ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
天井が見えないほどの無間が広がる氷獄にて。俺達と邪龍、ニーズヘッグの戦いは……互いの魔法の衝突から始まった。
「かぁっ!」
「
ニーズヘッグより放たれた凍気ブレスとスカイが放った炎竜が衝突する。数秒間拮抗した後、相性有利が働いたのかスカイの炎竜が打ち勝ち、ブレスを突っ切ってニーズヘッグへと襲い掛かった。
「オオオオオオッ!」
「……ちっ!」
空を自在に飛び回るニーズヘッグが炎竜を悠々と躱しきる。が、しかし、余裕のある動きに反して、その表情はこれ以上ないくらいに忌々しそうだ。
「聖竜の、炎! ……クソッ!
どうやら、ニーズヘッグはスカイの炎を見て何か嫌なことを思い出してしまったようで、冷気を無作為に振りまきながら、上空を暴れ回っている。
……今は、情報が欲しい。ちょっと掘り下げてみるか。
「……また?」
「ああ! 酷いんだぜ、あいつら。
流石S級災厄。生きてはいけない存在だ。所業の規模が魔王じゃねえか。
……もう少し、突っついてみるか。
どうして今ニーズヘッグが顕現したかとかの、原作にない情報が欲しい。
「……なんで、そんなのが呪いになってイリスに取りついてたんだ」
「あぁ? ああ。聖竜との戦いで肉体を失ったが、屍肉を蓄積しといたお陰でどうにか呪いとして生き延びてな。長い間、色んな
「……そうか」
こりゃ、ニーズヘッグを復活させた
次は何の話題をぶつけようかと考えを巡らせる。すると、いつの間にか、怒りで顔を歪めたスカイが一歩前に出ていた。
「……なんで、イリスに取りついたんだ! あんな優しいイリスに、なんで!?」
「フィンブルの娘に取りついた理由ぅ? おいおい、そんなん見りゃわかるだろ。ソイツは貴族。つまり、格の高い魂を持ってて、善良だから周囲に
「……随分とおしゃべりだな」
「そりゃそうだろ! 屍肉には、絶望っていうスパイスが必要不可欠だからなぁ! 楽しいおしゃべりの最後に『死』を突き付けてやると、どいつもこいつも美味いぐらいに絶望してくれるんだぜぇ! 最高だろ!?」
待ってましたと言わんばかりにべらべらと語りだすニーズヘッグ。呪いになっている間は魂に押し込められて他者との交流とかなさそうだったし、そっち方面のやりとりにも飢えているのかもしれない。
「……なんで? なんで、そんな酷いこと出来るの?」
……あ、まずい。ニーズヘッグが外道すぎて、スカイが怒りを通り越してドン引きしてしまっている。
魔族は皆、歪んだ
「……スカイ、まともに取り合うな。アイツはひとの言葉を話していない。住んでる世界が違うんだ。だから今は――イリスを助けることだけ考えろ」
「確かに。ルシアスの言うとおりだ。怒りをぶつけるんじゃなくて、イリスのために……」
「――師匠! 緊急事態! イリーが、このままだと死ぬ!」
「――なっ!」
「……えぇ!?」
ミタマの叫びに応じて、俺とスカイは同時にミタマの方を向いた。
ミタマに抱きかかえられたイリスは、顔を見ただけで明らかにまずい状態だと分かってしまった。顔色が蒼白、眼は虚ろ。僅かに開かれた口から行われる呼吸には、全く生命という物が感じられない。
「――イリスッ!」
スカイが我を忘れてイリスへ駆け寄ろうとする――のを、手で制止する。
「ダメだ、スカイ。お前は、ニーズヘッグを抑え込め」
「……っ! ……分かった。でも……絶対に、イリスを助けて!」
スカイにニーズヘッグを任せ、イリスの様態を見る。
