ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
放課後、依頼のあったダンジョン前へ行くと、ミタマとイリスが既に到着していた。スカイが大きく手を広げながら二人へ駆け寄る。
「イリス! ミタマ! もう来てたんだ」
「遅いわよ二人共。あまり人を待たせないで」
「……いや、集合時間15分前なんだが」
「イリーは1時間から――いたっ!?」
「うるさい」
嬉々として語ろうとするミタマの後頭部に、イリスのビンタが炸裂した。
「1時間前って、もしかして時間間違えた?」
「そんなわけないでしょ。私をなんだと思ってるの」
「じゃあ、ボク達と一緒に依頼を受けるのが楽しみだったとか!?」
「……そんなわけ、ないでしょ」
イリスが不機嫌そうにダンジョンの方を向く。その耳は赤くなっていた。
「……言っておくけど、変なことはしないように。この依頼の名義は私だから。怪我を隠すとか、得体の知れない敵を深追いするとか、そういう馬鹿なことしたら承知しないから。……以上、じゃあね」
「あっ、待ってよイリー!」
警告文のような強い言葉を言い放つとともにダンジョンへ踏み入るイリスと、それを追いかけるミタマ。
さっきの言葉を緩めに翻訳すると『責任は私が取るから、怪我したり、想定外の事態が起きない限り好きにしてもいい。起きたらすぐ報告してね』だ。
……言い方が厳しいだけで優しさの塊だな、こりゃ。
まあ、その言い方が悪いせいで誤解されることもあるかもしれないが……。
「もー、イリスったら……。まあいいや。ボク達も行こ、ルシアス!」
少なくともスカイはあんまり気にしていないだろうから、何の問題もない。俺達も、イリスの後を追ってダンジョンへ足を踏み入れる。
ダンジョン内部はゴツゴツした石壁で覆われた洞穴となっていた。奥から獣の唸り声のような音が鳴り、澱んだ空気に混じって黒色の闇の魔力が奥から流れてきている。
「お、おぉ……雰囲気あるね」
「……スカイ、ちゃんと周囲を警戒しろよ。後ろから魔物に頭カチ割られて……なんて笑い事じゃないからな」
「うっ。だ、大丈夫! 訓練校時代に索敵方法は学んでるから!」
その言葉と共に、スカイは自分の魔力を撒いて、索敵を始めた。
俺も一応警戒しているから大丈夫だとは思うが……今後のために、一応スカイには経験を付けさせておきたい。この調子だと、イリス達の方が進みはいいかもな。
そんな俺の予想は的中したようで、洞窟の闇の奥から鮮明な魔物のうめき声と、魔法陣を展開する音が聞こえてきた。
「……! 敵だね、行こう!」
走り出すスカイについていく俺。数秒走ると、少し開けた空間に出た。
そこでは、イリスと二本足で立つ、毛むくじゃらな獣人――コボルトが数体、向き合っていた。
「グ、グルル……」
「……ふん」
「ひゅぅ! すごいね、イリー」
気だるげだが敵を見逃さないイリスとその姿を力強く見つめるミタマに対して、攻めあぐねるコボルト。よく見ると、イリスの足元に数個の魔石が落ちている。どうやら、すでに何体かやっつけていたようだ。
「グラッ……アァッ!?」
コボルト達が示しを合わせて、イリスへ襲い掛かろうとした瞬間――コボルトの脚が氷漬けになり、力強く地面に転げた。
「――はっ!」
「ガッ!?」
「ギャッ!」
地面に転げたコボルトの脳天に、イリスの杖から放たれた氷柱が突き刺さる。急所を寸分たがわず貫いたその一撃にコボルトは耐えられず、魔石を残して消滅した。
だが、イリスはそれに不満足なようで、憎々しげに魔石を睨んでいた。
「……これじゃ足りない。もっと強くならなくちゃ」
「どしたのイリー?」
「……なんでもない。それより、魔石拾っといて」
「了解!」
一息つくイリスと、コボルトの魔石を拾い始めるミタマ。ミタマが魔石を拾い集めるのを待っていると、横にいるスカイが俺に体を寄せた。
「イリスはね、自分の魔法をすごく鍛えてて、少ない魔力で成果を出すのが得意なんだよ。あと、とってもストイック!」
「確かに、無詠唱であそこまでできてるあたり……錬度がすごいな」
スカイの言う通り、原作ゲームでもイリスは精密攻撃や防御に特化している。氷属性なので炎属性持ちのスカイに不利をとること以外はかなりの高評価だったはずだ。
と、前世の話をしている場合ではなかった。ミタマがそろそろ魔石を拾い終わりそうなので、道の先の方を見てみる。すると、道は二手に分かれていた。どっちも奥から流れてくる魔力濃度は同じくらいで、どっちにボスがいるかは分からない。
「二手に分かれてるが、どうする?」
「分かれましょう。この程度のダンジョンの魔物に遅れをとる私達じゃないでしょ」
