ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう 作:マテリ-AL
「じゃあ、ちょっと行ってくるからこの部屋で待っててくれ」
「分かった! この部屋探検してるね。……あっ、ソファーがふかふか」
スカイと契約を結んだ俺は、シャワーで体を清めた後、スカイを寮の部屋に置いて出かけることにした。寮の部屋は
ヒロインと同じ空間で過ごせるというのは、一見役得に見える。しかし、やらかすとヒロインからの好感度が下がるため、育成的には嬉しくない。
実際、前世の『ソルキリー』新規勢が、最高に上手く行っていた育成をラッキースケベの好感度ダウンで潰され、『ラッキースケベしたら腹切って詫びろ!!!!』とTV画面へガチギレしていたのは、笑い話として前世の記憶に強く残っている。
……よくよく考えたら、俺にとっては笑い話ではない。そもそも
脱線していた話を戻すと、俺はこれから寮の一階にある購買へ買い物に向かう。目的は、スカイ育成のために必要な物資を買い上げるためだ。資金のために私物を売らないといけないが……後で取り戻すから何の問題もない。
購買で私物を質に叩き込み、必要な物資を買い上げ、部屋に戻る。すると、スカイが右手を前へ突き出し、魔法を展開しようとしていた。
「ふぁいあぼーーーる!」
間が延びた詠唱。だが、スカイの手からは魔法陣すら展開されなかった。
「……うぅ。またダメだったよぉ」
スカイはがっくしと肩を落とし、膝から崩れ落ちた。
「……何やってんだ?」
「あ、おかえり! ルシアスと契約したら魔法が使えるようになるんじゃないかと思って、やってみたんだけど……」
「……待て。もし成功したら部屋が大惨事にならないか?」
まあ、そこは流石の
「うぅ……。魔力がいっぱいあるのに、どうして魔法が使えないんだろう……。せっかくルシアスと契約したのに、これじゃ迷惑かけちゃうよぉ……」
……そもそも
「……気にすんなって。それより、パーティに出てないから飯食えてねえし腹減ってるだろ? 飯作るから食おうぜ」
このゲームでは料理を作ってヒロインに食べさせるのが基本の育成論だ。その辺の管理をしないと、ヒロイン達は自分が好きなものしか食べない。
袋から材料――肉や野菜。パンに卵に香辛料――を取り出してテーブルの上に並べる。だが、それを見たスカイは、さらに少し表情を曇らせた。
「あ、ごめん。ボク、お肉ダメなんだ。味とか食感が……」
「……そうか。じゃあこれは自分用にするとして、また違うの作るわ」
「ごめんね、ありがとう!」
ククッ……。こんなこと言っておいて悪いが、残念ながら、俺はこれから一計を案じ、スカイに肉を食わせる。
……いや、食わせなければならない。スカイが強くなるために。
肉にパン粉や卵などを大量に混ぜ、
『ソルキリー』では、こうして肉を食べさせると肉体、魚は知能、お菓子だと魔力、野菜では精神が成長するようになっている。
その上で言うが、スカイは肉体が貧弱だ。他の能力に比べて圧倒的に足りていない。なのに肉嫌いで基本的に食べてくれないため、肉体が成長しない。
そのために、柔らかハンバーグを作る。これならスカイも食べられるし、むしろ大好物になってくれる……はずだ。
あとは、どうやって一口目を食べさせるかだが……。
肉の油と
「どうした? なんか気になるもんでもあるか?」
「その、なんか、とってもいい匂いがして、気になって……」
「……今作ってるのには肉が入っている、が。一口だけでも、頑張ってみるか?」
「う……うん。すっごく、美味しそうだし……」
ちょうどいい具合に焼き上がったハンバーグの破片をフォークで突き刺し、スカイの口へ運ぶ。スカイは破片を口へ入れた瞬間――眼を大きく見開き、一気に飲みこんだ。
「はふっ……!? な、何これ!? 本当にお肉!? 柔らかくて、香ばしくて……すごくおいしい!」
眼を輝かせながら、すごい勢いで俺に近づいてくるスカイ。それに反応して、ハンバーグを付け合わせが既に置かれている大皿に移し、スカイの前に差し出した。
「ハンバーグっていうんだが……もっと食うか?」
「うん! 食べる!」
