス格ゴーレムの体に大きなヒビを入れる。
「グッ……!」
「これで、どうだっ!」
スカイの上段蹴りがヒビに突き刺さり、ボス格ゴーレムの体が砕ける。自分の体が崩れ落ちたのを確認したボス格ゴーレムは、体を修復しながらスカイの方を向いた。
「……試験終了。Cランク試験。合格デス、スカイ様」
「や、やった! やったよ! ルシアス!」
「おう、頑張ったな、スカイ」
満面の笑顔で喜びを俺へ伝えてくるスカイ。実際、この時点でCランクを突破するのはいい感じに育っている証拠だし、褒められるべきことでもある。しかし、戦い方に気になる部分があるため、そこは指摘させてもらおう。
「ただ、やっぱり下半身に比べて上半身の鍛え方が甘いか? 蹴りに比べて拳の効きが悪かったし、魔力を込めた攻撃は隙が多いから、依存させたくはない」
「うっ。それは……そう、だね」
「というわけでゴーレムさん。この後は上半身を鍛える訓練を重点的に頼む」
「ワカリマシタ」
体を復活させたボス格ゴーレムが訓練の準備へ戻る。
……おっと。指摘入れたし、もう一回しっかりとスカイを褒めておくか。スカイの自己肯定感をもっと上げときたいからな。
「……それ含めても驚異的な成長スピードだ。流石スカイ。この調子でどんどん、その天才っぷりを発揮してくれよ?」
「うん! 頑張ってくるね!」
気合を入れなおし、再び訓練に戻るスカイ。
……ミタマの方もそろそろ訓練始まってる頃だろうし、見に行ってみるか。
「ふぅ……」
ミタマは魔法を使うための第一歩、精神統一を行っていた。
「手伝イシマスネ」
「……うわっ!? なにこれスゴっ!?」
ゴーレム達がミタマの周りを取り囲み、各々の顔に嵌められた魔石に魔力を込める。すると、地面に魔法陣が展開され、ミタマがその中央に鎮座する形になった。
魔法陣が展開されたことでミタマの魔力が活性化したのだろうか。瞑想をしているミタマの眉がわずかに緩んだように見える。
「何か掴めた! これが、わたしの魔法――!」
眼を見開いたミタマが、手に魔力を込めた瞬間――。
訓練場の照明が切れ、辺り一面真っ暗になった。
「え? あ、あれ……?」
ミタマを取り囲んでいたゴーレムも機能を停止したためか魔法陣が消え、補助をなくしたミタマの魔法は失敗に終わってしまった。
にしても、急に灯りが消えるとは。ゴーレム達も同時に機能停止しているあたり、魔力供給そのものが止まっているのか?
「怪我はありませんか。お二方」
「ルシアス、ミタマ。大丈夫!?」
「ああ。俺もミタマも大丈夫だ」
魔石を光らせたゴーレムさんに連れられたスカイが部屋に入ってくる。合流した俺たちは、ゴーレムさんが魔力を供給してくれたおかげで発光している魔石を焚火のように取り囲んで、今後の方針を相談をすることにした。
「ゴーレムさん、この停電の原因に心当たりはありますか?」
「恐らく、この訓練場全ての魔力供給を担っている『悠久の宝珠』が老朽化したことで……多量の魔力供給に耐えられず、停止してしまったのでしょう。創造主様はこの訓練場を完成させる前にいなくなってしまったので、その歪みが現れたのかもしれません。私のような主要なゴーレムは自力で魔力供給ができるのでどうにか稼働ができますが……それ以外の機能はほぼ停止しております」
「それってボク達がここに来るために使った……」
「はい。申しあげにくいのですが……移動装置も停止しております」
「えっ……じゃあ、ここから出られないの!?」
『この訓練場から出られない』。それを察した瞬間、ミタマとスカイの表情が厳しいものになる。……いや、正直俺も結構動揺した顔してるかもしれん。原作にこんなイベントなかったし、そもそもこの訓練場が未完成ってのも初耳だ。
「いえ、心配いりません。前々から非常事態に向けての対策をしておりました」
「対策?」
「はい。地中から魔力を吸い上げ、それを補助とします」
……地中から、魔力を吸い上げる?
なんか嫌な予感がする。
「良かった! ならこれで無事に出られるね!」
天真爛漫に喜ぶスカイ。だが、俺の頭に渦巻く疑念はほどけそうになかった。
思い出せ、この訓練場は原作でどうなっていた?
