ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第22話:『天才』が空を飛ぶために

 翌日。俺達四人は、ゴーレム訓練場でスカイの飛行姿をゴーレムさんに見てもらう……はずだったのだが。

 

「ねえ。スカイ。一つ、言わせてもらっていいかしら?」

 

「……言わないで、イリス。分かってるから」

 

「その闘装(ドレス)、ドスケベすぎない?」

 

「言わないでって言ったじゃん!」

 

 改めて、明るい場所で見た自分の戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)が過激すぎて受け入れられなかったようで、スカイは顔を真っ赤にして屈みこんでしまった。

 

 ……まあ、確かに。今のスカイはかなりの軽装だ。

 

 上半身はまだマシで、赤色の軽鎧から脇とへそと背中が主張しているぐらいだが、下半身の装甲がセクシーな下着くらい過激だ。詳しくは見ていないが、尻尾を上げたのを見たミタマが「……おお、すっご」という感嘆の声をあげるくらいには。何が「おお」なんだ、何が。

 

 いや、まあ、スカイの戦乙女闘装がそういうのとは原作知識で知ってはいた。ニーズヘッグ戦では正直それどころじゃなかったのもあって問題が露呈しなかったが……正直、こうしてみると目のやり場に困る。

 

「あと、またお尻が大きくなったわね。だから、夜中にこっそりプリン食べるのはやめなさいってあれほど……」

 

「だからぁ! ルシアスの前でそういうのは言わないでってば!」

 

 背面をしげしげと眺めるイリスに、翼を使って背面を隠しながら反論するスカイ。

……このままだと、羞恥のあまり戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)を使わなくなるかもしれない。それは困る。スカイには空を飛んでもらわないと。

 

「じゃあ、その上からなんか羽織ればいいんじゃねえか?」

 

「……あっ! 確かに!」

 

 皮膚の露出が多いのであれば、飛行の阻害をしない程度に何かを着てもらえばいい。羽や尻尾などがあっても、体に巻きつければ隠すことぐらいはできるだろう。

 

「じゃあルシアス。また上着貰うね」

 

「ほい」

 

 外套を脱ぎ、スカイに手渡す。布面積が多いし、ミタマやイリスといった女の子の服を脱がすわけにもいかないので、俺の外套が一番適任だろう。

 

 スカイは外套を尻尾の邪魔にならないように腰に巻くと、背面を隠していた竜翼を元気よく広げた。

 

「ありがと! じゃあ、行くよ!」

 

 スカイの竜翼が赤く発光する。その魔力が、スカイの全身に行きわたり……腰に巻いている外套が発火した。

 

「……あっ」

 

「――わあっ! えっと……消さないと!」

 

 多分魔力が途轍もない高温になっていたのだろう。スカイはすぐにそれに気づき、外套を大きく振って火を消してくれた。

 

「……ごめん、ルシアス。燃やしちゃった」

 

「いや、端っこがちょっと焦げただけっぽいし大丈夫だ。ただ、どうやら服とかでカバーするのは難しいみたいだな」

 

 ……どうするか。こんな問題、原作では発生していなかったからどうにも困ってしまう。俺一人で考えてもしょうがないし、人に頼るか。

 

「……悪い。ミタマ。イリス。ちょっと、スカイが空に飛んでくれるようになる方法を一緒に考えてくれねえか?」

 

「わたしが、師匠のために働ける……!? 考えてみるね!」

 

「そうね。……私も、スカイが空を飛ぶのを見たいし」

 

 快諾してくれたみたいだし……ありがたく、案を出してもらおう。

 

「というわけで、悪いなスカイ。色々試させてくれ――」

 

 同意を得ようと、スカイの方を向くと……。

 

「……すぅ」

 

 俺の外套を顔に当てているスカイと眼が合った。

 なんか……匂い、嗅いでないか?

 

「……ぁ。ちがうの。これはほんの、できごころで……」

 

 俺と眼が合った瞬間、体を硬直させ、じわ……という効果音が出るような勢いで急速に顔面に熱が行きわたり、耳まで真っ赤になるスカイ。

 

 どういう出来心があったら匂いを嗅ぐのだろうか……。

 

 ……もしかして、汗臭かったか?

