ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第16話:『天才』と『お誘い』

 ミタマからの、共に依頼を受けてほしいというお誘いに乗るかどうか。依頼については俺一人では決めかねるので、居間で朝食を摂る際にスカイの意見も聞くことにした。

 

「ミタマの提案で、イリス達と一緒に依頼!? いいね、行こうよ!」

 

「いや、一応依頼内容聞いてから判断してくれ。実際行ってみて思ってたのと違った、なんてことがないようにな」

 

「ルシアスが見ててそういうことはないと思うけど……いいよ! 教えて! あむっ! んんっ! 美味しい!」

 

 スカイはハンバーグサンドを美味しそうに頬張りながら、俺の話を待っている。顔がほころびきって本当に聞いているか不安になるが。

 

「今回の任務は、最近現れたCランクダンジョンの踏破……つまり、Cランクの依頼だな」

 

 この世界は地面の下が魔の領域となっている。そんな、地の下に潜む魔物共が地上に出る際の手段の一つとしてダンジョンを創造してくるのだ。ちなみに、ランクはダンジョンから漏れ出る魔の濃度によって決定されている。

 

「あれ? ボク達って最初の一個以外ほぼ依頼を受けてないから……」

 

「ああ、俺達のランクはFのままだな」

 

「え? じゃあボク達その依頼行っていいの?」

 

 確かに、俺達は今、ほぼ依頼完遂実績のない最下層のFランク。一見Cランクの依頼なんかには行けないように思えるが……。

 

「ああ、それなら問題ない。名目上、その依頼の受注者はイリスで、名目上俺達は魔石拾い等の雑用係だ。ククッ……まあ関係なく、存分に魔石を稼がせてもらうがな」

 

「おぉ……ルシアスがらーちゃんみたいな笑い方してる。あれ。でも大丈夫かな。ボク、ちゃんとCランクの魔物と戦える実力あるかな……」

 

「天才が何言ってんだ。それに、ゴーレムとの訓練でCランクを突破してるだろ」

 

「確かに! じゃあ、頑張って……必ず、ルシアスの期待に応えてみせるよ!」

 

 どうやら、話を聞いたうえでスカイはやる気になってくれたようだ。内心かなりほっとしている。というのも、今回のミタマからの依頼の打診は、俺にとっても渡りに船だったからだ。

 

 なぜかと言うと……。

 

「――おかわり!」

 

「了解」

 

 ……食事量が想定よりもかなり多く、食費のせいでちょっと所持資金に心許なくなってきたってのは、わざわざスカイに言う必要はないよな。ただ、スカイに肉料理をたくさん食わせて魔法に耐えうる肉体を作るのが目的である以上、スカイの食費を削るという選択肢はない。

 

 今後の育成論について改めて振り返りながらあらかじめ整形してあったハンバーグを焼き上げ、レタスとトマトと一緒にパンで挟んだものをスカイの前に出す。するとスカイは、顔を輝かせ、少し前まで肉が苦手だったのが噓かのような大口でハンバーグサンドへかぶりついた。

 

 しかし、こうして小動物みたいに口いっぱいに食べ物をほおばるスカイが……。

 

「……実は、王女様とはねえ」

 

「……え?」

 

「あっ……! 悪い、なんでもない!」

 

 ……やっべ。口から漏れてた。

 いや、でも、まだスカイがとは言ってないからセーフだったり……しないか?

 

 俺の動揺を察したのか、スカイはハンバーグサンドを皿に置き、おずおずと口を開いたり、閉じたりした。その様子からは、聞きたい気持ちと、本当に聞いてもいいか分からない気持ちでの葛藤が見える。

 

 ……どうやら、スカイは聞きたい気持ちの方が勝ったようで、少しだが、口は開かれた状態で固定された。

 

「えーと……もしかして。ボクの話、イリスから聞いちゃったりした?」

 

「……!」

 

 いきなりど真ん中を貫く質問をされ、ついたじろいでしまう。

 ここで噓つく方が余計にこじれることになりそうだ。正直に言ってしまおう。

 

