ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
ざわめきで溢れる決闘場。スカイと赤髪の
『立て。立って、戦え!』
金髪の
「か、はっ、あ、あぁあああああああっ!」
「えっ……!?」
体を黒い魔力が覆いきると、地面を這っていた赤髪の
「……あれは、『支配の宝珠』!?」
誰かが発した『支配の宝珠』という名前を皮切りに、観客がにわかにざわめき始める。
「『支配の宝珠』って……確か、
「確か、発売禁止のお触れが出てたはずなのに……なんで、持っているんだ?」
「やっぱり、あの家が悪い連中と付き合ってるって噂は本当なのでは……」
観客からの野次が増え、金髪の
「うるさい! やってしまえ!」
「あ、ああああああああっ!」
黒い魔力に囚われた赤髪の
「おい! 貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!?」
「ああ、分かってるよ。こんなことができる僕が、誰よりも優秀ってことがね! 天才
魔法学の先生が叱りつける。しかしこれも、
そうしている間にも、赤髪の
「が、あああああああっ!」
「何か、まずい気がするから……その前に止める!」
赤髪の
「…………あ、あれ?」
が、しかし。魔法陣は展開されず、スカイは体から湯気を吹き出しながら体のバランスを崩し、地面に膝をついた。
「からだが、おーばーひーとしてる……?」
そこで、スカイは気づいてしまった。先程『守護の宝珠』なしで竜魔法を放ったの反動が、自分が思っている以上のものであることに。今のスカイの状況が、肉食獣の前で転んでしまった、哀れな草食動物であることに――。
「――スカイ!」
スカイの異変に気づいたルシアスがスカイへ向かって走り出すのと――。
『
正気を失った赤髪の
無理な魔法行使の反動か、赤髪の
「あ……」
放たれた黒風獣の内の一匹が、大口を開けてスカイを食らわんとする寸前――。
「――よし、間に合った!」
「わぁっ! あ、ルシアス、ありがとう……!」
スカイの下に辿り着いたルシアスはスカイをお姫様のように抱え上げ、風よりも速く、黒風獣から逃げ出した。黒風獣達は二人を食らわんと集団で襲いかかるが、ルシアスはスカイを抱えたまま、上手く左右に振り切り続けている。
「きゃっ! お姫様抱っこなんて……大胆!」
「えっ、ふえっ!?」
衆目に自分がどう映っているかを自覚したスカイの顔は、真っ赤に染まり、魔法を行使していないのに湯気が立ち上っている。
「あ、あの……ルシアス? ちょっと……このままだと……」
「ああ、分かってる。このままだと――逃げ場がなくなる!」
「いや、そうじゃなくて………え、そうなの!?」
ルシアスの言葉通り、ルシアスは黒風獣の攻撃を躱しているうちに、少しずつ壁際に追い詰められていた。
「貴族であるこの僕にかかれば、あんな奴らなんて、こんな簡単に追い詰められるんだ! ほら、あの落ちこぼれ共を――食らい尽くせ!」
金髪の
「ルシアス、どうするの?」
「……やるしかねえか。――スカイ! 舌、嚙むなよ!」
「えっ……?」
呆気にとられたスカイの声と同時に、ルシアスは、壁に向かって跳躍し、高所にある段差に足を掛け――。
「――はっ!」
壁を蹴り、決闘場の方へ向けて天高く跳び、黒風獣を悠々と越えた。
ルシアスの軽やかな跳躍は、背中に白銀の翼が生えたかのようで――。
「わぁ……すっ、ごい………」
スカイは、時間が止まったかのような錯覚を覚えるほどの、満点に澄み渡った空の景色に見惚れていた。
巨大な黒風獣が下に見える。勢いのまま全力でルシアス達へ突っ込んだのを避けられたせいで、壁に激突し、大きなクレーターを作っていた。
横を見ると、スカイ達の跳躍に大盛り上がりの観客席の最上段。頬杖を突きながら座っていたラーミアとスカイの眼が合うと、ラーミアは僅かに眼を細めた。
「……そろそろ落ちるから、気を付けろよ」
だが、空を飛ぶのは
赤髪の
着地したルシアスが、スカイを丁寧に地面へ降ろす。風で冷えたのか、スカイの体から出ていた湯気はいつの間にか消えており、普通に立てるようになっている。
「大丈夫か。着地の時にどっか傷めたりしてないか?」
「うん、大丈夫!」
「だったら、スカイ。俺はあの
「やってみせるよ! それが、ルシアスの
背を押されたスカイは、赤髪の
『む、迎え撃て!』
『
赤髪の
だが、スカイは、自らに襲い来る牙を寸前でかがんで躱し――。
ぐっと手に魔力を込め、掌底と共に魔力を赤髪の
「――せいっ!」
「あぐっ……!?」
衝撃で赤髪の
勝利を確信したスカイがぐっと拳を構え、残心したままルシアスへ笑顔を向ける。
「やったよ、ルシアス!」
「じゃあ、あとは――」
正面を向いたルシアスと、金髪の
「お、おまっ……お前は、お、おちっ、落ちこぼれ騎士のはずっ、なのにっ。なんだ、あのっ、身体能力はっ!?」
「じゃあ、お前が馬鹿にしてる騎士は落ちこぼれでもこれくらいはできる、ってだけじゃねえの」
「そんな、そんなっ……! 騎士は
「いや、その通りだぜ? 騎士は
泥のように濁った眼光が、『支配の宝珠』ごと金髪の
「ひっ……っ! ふ、風獣! アイツを食らえ――!」
金髪の
「ぐはぁあああっっ!?」
風獣を貫いた余波が、金髪の
「……うぅ。私は、一体……がっ……!」
『支配の宝珠』が破壊され、赤髪の
「かぱっ……」
同時に、金髪の
「これで『守護の宝珠』砕いた分はおあいこだな。……高かったんだぞ、あれ」
「決闘終了! 勝者、スカイ、ルシアスペア! ――二人共、よく頑張った!」
ルシアスが残心の構えを解くと同時に魔法学の先生の勝利宣告が辺りに響き渡り、決闘場全体に回復魔法が散布される。
二人の勝利を讃え、これまで以上の歓声と万雷の拍手が決闘場全体を包んだ。
「……お疲れ、スカイ。すごい歓声だろ? あれ全部、スカイを讃える声なんだぜ。これが、勝者の特権って奴だ。しっかりと味わえよ」
「うん。確かにすごいよ。でも……」
きょとんとした顔のスカイが、手を広げ歓声を浴びる。
「よく自分の
「きゃー! ルシアスさまー! わたくし、あなたのファンになりましたわ! こっち向いてくださいましー!」
一通りの歓声を浴びたスカイは、あっけらかんとした笑顔をルシアスへ向けた。
「……うん! やっぱり、どっちかといえばルシアスへの声援の方が多いね!」
「えっ。それは……なんでだ?」
ルシアスの素直な疑問は、決闘場全体に響き渡る声援にかき消されて消えた。