……この症状は原作でもあったから知っている。魔力を吸い上げられ、抵抗ができない状態でニーズヘッグ顕現の負担をモロに食らってしまったために、体が内部からボロボロになってしまったのが原因だろう。
「はぁっ、はぁっ……! イリー! 死んじゃ、ダメ……!」
そう呼びかけ続けるミタマの方も、右腕に深々と刺さっているナイフがかなりの負荷になっているせいで、呼吸が浅い。
このままだと、イリスも、ミタマも……いや、皆死ぬ。
この状況を突破する方法は、一つだけ。
それは……。
「ミタマ、いいか?」
「なに!」
「――魔法を、使ってくれ」
「…………えっ? わたしが?」
――ミタマの、魔法だ。
ミタマの先祖、天の御子。彼は最終的に、その功績をたたえられて天界へ召し上げられていた。そんな彼は、天界で子孫を残す際に――神と交わっている。つまり、ミタマには神の血が混じっているのだ。
神の血はミタマへ様々な才能を与えた。ミタマの魔法――聖属性魔法もその一つ。イリスルートで必要な
「ああ。ゴーレム訓練場で魔法を使おうとしただろ? あの時、ミタマが使おうとした魔法が、今のこの状況を突破できる鍵になるかもしれない」
「……わかった、やってみる!」
ミタマは息を整えると、両手を結び、手に魔力を溜め始めた。
あとは、ミタマを信じて待つだけ。俺はスカイの補助に戻ろう――。
「……ししょー」
と、した瞬間。ミタマが俺を呼んだ。
普段の元気のあるミタマからは考えられないほどの、弱々しい声。
見ると、手が震えて、魔力が集まっていない。
「どうした、ミタマ」
「ごめん。背中、押してほしい、ちょっと、不安が、すごくて」
「……不安?」
「うん。魔力、練らなければいけないのにさ。何者か分からないわたしに、本当にイリーを助けられる力があるのかなんて、そんな、馬鹿みたいなことを考えちゃうんだ。だから……」
目をわずかに伏せ、ばつの悪そうに言いよどむミタマ。
……そりゃ、不安か。俺はゲーム知識があるから、ミタマが聖属性魔法を使えるということを知っている。しかし、ミタマにはそれを知る由がない。その不安が、ミタマから魔法を使うための集中力を奪ってしまっていたのだろう。
……しかし、ミタマへの励ましの言葉、か。
正直、
「……大丈夫だ、ミタマ。きっとできる。だってお前は――
俺みたいな
「わたしが、わたし……だから。そう、だ! わたしはイリーの
どうやら、俺の言葉はいい方向に働いてくれたようで、ミタマの顔からは不安が消え、手には魔力が集まり始めていた。
ミタマの方は、とりあえず大丈夫だろう。スカイの方を向くと――。
「おいおい、もう楽しいおしゃべりは終わりかよ寂しいなぁ! じゃあ、とっとと……串刺しになって死ねよ! 聖竜!」
大量の氷剣が、空を舞うニーズヘッグからスカイへ向かって放たれていた。
「スカイ!」
「……うん!」
『俺が止める』と目くばせをして、氷の剣を蹴り砕く。破片と化した氷剣が甲高い音を立てて地面に落ちたのを確認したスカイは、俺へ目線を向けた。
「……イリスは?」
「全部ミタマに任せてきた。俺達で守るぞ」
「わかった!」
「ああ、本当にうぜえなあ聖竜! とっとと死にやがれ!!」
炎を向けられたニーズヘッグは聖竜との因縁が再発したせいか、俺やミタマの動向に目もくれずスカイに執着してくれている。
ニーズヘッグが氷塊や氷剣といった物理的な攻撃と、ブレスや冷気といった魔術的な攻撃を織り交ぜて確実に俺達を制圧しようとしている。大丈夫か? コレ、時間を稼ぎ切れるか……?
