ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第15話:『天才』と『おとぎ話』

 数日後の早朝、俺はミタマの勉強を見るために談話室に来ていた。日中はスカイにつきっきりなため、こういう隙間時間でミタマと交流をするのが日課になっている。

 

 だが、本日は少し様子が違った。

 

 何故か、イリス――ミタマと契約してはいるが、ミタマからの干渉を拒絶している戦乙女(ヴァルキリー)――が談話室に来ていたのだ。といっても、特に何をするわけでもなく無言で本を読んでいるだけだし、気にしなくてもいいかもしれない。

 

「終わった! 採点お願い!」

 

 ミタマから自家製テストを受け取り、採点を始める。前世の俺が布教のために作っていた『ソルキリー』クイズを参考にテストを作成、ミタマに解かせていたのだ。

 

 さて、採点が完了した。点数は、100点中、30点だった。

 点数を見たミタマは――握りしめた拳を突き上げ、喜びをかみしめた。

 

「……しゃっ! 点数上がった!」

 

「ああ。よく頑張ったな」

 

「それで褒めるのは甘すぎじゃない?」

 

 俺とミタマで喜びを分かち合っていると、イリスが会話に割り込んできた。

 いや、確かに、普通に考えたら30点は低い点数かもしれないが……。

 

「点数が6倍になったんだ。褒めるべきだろ」

 

「……見せなさい」

 

「あっ、おい」

 

 テストを俺の手から奪ったテストをしげしげと眺めていたイリスだったが……次第に眉をひそめ始めた。

 

 ……バレたか?

 

「……ちょっと、ミタマ。正解してるの半分以上天の御子関係の問題じゃない。あなたが『天の御子』に憧れて、それ関係の本をたくさん読んでるのは知ってるけど、ちゃんと魂導者(ソル)としての勉強もしなさいよ、このおバカ」

 

「勉強の本ってさ、ちょっと眺めただけで眠くなるの! 絶対、何か変な魔力出してるって!」

 

「出てない。というかルシアスも。天の御子関係の問題20点分は明らかに過剰でしょ」

 

 ……バレたな。いや、これは仕方がない。ミタマには、まず成功体験を積ませて、勉強を好きになってもらうという計画だったからな。

 

 考えてみれば当たり前なんだが。ミタマ、ゲーム的に言うなら初プレイの知識量なんだよな。ただ、『ソルキリー』の難易度は周回プレイ前提。例えば、スカイみたいな知識と検証の必要なキャラは、初見で育て上げるのは不可能だ。

 

 その点、イリスは……運とミタマの能力があれば初見でもクリアできる可能性があるため、そういう点ではペアとして最適なのかもしれない。

 

 見た感じミタマの運は俺よりはありそうだし、細かい部分は俺が調整すればいい。あとはミタマが、どれだけイリスと仲良くなれるかだ。

 

 それはそれとして……。

 

「イリスはなんでここにいるんだ?」

 

「……別に。ここにいて悪い?」

 

「いや、悪いなんてことはないが……」

 

 イリスはここにいるのが当然、という顔をしている。いや、本当に何のためにここにいるんだ? と、考えているとミタマが俺の耳に口を寄せてきた。

 

「え~、わたしのことが心配なんじゃないの~? イリーは優しいから――わひゃっ!?」

 

「誰が優しいって? 根拠もない話を広めるな」

 

 ひそひそ話のはずがミタマの声が大きすぎてイリスに聞こえていたのだろうか。冷気を纏った袋入りの飴がミタマの背中に放り込まれる。背中を這う冷たさによって、ミタマの体がビクンッと跳ねた。

 

「もー。そこまで言うならさ、証拠、出してあげるよ。震えるがいい!」

 

「そんなものはないわ」

 

 ミタマはムッとした顔で袋から飴を取り出して舐め、イリスに向き合い、反論を始めようとしている。……飴を舐めるくだりは必要だったか?

