ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第21話:『黄金の光』

「――はっ!」

 

 目が覚めると同時に、俺は椅子から立ち上がっていた。

 まず鼻腔を突いたのは、薬品の匂い。周りを見渡すと、青白い窓から射す月明かり以外の光源がない暗がりの中に、ゲームで見たことがある薬瓶棚と魔法陣があった。恐らく保健室なのだろう。……なんで俺、こんなところで寝てんだっけ?

 

 確か、ニーズヘッグを倒した後、学園長が俺達を迎えに来たんだよな。

 それで、気を失ってるミタマやスカイを、とりあえず柔らかいベッドで寝かせようって話になって……そうだ、俺とイリスはそれに付き添ったんだ。

 

「ふぅ……」

 

 額の脂汗をぬぐいながら一息、というより溜息をつく。

 

 ……また、あの夢を見た。

 薄暗い森の中。俺は泥に這いつくばっていて。まばゆく、天高く、世界を照らす『黄金の光』を地上から()()()()()()()()の夢。

 

 剣を抜いた日はいつも、この夢に打ちのめされる。

 ……俺は、『特別』になれない。ただの凡人なんだって。

 

 ()()ばかりは、ゲーム知識でもどうにもならないようで。

 いや、むしろ助長させてたりしているのかもな。

 

 気分転換に窓の外を見ると、金色に光る一等星が夜空を支配するかのように輝いていた。

 

 窓を開け、星に手を伸ばす。

 当然、届かない。届かないよう――世界がそうできている。

 

『貴様は(ワタシ)の騎士になり、共に未来を切り開くんだ』

 

「ラーミア」

 

 なんで、お前は……。

 ……………………。

 

「るしあす……」

 

「……!?」

 

 スカイの声、もしかして気づかれたか!?

 慌てて窓を閉め、振り返ってみると……。

 

「むにゃむにゃ……おかわり、るしあす……」

 

 窓際のベッドで、可愛い寝顔のスカイがぐっすりと寝ていた。……寝言だったか。というか、スカイの寝相無茶苦茶悪いな。どういう寝方をしたらベッド上の寝具が全部叩き落とされるんだ。

 

 このままだと風邪をひいてしまいそうだし、掛け布団だけでも拾って、スカイにかけ直しておく。

 

「ありがと……るしあす……ふえへへへ……」

 

 ……本当に、起きてねえんだよな?

 もう、変に名誉とか期待とかをかけられるのは勘弁だ。

 

 俺は天才であるスカイに寄りかかり、金をかすめ取る……ただの凡人(モブ)だ。

 

 

 だから、凡人(モブ)に相応しくない執着(これ)は早く捨てないと。

 執着(これ)が俺を、破滅へ導くんだから。

 

 

 *

 

「う……ん。あ、るしあすだ。おはよー」

 

「おはよう、スカイ。眠かったらまだ寝ててもいいぜ?」

 

 翌日。太陽が南の空に昇り切る前。ようやくスカイが起きた。だが、スカイは寝起きがあまり強くないのか、何というか……全体的にぽやぽやとしている。

 

「うぅん。大丈夫だよ。……みんな、起きてるし」

 

「よし、全員これで起きたわね。では、話を始めるわ」

 

 イリス、スカイ、ミタマ、イリスの四人全員が起きたのを確認した学園長は、大きく手を叩いた。全員の視線が、学園長へ向く。

 

「まずはみんな。S級災厄相手に……よく、頑張った! 戦い抜いた!」

 

 そう宣言した学園長の声色には、万感の想いが乗っていた。

 

「学園長として、先生として、戦乙女(ヴァルキリー)の先人として! あなた方全員が一人も欠けずに生還したのを、これ以上なく誇りに思うわ」

 

「おぉ……学園長先生に褒められちゃった」

 

「にひひ~。何かご褒美とかあるかな~」

 

 学園長に褒められたことで、スカイとミタマの間に和やかな空気が流れ始める。

 

「そうね褒め言葉だけじゃ何にもならないからね! ちゃんと、報酬――お金も用意してあるわ! 嬉しいでしょ!」

 

 学園長が後ろから取り出した布袋を俺達の目の前に叩きつけると、金貨が袋から溢れ、地面にぶつかる音が部屋中に反響する。その無機質な音により、スカイ達の間に流れていた和やかな空気が一気に崩れた。

 

「嬉しいけど。なんか……違う」

 

「……お金って消耗品じゃん。もっとこう、形に残る記念品が欲しかったなー」

 

「あれ!? こういう時ってお金を渡せば喜ぶもんじゃないの!?」

 

「学園長。私達はまだ、汚い大人になりきれてないわ」

 

「うぐっ……!」

 

 価値観の相違にショックを受ける学園長にイリスの突っ込みが刺さる。いや、俺は滅茶苦茶嬉しいんだがな。スカイの食費に困窮することが無くなるし。

 

 ただ、気になるのが……。

 

「……そのお金、何に対してですか?」

 