「はぁああああああ……!」
ミタマを見やると、合わせた両手に、魔力が溜まり始めている。
その手を、イリスが弱々しく掴んだ。
「み、たま……」
「はっ! イリー! 今助けるから。あと少しだけ、頑張って!」
「なん、で。なんで、こうまでして助けてくれるの? 私みたいな、何かを傷つけたばっかの、
「――違う! イリーは、化け物なんかじゃない!」
「そうだよ! 化け物なのはアイツの方だよ!」
イリスの自嘲に、ミタマとスカイが反論する。
「……っ。でも、私は……」
指摘を受け入れる事ができないようで、目を背けるイリス。
ミタマは一瞬だけ結んだ両手を離し、彼女を抱き寄せた。
「あ……」
「イリーの気持ち、分かるよ。他人から拒絶されて、どうしようもなくて。一人ぼっちで、他人を信じることを辞めちゃいそうになる。でもさ、そんな時に出会ったのが――」
「……ルシアスでしょ」
「それがね、イリーなんだよ。イリーがわたしと契約してくれなかったら、一番最初の繋がりを作ってくれなかったら、わたしは皆と繋がれなかった」
「えっ……」
堂々と宣言するミタマ。虚ろだったイリスの眼が、僅かに開かれる。
実際それはそうで、ヒロインと契約ができなかった、契約が切れた
「だから、これはお返し。イリーがわたしを救ってくれたように。わたしがイリーを助けるの! イリーの友達として――
叫びと共に、イリスを間に挟んで結ばれた手に集まった魔力が、クリーム色に発光を始める。それを見たニーズヘッグの、眼の色が変わった。
「なんだ、それは……!? させるかよぉ!」
「ミタマの邪魔はさせないよ!
ブレスを放とうと息を吸い込むニーズヘッグに対抗して、スカイが魔法を放とうとしたが……限界が来てしまったのだろう。スカイは体勢を崩し、膝を付いてしまった。
「ごめん、ルシアスっ……!」
「謝らなくていい。よく頑張った、スカイ」
いや、もうこれは仕方がない。スカイは一人でニーズヘッグを抑え込むため、反動を無視して魔法を行使していた。冷気で無理矢理身体を冷やしていたとはいえ、無理が出てきてもおかしくはない。
あとはもう、時間との勝負なんだが……。
「魔法の基本は、貯めた魔力を――外へ発散させる、だよね!」
どうやら、間に合ってくれたか。
「……ふぅ」
ミタマは魔法陣が生成されたのを確認すると、軽く深呼吸をした。詠唱を始めるために、更なる集中をしているのだろう。
「わたしは、なんにも知らない。誰なのか。どうしてこんな魔法が使えるのか。なんっにも、分からない。……でも、そんなわたしにも、大切な人がいるんだ」
ミタマが、合わせた手を上に掲げる。血に濡れた右手とまだ無事な左手が重なり、さらに淡く発光したことで、一種の絵画のような幻想性を帯びている。
「敬愛する師匠。大切な友達。そして、こんなわたしと契約してくれた優しい
ミタマの叫びと共に、魔法陣が完成する。陣は、更なるまばゆき光を放ちながら地面に投影された。
『――
ミタマの詠唱により、魔法陣から放たれたクリーム色の暖光が、辺り一面を覆う。
それは、あらゆる物を守り、癒す――聖なる神の光。光に触れると、ここが氷獄であることを忘れてしまうほどの、柔らかな暖かさが体を包む。
「これが、わたしの、魔法……!」
光に当てられたミタマの腕の傷が、すごい勢いで癒えていく。
「お、おぉ……。すごい。体に、暖かい何かが入ってく……」
片膝ついていたスカイも、いつの間にか背を伸ばして立てるようになっていた。
スカイの体も、癒やしてくれていたようだ。
「が、ぁあっ!」
回復を阻止しようと、ニーズヘッグが大きなためをして、全力のブレスを放つ。
耳をつんざく高音と共に、オーロラを帯びた絶死絶凍のブレスが、ミタマに向かって放たれた。が、そのブレスは守護の光にかき消されて消えた。
これが聖属性魔法の一つ、『聖天の
ブレスをかき消した聖光はそのまま広がり、ニーズヘッグをその範囲内に入れた。
その瞬間、肉が焼けるような音と共にニーズヘッグの体の一部が黒い靄に分解され始める。
「……な、何ぃ!? ぐっ、おえええええええっ!?」
聖なる魔力はニーズヘッグにとっては相当不快なものだったようで。ニーズヘッグは嗚咽を残し、上空へ退避していった。……しばらくは、戻ってこなさそうだ。
「できちゃったね。イリー」
「あ……」
聖なる光によって、死の淵から突き落とされそうになっていたイリスの体に、活力がみなぎっていく。ミタマは、改めてもう一度、イリスを優しく抱き寄せた。
