ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第13話:『天才』と『落ちこぼれ』(中)

 ざわめきで溢れる決闘場。スカイと赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の決闘は、スカイの勝利で終わりを迎えたかのように思えたが――。

 

『立て。立って、戦え!』

 

 金髪の魂導者(ソル)が禍々しい黒色の光を放つ宝珠に、命令を行うと倒れている赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)へ向かって、黒い魔力が襲い掛かり、侵食を始めた。

 

「か、はっ、あ、あぁあああああああっ!」

 

「えっ……!?」

 

 体を黒い魔力が覆いきると、地面を這っていた赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の体がビクンと跳ね、体がボロボロであることを無視して無理やりに立ち上がった。その眼は真っ黒に染まっており、口からは黒い魔力が漏れ出て、明らかに正気ではない。

 

「……あれは、『支配の宝珠』!?」

 

 誰かが発した『支配の宝珠』という名前を皮切りに、観客がにわかにざわめき始める。

 

「『支配の宝珠』って……確か、魂導者(ソル)の力を無理やり増幅させて、戦乙女(ヴァルキリー)の意識を支配する魔法道具よね!?」

「確か、発売禁止のお触れが出てたはずなのに……なんで、持っているんだ?」

「やっぱり、あの家が悪い連中と付き合ってるって噂は本当なのでは……」

 

 観客からの野次が増え、金髪の魂導者(ソル)の額に青筋が立つ。

 

「うるさい! やってしまえ!」

 

「あ、ああああああああっ!」

 

 黒い魔力に囚われた赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)はボロボロの体を軋ませながら立ち上がり、獣のような叫び声をあげながら魔力を練り上げ始める。

 

「おい! 貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!?」

 

「ああ、分かってるよ。こんなことができる僕が、誰よりも優秀ってことがね! 天才魂導者(ソル)の称号は、落ちこぼれ騎士であるアイツよりも――貴族である僕が受け取るべき栄誉なんだ!」

 

 魔法学の先生が叱りつける。しかしこれも、魂導者(ソル)が行う強化支援の範疇であり、古より続く決闘のルールを破ったわけではないので介入はできない。

 

 そうしている間にも、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の魔法陣に魔力が集まり、特大の魔法陣が出来上がり始め、その余波で烈風が吹き荒れてスカイの髪を巻き上げた。

 

「が、あああああああっ!」

 

「何か、まずい気がするから……その前に止める!」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)が放つ魔法に迎え撃たんと、スカイも魔法陣の展開を始めようとする――。

 

「…………あ、あれ?」

 

 が、しかし。魔法陣は展開されず、スカイは体から湯気を吹き出しながら体のバランスを崩し、地面に膝をついた。

 

「からだが、おーばーひーとしてる……?」

 

 そこで、スカイは気づいてしまった。先程『守護の宝珠』なしで竜魔法を放ったの反動が、自分が思っている以上のものであることに。今のスカイの状況が、肉食獣の前で転んでしまった、哀れな草食動物であることに――。

 

「――スカイ!」

 

 スカイの異変に気づいたルシアスがスカイへ向かって走り出すのと――。

 

風獣暴乱(ウィンドランページ)ィイイイッ!』

 

 正気を失った赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)から、体長がルシアスの倍以上ある(数メートルの)、黒色の風獣が複数体放たれるのはほぼ同時だった。

 

 無理な魔法行使の反動か、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の体が骨の折れる鈍い音を立ててひしゃげ、口から血が垂れ流れている。しかし、正気を失っている彼女は意に介さず、魔法を行使し続けていた。

 

「あ……」

 

 放たれた黒風獣の内の一匹が、大口を開けてスカイを食らわんとする寸前――。

 

「――よし、間に合った!」

 

「わぁっ! あ、ルシアス、ありがとう……!」

 

 スカイの下に辿り着いたルシアスはスカイをお姫様のように抱え上げ、風よりも速く、黒風獣から逃げ出した。黒風獣達は二人を食らわんと集団で襲いかかるが、ルシアスはスカイを抱えたまま、上手く左右に振り切り続けている。