 

「むぐっ……わたしが共同居間で勉強しながら寝ちゃった時にさ。イリー、わたしにこっそりタオルケットかけたよね。あれ、純度100%の優しさでしょ?」

 

「あっ……。あれは、その……ほぼ同じ空間で過ごしてるんだから、もし風邪でも引かれたら私にも迷惑かかるでしょ」

 

 イリスも対抗の反論をするが、自分でも言ってて苦しいと思っているのか、言葉に力がない。ミタマもそれを見破ったのか、さらに言葉を続ける。

 

「第一、イリーは理由もなくスカイちゃんを助けてるでしょ! いい加減、自分の優しさを認めて、素直に、なれ~!」

 

「――認めるものなんてない。スカイを助けたのにもちゃんと理由がある。あんた達みたいなお人よしと一緒にしないで!」

 

「……え? あるのか?」

 

 介入するつもりはなかったが、つい言葉にしてしまった。原作ではその辺全く語られないから、イリスがツンデレなだけの超善人になってたんだが……?

 

「……あっ」

 

 失言に気づいたのか、イリスの顔が急激に真っ青になる。口を手でふさぐイリスに俺とミタマの無言の目線が突き刺さる。そのまま十数秒ほどが経過しただろうか。イリスは観念したようで……読んでいた本を静かに閉じ、机へ置いた。

 

「……誰にも、言わないで」

 

「善処する」

 

「絶対言わないよ!」

 

「……不安」

 

 イリスは、机の上に置いた本を俺達にタイトルが見えるように位置を調整した。……この本は、前に読んだ童話、竜の王子様が羽の折れた戦乙女(ヴァルキリー)を救う話。『折羽姫(アンフェザリオン)』か。

 

「あ! その本、確かこの十年で一番のベストセラーなんだっけ。わたしも読んだけど、王子様の使う竜魔法がかっこよかったよね! で、この本がどしたん?」

 

 ミタマが不思議そうに『折羽姫(アンフェザリオン)』を持ち上げる。

 ミタマの疑問を聞いたイリスは――静かに、目を閉じた。

 

 

「この本は――スカイの両親のことを書いた話よ」

 

 

「――は?」

「……ん? え?」

 

 ……イリスは今、なんて言った?

 『折羽姫(アンフェザリオン)』がスカイの両親のことを書いた話、だと?

 まず頭の中で情報を整理しようとした俺に対し、ミタマは一歩前へ踏み出してイリスへ質問をぶつけにかかった。

 

「スカイちゃんが王子様の子供ってことは……王女様ってこと!?」

 

「『追放された』が頭に付くけどね」

 

「えっと、じゃあ……!?」

 

「……やっぱり、混乱するわよね。いいわ。1から説明してあげる。まず、この本に書いてあることは全部実際に起こった事よ。だから、スカイの母親は公爵家の戦乙女(ヴァルキリー)で、スカイの父親は聖竜種の王子様」

 

「お、おぉ……っ。そう、なのか」

 

 つい、感嘆の声が漏れてしまう。つまり、スカイは空を飛べる種族の中でも特に高貴な血のサラブレッドということか。そりゃ、あんなエグイ才能持つわ。というか、『折羽姫(アンフェザリオン)』って童話じゃなくてノンフィクション小説だったのか……。

 

「だ、だったらさ! スカイちゃんは、なんというか、その……ここにいるのおかしくない!?」

 

「ああ、そうだ。そもそも『折羽姫(アンフェザリオン)』は最後、折羽姫は天にある竜の居城に行って、王子様と幸せに暮らすんだろ? なんで、スカイが一人で頑張ってんだ。それも地上で」

 

 ミタマと俺の指摘にイリスは目を伏せ、本の最後のページを開く。本来そこには『めでたしめでたし』と書かれているはずなのだが、今は乱雑に黒く塗りつぶされている。……もしかしなくてもコレ、イリスがやったんだよな。イリスの私物だし。

 

「この本は結婚したところで終わっている。人間が書いてるから、そこまでしか追えなかった。……その後に、どんな悲劇があったとしても」

 

「……何が、あったの?」

 