「これでもう、イリーが何かを傷つけることはなくなったね。だって――わたしが全部、治しちゃうんだから!」
「……っ!」
イリスの口の端が、僅かに歪む。イリスはそのまま、恐る恐る。錆びついたドアを開けるかのように。ぎこちなく、口を開いた。
「……ねえ、ミタマ。……もしかして。私って……生きてて、いいの?」
「ん? うーん。他の誰かがなんて言うかは分かんないけどさ……」
ミタマがにぱっと、花が咲いたような笑顔をイリスへ向ける。
「――わたしはイリスに、生きてて欲しいな」
「……っ! あ、うぅ……。うぁあああ……」
ミタマの聖母のような優しさがやっと、イリスの心に届いたのだろう。イリスの眼からは、とめどない大粒の涙が流れていた。
「……すぅ」
そのまま、十秒ほど泣き続けたイリスは、緊張の糸がぷつりと切れてしまったのだろうか。ミタマを枕にして、そのまま意識を失ってしまった。その寝顔は、母親に抱かれて眠る子供のように幸せに満ちている。
「……ごめんっ、師匠。わたしも、限界かも」
ミタマも、魔法を使うのに精神の全てを使ったのだろう。眼は焦点があっておらず、気を抜くとふっと気絶してしまいそうなほど、体がふらふらと揺れている。
「……その前に一つ、お願い、していい?」
「なんでもしてやる。遠慮なく言ってくれ」
ここまで頑張ってくれたんだ。なにしたっていい気分だ。
「頭、撫でてほしいなーって」
「……そんなんでいいのか?」
「それが、いいんだ」
そう断言されてしまっては返す言葉もない。
ミタマの頭に触れ、黒髪を優しく撫でる。
「……わたし。少しでも師匠みたいな立派な
「ああ、なれてるよ」
「にひひ~。やったぁ」
だらしなく、表情をとろけさせるミタマ。
いつの間にか、その眼はとろんと虚ろになっていた。
「わたしは、もっと、師匠に色んな事を教えてほしいから……絶対に勝ってね」
「――勝つよ、絶対に!」
「だから、ゆっくり休んでてくれ。ミタマ」
「……うん」
緊張の色が切れたのだろう。
ミタマもまた、イリスを抱きしめながら――意識を手放した。
*
「――さて、と。……考えていることは同じか? スカイ」
「……うん」
腕のストレッチをしながら、改めてミタマの展開した聖結界を観察する。聖結界はミタマを起点に光を放っているが……段々と縮小を始めている。この調子だと、一分後にはミタマの周り以外包み込めない、最小状態になるだろう。
確か、聖結界は、最小状態になっても少しの間存在を維持してくれる。だが、それが壊れたら再び、絶死の凍気がミタマ達に向かって流れ込むだろう。それまでに、ニーズヘッグを倒しきらなければならない。
しかし、ミタマが聖魔法を使うという奇跡を起こして尚、俺達はスタート地点に立ったに過ぎない。何故なら――。
「ねえ、ルシアス。どうすれば、あのニーズヘッグに傷を負わせられるか……思いついてたり、する?」
――俺達はまだ、ニーズヘッグにまともな傷一つ負わせることができていない。
魔法で打ち勝っても、ニーズヘッグは広大な氷獄の全てを使って炎竜を躱してくるため、攻撃が当たらないのだ。ただ一つ、攻撃を当てる手段があるのならば――。
「ああ、思いついてる」
「本当!? 何をすればいい!?」
相手が、空を飛んでいるせいで攻撃が当たらないのならば――。
「空を、飛んでくれ」
こっちも、空を飛べばいい。
戦乙女には、スカイには、それができる。
「……ボクが、そらを、とぶ?」
「ああ。今のスカイには、空が飛べるだけの能力が備わっている」
「え、でも、ボク……空を飛ぶための魔法をどうやって使うかが分からない」
……本来、空を飛ぶためにはイベントを発生させる必要がある。だが、もう原作通りなんてそんな悠長なことを言っていられない。何もかもがゲームと違うこの世界で、こっちがゲーム側に合わせてやる筋合いはない。
――あらゆる手を使って、一か八かを押し通せ。
「スカイ。前にラーミアと出会った時、ラーミアが黄金の羽を生やしたのを覚えているか? あの時ラーミアは羽を生やすために魔法陣を展開していた。その魔法陣を再現できるか?」
……正直、これは自分で言っててもかなり無理な提案だ。数週間前に一瞬見えただけの複雑な図形を覚えているなんて、不可能に近い。
「いや、やっぱなし――」
仕方がない。出所を聞かれることになっても原作知識を切り崩して、具体的な魔法の内容を――。
「――あれだね! わかった、やってみる!」
「……できるのか?」
マジか。スカイってそっち方面の能力も高かったっけか?