「ああ。イリスから聞いた。スカイの過去も。その、聖竜種の王女様だってこともな。……今更だが、敬意とか払った方がいいか?」

 

「それはちょっと……いつも通りでお願い。ボクが小さい時しかそういう扱いされたことなかったし、追放された身だからさ。今更王族扱いされても困っちゃう」

 

「それは……了解した」

 

 ……スカイには悪いが。少しだけ、安心してしまった。

 身分差を気にして、育成論が緩んでしまうかもしれないのが怖かったのだ。

 

 ……あと、実はそれ以前に、ちょっと気になってたことがある。

 

「……よくよく考えたら、なんでスカイの過去をイリスが説明してんだ?」

 

「いや、ボクも隠してるわけじゃなし、話してほしいって言われたら話すけどさ。それで一回イリスに話したら……『二度とスカイにそんな辛そうな顔させたくないから、スカイの過去については私が話す』って言われちゃって。……ボク、そんな辛そうな顔してたかな?」

 

 スカイがあっけらかんと表情を綻ばせる。だが、よくよく見ると、その笑顔は張りつけられたようにぎこちなく、その眼には憂いや寂しさ、そして無理が浮かんでいた。

 

「……どうだろうな」

 

 ……少し過去について触れただけでそれなのだから、あんな辛い過去を自分の口で話した時のスカイは、それこそ見るに堪えないほど無理していたのだろう。そう考えると、イリスのおせっかいは完全な間違いではないように思えてしまう。

 

「ただ、まあ……そんだけスカイの身を案じておいて『好きな本の関係者だから優しくしただけです』は通らねえよな」

 

「だよね! そうだよね! イリスは優しいんだよ! でもなんか、どっか一線を引いてるっていうか……」

 

「まあ、色々事情があるんだろ」

 

「うーん。ボクはその事情を知って……心の距離を縮めたいな! ごちそうさまでした!」

 

 ハンバーグサンドを食べ終えたスカイは、グラス入りの冷水を飲み干すと、食後の挨拶をして席を立ち上がった。

 

 ……一応、俺はイリスが人を避ける理由を原作知識で知ってはいる。結論から言ってしまえば、イリスは推定『ニーズヘッグ』と思わしき呪いを保有している。その呪いが暴発した時に周囲にいる人を巻き込まないように、他者を遠ざけているのだ。

 

 しかし、そんなことを勝手に話したら間違いなく絶交されるだろう。せめてミタマが主人公としてイリスルートのイベントを進行させるまで待ちたい。

 

「じゃあ、今日の放課後の依頼……ダンジョン探索、頑張ろうね、ルシアス!」

 

「おう、頼むぜ。ばっちり稼いでくれよ、スカイ!」

 

 ……食費をな!

 

 *

 

 同じ頃。

 

 金髪の魂導者(ソル)と赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、依頼で、薄暗いダンジョンへと潜っていた。

 

 現在、金髪の魂導者(ソル)と赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の契約は切れているうえに、本来、金髪の魂導者(ソル)は持っていた『支配の宝珠』について捜査を受けている。そのため、こうして二人で依頼を受けているのは明らかにおかしいのだが……これには事情がある。

 

 それは、二人の実家である伯爵家の面子の問題だ。名家同士で契約し、それが大いに話題になった二人が決裂した。このことは、いくら相手に責任転嫁しようとも両家にとってこれ以上ない醜聞、消えない汚点になってしまう。

 

 それを隠蔽するために、両家は『捜査に手をまわして支配の宝珠を()()()ことにしてやる代わりに、契約が繋がっているふりをさせる』ことで合意した。時間を稼ぎ、ほとぼりが冷めた頃に円満な契約解消のふりをする。もし失敗した場合は――全責任を二人に押し付ける。それが、両家の下した残酷な決断だった。

 

 今二人がしているのは、契約決裂前に引き受けた他の貴族からの依頼。契約が決裂したのを隠すために、依頼を問題なく達成できることを示さなければならないのだ。

 