 だとしたら、かなり申し訳ないことしたかもしれん。

 

 どう謝ろうか考えていると、ミタマがスカイの手元にある俺の外套を受け取り、匂いを嗅ぐ。その後、元気よく俺に近づいてきて鼻を鳴らした。

 

「すんすん。すんすん……。あっ! この服、師匠と同じ匂いがする!」

 

「そりゃそうだ。さっきまで俺が着てたからな」

 

「イリーも嗅いでみてよ。いい匂いするよ」

 

「……えぇ」

 

 ミタマに促され、俺に向かって歩き始めるイリス。だが、三歩ほど近づいたところではっとした顔をすると、スカイと同じようにじわりと頬が赤く染まった。

 

「――ミタマ! 他人の匂いを嗅ぐのは失礼だからやめなさい!!」

 

「えっそうなの!? ごめん師匠!」

 

「あと、スカイ。……人前では、やめなさい」

 

「……ぅ、うん」

 

 頬を桃色に染めたまま、イリスはミタマを大声で り、スカイには聞こえない程度の小声で何か忠告のようなものをした。……何を言ったのだろうか。

 

「――じゃあ、まず、私から案を出させてもらうわ」

 

 何を囁いたのか気になったが、イリスが提案をしてくれたため、そっちに意識を向けた。

 

【①:イリス案】

 

「慣れなさい」

 

「えぇ……!?」

 

 イリスの無慈悲な宣告に、スカイが慄く。

 反論しようとするスカイを意に介さず、イリスはさらに言葉を続けた。

 

「そもそもそれは戦乙女(ヴァルキリー)の正装で、露出が多いのは空を飛ぶために余計な機能を削ったから。つまり、将来的にはそれを着て多くの人を助けることになるの。なのに恥ずかしいから戦えません、は通らないでしょ」

 

「うぅ。それは、そうだけどさぁ……」

 

「だから、慣れなさい。学園長とか雷羽冠天使(クラウニエル)みたいに、普段からドスケベ衣装してる一流の戦乙女(ヴァルキリー)は結構いるから。あなたもそうやって慣らしていけばいいのよ」

 

 ……マジで!? 学園長とかのああいう格好って慣らしだったのか?

 

 いや、待て。どっちも長い間戦乙女(ヴァルキリー)やってて、もう十分に慣れてるはずだよな。じゃあやっぱり、そういう趣味なのでは。

 

 そんな下らないことを考えていると、スカイが眼を伏せた。

 

「でも、学園長先生もらーちゃんも、お胸がおっきくて、自信があるタイプじゃん。ボクはお胸が貧相なのにお尻だけ無駄に大きいし……、こんな体のライン出すのは、やっぱり恥ずかしいよ」

 

「それを言ったら、私だってそこまでいい体つきなわけじゃないし。そこは……」

 

「――イリスは貧というより美じゃん! しかも、身長が高くて、街を歩いてたらファッションモデルを頼まれるくらいの理想体型じゃん! よくもまあそんな美しく育ったよね!」

 

「なっ……! じゃあ、スカイは尻は自慢ができる大きさしてるんだから、ちゃんと尻を張りなさいよ!」

 

「尻を張るって何!?」

 

 ……なんだこれ。

 

 二人共顔を赤くしながら、罵り合いならぬ褒め合いの喧嘩を始めてしまった。

 ギリ醜い寄りの争いを眺めていると、ミタマが間に割って入ってきた。

 

「二人とも落ち着いて。ルシアスの前でする話じゃない気がするし、たかが胸の脂肪のために喧嘩なんて下んないよ。正直邪魔だし」

 

「…………」

「…………」

 

 二人の視線が、たゆんと揺れ動くミタマの豊満な胸へ行く。

 よく見ると、ミタマの言葉一つ一つに応じて青筋が立っていた。

 

「……ミタマは関係ないから黙ってて!」

 

「……あなたには一生縁のない話よ、下がりなさい」

 

「なんでそんな敵を見る目してんの!?」

 

 こういう時だけ息ぴったりな二人にNoを突きつけられ、ミタマは困惑しながら引き下がってしまった。とはいえ、頑張って喧嘩に割って入ったのは事実。労いの言葉をかけておこう。

 