「端的に言えば()()()よ。竜の生活に、人間がついていけなかった。スカイの母親はスカイを産んだ後に体調を崩して、そのまま亡くなった。その後、スカイも……地上に降ろされたのよ」

 

「なんで、どこに、スカイちゃんが降ろされる必要が……!?」

 

 絞りだしたかのようなミタマの疑問に、イリスは深く頷いた。

 ……イリスにも、思うところはあるのだろう。

 

「……スカイは、周囲から王女様として認められなかった。他の聖竜とは違って、『生肉は食べられない』、『竜形態にもなれない』、『そもそも魔法が使えない』……そんな『ダメな子』を王子様の子供という理由で敬うのが嫌で堪らなかった。だから、聖竜が一丸となってスカイが追放されるように仕向けたらしいわ」

 

「……ひでえ話だな」

 

 ……もう、そんな感想しか出てこない。聖竜も貴族もやってる事同じじゃねえか。

 待てよ? 『折羽姫』がスカイのことを書いた話だとしたら……。

 

「なあ。もしかして、スカイの退学に絡んでいる貴族の家って」

 

「フェザリオン公爵家。折羽姫の舞台にして、スカイの母親と深い遺恨がある家よ」

 

「えっ!? つまり、公爵家がわざわざスカイちゃんを退学にするよう学園へ働きかけてるの!? 家でかいのに器ちっさ!」

 

「……やっぱり、そうなのか」

 

 ……原作ではスカイの過去って『親が遠くに行ったから天に届くくらいに名を上げて、どこからでも見つけてもらえるようになる』以上の情報が出てなかったから、どれもこれも初耳だ。

 

 なんというか、アレだな。原作にない話がポンポン出てきて脳が混乱しているはずなのに、知識欲だけが異様に満たされている。いや、こんな重い話聞かされて喜んでんじゃねえよ知識欲!

 

「結局、スカイは聖竜の中で『存在しない』ことになって地上に降ろされ、孤児院に入り、戦乙女(ヴァルキリー)になれたと思ったら落ちこぼれて……その後は、貴方たちも知っているわね」

 

「――なんだそりゃ! 酷すぎるよ! こんなの、何の救いもないじゃないじゃん! せっかく、最高のつながりを、ハッピーエンドを迎えたのにさぁ!」

 

 拳を強く握りしめ、叫ぶミタマ。

 それに呼応するかのように、イリスも眼を伏せた。

 

 今の二人の心境としては『好きな話に続編が出たかと思ったら、前作キャラが死ぬタイプの鬱展開だった』ようなものだ。そりゃ叫びたくもなるし、なんなら前世の俺もそれをやられてブちぎれた覚えがある。

 

 だが、それはそれとして。イリスは「何故スカイを助けたのか?」という質問には答えていない。ちょっとその辺、軌道修正してみるか。

 

「ということは、イリスがスカイを助けたのはスカイがこの本の関係者だからってことか?」

 

「……それもある。だけど、一番は……私がスカイを見捨てちゃったらこのお話は本当のバッドエンドを迎えちゃうんじゃないかって、そう思ったから。だから私は、スカイの面倒を見てた。それだけよ」

 

 『折羽姫』を大切そうに懐にしまいながら、ぶっきらぼうに言い放つイリス。

 

「なるほどな……それだけかは怪しいが」

 

「それだけって言ってるでしょ。ただ……」

 

「ただ?」

 

 ここでイリスは、ふっと俺達から眼を逸らした。

 

「私だけではスカイのことはどうしようもなかったから。ルシアス、あなたには相応に感謝して……やっぱりなんでもない」

 

「そこまで言えるんだったら、全部言っていいだろ」

 

「……うるさい」

 

 俺への感謝の言葉を言っているうちに気恥ずかしさが勝ったのか、イリスは頬を桃色に染めながら顔を背け、いそいそと部屋から出ようとし始めた。

 

「――待ってっ!」

 

「きゃっ――!?」

 