 

「きゃっ! お姫様抱っこなんて……大胆!」

 

 魂導者(ソル)戦乙女(ヴァルキリー)をお姫様抱っこして、黒風獣(バケモノ)から守り抜く。そんな目を引く場面にさっきまで金髪の魂導者(ソル)の非道さにドン引きしていた観衆が盛り上がり始める。

 

「えっ、ふえっ!?」

 

 衆目に自分がどう映っているかを自覚したスカイの顔は、真っ赤に染まり、魔法を行使していないのに湯気が立ち上っている。

 

「あ、あの……ルシアス? ちょっと……このままだと……」

 

「ああ、分かってる。このままだと――逃げ場がなくなる!」

 

「いや、そうじゃなくて………え、そうなの!?」

 

 ルシアスの言葉通り、ルシアスは黒風獣の攻撃を躱しているうちに、少しずつ壁際に追い詰められていた。

 

「貴族であるこの僕にかかれば、あんな奴らなんて、こんな簡単に追い詰められるんだ! ほら、あの落ちこぼれ共を――食らい尽くせ!」

 

 金髪の魂導者(ソル)の叫びと同時に、さらに速度を増す黒風獣。スカイをかばいながら逃げるルシアスの目の前には決闘場の壁。当然、これを乗り越えたら場外に出てしまい、決闘には負けてしまう。

 

「ルシアス、どうするの?」

 

「……やるしかねえか。――スカイ! 舌、嚙むなよ!」

 

「えっ……?」

 

 呆気にとられたスカイの声と同時に、ルシアスは、壁に向かって跳躍し、高所にある段差に足を掛け――。

 

「――はっ!」

 

 壁を蹴り、決闘場の方へ向けて天高く跳び、黒風獣を悠々と越えた。

 ルシアスの軽やかな跳躍は、背中に白銀の翼が生えたかのようで――。

 

「わぁ……すっ、ごい………」

 

 スカイは、時間が止まったかのような錯覚を覚えるほどの、満点に澄み渡った空の景色に見惚れていた。

 

 巨大な黒風獣が下に見える。勢いのまま全力でルシアス達へ突っ込んだのを避けられたせいで、壁に激突し、大きなクレーターを作っていた。

 横を見ると、スカイ達の跳躍に大盛り上がりの観客席の最上段。頬杖を突きながら座っていたラーミアとスカイの眼が合うと、ラーミアは僅かに眼を細めた。

 

「……そろそろ落ちるから、気を付けろよ」

 

 だが、空を飛ぶのは戦乙女(ヴァルキリー)の特権。ルシアスはあくまでただの人間で、本当に翼が生えたわけではない。

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)をも跳び越えたルシアスが、重力に身を任せて落下を始める。ルシアスはスカイへ衝撃が行かないよう細心の注意を払いながらその両足で着地の衝撃を受け止めた。

 

 着地したルシアスが、スカイを丁寧に地面へ降ろす。風で冷えたのか、スカイの体から出ていた湯気はいつの間にか消えており、普通に立てるようになっている。

 

「大丈夫か。着地の時にどっか傷めたりしてないか?」

 

「うん、大丈夫!」

 

「だったら、スカイ。俺はあの戦乙女(ヴァルキリー)との決着をスカイ自身でつけて欲しいと思ってる。魔法を使った後だから、無理強いはしたくないが……できるか?」

 

「やってみせるよ! それが、ルシアスの命令(オーダー)なら!」

 

 背を押されたスカイは、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)に向かって走り出した。

 

『む、迎え撃て!』

 

風獣牙撃(ウィンドファング)!』

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、スカイの接近に抵抗しようと腕に黒い風でできた牙を纏わせ、スカイを引き裂きにかかった。

 

 だが、スカイは、自らに襲い来る牙を寸前でかがんで躱し――。

 ぐっと手に魔力を込め、掌底と共に魔力を赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の鳩尾へ叩きこんだ。

 

「――せいっ!」

 

「あぐっ……!?」

 