「はい、では魔力吸引を開始します――」
思い出した! 原作だとこの訓練場は――!
「――待った! それはやめてくれ!」
殺人ゴーレムが跋扈する、凶悪ダンジョンになっていたんだ!! その原因である闇の魔力――の、出所は!
「地面の下は魔の領域だ! そこから魔力を吸い上げると……『悠久の宝珠』が闇の魔力で汚染される可能性がある!」
「えぇっ……!?」
「そんな……ことが……いえ、しかし……理屈は、通っております」
「師匠、そんなことも分かるの!?」
そうだ。この訓練場は終盤に凶悪ダンジョンになるために存在している。この訓練場に入る際の合言葉も、そのダンジョンのクリア報酬で、二周目以降に使える要素。だから、こうして訓練場として使うことの方が裏技に近いんだ。
「では、どうしましょう……。このままでは、皆様が……」
途方に暮れるゴーレムさん。地面からの魔力吸い上げ案を否定したのは俺だ。だったら、何か対案を示すべきだろう。
確か、原作でこのダンジョンを攻略した時は――同行していた学園長が、汚染した『悠久の宝珠』を再構築して、エレベーターを使えるようにしていたよな。
……うん? じゃあ、天才のスカイでも同じことできるんじゃねえか?
やってみる価値はあるな。
「……脱出方法を思いついた。スカイ、協力してくれ」
「な、なに!? ボク、なんでもやるよ!」
驚きながらも俺へ駆け寄ってきたスカイへ、
「だったら、スカイに
「再構築、ですか……? 修復ではなく」
「あぁ。どこがどこまで老朽化しているかちまちま探るより、全部作り替えちまった方が確実だ」
「師匠が言うなら、間違いはないのかもしれないけど……」
「……分かった。ボクがやればいいんだね!」
割と突拍子もない俺の提案に若干困惑気味の二人に対して、スカイは真っすぐ正面から提案を受け止めてくれた。……スカイの素直さは、こういう時にありがたいな。
「というわけで、もし、再構築する許可を貰えるのならば『悠久の宝珠』の下に案内して欲しいんだが」
「……わかりました。ルシアス様とスカイ様を信じさせていただきます。『悠久の宝珠』のある場所へ案内しましょう」
「ありがとう! 必ず、ゴーレムさんたちを助けてみせるからね!」
「心強いお言葉です。では、行きましょう」
ゴーレムさんに連れられて、暗闇の中を移動する。ゴーレムさんが最奥の壁に触れると、壁が重々しい音を立てながら開いた。開かれた壁の先では――十数メートルはありそうなダイヤモンド型の宝石が祭壇のような場所の上で浮遊している。
だが、その宝玉は老朽化のせいか所々穴が開いており、カラフルな魔力光を放とうとしては自分で生み出す魔力にその身が耐え切れず停止、からの再起動を苦しそうに繰り返している。
「お、大きい、けど……」
「なんか、ボロボロだね」
「スカイ様、お気を付けてこちらに。この『悠久の宝珠』は我らの心臓部。破壊されれば我らは二度と動かなくなります」
「え!? き、気を付けるね!」
ゴーレムさんに連れられて、スカイは抜き足差し足で『悠久の宝珠』へ近づいていく。……そこまで慎重になる必要はないと思うが。
「では、こちらへ立ってください。『悠久の宝珠』を降ろします」
スカイが所定の位置に立ち、ゴーレムさんが壁に魔力を入れると、『悠久の宝珠』がスカイの手の届く位置まで降りてきた。
「では、魔力干渉をお願いします」
「わかった……始めるね!」
スカイが遠慮なく『悠久の宝珠』に触れる。
すると、スカイが触れたところを始点に、赤色の魔力が『悠久の宝珠』をじんわりと覆い包み始めた。
「ルシアスが、言った通りに。直すんじゃなくて、作り替える――!」
赤い魔力はゆっくりと、だが、確実に『悠久の宝珠』を侵食していく。
だが、それと同時に部屋が変形し、轟音と共に地面から『悠久の宝珠』と並び立つぐらいの巨大ゴーレムが飛び出し、大きな叫び声をあげた。
「排除! 排除! 排除ォオオオオオオオッ!」
「きゃっ!? えっ!? なにあれ……?」
「……
ゴーレムさんの解説を聞いたスカイは、首だけで振り向いて俺へ不安そうな顔を向けてきた。
「そ、そんな、どうしようルシアス――」
「こっちを見るな。目の前の宝珠に集中しろ。ゴーレムは、俺がどうにかする!」
「う、うん……! 分かった! 頑張って、ルシアス!」
「潰レロオォオオオオオオオッ!」
「うぅ……うぅうう……っ! ボクが、やるんだ。ルシアスの期待に、応えるんだ……!」
スカイは背後の脅威に気づかないほど、『悠久の宝珠』の再構築に集中している。スカイが魔力干渉を行っているのと反対に、『悠久の宝珠』側もスカイへ魔力干渉してくるせいか、スカイは少しずつ憔悴していっているように見える。
そんなスカイの頑張りに、応えないわけにはいかない。
「ふんっ……!」
「ナニッ!?」
「あんな大きいのを受け止めた!? すごいよ、師匠!!」
……思ったより軽い。これなら、足止めだけじゃなくて、
「新たな主の誕生を――大人しく、待ってろっ!」
「ナニィイイッ!?」
踏みつぶし攻撃を受け止められて、逆に足を浮かされると大いなる隙が生まれるのが、手前の弱点だよな!
