ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第14話:『天才』と『落ちこぼれ』(下)

「来たわね、ルシアス君」

 

 授業を終えた俺は、学園長に呼ばれて学園長室を訪れていた。部屋には俺以外に、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)と金髪の魂導者(ソル)がうなだれている。

 

「スカイちゃんはどうしてる?」

 

「部屋でぐっすり寝てます。無理はさせたくないんで、同行させませんでした」

 

「ならよし。……これからの話は、あんまりあの子には見せたくないしね」

 

 学園長が黒色の魔力片――俺が砕いた『支配の宝珠』を取り出す。学園長の表情は暗く、この話が絶対に明るいものではないことを予期させてくる。

 

「……確認するわ。先の決闘で使われたのは、この宝珠で間違いないわね?」

 

「はい、これに魔力が込められた瞬間。戦乙女(ヴァルキリー)の様子がおかしくなりましたね」

 

「そう……」

 

 『支配の宝珠』は魔側の力が混ざっているため、販売が禁止されている。俺が呼ばれたのは、それが確かであることの事情聴取……といったところか。やっぱり、明るいもんではなかったな。

 

 俺の証言を聞いた学園長は、深いため息をつき、金髪の魂導者(ソル)の方向を向いた。

 

「……このことは、あなたの家に報告させていただくわ。貴方がこれをどうやって手に入れたか、明らかにするために」

 

「ぼ、僕のパパは一気に五人の戦乙女(ヴァルキリー)を育てたっていう、伝説の――」

 

「そうね。だからこそ、伝説に傷がつかないよう全てを明らかにしないとね」

 

「うぐっ……!」

 

 顔面に冷や汗をダラダラかく金髪の魂導者(ソル)。どうやら、『支配の宝珠』を調達する際にも、あんまりいいルートを使っていなかったみたいだ。……そもそも、なんであんなもん持ってたんだ。

 

 金髪の魂導者(ソル)からの聴取を終えた学園長は、今度は赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)を手で示した。

 

「次に、この子が支配の宝珠に関わっていないかについて聞きたいのだけど、ルシアス君の目から見て、『支配の宝珠』のことを知ってそうだった?」

 

「意識を半分失っているところを支配されたみたいなので、判断しかねます」

 

「そう……じゃあ、本人に聞くしかないわね」

 

「……一応この子、被害者では」

 

「本当にそうか分からないわよ? 少なくとも他の子からの証言でスカイへ強い敵意を持ってたことは分かってるし」

 

 学園長の鋭い目線が赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)に突き刺さる。赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は唇を震わせながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「そんなこと、知らないに決まっているでしょ! ……私は、そんなに信じられてなかったの!?」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は見るからに狼狽しながら金髪の魂導者(ソル)を睨みつける。金髪の魂導者(ソル)は悪びれもせず、肩をすくめた。

 

「不出来な戦乙女(ヴァルキリー)を導くのが、魂導者(ソル)の役目だろ? だから冴えない君を、優秀な魂導者(ソル)である僕が導いてやろうとしたのに」

 

「それでするのが違法な宝珠で意識乗っ取って無理やり魔法使わせること!? この、サイテーのクズ男!」

 

「う、うるさい! ()()()()()()()()()()()()()()()――あの落ちこぼれにすら負けやがってっ!!」

 

「――――ッ!!」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の眼がショックで見開くと同時に――。

 

 ……ブツン、という太い綱が切れるような音がした。

 

 俺は、この音に聞き覚えがある。前世で何度も聞いた――魂導者(ソル)戦乙女(ヴァルキリー)の絆が切れる音……ゲームオーバーの音。

 

 神様は魂導者(ソル)戦乙女(ヴァルキリー)の絆に対して契約を結ばせてくれる。そのため、戦乙女(ヴァルキリー)からの好感度が一定以下になり、絆が絶えてしまったらその契約は強制解除されてしまうのだ。

 

「あっ……」

 

 彼らは名家出身の戦乙女(ヴァルキリー)魂導者(ソル)。その契約はそのまま家同士のつながりになる。それが断ち切れたということは……責任の押し付け合いが始まるということだ。 

 

 それを察したのか、顔面が蒼白になる金髪の魂導者(ソル)。対して、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の表情は変わらず、狼狽したままだった。

 

「お、おまえ! おまえのせいだからな! おまえの家が責任とれよ!」

 

「――うるさい黙れっ!」

 

「ぐへっ!?」

 

 金髪の魂導者(ソル)が赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)に責任を押し付けようと胸倉をつかむ。だが、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は一歩もひるまず顔面を殴り返した。ぶん殴られた金髪は地面に叩きつけられ、また気を失ったようだ。

