ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第12話:『天才』と『落ちこぼれ』(上)

 ゴーレム訓練場でのアクシデントに対処した翌日入学式直後の魔法測定みたいに、戦乙女(ヴァルキリー)魂導者(ソル)が土埃の舞う決闘場に集められていた。

 

「集まったか! では、本日行う魔法学の授業内容を発表する! 本日は――模擬戦を行う! あと二週間後には戦乙女(ヴァルキリー)学園決闘祭があるからな! 栄光ある決闘祭で無様を晒さぬよう、決闘の空気感を事前に味わっておけ!」

 

 ……そうか、もう決闘祭――ラーミアとの決戦までの時間が半分もないのか。今のところ、スカイの育成はハプニングはあれど順調だ。天才のスカイの足を引っ張らない程度には頑張れている……といいな。

 

「では、戦乙女(ヴァルキリー)同士で戦いたい奴とペアを組め!」

 

「誰と戦おっか?」

 

「スカイが魔法を使って終わり……っていう相手は嫌だな」

 

 この授業は実戦経験を積む貴重な場だ。スカイには戦いの空気を実感できるよう、良い相手と戦わせたい。そのためには、相応の実力が欲しいんだが……。

 

「おい、お前」

 

「……うん?」

 

 後ろから声をかけられて振り向くと、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の相方、金髪の魂導者(ソル)が悪意に満ちたような、歪んだ笑みをしているように見えた。

 

 ……何の用か分からない以上、先手を打っておくか。

 

「ああ、ちょうどよかった。今、模擬戦する相手を探してたんだが……」

 

「貴族である僕にそんな口利いていいと思ってんの? この、落ちこぼれの騎士風情が」

 

「……?」

 

 うん? 『落ちこぼれの騎士』。あの金髪は俺に向けて確かにそう言ったな。

 ……どういうことだ?

 

「パパに聞いたよ。アルスター家の長男は一度も表舞台に出たことがない、表に出せないくらいの落ちこぼれなんだって?」

 

 ……ああ、なるほど。確かに俺はずっと訓練漬けで表に出たことがない上に、実家は武力偏重で政治力がない。こういう噂が流れててもおかしくないか。

 

「そもそも騎士なんて職業、戦乙女(ヴァルキリー)が来るまでの時間稼ぎの捨てゴマだろ? 捨てゴマの中の落ちこぼれなんて、何の価値もないグズだろうに。よく高貴な僕の前に顔を出せたな。恥ってものを知らないのか?」

 

「なっ!?」

 

 金髪の魂導者(ソル)に正面からの侮辱され、スカイの眼が見開かれる。

 だが、これは……俺の立場だとちょっと反論しづらい。

 

 魔物に対して、その身一つで戦う騎士と、上空から広範囲魔法で一気に殲滅ができる戦乙女(ヴァルキリー)では当然、騎士の方が命は軽く扱われる。騎士の殉職率は戦乙女(ヴァルキリー)の10倍はあるという噂すら流れているくらいだ。

 

 『ソルキリー』というゲームの主役は主人公(ミタマ)戦乙女(ヒロイン)。騎士は主役が駆け付けるまでの前座(かませ)のモブに過ぎない。この世界(ゲーム)はそうやってデザインされている。だから、『原作知識』のどこを見ても、人間が空を飛ぶ方法なんてありはしない。

 

 そんな風に俺が思考を巡らせていると、金髪の魂導者(ソル)は肩をすくめて話を続けてきた。

 

「というか、アルスター家自体が()()()である『剣聖』の血を引いてるなんて主張している馬鹿の集まりだろ? そんな家に生まれてさらに落ちこぼれだなんて救いようがないね!」

 

「……うわっ、アイツ言いやがったよ」

「騎士相手にそれ言ったら殺されても文句言えないのに……命知らずね」

 

 金髪の魂導者(ソル)が剣聖様への侮辱をしたからか、周囲がにわかにざわつき始める。

 正直これまでのは無視していてもよかったが、剣聖様への侮辱までされると、流石に聞き逃せない――。

 