「これで――倒れろ!」
「グオオオオオオオオオッ!?」
浮かせた足目掛けて、上段蹴りを叩き込む。
もともとバランスを崩していたところにさらなる衝撃が加わったことで、巨人化ゴーレムは後ろに倒れ込み、ずずんっという重々しい音と共に壁へ倒れ込んだ。
「これで、どうだぁっ!」
それと同時に、スカイの赤い魔力が『悠久の宝珠』を覆い切り――再構築を完了させた。
「オ、オォ……」
成功を祝福するかの如く、『悠久の宝珠』が赤色の魔力を放ち始める。それと同時に、
「これは……! 我らにこれまでと同じ、いえ、これまで以上に膨大な魔力が流れ込んで来ます。成し遂げたのですね、ルシアス様、スカイ様……!」
『悠久の宝珠』の主導権をスカイが握ったためか、これまで辛そうにしていたゴーレムさんにも活力が戻り始めている。
「はぁっ……! はぁっ……!」
「お疲れ。まずは休んでくれ、スカイ。……本当に、よくやった」
「――うんっ!!」
玉のような汗をぬぐいながら、達成感と歓喜に満ちた顔を俺へ向けるスカイ。
原作にはなかった不確定な『考察』であっても、スカイの才能があれば実現できるのか。 ……本当に天才なんだな、スカイは。
ククッ……。なんか、俺一人でこの才能を独占してるのが悪く思えちまうな。まあ、俺みたいな
「……師匠」
「おう、ミタマ。すげえだろ、スカイは」
「うん、本当にすごいよ! 師匠がその知恵と武勇でスカイちゃんを導いて、スカイちゃんは師匠の期待に応えて、偉業を成し遂げちゃう。これが……理想的な
――わたし!! 師匠みたいな!!
「お、おう……?」
ミタマは眼の端に涙を浮かべながら、満面の笑みと共に、情動を俺へぶつけてきた。いや、泣くほどのことか!?
……というか、相変わらず、変な勘違いしてるなこの子。知恵と武勇と言っても、知恵はただのゲーム知識だし、武勇は
「俺は、ミタマも絶対に立派な
……ま、
ミタマは『ソルキリー』の主人公で、天の御子の血を引いた特別な存在なんだから、俺なんか悠々と追い抜けるに決まってる。
「本当!? にひひ~、師匠が言うならきっとそうなんだろうな……! 嬉しいな~!」
その考えと共にミタマを肯定すると、ミタマは満点の笑顔を浮かべ、全身でその喜びを表現していた。……俺なんかからの肯定がそんなに嬉しいか?
「ふぅ……わっと……!?」
「おっと、大丈夫か? スカイ」
「ふえっ……!?」
『悠久の宝珠』の再構築に相当の体力を使ったのだろう。スカイの足元はおぼつかない状態になっていた――のを、抱っこして支える。かなり頑張っただろうし、一歩も歩けなくてもおかしくはない。
「さて、スカイも限界みたいだし、今日のところは帰るか。そういやスカイ。ここまでのことしたんだから、何かご褒美とか欲しくないか?」
ここまでのことを成し遂げたんだ。今夜のハンバーグはさらに山盛りにした上で、さらに何かしらの特別なご褒美ぐらいはあってもいいだろう。
「う、うぅ……! こんな密着しちゃうなんて……! もう、今この状況がボクにとってご褒美だよぉ……!」
「……?」
何故かスカイは、両手で顔を隠している。
今の状況がご褒美……? よく分からんが、満足してるならいいか。