すごい勢いで俺から皿を受け取り、重そうに机へ運ぶスカイ。
……そんな美味いのか。俺には作り方の知識だけで味に関しては実感がない。
ちょっと、もう一つぐらい作ってみるか――。
「――おかわり!」
「食うの早いなっ!?」
……あと五つぐらい作るか。
*
楽しい晩餐を終えた翌日、俺たちは学園の屋外訓練場に集められていた。最初の授業は
魔法学の先生に呼ばれた
「
今、とある
「……ランク、E!」
魔法学の先生による無慈悲な宣告が学生皆に聞こえるレベルの大きさで響き渡る。それを見たスカイは自信なさげに縮こまった。
「うぅ……ボク、大丈夫かな?」
「ああ、いける。そのために、用意したものが――」
「無理に決まってるでしょ」
「……あぁ?」
生意気な声に反応をして後ろを振り向くと、昨日スカイを詰めていた気の強そうな赤髪の
「……何の用だ?」
「見物だよ。恥知らずという名の見世物のね」
「……随分な言いぐさじゃねえか。契約して、天才の名に恥じない性能になってるってのによ」
「へぇ。で、アンタ魔法使えた?」
金髪の男の脇から赤髪の
確かに、スカイは、みんなが集まる前で、魔法を使うこともできないという醜態を晒してしまう。
……
「だから言ったでしょ。落ちこぼれ同士地べたを這いずってなさいってね。と、呼ばれたみたいね、行きましょ」
「僕達が才能の差を見せつけてやるよ。一生かかっても覆ることがない本物の天才ってものをな」
先生に呼ばれ、歩き出す気の強そうな赤髪の
『
そう唱えた瞬間、赤髪の
「……ランク、B!」
「おお! 流石、伯爵家コンビ!」
「この学校で
「…………」
その宣言を聞いた周囲の生徒から、歓声と拍手が沸き上がる。しかし、俺は息の詰まるような気持ちになっていた。
……会いたくねえなあ。
「次、スカイ・ジーニアス!」
「う……うぅ……」
先生がその流れのままスカイの名を呼ぶ。
しかし、スカイはさらに表情を曇らせたまま、俺の影に隠れて震えている。
……これからスカイが天才であることをこの学園にいる全
「スカイ、これ持っとけ」
スカイに、昨日購買で買っておいたスカイが魔法を使うための必須アイテム、『守護の宝珠』を渡す。杖などを媒介として魔法を使っている
「ん? ……これは、宝石? なんか、高そうだけど……」
スカイは琥珀色のそれを受け取ると、不思議そうに撫でまわした。そんなスカイの背中を軽く押し、励ましの言葉を贈る。
「俺からスカイへ送る、ラッキーアイテムだ。これさえ持ってりゃ万事うまくいくから、胸張って行ってこい」
「え? で、でも。今まで色んな魔法道具使っても駄目だったのに……」
「確かに、このアイテムへの信頼はねえかもしれねえな。じゃあ、
「う、うん……! ルシアスが、ボクを天才って信じてくれたから! ……その分だけでも、頑張ってみる!」
スカイは僅かながらに自信が湧いて来たのか、拳を握りしめ、前を向いて歩きだした。
……右手と右足が両方同時に動いているのが気になるところだが、まあ大丈夫だろう。所定の位置にスカイが到着すると……周りからヒソヒソ話が聞こえてきた。
「おいおい。次はあの落ちこぼれ
「どうせ退学するのに。学園長も、なんであんなのをこの学園に入れたのかしら」
「あの
「いえ、あんなのに騙されるなんてどうせ碌な
……
そんな心無い陰口を背に、赤髪の
「――魔法展開!」
だが、それより先に先生の声が辺りに響き渡り、俺は視線をスカイへ移した。そんな俺の耳に、赤髪の
「無駄よ。あの落ちこぼれに、攻撃魔法は使えない。神様に見捨てられてるのよ、あの落ちこぼれは――」
「悪い。ちょっと黙っててくれるか? 竜が
「……は?」
これからスカイの魔法を見るのに、これ以上余計な情報を脳に入れたくないため、赤髪の
赤髪の
『――
スカイがそう唱えた瞬間、『守護の宝珠』が赤く発光し、竜が描かれた魔法陣が展開される。同時に、太陽と見まごうほどの輝きを持った大火球が的へ向かって剛速球で放たれた。
「…………えっ?」
「はぁっ……!?」
その大火球は貴族二人が素っ頓狂な声を出している間に的へ直撃し――。
ドゴォオオオオンッ! という爆発音が耳をつんざいた。