その言葉と共に、イリスはためらいなく右側の道へ歩いて行き。
「じゃ、後でまた会おうねー!」
ミタマも、当然かのようにそれについて行った。
……ミタマ達は、順調に絆を紡げているようだ。
この調子なら、ミタマ側は無事に解呪イベントまで辿り着けるだろう。
俺も心置きなくスカイに注力できる。
「俺達も行こうぜ」
「あ、うん!」
ミタマの足音が聞こえなくなった頃、俺とスカイは左側の道を歩き始めた。
*
洞窟を進むと……奥から、獣の呻き声が聞こえてきた。
「グルルルル……」
闇に紛れて見えはしないが呻き声が複数聞こえてくることから、どうやら結構な数がいるようだ。
このまま、お互いの射程に入るまで睨み合い……なんて、そんな下らない駆け引きに付き合っている暇はない。スカイの才能で踏み潰してしまおう。
「スカイ、魔法展開! 隠れてるやつをぶっ潰せ!」
「――うん!」
スカイが魔法陣を展開する。『守護の宝珠』なしで魔法を使うことにも慣れてきたようで、魔法陣は成立する速度も前と同じくらいになってくれた。
『
スカイの魔法陣から炎の竜が飛び立ち、洞窟の闇を照らしながら突き進み――。
「オオオオオオオッ!」
「グギャアアアアアアアッ!!」
コボルトを見つけ次第食らいつき、その体を炎で包んだ。一匹、また一匹とコボルトが炎で包まれ、暗い洞窟の光源と化す。
「グルルルァッ!」
「ルシアス、お願い!」
「ああ、わかった!」
危機を悟ったコボルト達が一斉にスカイへ襲い掛かってくる。スカイは魔法使用直後で休息が必要な状態なため、俺が相手しなければならない。
襲い掛かってくるコボルトの腕を掴んで……。
「――パス!」
「オオッ!」
炎竜へ向けて放り投げる。すると、炎竜はその口でコボルトを受け止めてくれた。炎竜に食まれたコボルトが燃やし尽くされたのか、小さな魔石が落ちる。その勢いのまま炎竜は、スカイへ襲い掛かるコボルト達を轢き、燃やし潰した。
「オオオオ……」
コボルト達を食らいつくした炎竜は、コボルトの魔石を残して満足そうに消失した。炎竜にも満腹の概念ってあるのか……?
魔石を拾いながらそんな下らないことを考えていると、スカイが俺へ駆け寄ってきた。
「終わったね、ルシアス!」
「ああ、身体は大丈夫か、スカイ」
「うん、大丈夫! なんか、慣れてきたっぽい!」
そうか。それだけ魔法を使う反動が少なくなったなら、そろそろ……空を飛ぶのに挑戦してみてもいいかもしれない。飛行用の魔法習得のためには色々手順が必要だから……帰ってから考えるか。
「ねえ、ルシアス!」
「おう、どうした?」
「どうだった? ボクの魔法!」
記憶を掘り起こしていると、スカイが褒めてほしいようで、俺へ体を近づけてきた。確かに、スカイの魔法がすごかったが……実は魔法について聞きたい事がある。
「ああ、凄かった。流石スカイだ」
「ふえへへへ……。ありがとう!」
「……ところで。その炎の槍魔法ってどこで手に入れたんだ?」
原作ではスカイはファイアボール一筋で戦っているはずなのに、いつの間にかスカイは炎竜を槍として直接射出する魔法を覚えていた。いや、ゲーム中では独学で魔法を覚えるイベントがあったので、覚えていても不思議ではないのだが……変な出どころで後遺症があると困るので、念のため聞いておこう。
「
「ああ……なるほど。
これ、あれだ。スカイの特異性の一つ、『
原作ではそもそも決闘祭まで
「どうしたのルシアス? そんなに考え込んで……」
「あぁ。いや、スカイは天才だなって」
「ふえっ……!? な、何言いだしちゃってるのルシアス!?」
「……だからさ。スカイはそろそろ自分の評価に慣れろって」
「慣れるもなにも。凄いのはボクじゃなくてルシアスだし……むしろなんで、ルシアスがそんなにボクを褒めてくれるかが……ゴニョゴニョ」
顔を真っ赤にして、小動物モードになるスカイ。……だから、俺はスカイの才能に寄りかかるただの
……いや、こうして話し込んでる場合じゃないか。とっととこっちの道を踏破しよう。奥で繋がっているなら合流して、繋がってなかったら戻って追いかけて……どちらにしても早く行動しなければイリス達を待たせてしまう。
「まあ、話はこの辺にして。行くぞ、スカイ」
「あ、うん!」
スカイに号令をかけ、一歩踏み出そうとした瞬間――。
世界の全てを凍らせるかのような大寒波が、奥から俺達へ襲い掛かってきた。
「――っ!」
「うわぁっ……!?」
……いや、なんだこの皮膚に突き刺さるような寒波は!? 実家の鍛錬で氷漬けにされた時ぐらいしかこんな寒さを感じたことなかったぞ!?