「――いいかげんにしろ!」

 

 俺が反論しようとする前に、スカイがブチギレた。

 怒気と共に赤い魔力を燃やしながら、金髪に詰め寄る。

 皮膚に焼きつく熱で魔法測定の時を思い出したのか、周囲が一歩引いた。

 ……いや、なんでスカイが先に爆発してんだ。

 

「ルシアスが、騎士が、君に何をした!? そういうことは、ルシアスじゃなくて、いつも通りボクに言え!」

 

「何をしたかって!? 本来僕が受け取るはずだった天才魂導者(ソル)の称号をそこの落ちこぼれ騎士が奪いやがったんだよ!」

 

「奪うってどういう事!? まだ君は、何もしてないじゃん!」

 

「黙れ! 僕のパパは一気に五人もの戦乙女(ヴァルキリー)を天に飛ばしたという伝説を持つ天才魂導者(ソル)なんだ! だから、その子供である僕が、この学校で一番天才という称号に相応しいはずなのに……捨てゴマ風情が、僕が受け取るはずだった名誉を奪うなんて、万死に値すると思わないか!?」

 

 ……それは父親が凄いだけなのでは? と言いたかったのだが、絶対面倒なことになるだろうからやめた。

 

 ただ、()()()()()ってのは聞き逃せない。

 スカイは、いつもこんないじめを受けていたってことだ。さっきの剣聖様への侮辱も含めて、こいつにはお灸を据えてやる必要がある。

 

「要するに戦いたいってことだろ? じゃあ、とっととやろうぜ」

 

「おっと、そっちは退学を賭けてもらおうか。どうせ二週間早まるだけだし、いいだろ?」

 

「……賭けだというのなら、手前らも同じものを賭けるんだよな?」

 

「は? 高貴な僕と君達の価値が同じわけないだろう? 下賤な騎士にはそんなことも分からないのか?」

 

「――っ!」

 

 俺への煽りによって、スカイの表情がさらに強張る。

 ……これ以上のやり取りは不快なだけだし、ぱっと決めてしまおう。

 

「だったら、俺達が勝ったら二度とそっちから関わってくんな。それでいいな?」

 

「どうせ退学するんだし、君達みたいな落ちこぼれに二度と関わることはないさ。さぁ先生、決闘を始めてよ」

 

「……ああ。二組とも、決闘場へ入れ」

 

 魔法学の先生が促す形で、決闘場に入っていく。本来であれば止める立場の先生ですら歯嚙みして受け入れているのは、金髪の魂導者の家が戦乙女界隈の中で発言力を持つ名家だからだろう。

 

 ざっとこの世界の構造を言ってしまえば、軍事力という滅茶苦茶大きなパイをほぼ独占し始めているのが戦乙女。そのおこぼれに預かっているのが魂導者。戦乙女にパイを奪われまいと藻掻いてるのが騎士だ。

 

 そのため、戦乙女(ヴァルキリー)を多く輩出している貴族家は他の同格の家よりさらに強い権力を持っている。しかも、学園のスポンサーまでしている家もあるのだから、先生ですら表立って逆らえないのだろう。

 

「さーてと、落ちこぼれ共に現実、見せてやるとするか。勝つための方法があるって言ったのは君なんだから、ちゃんと勝ってくれよ?」

 

「ええ、勝つわ。勝って――化けの皮を剥いでみせる」

 

 俺たちが位置に着くのと同時に、金髪が赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)を引き連れて決闘場へ入り、所定の位置に着いた。赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は相当集中しているようで、金髪のことを一瞥もしていない。

 

「双方所定の位置に着いたため、決闘を始める――前に決闘ルールの説明だ。一度しか言わんから耳の穴を広げてよく聞け。まず、勝利条件は相手の戦乙女(ヴァルキリー)を場外へ接地させるか、戦闘不能にする。もしくは、降参を宣言させることだ。一見、魂導者(ソル)狙いが横行しそうなルールだが、当然、その対策もしてある。決闘場の両端を見るがいい!」