「何って、ニーズヘッグを倒した報奨金だけど?」

 

「俺達が倒した確たる証拠はないのに、報奨金って出るんですかね?」

 

 そう、ニーズヘッグの倒し方が魔力切れだったせいで魔石が出ず、そのせいで撃破証明ができないのだ。第一形態で倒しきれていれば魔石が出たのだが、そこは贅沢言っていられる状況ではなかったため仕方がない。スカイに適切な指示を出せなかった、俺の責任だ。

 

 その考えから指摘をすると、学園長は少しだけ渋い顔をした。

 

「……鋭いわね。実はこれ、ニーズヘッグを倒した報奨金じゃなくて、イリスちゃんから、ニーズヘッグを追い払ったことへの報奨金なの。それなら、証明できるでしょ?」

 

「……ん? じゃあ、そのお金の出どころって」

 

「ええ。察しはつくかもしれないけど、フィンブル侯爵家――イリスちゃんが元居た貴族家よ」

 

「…………っ!?」

 

 フィンブル侯爵家。その名前が出た瞬間、イリスは見るからに動揺――歯を食いしばり、その眼を伏せた。

 

 そういや、イリスって呪いが暴走したせいで家族と縁を切ってたな。だが、侯爵家出身なのは初めて知った。かなり高貴な身分だったんだな、イリス。

 

「……今更何? 私の首に、懸賞金でもかけたの?」

 

「違うわ。イリスちゃんからニーズヘッグがいなくなったことを報告したら、徹夜で用意して渡してくれたのよ。……この手紙と一緒にね」

 

 学園長は袋の中から一枚の封書を取り出し、開いてイリスの前に差し出す。封書には、フィンブル家の家紋と思わしき紋様が書かれていた。

 

「――見せて!」

 

 イリスが手紙に飛びつき、その後ろから俺たちが覗き込む。

 手紙の内容は流石侯爵家と言わんばかりに固く、厳粛な内容だった。

 

 要約すると……。

 

『まず、無力な我らに代わって我が子を呪いから救い出してくれた勇者達に、これ以上ないほどの感謝の言葉を伝えたい。

 この金は、我らから災厄を追い払った勇者達へ、貴族として払うべき報酬。

 どんな事情があれ、子に剣を向けた我らに親を名乗る資格はない。

 イリスフィア。我らのことなど忘れ、友と共に幸せに生きろ』

 

 こんな感じだ。

 

 ……なんというか、後悔と不器用な優しさに溢れてるな。

 この親があってのイリスというのが、よく分かる。

 

「親の資格はない、なんて。そんな、そんなこと……」

 

「イリス……」

 

 一通り文を読み終えたイリスが、手紙を握りつぶす。

 その拳は、わなわなと震えていた。

 

「――イリー」

 

 そんなイリスとの距離を、ミタマは容赦なく詰めた。

 

「仲直り、しよう!」

 

「…………そんな簡単にできるわけないでしょ」

 

 ミタマの力強い宣言に、イリスは俯きながら首を振る。だが、ミタマはそれに構わず、さらにイリスへ顔を近づけた。

 

「うん、簡単じゃない。でも、それが諦める理由にはならないよね。お互いに生きているんだからさ、諦めずに一歩ずつ距離を縮めてけばきっといつか、繋がりはまた作れるって! わたしも手伝うから、やってみよ!」

 

「……っ! そんな、わたしの家族の問題に、ミタマまで付き合わせるなんて……」

 

「最後まで付き合うに決まってるじゃん! だってわたしは――イリーの魂導者(ソル)だから!」

 

 力強い宣言と共に、ミタマはイリスへ手を差し伸べた。

 ちゃっかりしてるけど繋がりを何より大切にするのが、主人公(ミタマ)の一番の特徴だ。

 

「…………!」

 

 イリスは、僅かに眼を見開く。数秒間、ためらうかのように体を硬直させた後、イリスは一瞬、ぎゅっと眼をつぶり――。

 

「……ええ、そうね。あなたは私の魂導者(ソル)なんだから――少しぐらいは、頼らせてもらいましょうか」

 

 柔らかい笑顔と共に、その手を握り返した。

 その笑顔は『ソルキリー』のドット絵で描かれていたものよりも、繊細で、柔らかくて……まさしく、女神の微笑と言ってもいいくらいの美しさだった。

 

 ……いいもん見た。

 確かに、実質解呪イベントは終わったが、まさかこんなに早く絆を結ぶとは。

 

「……本当に、良かったわね。イリスちゃん」

 

 見ると、学園長の眼の端に涙が浮かんでいた。

 学園長は、イリスのことを娘みたいに思っていたのだろう。

 

「う、うぅ……。イリスが他人を認めるなんて……! 生きててよかったよぉ……!」

 

 スカイの瞳からも、とめどない涙が溢れている。

 そうか。スカイからしても、凍っていたイリスの心が溶けたシーンなのか。

 