「ナイスファイトだ。ミタマ」

 

「……ま、喧嘩は勝手にやらせとけばいいや。それより師匠。実は、イリスが言ってる言葉で分かんないのがあるんだよね」

 

「なんだ?」

 

 俺が問い返すと、ミタマは少し背伸びして俺の耳へ口を近づけてきた。

 

「……()()()()って、どうゆう意味?」

 

「――っ!?」

 

 ミタマの質問が聞こえたのか、イリスの体が氷漬けになったかのように硬直する。いや、俺もどう答えればいいんだ? どう答えてもセクハラになっちまう気がする。

 

 体を硬直させていると、奥にいるゴーレムさんの魔石と眼が合う。すると、ゴーレムさんは軽くうなずき、その魔石を光らせた。

 

「ミタマ様。私が解説いたしましょう。――どすけべとは。『とても性的(すけべ)である』ということを、ここより遥か東方にある島国が、俗に言いまわしたものです。気の合う人との軽口や感嘆として使われることも多く。今回、イリス様がスカイ様へ抱く感想としては、これ以上ないほど適切となっておりますね」

 

「なるほど……わたしもどっかで使ってみよっかな!」

 

「やめてっ……!!」

 

 羞恥のあまりか、イリスは顔面を抑えて俯いてしまった。耳まで真っ赤だ。だが、ヒートアップしているスカイは追い打ちをかけるようにイリスへ指を向けた。

 

「そうそう。イリスは沢山本読んでるからね。むっつりで、耳年まごぉっ!?」

 

 調子に乗ったスカイに向かってイリスが飴玉をすごい勢いで射出する。飴玉がスカイの口の中を直撃したことで、スカイが話途中で悶絶した。

 

 ……相打ち、といったところか。

 

「ごめんゴーレムさん。()()()()も、どういう意味か……」

 

「――ミタマ! もし、これから私に関する言葉で分からないのがあったら、直接私に聞きに来なさい!」

 

「え、でも……」

 

「――いいわね?」

 

「……り、りょーかい」

 

「あと、あなたも一つ、案を出しなさい」

 

 指の隙間から放たれたイリスの眼光がミタマに突き刺さる。そのあまり鋭さに、ミタマは大人しく従うしかなかったようだ。

 

 

【②:ミタマ案】

 

「何かご褒美を用意してみるってのはどう? 師匠が作った美味しい料理がたくさんのお食事会とか……」

 

「……ミタマがルシアスの料理を食べたいだけじゃないの?」

 

「――それもある。けど、それだけじゃない! 師匠の料理、イリーにも食べて欲しくてさ。ほっぺたが落ちちゃうくらい美味しいから!」

 

「そ、そんなに美味しいの……」

 

 そろそろ昼時で、お腹が空き始めているせいか、イリスも少しだけ興味を示してくれた。しかし、すぐにむっとした顔に戻る。

 

「でも、それって今スカイを飛ばすための方法ではないわよね。そっちは?」

 

「ごめん! それは思いつかなかった! ――ひぁっ!?」

 

 氷の粒を背中へ入れられ、体を震わせるミタマ。

 ……まあ、食事会も、休息の案としてはアリだ。

 そんなことを考えていると、ゴーレムさんが一歩前に出てくれた。

 

「では、食事会は今回のスカイ様を飛ばすための案とはまた別で行うということで。ルシアス様。私からも一つ、案を出させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「え、あ、ありがとうございます。お願いします」

 

 ……まさか、ゴーレムさんから案を出してもらえるとは。ありがたく頂こう。

 

【③:ゴーレムさん案】

 

戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)の魔法陣を組み替えて、装いを変更してみるというのはどうでしょうか。『悠久の宝珠』を組み換えたスカイ様の才能であれば、できてもおかしくはありません」

 

「……あー、なるほど」

 

 それは、どうなんだろうな?戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)は肉体を一度魔力に変換し、それから飛行用に最適化させるという仕組みだ。それ故に、変形は難しいはずなんだが……。

 

「確かに、それができたら一番かも! やってみるね!」

 

 スカイが乗り気になってしまったので、成り行きを見守ることにした。もしかしたら、スカイの才能なら作中設定を越えられる可能性もあるしな。

 