 

 決闘場の両端に見えるのは――出入り口。だが、魔法学の先生が手を掲げた瞬間、出入り口に結界が張られた。

 

「あの安全地帯(セービングエリア)には守護結界が張られている上、あの中に戦乙女(ヴァルキリー)が入ったら場外負けとなる。つまり、あの中にいれば安全だが入っている間は魂導者(ソル)としての支援が難しくなるということだ。支援と安全、どちらを選ぶかは、魂導者(ソル)次第だな」

 

 これについては、リスクを冒して決闘場に出て、支援した方が圧倒的に得だ。

 勝負を決めるのは結局、戦乙女(ヴァルキリー)の力だからな。

 

「では、10秒後に決闘を始める。自陣内で移動をしておけ」

 

「じゃあ、僕は君が落ちこぼれを叩き潰すのを見てるから――ちゃんと勝てよ」

 

「…………」

 

 金髪が悠々と安全地帯へ入っていく。

 ……あれだけ言って、自分は支援とかしないのか。

 

「ルシアスも、安全地帯に――」

 

「いや、俺はスカイと一緒に戦いたい」

 

 決闘が初めてなスカイには命令(オーダー)等の補助は必要だろう。もし、戦乙女(ヴァルキリー)が俺を狙ってきても、決闘場を全力で逃げ回ればいい。

 

「……分かった。気をつけてね」

 

 スカイが快諾してくれたため、安全地帯ではない壁際に寄る。

 

「――決闘開始っ!」

 

 俺が壁際にたどりついた瞬間発されたその声に反応して、2人が動いた。

 

「よし! 魔法を――」

 

 スカイが『守護の宝珠』を前へ向けたその瞬間、風を纏った赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は既にスカイの目の前まで距離を詰めていて――。

 

「――下がれ! スカイ!」

 

「――えっ!?」

 

風獣牙撃(ウィンドファング)!』

 

 最小限のアクションで、風の刃を纏った手刀を振り抜いた。

 

 俺が呼びかけることで、寸前でスカイが後ろに跳んだおかげか、その一撃はスカイ自身にはかすり傷で済んだ。スカイ自身には。

 

「――わぁっ!?」

 

 しかし、構えていた守護の宝珠が乾いた音と共に砕け散り、その余波でスカイが壁際までぶっとばされる。マジか。それ、いくらしたと思ってんだ。

 

「あっ……!」

 

 吹き飛ばされた体勢から起き上がったスカイが、砕け散った宝珠を見てあっけにとられたような声をあげる。

 

「ふぅ。これで、魔法は使えないから、私の勝ちね! アンタの化けの皮、剝がしてやったわ!」

 

 どうやら、初めから『守護の宝珠』を狙っていたようだ。赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は勝ちを確信したようで、これ以上ないほど口元が歪んでいる。

 

「現実を見せてやる。アンタは、たまたま天才魂導者(ソル)に見初められただけ。私の方が、上なんだって、思い知らせてやる!」

 

「いや、だから天才なのは俺じゃなくてスカイだって――」

 

「その白々しい謙遜が一番鼻につく! ()()()()()しといて天才じゃないなんて言わせないっ!!」

 

「……あんなことってなんだ?」

 

 ……俺、なんかしたか? この学校に来てからずっとスカイに付きっきりだったからそんな変なことした覚えはないんだが。

 

「覚えてないの!? 私の取り巻きだった子がアンタにアドバイス貰った結果、見違えるくらい強くなって、私から独り立ちしちゃったの! 『対等な立場で戦ってみたい』って!」

 

 ……ああ、あの『衝撃槍魔法』使いの子、そんなことになってたのか。

 俺のアドバイスを受け入れたってことは、ちょっと精神が不安定だっただけで、根は素直なのかね。ただ……。

 

「そんな事言われても知らん。勝手に育っただけだろ」

 

「だからぁ! その謙虚さが鼻につくって言ってんのよっ!! このっ――天才がぁっ!!」

 