 衝撃で赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の体が上空に吹き飛んで、地面に激突する。スカイの魔力が干渉したことによって黒き魔力がうまく働かなくなったせいだろうか、地面に落ちた赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、無理矢理立ち上がろうとして失敗し、地面に倒れ込むという動作を無機質に繰り返すだけになった。

 

 勝利を確信したスカイがぐっと拳を構え、残心したままルシアスへ笑顔を向ける。

 

「やったよ、ルシアス!」

 

「じゃあ、あとは――」

 

 正面を向いたルシアスと、金髪の魂導者(ソル)の眼がかち合う。金髪の魂導者(ソル)は顔面に冷や汗を大量に流し、震える手でルシアスを指差した。

 

「お、おまっ……お前は、お、おちっ、落ちこぼれ騎士のはずっ、なのにっ。なんだ、あのっ、身体能力はっ!?」

 

「じゃあ、お前が馬鹿にしてる騎士は落ちこぼれでもこれくらいはできる、ってだけじゃねえの」

 

「そんな、そんなっ……! 騎士は戦乙女(ヴァルキリー)に、魔法に勝てないって、パパがっ!」

 

「いや、その通りだぜ? 騎士は戦乙女(ヴァルキリー)に勝てない。でも――お前は、戦乙女(ヴァルキリー)じゃないだろ?」

 

 泥のように濁った眼光が、『支配の宝珠』ごと金髪の魂導者(ソル)を貫く。その眼光で金髪の魂導者(ソル)は直感した。今までの愚行の代償を、その身で支払わなければならないことを。

 

「ひっ……っ! ふ、風獣! アイツを食らえ――!」

 

 金髪の魂導者(ソル)の命じるままに、黒風獣がルシアスの正面から食らいかかる。だが、黒風獣がルシアスを食らおうとした瞬間――ルシアスの正拳突きが、風獣を貫いた。

 

「ぐはぁあああっっ!?」

 

 風獣を貫いた余波が、金髪の魂導者(ソル)の持つ『支配の宝珠』に突き刺さる。拳圧烈風の一撃は、破砕音と共に黒き宝珠を粉々に砕き、金髪の魂導者(ソル)の体をチリのように吹き飛ばした。

 

「……うぅ。私は、一体……がっ……!」

 

『支配の宝珠』が破壊され、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の眼に光が戻る。が、ひしゃげた体の激痛まで自覚してしまったせいで、すぐに気絶した。

 

「かぱっ……」

 

 同時に、金髪の魂導者(ソル)の体が壁に叩きつけられる。特に鍛えてもいない彼が黒風獣の激突より大きなクレーターを作る衝撃に耐えられるわけがなく、肺の中の空気が漏れ出たような声をあげながら意識を失ってしまった。

 

「これで『守護の宝珠』砕いた分はおあいこだな。……高かったんだぞ、あれ」 

 

「決闘終了! 勝者、スカイ、ルシアスペア! ――二人共、よく頑張った!」

 

 ルシアスが残心の構えを解くと同時に魔法学の先生の勝利宣告が辺りに響き渡り、決闘場全体に回復魔法が散布される。

 

 二人の勝利を讃え、これまで以上の歓声と万雷の拍手が決闘場全体を包んだ。

 

「……お疲れ、スカイ。すごい歓声だろ? あれ全部、スカイを讃える声なんだぜ。これが、勝者の特権って奴だ。しっかりと味わえよ」

 

「うん。確かにすごいよ。でも……」

 

 きょとんとした顔のスカイが、手を広げ歓声を浴びる。

 

「よく自分の戦乙女(ヴァルキリー)を守り抜いた! かっこよかったぞ少年!」

「きゃー! ルシアスさまー! わたくし、あなたのファンになりましたわ! こっち向いてくださいましー!」

 

 一通りの歓声を浴びたスカイは、あっけらかんとした笑顔をルシアスへ向けた。

 

「……うん! やっぱり、どっちかといえばルシアスへの声援の方が多いね!」

 

「えっ。それは……なんでだ?」

 

 ルシアスの素直な疑問は、決闘場全体に響き渡る声援にかき消されて消えた。

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