「ルシアスに見せても恥ずかしくない……お尻の防備が厚い闘装(ドレス)を……」

 

 闘装(ドレス)を一度解除し、再び魔法陣の展開を始めるスカイ、 その表情は鬼気迫っており、なにかをぶつぶつと呟いている。

 

 そうしたまま十秒後、スカイが眼を見開いた。

 

「これでどうだ! 『戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)!!』」

 

 凛とした宣言と共に、スカイの体が赤い光に包まれる。

 スカイが、赤い光から下半身を出す。スカイの下半身はショートパンツのような形状の軽鎧で覆われてており、そこからうまいこと尻尾が出ていた。

 

 ……マジか。スカイ、魔法の改変までできるのか。

 

「ふえへへへ……。どう? こっちの闘装(ドレス)もかっこいいでしょ!」

 

 スカイは大きな尻尾をぶんぶん振りながら、下半身の軽鎧を俺へ自信満々に見せびらかしている。

 

 ……ふと、上半身の赤い光が晴れ、そっちに眼が行く。

 スカイの背中には相変わらず、大きな竜翼が生えていて。

 

 ――それ以外、上半身には何の衣類も生成されていなかった。

 

 ……まさか、下半身の防備を増やした分のバランスをとるため、上半身の防備は疎かに――?

 

「――スカイ、そのまま! 絶対に振り向くなよ! 振り向かれると、俺は腹を切らなくちゃいけなくなる!」

 

 そう察した瞬間、俺は手で眼を覆い、スカイへそう命令(オーダー)を行った。 

 ラッキースケベやらかしたら腹切る覚悟なんだよこっちは!

 

「……ふえっ!? なんでお腹を!?」

 

 混乱気味のスカイは、そのまま下を見て――。

 

「……あ゛っ!? う、うぅ……!」

 

 自身の上裸に気付いてしまったようだ。

 すぐに手で胸を覆い隠したが、羞恥の炎は収まらず……。

 

「うわぁああああああああああああん!!」

 

 涙目な竜の咆哮が、広大なゴーレム訓練場の全域に響き渡った。

 

 *

 

 色々と感情が爆発して疲れたため、ここで一度昼食休憩をとることにした。

 

「もぐもぐ……美味しい!!」

 

「スカイ、その料理初めて見るけど……」

 

「ハンバーグって言って、ルシアスが作ってくれたんだ! とっても美味しいんだよ!」

 

 スカイがお弁当で機嫌を取り戻してくれているのを背に。入口に『飛行』のプレートが張られた――飛行訓練用の部屋に入る。

 

 部屋の天井は見えないほど高く、よくよく見ると上空の壁には魔石が嵌められていたり、ゴーレムが吊るされたりしている。恐らく、あれを使って飛行中に攻撃されるというシチュエーションを再現するのだろう。

 

 興味深く訓練場の設備を眺めていると、ゴーレムさんが部屋に入ってきた。

 

「お疲れ様です。ルシアス様」

 

「おう。……いや、まだなんもしてねえけどな」

 

「もう、十分にお考えになられておりますよ」

 

 ゴーレムさんが労いの言葉をくれるが、結果が出てないため素直に喜べない。そのまま訓練場の見えない天井を眺めていると、ゴーレムさんが腕を上へ向けた。

 

「……やはり、スカイ様を空に飛ばしたいですか?」

 

「ああ。でも、最終的に大切なのは、スカイが自分の意思で飛ぶことだ。戦乙女(ヴァルキリー)である前に、一人の女の子だからな。無理をさせて負荷をかけたくない」

 

 ただ、ラーミアに勝つことを考えると、今すぐ訓練を行いたいとも思ってしまう。

 

 それで、無理やりスカイをどっちかに傾けようとしても、勝ちたいと誓った時の顔と、恥ずかしがる顔の両方が浮かんでしまい、気持ちが背反してしまうのだ。

 

 ……こればかりは、俺一人じゃ答えが出せない。

 第三の道があれば選びたいぐらいだ。

 

「……ゴーレムさん。まだなんか、いい案あったりしませんかね?」

 

「……ふむ。皆様の前では言いづらかったのですが。スカイ様は、特にルシアス様の視線を気にされているように思えます」

 

「……そうなのか?」

 

「はい――見ていれば、分かります」

 

 なんか、真っ直ぐ断言されてしまった。

 これが……人間とゴーレムの視点の違いってやつなのか?