 さっきまで黙っていたミタマが動き、立ち去ろうとするイリスの腕を掴む。急に腕を掴まれたことでイリスのバランスが崩れ、懐の袋から鞘入りの短剣と飴入りの大袋。それに本が数冊、バサバサと音をたてて落ちた。

 

 イリス、短剣なんて使ってたっけ? まあ、護身用か何かってところか。

 

「あなたねえ……」

 

 イリスはギリギリで机を掴んだために転びはしなかったが、それでもびっくりしたようでジト目でミタマを睨んでいた。だが、ミタマはイリスの睨みに一歩も怯まず、それどころか手をぎゅっと両手で掴みながらイリスに顔を近づけていた。

 

「――わたしも、イリーに協力したいな。いや、させてよ!」

 

「近づきすぎ。しかも協力って、もうルシアスが救っちゃったんだから、私達ができることなんて……」

 

「ある! わたし達とスカイちゃんは友達だから。友達という繋がりで、できることも必ずあるに決まってるよ。ないわけがない!」

 

 ミタマの屈託のない笑みがあまりにも眩しすぎたのか、イリスはミタマの顔を直視できず、顔を背けた。この眩しい善性、流石主人公だな。

 

「……っ。私がスカイに近づいた理由は、ただ、好きな本の関係者だから。そんな私が、スカイのことを友達だなんて言う資格は……」

 

「友達に資格なんていらない。みんな……みーんな繋がってるんだ!」

 

「……わかった。わかったから、いい加減離して」

 

 あ、イリスがミタマの押しに根負けした。もしかして今、イリスとミタマが絆を育むのに立ち会えたのか? 原作のそれとはまた違ったイベントで……こっちはこっちでアリだな。

 

 ――じゃない! 気を抜くとオタク心を出す癖をやめろ俺!

 

 とはいえ、今のミタマとイリスの絆に、俺が挟まる隙間はないのも事実。とりあえず、イリスが落とした本でも拾っておくか。

 

 これは『折羽姫(アンフェザリオン)』で。こっちは……『剣聖伝説:七章・災厄断つ神閃』。イリスも『剣聖伝説』読んでるのか。まあ、千年以上前から大陸中で売れてるミレニアムロングセラーだし、誰が読んでてもおかしくはない――。

 

「――――ッ!?」

 

「おわ……っ!?」

 

 イリスが鬼気迫る表情で俺から『剣聖伝説』を奪う。いや、なんでそんなすごい勢いでこの本を奪う必要があるんだ……?

 

 ……あれ? 改めてイリスの私服である騎士装束って……剣聖様の衣装を女性用に仕立て直したように見えるな。言ってしまえばコスプレだ。

 

 もしかして……。

 

「イリスも、剣聖様のこと慕ってたりするのか?」

 

「別にそういうわけじゃない貴方には関係ないでしょ放っておいて」

 

 滅茶苦茶早口でまくし立ててきた! 一周回って滅茶苦茶分かりやすいな!

 イリスは残った本や短剣などを拾い上げ、足早に部屋から出てこうとしている。

 

「……そういえば、師匠って剣聖の関係者って話をなんか貴族がしてたよね。何か繋がりとかあるの?」

 

 が、しかし、ミタマが剣聖の話を持ち出した瞬間に出ていく足を止め、背中で話を聞こうとし始めた。……本当に、考えていることが分かりやすい。

 

「ああ。アルスター家は剣聖様の血を引く騎士家だからな。まあ、その剣聖様の存在自体、今は危ぶまれているわけだが」

 

「存在が怪しい……?」

 

「ああ。剣聖は多くの魔を討ち、『剣聖伝説』という本になるほどの功績を挙げ、今にまで続く騎士という職業の祖となった。……さて、今の研究では、この経歴に不審点があるとされている。ミタマ、どこか分かるか?」

 

「え? どこだろ……。――わっ!?」

 