 もっとも、そんなことしなくても解決する方法はある。再契約をすればいいのだ。たとえ一回契約が切れてしまっても、一回目の契約を超えた絆を示すことができれば、再契約ができる仕組みとなっている。

 

「なあ、こんなことしなくても再契約してやるから――」

 

「黙れ。口を開くな」

 

 ただ、見ての通り。この二人に契約時以上の絆を抱かせるのは、天地がひっくり返っても不可能だった。

 

 金髪の魂導者(ソル)の提案を一蹴し、ダンジョンの奥へ進んでいく赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)。自分の意識を『支配の宝珠』によって無理やり奪われたのだから、この対応もある意味当然、むしろ温情と言えよう。

 

「ギヒヒ……」

 

「……はぁ」

 

 すると、ダンジョンの奥からゴブリンが這い出て、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)へ眼をつける。それに反応して彼女は戦闘態勢に入った。

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の背中を見ながら、金髪の魂導者(ソル)は、舌打ちを複数回して毒づいた。

 

「……なんだよ。せっかくこの僕が譲歩してやったというのに。駄目な戦乙女(ヴァルキリー)と契約しちまうと魂導者(ソル)まで損するとか、欠陥システムすぎだろ。こんなもん放置するなんて、神って奴は本当にクソだな!」

 

 明らかな不快感を露わにしながら、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)へ背を向け、歩き去る金髪の魂導者(ソル)。彼が神への不満を叫ぶほどイライラしているのは、自分の戦乙女(ヴァルキリー)が言うことを聞かないからだけではない。

 

風獣暴撃(ウィンドアサルト)!』

 

「グアアアアアアアアアッ!」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)から風の獣が放たれる。魂導者(ソル)無しで放たれたその一撃が、普段となんら遜色ない威力でゴブリン達を轢き潰した。

 

 そう。自分がとの契約がなくても戦乙女(ヴァルキリー)の放つ魔法に何の影響もないというのは、天才魂導者(ソル)を自認する彼にとって、耐え難い屈辱だったのだ。

 

「どれもこれも全部――あのルシアスとかいう落ちこぼれ騎士のせいだ! 本来天才魂導者(ソル)は僕がもらうはずの名誉だったのに、アイツのせいで――」

 

「――なんか、面白そうな話してるな。オレにも聞かせてくれよ」

 

「――!?」

 

 瞬間、ダンジョンの奥から聞き心地のよい男の声が聞こえてくる。金髪の魂導者(ソル)が声の聞こえた方を向くと、ダンジョンの横穴、深い闇の中から一匹の渡り鴉が彼の前に飛んできた。

 

「お前は……?」

 

「オレはフギン。見ての通り、話せる以外取り柄のない渡り鴉だ」

 

 暗闇の中で、渡り鴉の眼だけが金色に光る。

 

「――なぁアンタ、なんか鬱憤が溜まってんな? 聞かせてくれよ兄弟。オレはそういう話が大好物なんだ」

 

「あ、あぁ!」

 

 初対面で『兄弟』とか呼んでくる、馴れ馴れしい渡り鴉。本来であればこんな怪しい存在に身の上話をするなんてありえない。だが、金髪の魂導者(ソル)は、自業自得とはいえ溜まっていた鬱憤を晴らす機会を得たため、嬉々としてストレスの原因になっている――ルシアスについて話し始める。

 

 全ての話を聞いたフギンは――大声で、泣いた。

 

「うおおぉ~~ん! そんな、そんな酷いことってないぜ! 兄弟は無能な戦乙女(ヴァルキリー)をその頭脳で必死に支えているのに、周囲にいるバカ共が理解してくれないなんて!」

 

「そうなんだよ! やっと分かってくれる奴が現れてくれたか!」

 

「オレもなあ! 必死で頑張ってるのにさあ! 生まれが悪いのと、周囲が馬鹿なせいで全然報われないんだわ! だから、気持ちはわかるぜ兄弟。アンタはなーんにも悪くない。悪いのは周囲にいるバカ共と――その、ルシアスって奴だな!」