 

 しかし、もしスカイが、俺の視線を気にしてるとしたら……。

 

「別に、俺の視線なんて気にしなくてもいいと思うんだけどな。俺が空飛んでる戦乙女(ヴァルキリー)に抱く感想なんて一つだし」

 

「なんでしょうか?」

 

 

「何って――()()だけど」

 

「…………えっ」

 

 なんか、急にゴーレムさんの動きが固まった。

 ……なんだ、またシステムダウンでもしたか?

 

「……申し訳ございません。確認させてください。本当に、それ以外の感想を抱かれないのですか? もし、肉体が官能的で、全裸で飛んでおられたとしても?」

 

「……なんだその例え!? まあ、でも、そうだな。地面にいる時は服を着てほしいが。空を飛んじまったら、羽以外見えないだろうな」

 

 俺が返答すると、ゴーレムさんは再び鋼鉄の体をさらに硬直させた。

 ……なんで、そんな反応をする必要があるんだ?

 

「なんか変な事言ったか?」

 

「……いえ。変な反応をして申し訳ございません。ただ、()()()と思ってしまいました」

 

「……珍しい?」

 

「はい。市井の人々は、戦乙女(ヴァルキリー)の飛んでいる姿より、何を為すかを評価しております。しかし、ルシアス様は飛ぶこと自体を高く評価しており、希少な感想を抱かれております」

 

「そうか? それは勿体ないな」

 

 周囲に空を飛べる人間がいる世界は、当たり前とするには勿体なさすぎる。

 そんなことを考えていると、なんか、ゴーレムさんが魔石を光らせてきた。

 

「…………。ということは、先日スカイ様が飛行された時も、ルシアス様は同じような感想を抱かれたのですか?」

 

「ああ。あの大きな竜の翼が空を舞う姿は。拙い部分もあったが――とても、綺麗だったよ」

 

「そう、ですか」

 

 その返答と共に、ゴーレムさんは壁際に向かい――何故か、壁をコンコンと軽く叩いた。

 

「……ルシアス様に、一つ謝らなければならないことがあります。実は、この訓練室の壁――あまり、防音性が高くないのですよ」

 

「……えっ。だからなんだ――?」

 

 そう答えようとした瞬間、訓練室の扉が大きな音を立てて開いた。

 ドアが開いた先にはスカイ。ただ、なんか様子がおかしい。

 顔は真っ赤なのだが眼がこれ以上ないほどに真剣で、元の形状の戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)をいつの間にか着用している。

 

「――ゴーレムさん! これから飛行訓練したいんだけど、お願いしていい!?」

 

「ええ。既に準備はできております、スカイ様」

 

「……スカイ。もう大丈夫なのか?」

 

 なんか、とんでもなくやる気を出し始めたスカイにそう尋ねる。

 すると、スカイはふんすと強く気合を入れ、尻尾をぴんと立たせながら、真っ直ぐに俺の眼を見据えてきた。

 

「うん! ボクはこれから飛ぶのがとても上手になるよう頑張るから――もし、上手になったら。ルシアスには言ってほしいことがあるんだ!」

 

「言ってほしいこと? 何だ?」

 

「――まだ秘密! でも、いつか絶対、言わせてみせるから!」

 

「……?」

 

 何を言いたいのかがふわふわなまま、スカイは飛行訓練に向かってしまった。

 ミタマやイリスなら分かるかと広間を見てみたが、二人の姿がない。

 

 そんな俺に、ゴーレムさんが後ろから声をかけてきた。

 

「イリス様はミタマ様を引き連れて、魔法の訓練を始めておりますよ」

 

「……? なあ、ゴーレムさん。さっきまで休憩してたはずだよな。なのになんで、みんな急にやる気を出し始めたんだ?」

 

「…………。()()ではありませんよ、ルシアス様」

 

「……そうなのか?」

 

「はい」

 

 またゴーレムさんに真っ直ぐ断言されてしまった。

 やっぱりこれが、人間とゴーレムの視点の違いってやつなのか……?

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