ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
ゴーレム訓練場でのアクシデントに対処した翌日入学式直後の魔法測定みたいに、
「集まったか! では、本日行う魔法学の授業内容を発表する! 本日は――模擬戦を行う! あと二週間後には
……そうか、もう決闘祭――ラーミアとの決戦までの時間が半分もないのか。今のところ、スカイの育成はハプニングはあれど順調だ。天才のスカイの足を引っ張らない程度には頑張れている……といいな。
「では、
「誰と戦おっか?」
「スカイが魔法を使って終わり……っていう相手は嫌だな」
この授業は実戦経験を積む貴重な場だ。スカイには戦いの空気を実感できるよう、良い相手と戦わせたい。そのためには、相応の実力が欲しいんだが……。
「おい、お前」
「……うん?」
後ろから声をかけられて振り向くと、赤髪の
……何の用か分からない以上、先手を打っておくか。
「ああ、ちょうどよかった。今、模擬戦する相手を探してたんだが……」
「貴族である僕にそんな口利いていいと思ってんの? この、落ちこぼれの騎士風情が」
「……?」
うん? 『落ちこぼれの騎士』。あの金髪は俺に向けて確かにそう言ったな。
……どういうことだ?
「パパに聞いたよ。アルスター家の長男は一度も表舞台に出たことがない、表に出せないくらいの落ちこぼれなんだって?」
……ああ、なるほど。確かに俺はずっと訓練漬けで表に出たことがない上に、実家は武力偏重で政治力がない。こういう噂が流れててもおかしくないか。
「そもそも騎士なんて職業、
「なっ!?」
金髪の
だが、これは……俺の立場だとちょっと反論しづらい。
魔物に対して、その身一つで戦う騎士と、上空から広範囲魔法で一気に殲滅ができる
『ソルキリー』というゲームの主役は
そんな風に俺が思考を巡らせていると、金髪の
「というか、アルスター家自体が
「……うわっ、アイツ言いやがったよ」
「騎士相手にそれ言ったら殺されても文句言えないのに……命知らずね」
金髪の
正直これまでのは無視していてもよかったが、剣聖様への侮辱までされると、流石に聞き逃せない――。
「――いいかげんにしろ!」
俺が反論しようとする前に、スカイがブチギレた。
怒気と共に赤い魔力を燃やしながら、金髪に詰め寄る。
皮膚に焼きつく熱で魔法測定の時を思い出したのか、周囲が一歩引いた。
……いや、なんでスカイが先に爆発してんだ。
「ルシアスが、騎士が、君に何をした!? そういうことは、ルシアスじゃなくて、いつも通りボクに言え!」
「何をしたかって!? 本来僕が受け取るはずだった天才
「奪うってどういう事!? まだ君は、何もしてないじゃん!」
「黙れ! 僕のパパは一気に五人もの
……それは父親が凄いだけなのでは? と言いたかったのだが、絶対面倒なことになるだろうからやめた。
ただ、
スカイは、いつもこんないじめを受けていたってことだ。さっきの剣聖様への侮辱も含めて、こいつにはお灸を据えてやる必要がある。
「要するに戦いたいってことだろ? じゃあ、とっととやろうぜ」
「おっと、そっちは退学を賭けてもらおうか。どうせ二週間早まるだけだし、いいだろ?」
「……賭けだというのなら、手前らも同じものを賭けるんだよな?」
「は? 高貴な僕と君達の価値が同じわけないだろう? 下賤な騎士にはそんなことも分からないのか?」
「――っ!」
俺への煽りによって、スカイの表情がさらに強張る。
……これ以上のやり取りは不快なだけだし、ぱっと決めてしまおう。
「だったら、俺達が勝ったら二度とそっちから関わってくんな。それでいいな?」
「どうせ退学するんだし、君達みたいな落ちこぼれに二度と関わることはないさ。さぁ先生、決闘を始めてよ」
「……ああ。二組とも、決闘場へ入れ」
魔法学の先生が促す形で、決闘場に入っていく。本来であれば止める立場の先生ですら歯嚙みして受け入れているのは、金髪の魂導者の家が戦乙女界隈の中で発言力を持つ名家だからだろう。
ざっとこの世界の構造を言ってしまえば、軍事力という滅茶苦茶大きなパイをほぼ独占し始めているのが戦乙女。そのおこぼれに預かっているのが魂導者。戦乙女にパイを奪われまいと藻掻いてるのが騎士だ。
そのため、
「さーてと、落ちこぼれ共に現実、見せてやるとするか。勝つための方法があるって言ったのは君なんだから、ちゃんと勝ってくれよ?」
「ええ、勝つわ。勝って――化けの皮を剥いでみせる」
俺たちが位置に着くのと同時に、金髪が赤髪の
「双方所定の位置に着いたため、決闘を始める――前に決闘ルールの説明だ。一度しか言わんから耳の穴を広げてよく聞け。まず、勝利条件は相手の
決闘場の両端に見えるのは――出入り口。だが、魔法学の先生が手を掲げた瞬間、出入り口に結界が張られた。
「あの
これについては、リスクを冒して決闘場に出て、支援した方が圧倒的に得だ。
勝負を決めるのは結局、
「では、10秒後に決闘を始める。自陣内で移動をしておけ」