「泣きすぎよスカイ。私をなんだと思ってたのよ」

 

「誰よりも優しいけど、上手くそれを表に出せない。不器用で大切な――ボクの友達、かな」

 

「……っ!? あ、あなたねえ!? よくそんな、恥ずかしいこと……っ!」

 

 スカイのド直球な返答に顔がボッと赤くなるイリス。そのまま口をへの字にしていたが……少しずつ、ゆっくりと、その口を開いた。

 

「私も、スカイの暖かさが心地よくて、生きる支えになってた、から……これからも、よろしく」

 

「――!?」

 

 イリスの消え入るような、それでいて万感の想いの詰まった呟き。それを聞いたスカイは、その表情を輝かせ、イリスへ飛びついた。

 

「もっかい! もっかい聞かせて欲しい! いや、録音させて!」

 

「絶対嫌。暑苦しいから離れなさい!」

 

 そのまま、スカイがイリスに抱きついては、投げ飛ばされるというある意味痴話喧嘩を始めてしまった。

 

「ふぅ、ふぅ! いい加減に、しなさい!」

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……! 素直になるのは、イリスの方だよ!」

 

 ……あれ? なんか、何回も繰り返してるうちに二人とも滅茶苦茶ヒートアップしてきてないか。お互いの間で魔力の火花が散り始めているし、止めた方がいいか?

 

「やめな――さいっ!」

 

「いてっ!」

 

「……っ!」

 

 あ、学園長が拳骨落とした。二人が怯んだことで、魔力も雲散霧消してくれた。スカイはともかくイリスがこういう事するとは、相当心はほぐれてくれているようだ。

 

「ほら、下らないことしてないで、今日は一応休んでなさい。回復しているとはいえ、精神とかが疲弊しているかもしれないからね」

 

「……明日からは自由ってこと?」

 

「ええ。決闘祭も近いし、あんまり拘束するのもね」

 

「じゃあルシアス。明日、ゴーレムさんの所行こうよ! ボクの飛行形態を見てもらいたいんだ!」

 

「確かに。最近訓練場に顔を出してなかったし、いいかもな」

 

 ゴーレム訓練場は飛行訓練もできる。スカイに飛行の慣らしをさせるには丁度いいだろうな。

 

「どう? ミタマも――イリスも! 一緒に訓練場行かない?」

 

 スカイの誘いに先に反応したのは、意外なことにイリスだった。

 

「訓練場、ね。学外で鍛えるのも、たまには悪くないかもしれないわね」

 

「イリス、一緒に来てくれるんだ!?」

 

「別に、同行しない理由がないだけよ。……ミタマはどうするの」

 

 イリスが顔を向けると、ミタマは快活な表情で口を開いた。

 

「当然、わたしも行っちゃうよ! まだまだ、師匠から学ぶことは沢山あるしね!」

 

「じゃあ――みんな一緒だね!」

 

「そうだね! 一緒だ!」

 

 顔を見合わせて喜びを分かち合うミタマとスカイ。そんな、微笑ましい様子を眺めていると――いつの間にか、イリスが俺の隣に座っていた。

 

「どうした、イリス」

 

「……別に。ただ、ちょっと提案したいことがあるの」

 

「……何をだ?」

 

 俺がそう尋ねると、イリスはふぅ、と艶のある息を吐いて――俺の手を握り、腿がくっつきそうなほどに距離を詰めてきた。

 

 ――いや、本当にどうしたんだ!? こんなイリス、見たことないぞ!? やべ、心臓が滅茶苦茶跳ねてるし、脳が滅茶苦茶喜んでる。その辺の動揺が表に出る前に、話を終わらせねえと。

 

「……私は今、あなたの秘密を握っちゃってる。私は秘密を漏らしたりするつもりはないけど、あなたはそうは思わないかもしれない。だから……」

 

「だから……?」

 

「あなたには、私を監視しててほしいの。私はなるべく、あなたの、スカイ達の近くにいるから。横目でもいい――私を、見て」

 

 胸に手を当てて、強く懇願するように宣言するイリス。

 

 ああ、なるほど。秘密の共有者としての意識を共有してくれてるわけか。正直、かなりアリだ。こうして行動を共にしてくれれば、俺も余計な心配をせずに済む。

 

「それは――かなりありがたいな。いいぜ。なるべく見といてやるよ」

 

「……っ!? もっと、過激な提案をしても、大丈夫だった……?」

 

 口を手で包んで何かを言っているが……詳しくは聞こえない。

 

「……? なんか言ったか? イリス」

 

「――何でもないっ!」

 

 俺が問いかけると、イリスはすごい勢いで立ち上がり、俺の隣から逃げるように離れていった。

 

「イリスちゃん……春が来たのね……!」

 

 そんな俺達のことを遠くからニヤニヤ顔で見ている学園長先生も、これまた何か小さく呟いている。

 やっぱり最近、聞こえない程度に何かを呟くの流行ってんのかな……?

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