 

「そ、そうだろうそうだろう!」

 

 相手を褒め、共感し、自身の弱みを見せ、共通の敵を作る――相手に信用させるための話術で、金髪の魂導者(ソル)の心を掴んだ黒烏はそのまま肩に乗り、その嘴を耳へ近づけた。

 

「……なぁ。情報くれたらさ、オレがソイツ殺してやるよ。兄弟は憎い相手の死体を踏みつけ、誇りを取り戻すんだ。素晴らしい話だろ?」

 

「そ、そんなことできるのか!?」

 

「ああ、オレならな。例として……えーと、あ、そこのゴブリンでいいか」

 

 フギンがゴブリンへ向かって黒い羽根を放つ。闇の魔力を潤沢に保有したその羽根に突き刺されたゴブリンに、多大な魔力が流れ込んだ。

 

「ギャッ!? ギ、ギィイイイイイイイッ!?」

 

 魔力にあてられたゴブリンは角や牙が増え、体が膨張し、魔物としての(ランク)がすごい勢いで上がっていく。

 

「パギャッ……!?」

 

 だが、強大な魔力に耐え切れなかったのか。膨れ上がったゴブリンは乾いた音を立てて破裂し、辺りに黒い靄を散らした。

 

「あちゃー、壊れちまった。やっぱ、器が悪いとダメだな」

 

「ひっ……ひぃっ……!?」

 

 フギンは予定調和と言わんばかりに眉一つ動かさなかったが、金髪はその異様な光景に倒れ込んで怯えてしまっていた。

 

「だが、これでオレの実力が分かっただろ? どういう依頼を受けるとかの情報さえあれば――オレの持つ力で、ソイツを事故に見せかけて殺してやるよ」

 

「……! ……この、力があれば」

 

 フギンの誘いに、金髪の魂導者(ソル)の眼が力への渇望と逆恨みで濁る。

 

「情報さえあれば、あの野郎をぶっ殺すことができるんだよな?」

 

 最終確認するかのような金髪の魂導者(ソル)の問いに、フギンは大きく頷いて肯定の意を示した。

 

「ああ。オレは――()()()()だからな」

 

「……?」

 

 ――ここが、彼が踏みとどまれる最後の一線だった。

 

 明らかな魔側の存在と手を結ぶという愚の骨頂とも言えるような行いさえしなければ。この場から逃げ出し、恥を捨てて赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)へ助けを請い、心を入れ替えて努力をすれば。彼は成功することができたかもしれない。

 

 その最後の一線を――彼は悠々と踏み抜いた。

 

「ああ、やるよ。僕の家は、依頼の管理をしている協会(トコ)と繋がりがあるし、誰がどういう依頼を受けたかを手に入れられる。それで――あの野郎をぶっ殺してくれ!」

 

「そりゃあいい! ()()()()だな、兄弟! じゃあ、情報を手に入れたらそれ使ってくれ。通信用の宝珠だ」

 

 その言葉と共に、フギンは黒色の宝珠を残して飛び去った。黒色の宝珠からは、『支配の宝珠』よりも澄んだ、高貴な黒色の魔力が放出されている。金髪の魂導者(ソル)がそれを受け取ると、一瞬だけ彼の右手の紋様が黒く光ったが、彼はそれに気づくことはなかった。

 

「ああ、楽しみだ。あいつ等の死体が僕の前に並べられるのがな! ひひ……ひゃはははははははっ!」

 

 この後訪れる()()()()を想像し、黒色の宝珠を掲げながら高笑いする金髪の魂導者(ソル)

 

 彼は知らない。

 

 この渡り鴉、フギンこそが原作知識を得なかったルシアスが魂を売った破滅の象徴――ラーミアルートのラスボス格となる、凶悪な魔族であることを。

 

 魔の手を取り堕ちてしまった彼の魂は、二度と天に登ることはないことを。

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