地面がわずかに揺れ、熱気が訓練場全体を覆う。爆炎は球形を維持したまま的を覆い、燃やし尽くし始めた。
「……おお。すげえな」
その魔法のあまりの強大さに、つい口から感嘆が漏れてしまう。なんというか、記憶にあるのとこうして直接近くで見るのとでは、迫力に天と地程の差があるな。
「そんな、そんなっ……!」
あまりに信じられないものを見たのか、赤髪の
「――そんなわけない! きっとアレは幻覚よ! そうに違いないわ!」
取り乱した彼女は、冷や汗をまき散らしながら炎の方へ走り出そうとした。
……いや、待て。まだ、
「危ないから近づくんじゃねえよ。つーか、現実見てくれ。熱気がある時点で幻覚の線は薄いだろ」
肩を掴んで、彼女の動きを制止させる。すると彼女は、原型がないほど歪ませた顔を俺へ向けてきた。
「なんで止めるの!? やっぱりあれは幻覚で、それがバレたくないから……!」
「違う。
俺がそう告げた瞬間、的を焼いていた炎球が割れ、永遠に消えない炉心のような眼と輝ける灼熱の翼を持った炎の竜が中から飛び出し――咆哮した。
「――オオオオオオオオオオオオッッ!!」
周囲の空気が熱されたことで発生した上昇気流が、髪を巻き上げる。
炎竜の体からまき散らされた鱗が、赤髪の
「ひ、ひぃっ……!?」
「うわあああああああああっ!?」
そのあまりの迫力に、尻もちをついて地面にへたり込む赤髪の
正直こいつらは多少痛い目に合った方がいいと思っているが、大怪我するとなると話は別。スカイは善性が強いため、メンタルにダメージが入ってしまう。
……しかし、改めて現物を見るとすごい迫力だな。
スカイの持つ特異性の一つ、『竜魔法』は。
「オオオオオオオオオオオアッ!!」
「うおっと……」
ようやっと出てこれたことを歓喜するかのように、炎竜が首を天に向け、紅蓮の
『竜魔法』。竜の血が魔力に呼応し、魔法が竜化する現象。
スカイに流れる最高位の竜――聖竜の血は、ただの炎球魔法を天へ咆哮する炎竜の卵にまで進化させるほどの、強大な力を有している。
だが、実はこれが、スカイが魔法を使えなかった原因でもある。
強力な魔法を放つ際には、反動で肉体に強い負荷がかかる。それを受け止められる器がないスカイは、どれだけ強く願っても身体が魔法を拒絶してしまっていたのだ。
俺が渡した『守護の宝珠』は、市販品の中で、反動を吸収する力が一番強い宝珠。その力のお陰でスカイはこうして、攻撃魔法を解き放つことができるようになったわけだ。
だが、『守護の宝珠』でも、中級竜魔法以上の反動は耐えきれない。だから、スカイに
――魔法の天才に肉体という器を伴わせる。
それが、
ちなみにだが、『スカイが竜種の血を引いている』以外のここまで説明した事はゲーム中全てノーヒント。前世の俺が万を超える回数の検証を重ねて編み出した育成論だ。
それはつまり、途轍もないスカイの屍の上に成り立っている育成論というわけで……やっぱ、『ソルキリー』って鬼畜ゲーだわ。気を抜いちゃダメだな、こりゃ。
「……え? なに、コレ。ボク、こんなこと、できたの……?」
魔力が切れ、消滅し始めた炎の竜を見上げながら気合を入れなおしていると、スカイから空気が漏れ出したような、呆然とした声が聞こえてきた。いや、天才が自分の力に慄いてちゃダメだろ。まずは、誇ってもらわねえと。
そのために、スカイにはまず、自分の持つ強大な力。つまり、天才性を客観的に評価してもらう経験を積ませねえとな。
「先生、ランクをお願いします」
「えっ!? あ、あぁ! ……ら、ランク、S!」
「いやこれ、Sどころじゃないでしょ……」
「あんな規模の魔法を使えるなんて、一線級の
俺が促したことで正気を取り戻した先生が取り繕うように凛と宣言する。しかし、周囲から歓声や拍手はなく、ただ、ざわめきや恐怖の声があるだけだった。
ククッ……。まあ、仕方ないか。本物の天才を見ちまったんだからな。
「やべえよ……。落ちこぼれのスカイをあんな魔法が使えるまでにするなんて、何をしたんだ……?」
「あの
「私も、あんな天才
……? なんか、周囲からの目線が俺にも集中している気がするが……。
ま、気のせいだろ。
俺は天才の力に寄りかかってるだけの、ただの