 

「もう、誰にも! ()()を言ってほしくなかったのにっ!」

 

「やめなさい」

 

 目を真っ赤にし、涙をとめどなく流しながら魔法を放とうとする赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)を、学園長が魔法で拘束する。取り押さえられた戦乙女(ヴァルキリー)は再びうなだれ、動かなくなった。契約が切れたことよりも、地雷を踏まれたことの方が、彼女にとってはショックだったようだ。

 

「……はぁ。ルシアス君、あなたはもう帰っていいわ。ただし、ここで見聞きしたことは他言無用で」

 

「……了解です」

 

 その言葉と共に、学園長は金髪へ回復魔法をかけ始めた。こういう修羅場は慣れているようだ。

 

「では、これで――」

 

「そうだ。これからも、君の言う()()()()()()に期待しているわよ」

 

「…………」

 

 ……学園長、『新しい可能性』っていう誤魔化しをまだ信じてたのか。俺にそんな力はないんだが……訂正するより、早くこの空間から出たい気持ちが勝つ。

 

 学園長に軽く一礼をし、俺は地獄みたいな空気の学園長室から脱出した。

 

 *

 

 学園長室から出て、足早に廊下を歩く。

 正直、まだ胃がキリキリしているため、早く部屋に戻りたい。

 

「くくっ。災難だったな、ルシアス」

 

 後ろから声をかけられる。

 この声は……。

 

「……何の用だ。ラーミア」

 

 振り向くと、相変わらずの谷間が見える黄金の鎧を着用したラーミアが薄い笑顔を浮かべ、ウェーブがかった金髪をかき上げていた。

 

「何。気分を聞きたくてな。どうだった? 落ちこぼれ騎士なんて呼ばれた感想は」

 

「いや、特に思うところはないが」

 

「………………そうか。 (ワタシ)はな――」

 

 瞬間、ラーミアが眼を見開き、体から莫大な量の雷が放たれる。

 瞬間、その金の長髪は天井にまで舞い上がり、まさしく怒髪天となった。

 

「塵一つ残さず消し去ってやろうかと思ったよ」

 

 長い髪を逆立てるラーミアから放たれた雷が、廊下や天井を這い、魔石製の照明器具を破壊しつくす。罰則は気にしていなさそう。というか、王女様からの依頼すらも受けるくらい多忙なラーミアに対して、罰則という時間的拘束なんて誰もできない。せいぜいお高めの罰金ぐらいだろう。

 

 ……そもそもなんでそんな怒ってんだ。俺、ラーミアになんかしたか? 

 

 理由に心当たりはないが、とりあえず怒りを鎮めとくか。

 このままだと学園長室に押し入りかねない。

 

「やめろ。俺は気にしてないって言っただろ」

 

「……ッ! 貴様も貴様だルシアス! あんな権力だけのクズ共に見下されて、何故、何も感じない!? あんな奴ら、貴様が剣を一振りするだけで泣いて平伏するだろうに!」

 

「……あぁ?」

 

 ……なんかラーミア、俺のことを買い被ってないか? この剣は非常時の換金用に腰に下げているだけで、使うつもりなんて別にない。なんでスカイに任せたかについても、この世界(ゲーム)の主役はスカイ達、戦乙女(ヴァルキリー)なんだから、俺がでしゃばる必要はない。

 

「俺は魂導者(ソル)だぜ、ラーミア。魂導者(ソル)は、手前の戦乙女(ヴァルキリー)を強くすることを考えるのが役目だ。だから、可能な限り戦乙女(ヴァルキリー)同士で決着をつけてほしかった。それだけだ」

 

 まあ、スカイは天才だ。いつかは今回みたいな俺の支援がなくても勝てるようになるだろうけど。

 

「ちっ……!」

 

 俺の反論に舌打ちして不快感を表すラーミア。丁度いい、この機会に前会った時から俺の中にあった疑問をラーミアにぶつけてしまおう。

 

「というか、そもそもなんで今更剣がどうとか言われないといけないんだ。五年前。()()()()()()()()()()()()()? ラーミア」

 

「――剣を捨てろと言った覚えはないッ!!」

 

 ラーミアは声を荒げながら俺の目の前まで歩み寄り……胸ぐらをつかんできた。ラーミアの手を伝って俺へ電気が流れ、ちょっとビリッとする。

 

「答えろルシアス! この五年で貴様に何があった!? 何故、貴様は剣を捨ててまで魂導者(ソル)になったんだ! 剣聖の血を引き、剣聖以上の剣の才を持った――()()()()である貴様が!」

 

「……はぁ!?」

 

 ……天才騎士? なんでお前がそんな事言うんだ?? 