「じゃあ、僕は君が落ちこぼれを叩き潰すのを見てるから――ちゃんと勝てよ」
「…………」
金髪が悠々と安全地帯へ入っていく。
……あれだけ言って、自分は支援とかしないのか。
「ルシアスも、安全地帯に――」
「いや、俺はスカイと一緒に戦いたい」
決闘が初めてなスカイには
「……分かった。気をつけてね」
スカイが快諾してくれたため、安全地帯ではない壁際に寄る。
「――決闘開始っ!」
俺が壁際にたどりついた瞬間発されたその声に反応して、2人が動いた。
「よし! 魔法を――」
スカイが『守護の宝珠』を前へ向けたその瞬間、風を纏った赤髪の
「――下がれ! スカイ!」
「――えっ!?」
『
最小限のアクションで、風の刃を纏った手刀を振り抜いた。
俺が呼びかけることで、寸前でスカイが後ろに跳んだおかげか、その一撃はスカイ自身にはかすり傷で済んだ。スカイ自身には。
「――わぁっ!?」
しかし、構えていた守護の宝珠が乾いた音と共に砕け散り、その余波でスカイが壁際までぶっとばされる。マジか。それ、いくらしたと思ってんだ。
「あっ……!」
吹き飛ばされた体勢から起き上がったスカイが、砕け散った宝珠を見てあっけにとられたような声をあげる。
「ふぅ。これで、魔法は使えないから、私の勝ちね! アンタの化けの皮、剝がしてやったわ!」
どうやら、初めから『守護の宝珠』を狙っていたようだ。赤髪の
「現実を見せてやる。アンタは、たまたま天才
「いや、だから天才なのは俺じゃなくてスカイだって――」
「その白々しい謙遜が一番鼻につく!
「……あんなことってなんだ?」
……俺、なんかしたか? この学校に来てからずっとスカイに付きっきりだったからそんな変なことした覚えはないんだが。
「覚えてないの!? 私の取り巻きだった子がアンタにアドバイス貰った結果、見違えるくらい強くなって、私から独り立ちしちゃったの! 『対等な立場で戦ってみたい』って!」
……ああ、あの『衝撃槍魔法』使いの子、そんなことになってたのか。
俺のアドバイスを受け入れたってことは、ちょっと精神が不安定だっただけで、根は素直なのかね。ただ……。
「そんな事言われても知らん。勝手に育っただけだろ」
「だからぁ! その謙虚さが鼻につくって言ってんのよっ!! このっ――天才がぁっ!!」
……なんとなく、分かってきた。この子は、俺を無理やり天才だと思い込んでいる。そうすることで、どうしてもスカイを天才だと思いたくないんだ。
怒りを発散させた赤髪の
「このままだと、アンタも魔法に巻き込まれちゃうわね。でも、屈服して許しを請うのなら、魔法も使えない
「逃げねえよ。というか――スカイが魔法を使えないって、誰が決めた?」
「……はぁ?」
スカイは先日Cランクのゴーレムをぶっ壊して、肉体試練を突破した。だったらそろそろ、使えるようになってもおかしくない。何の補助もなしで――『竜魔法』を。
「そろそろ、魔力を練り終えただろ。魔法展開だ、スカイ」
「――うんっ!」
スカイが何も持たない両手を前に出し、手へ魔力を込める。『守護の宝珠』なしでも、魔法陣は確実に、その形を形成し始めていた。確かに形成されているその魔法陣を見た赤髪の
「――っ! させるかっ! 『
「ごめんね、二度目は――食らわないよ!」
「ちっ……!」
赤髪の
「アンタみたいな落ちこぼれが、自分一人で魔法を使えるわけなんて……!」
「そうだね。だからこれは――ボクとルシアス、二人の魔法だよ!」
「ぐっ……調子に、乗るなぁ!!」
『
『
スカイの魔法陣から直接放たれた、いつもよりは大分小ぶりな炎竜と、風でできた狼に似た獣が正面衝突する。だが、いくら小さくても、そもそもの魔法の格が違う。炎竜は容赦なく風獣を食い破り――。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
「い……いや、負けたくない! いやっ、いやあああああああああああっ!!」
赤髪の
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
炎竜が天に上り、勝鬨の咆哮をすると共に、観客からも盛大な歓声が上がる。
「う、ぐ、ぅううううううっ……!」
焼け跡に残った赤髪の
「……勝った。勝ったよ、ルシアス。ボクの魔法で……勝ったんだ……っ!」
「ああ、よくやった!」
感慨混じりの嬉しそうな声で、俺に向かって笑顔を見せるスカイ。だが、その皮膚からは湯気が舞い上がっており、足元はおぼついていない。宝珠の補助なしでの魔法行使はやはり、相応の負荷がかかっているようだ。
……まずは休憩が必要だな、こりゃ。
「10カウント! 9,8……」
ざわめきに満ちた闘技場。
魔法学の先生が戦闘不能のカウントダウンを始めた瞬間、金髪の
「……あーあ。やっぱりダメか。仕方ない、僕が出るしかないね。どれだけグズな
その手に握られた禍々しい黒色の宝珠は、怪しげな魔力に包まれていた。
……ああいう黒い宝珠って、大体違法じゃなかったっけ?