 ミタマが答えあぐねていると、いつの間にかこちらへ歩み寄ってきていたイリスが、俺とミタマの間に割って入ってきた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って話でしょ。騎士と戦乙女が肩を並べて戦うことなんてできないとされている。ただ、剣聖様には子孫がいるから、元になった人物がいて、その功績が盛りに盛られて『剣聖伝説』になった……という考察が主流になっているわ」

 

 ……なんか、イリスが剣聖様について滅茶苦茶詳しく語ってきた。

 じゃあ、負けるわけにはいかないな。

 

「だが、騎士側は、『剣聖伝説』が実際に行われたと主張している。騎士家の中に、歴史上に剣聖様が実在したことの証明に家の全てを捧げる勢力なんてもんがいるほどにな。俺の実家、アルスター家もその一つで『剣聖様の剣を現代に再現する』ことを至上命題としてたりする。……できているかは別だが」

 

「それを言ったら、貴族達は『剣聖伝説』で書かれている功績は全て、戦乙女(ヴァルキリー)によるものだって主張してるわよ? この世界の英雄は戦乙女(ヴァルキリー)だけであってほしいって思う勢力が一定数いる以上、仕方のないことかもね。……私は、実在してるって思うけど」

 

「……詳しいな」

 

「そっちこそ。流石、騎士家なだけはあるわね」

 

「――何が、何で、何? なんで二人は分かり合ってるの!?」

 

 髪をかき上げ、好戦的な表情で俺を威嚇するイリスと、俺とイリスの論争を処理しきれずに目をぐるぐると回すミタマ。ただのオタク同士の討論だから、理解しなくてもいいぞ。

 

 しかし、驚いたな。俺は実家の『教育』で諳んじられるほどに叩き込まれているんだが、まさか、イリスもここまで剣聖に詳しかったとは。しかも、独自のスタンスを持つほどに拗らせている。

 

 まあ、イリスの言っていることはあらかた正しい。戦乙女(ヴァルキリー)の台頭で、世界的に騎士の扱いが()()()になった。その流れで、騎士の祖である剣聖様すら、存在しないのではという主張が出てきてしまったのだ。

 

「話している内容は全然理解できないけど……二人とも、剣聖のことが大好きなんだね」

 

「……はっ!」

 

 ミタマの褒め言葉で我を取り戻したイリスは、冷や汗を吹き出しながら鉄面皮を赤く染め、羞恥の声をあげながら俺をジト目で見てきた。

 

「…………図ったわね」

 

「自爆だろ」

 

「……帰る」

 

 背中に哀愁と羞恥を漂わせながら、とぼとぼと部屋から出ようとするイリス。そんな彼女にミタマが一歩前に出て声をあげた。

 

「わたし、『剣聖伝説』読むよ! イリーといっぱい話をしたいから……!」

 

「ミタマは読まないで」

 

「えっ、なんでさ!?」

 

 ミタマの問いにイリスは談話室から廊下に出た後、振り返りながら、かなり真剣な雰囲気を纏わせ、鋭い目線を俺達へ向けてきた。

 

「だってミタマ。絶対剣聖のこと好きになるタイプでしょ。私以外の人が剣聖のこと好きになるのは嫌なの。私が、剣聖の、一番なんだから」

 

「何億人と競うつもりだ?」

 

 真剣な顔で何言ってんだ。

 

「…………っ」

 

 イリスは黙り込み、背中に哀愁を漂わせながら談話室から出て行ってしまった。

 ……イリス、その熱量で同担拒否勢か。さぞかし大変だろう。

 

 さて。イリスも帰ったし、俺も部屋に戻るか。そろそろ、スカイが起きてくるころだろうしな。

 

「じゃあ、今朝はこの辺で、ちゃんと間違えたところは復習を――」

 

「――ちょっと待った、師匠!」

 

 机上の本を片付けていると、ミタマが机から身を乗り出してきた。その表情には緊張が混ざっていて、意を決しているかのようだ。

 

「わたしとイリーとスカイちゃんと師匠で――みんなで依頼とか、行かない?」

 

 俺へ突き出されたミタマの手には、くしゃくしゃな茶色の羊皮紙が握られていた。

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