 

 俺は基本的に剣を振らないし、騎士として活動したことのない落ちこぼれって評価をさっき貰ったんだが。なんか、ラーミアは別のもんが見えてんな。

 

 というかそもそも。戦乙女(ヴァルキリー)にとって騎士の役割は()()()だろうに。なんで、そんな執着してんだ。

 

 何と答えるのが正解か分からず考え込んでいると、ラーミアは胸ぐらを掴む手を勢いよく離した。

 

「……答えないか。くくっ、まあいい。どの道、決闘祭が終われば貴様は(ワタシ)のモノだ。そうなったら貴様がいかに抵抗しようが、剣を振らせられる」

 

 ……ん? 待てよ? ラーミアって俺を騎士にするのが目標なのか?

 ということは……そもそも魂導者云々は関係ないってことか?

 

「……なあ、ラーミアってもしかして、俺を魂導者(ソル)にするつもりはないのか?」

 

「当然だ。あれは絆の力ではなく、ただの()()()()(ワタシ)には必要ない」

 

 ……流石、世界で唯一、魂導者(ソル)との契約なしで羽を生やした戦乙女(ヴァルキリー)だ。言うことが違う。ラーミアは俺の質問で勢いづいたのか、ダンスに誘うかのように、手を俺へ差し出した。

 

「故に、(ワタシ)に必要なのは共に戦場を駆る騎士だ。貴様は(ワタシ)の騎士になり――共に、未来を切り開くんだ!」

 

「…………なんだそりゃ」

 

 こんな事言っているが、ラーミアは周囲を踏み台程度にしか見ていない。利用価値が無くなったら、すぐに捨てられるに決まっている。

 

 原作ゲームでもそうだ。主人公(ミタマ)と契約した理由は気まぐれで。好感度がカンストしない限り、使えないとみなされたら即契約が切れてゲームオーバー。好感度の上がり方も独特で、いわゆる『おもしれー奴』ムーブしないと上がってくれない。主人公(ミタマ)ですらそれなんだから、俺ではすぐ切られるだろう。

 

「くくっ。素晴らしい人生だろう?」

 

 ……いや、もっと素晴らしい生き方なんていくらでもある。

 例えば、騎士も戦乙女もいない世界で、平穏に過ごしたりな。

 

「……悪いが興味はない。俺の行く道は俺が決める」

 

「何度も言っているが、貴様に拒否権はない。あの『白銀の光』を取り戻すためなら――(ワタシ)は持てる力の全てを使って、貴様を叩き潰す!」

 

 ……白銀の光を、取り戻す?

 

 原作にはそんな言葉どこにも出てこない。

 だが、ラーミアの言葉には確かな意思が、確信がある。

 なんか、俺とラーミアの間に何か齟齬があるような、変な感じがする。

 

「その時を、剣を磨いて待ち続けているがいい。ルシアス・アルスター!」

 

 力強い宣言と共に、ラーミアは両手を大きく広げ――。

 

『――戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)!』

 

 戦乙女(ヴァルキリー)の飛行用魔法を展開した。ラーミアの背中から黄金の羽が生え、ラーミアの背後が見えなくなるほどに広がる。大量に舞い散った金色の羽毛は、風へ乗るかのように俺へ向かって飛来した。

 

 確かあれ、電気を帯びてるから、地面に落ちる前は触れちゃ駄目なんだっけ。じゃ、避けるのが一番だな。

 

「――っと!」

 

 羽毛を避けるとラーミアはいなくなり、廊下にはまき散らされた山盛りの羽毛と、壊れた照明器具だけが残っていた。

 

 ……()()()()、か。

 

 ラーミアが何に執着してるかは知らんが、火の粉が降りかかるのならば振り払うだけだ。まあ、それも結局、戦乙女(ヴァルキリー)決闘祭次第。つまり、スカイの才能頼りなんだけどな。

 

 ククッ……。本当に、天才のスカイと契約できたのは幸運だったな。さてと、そろそろスカイも起きてくるころだし、労いも兼ねてハンバーグを……。

 

 考えを巡らせながら一歩踏み出すと、クッションを踏んだかのような、柔らかい感触が足裏から伝わってきた。

 

 ……そういえば、このまき散らされた羽毛と壊された照明はどうすりゃいいんだ?

 

 …………。

 

 ……アイツ、片づけ俺に投げやがったな!

 そんなに掃除が嫌いか!

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