少し待ってみたが、寒波は収まる兆しすら見えない。それどころかさらに強まっているようにすら感じる。パキパキパキ、という乾いた音が聞こえる方を見ると、洞窟の壁や床、天井の岩が氷によって浸食され始めていた。
「う、うぅ……」
スカイがジャケットを強く握りしめ、体を縮こませて極寒に耐えようとしている。……俺はまだ大丈夫だ、耐えられる。しかし、このままだとスカイが可愛らしい氷像になってしまう可能性が高い。ならば……。
「――スカイ! 魔法展開だ。炎を出してくれ」
「――っ! う、うんっ!」
スカイが魔法陣の展開を始める、が、見るからに寒さで体が震え、集中できていない。当然、こんな状態では魔法は使えないだろう。
「……あ」
外套を脱ぎ、スカイのジャケットの上から被せて、スカイの体温を維持させる。上の服が白シャツだけになるが関係ない。ここはスカイ優先だ。
「ありがと、ルシアス」
俺の外套を被ったスカイの体から震えがわずかに収まった。スカイはそのまま、極寒にも負けず目を閉じて集中を始め――。
『……
「オオッ」
可能な限り少ない所作で、魔法陣から炎球を放った。放たれた炎球から出てきた炎竜は、意図通りスカイに巻きついてその体を温めてくれている。
「ふぅ……」
効果はあったようで、スカイの身体から震えが消えていく。
……とりあえずは、大丈夫なようだ。
「あっ、ルシアスにも炎竜さんを――」
「いや、俺は大丈夫だ」
「え? そんな薄着なのに……?」
「いいから。こうしてスカイの炎の近くにいるだけで俺は十分だ」
……俺は、実家の鍛錬でこういう状況には慣れちまってるんだよな。あと、この何が起こるか分からない状況で魔法を使うことでスカイへかかる負担を考えると、俺なんかの体温維持のために魔法を使わせるわけにはいかない。
「…………!? え、えぇ……?」
「どうした? もしかして、まだ寒いか?」
スカイが、なにかに気づいたようだ。
その顔色は真っ青に染まり、体は再び震えている。
「いや、そっちは大丈夫。それより、この魔力の感じ。イリスの魔力に、闇の魔力が混ざってる。……何が、あったの?」
「……っ!?」
……どういうことだ!? イリスの魔力と闇の魔力が混ざってるという事は、イリスの中にある呪いが顕現したという事で。解呪イベント以外でイリスの呪い――推定『ニーズヘッグ』が顕現するって、それは……イリスルート的に
……思考がまとまらず、顔を上げる。いつの間にか、岩も、魔物も、俺たち以外の世界全てが氷漬けになっていた。地獄を象った魔氷は、死に顔のように青白く発光し、残酷なまでの美しさをもって俺達を迎え入れている。
洞窟内で新しく世界が生まれたという錯覚すら抱かせる絶景。その錯覚は間違いではなかったようで、振り返ると来た道が氷によって閉ざされていた。
もしかして、イリスの呪いの顕現――バッドエンドイベントに巻き込まれたか?
………………。
覚悟、決めるしかないか。
実は、イリスとスカイの交友があるためか、イリスの呪いはスカイルートにてボスとして出てくる。冷気を内包する呪いを、スカイの聖竜炎で無理やり浄滅させるという筋書きだ。
だから、大丈夫。スカイは天才だ。相性有利含めて、今のスカイでも十分に勝機はある……はずだ。
「……行くぞ、スカイ」
「――うん! 急がないと!」
奥歯を噛みしめながらスカイと共に冷気の放出元、凍った洞窟の奥へ駆け出す。
――バッドエンドを、覆すために。