「うん! らーちゃんとの出会いは数年ぶりだったからね! 次いつ会えるか分からないし、何回も思い返してたんだ!」
いや、違うなコレ。単にラーミアへの友情が重いだけだ。
まあ、なんにしても覚えていてくれるのなら、それを使わせてもらおうか。
「だったらありがたいな。それで、空を飛んだ後は――地面にブチ落とすことだけ考えてくれ。炎と竜の力が混じった、最高の一撃でな」
「とにかく一発、ぶっとばせばいいんだね!」
「ああ。任せた、スカイ」
「任された!」
揚々と魔法陣の展開を始めるスカイと背中合わせの状態で、周囲の警戒を行う。
「えーと、らーちゃんが使う魔法陣がああいう形なんだから、それをボクが使うためには……」
スカイはゆっくりと、だが、確実に魔法陣を組み上げていく。そうしている間に、聖結界は寝ているミタマとイリス以外入れないほどに小さくなり――聖結界から出ると、再び冷気が体を凍らさんと襲い掛かってきた。
呼吸するだけで肺を刺すほどの冷気は、さらに強くなっている。どうやら、ニーズヘッグが戻ってきたようだ。
「どうやら、あの聖なる力はもうねえみてえだなぁ! ちぃとばかし驚いたが、あれだけの魔法が使えるという事は、最高級の肉ってことだろぉ! 余計腹が減って来たぜ!」
「らーちゃんよりボクの体の方が、色々と小さいから、それに合わせて……」
空より飛来し、高笑いするニーズヘッグ。だが、その声は集中するスカイへ全く届いていない。
「……っ! 無視してんじゃねえよ、聖竜!」
明らかな無視にニーズヘッグは眉をひそめたが……すぐに、歪んだ笑顔を浮かべた。
「そこの聖竜は動けない。つまり、炎は使えないという事だよなぁ!」
即座に、ブレスの体勢へと移るニーズヘッグ。確かに、さっきまで俺は氷塊を砕いてばっかで、ブレスの対処はスカイに任せていた。
――だからといって、ブレスへの対策を俺が持ってないわけではない。
ニーズヘッグがブレスを吐かんと口を開いた瞬間を見計らい、地面に落ちている大きめの氷塊を放り投げた。
「――らっ!!」
「あぽぉっ!?」
元々凍っている氷塊は凍ることなくニーズヘッグの口へ飛び込み、すっぽりと嵌った。
「ぐ、げほっ、げほっ! てめぇええええええっ!」
口に放り込まれた氷塊を咳き込むように吐き出したニーズヘッグ。額に青筋を立て空を舞い、オーロラを纏ったブレスを放とうと、強く息を吸い込んでいる。
「聖竜のおまけのゴミ風情がぁ! うぜえんだよぉ!」
あんな不規則な動きをされたら、氷塊をぶん投げても当たらないだろう。
……やっぱり、俺では一回しかブレスは止められないようだ。
「――できたっ!」
だが、この一回で十分な時間を稼げたようだ。構築された魔法陣から赤い光が放射され、スカイを包む。その光からは、氷獄の寒気をかき消すほどの、確かな熱が感じられた。
「今追いつくよ。らーちゃん!」
光が晴れると、スカイの体はより飛行に適した特別な存在へと作り替えていた。
まず、頭に大きな円錐形の角が生え、鋭爪が竜の暴威を示すように生える。衣服は竜の鱗を模した、背中からお尻にかけてがほぼ丸出しの露出が多い赤色軽鎧に置き換えられ、尾てい骨の辺りから重圧感のある尻尾が伸びる。
だが、何よりも眼を引くのは。背中から生える、誰もこれで空を飛べることに文句を言わないぐらいの説得力を持った――燃えるように真っ赤な竜翼!
「――これが、ボクの空を飛ぶための魔法!」
これが、スカイの――飛行用形態!
『