 ……なんとなく、分かってきた。この子は、俺を無理やり天才だと思い込んでいる。そうすることで、どうしてもスカイを天才だと思いたくないんだ。

 

 怒りを発散させた赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、地面に転がる『守護の宝珠』の破片を踏みつけた。そのまま俺へ風を纏った手を向け、勝ち誇りの入り混じった笑顔を浮かべる。

 

「このままだと、アンタも魔法に巻き込まれちゃうわね。でも、屈服して許しを請うのなら、魔法も使えない戦乙女(ヴァルキリー)を抱えた哀れさに免じて、安全地帯へ逃げ込むまで待ってあげてもいいわよ?」

 

 

「逃げねえよ。というか――スカイが魔法を使えないって、誰が決めた?」

 

 

「……はぁ?」

 

 スカイは先日Cランクのゴーレムをぶっ壊して、肉体試練を突破した。だったらそろそろ、使えるようになってもおかしくない。何の補助もなしで――『竜魔法』を。

 

「そろそろ、魔力を練り終えただろ。魔法展開だ、スカイ」

 

「――うんっ!」

 

 スカイが何も持たない両手を前に出し、手へ魔力を込める。『守護の宝珠』なしでも、魔法陣は確実に、その形を形成し始めていた。確かに形成されているその魔法陣を見た赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の眼の色が変わる。

 

「――っ! させるかっ! 『風獣牙撃(ウィンドファング)!』」

 

「ごめんね、二度目は――食らわないよ!」

 

「ちっ……!」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の風で加速された速撃を躱し、距離をとるスカイ。それと同時に、スカイの魔法陣が完成したようで、魔法陣からはまばゆい灼光が湧きだす。赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の顔がさらに大きく歪んだ。

 

「アンタみたいな落ちこぼれが、自分一人で魔法を使えるわけなんて……!」

 

「そうだね。だからこれは――ボクとルシアス、二人の魔法だよ!」

 

「ぐっ……調子に、乗るなぁ!!」

 

竜炎槍魔法(ブレイズスピア)!』

 

風獣暴撃(ウィンドアサルト)ォッ!』

 

 スカイの魔法陣から直接放たれた、いつもよりは大分小ぶりな炎竜と、風でできた狼に似た獣が正面衝突する。だが、いくら小さくても、そもそもの魔法の格が違う。炎竜は容赦なく風獣を食い破り――。

 

「オオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「い……いや、負けたくない! いやっ、いやあああああああああああっ!!」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)を飲み込み、大きな爆炎を絶叫と共にまき散らした。

 

「オオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 炎竜が天に上り、勝鬨の咆哮をすると共に、観客からも盛大な歓声が上がる。

 

「う、ぐ、ぅううううううっ……!」

 

 焼け跡に残った赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、指一つ動かせず、言葉にならない声をあげながら、地面に這いつくばっていた。

 

「……勝った。勝ったよ、ルシアス。ボクの魔法で……勝ったんだ……っ!」

 

「ああ、よくやった!」

 

 感慨混じりの嬉しそうな声で、俺に向かって笑顔を見せるスカイ。だが、その皮膚からは湯気が舞い上がっており、足元はおぼついていない。宝珠の補助なしでの魔法行使はやはり、相応の負荷がかかっているようだ。

 

 ……まずは休憩が必要だな、こりゃ。

 

「10カウント! 9,8……」

 

 ざわめきに満ちた闘技場。

 魔法学の先生が戦闘不能のカウントダウンを始めた瞬間、金髪の魂導者(ソル)が、悠々と安全地帯から歩き出てきた。

 

「……あーあ。やっぱりダメか。仕方ない、僕が出るしかないね。どれだけグズな戦乙女(ヴァルキリー)でも支えないといけないのが、魂導者(ソル)の辛いところだ」

 

 その手に握られた禍々しい黒色の宝珠は、怪しげな魔力に包まれていた。

 

 ……ああいう黒い宝珠って、大体違法じゃなかったっけ?

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