ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第23話:『天才』の裏で蠢く闇

 ゴーレム訓練場で訓練を始めて数日後。部屋の共同居間にて、普段は真ん中に鎮座しているふかふかのソファーは端にどけられ、その代わりに大きな長机が鎮座している。長机の上には、パンケーキやパスタ等、多くの料理が敷き詰められ――食事会の様相を呈していた。

 

 そして今、最後の料理――ハンバーグが山積みされた皿をキッチンから長机ど真ん中に置いた。その物量に席についていたスカイ、イリス、ミタマから歓声が上がる。

 

「おぉ……すっごい高さ……! こんな量のハンバーグを短時間で作っちゃうなんて……流石、師匠!」

 

「……全部食べ切れるかしら」

 

「大丈夫だよ。ボクが全部どうにかするから!」

 

 何故食事会を行うことになったのか。それは、ここ数日のスカイとイリスが早朝から深夜までずっと訓練をしており、オーバーワーク気味になっていたためだ。これ以上の無理はまずいとミタマと相談を行い、まとまった休息として、食事会を半ば無理やりに開かせてもらった。

 

 ……しかし、どうして二人共訓練に没頭するようになったのだろうか。なんか、心を突き動かす出来事があったのか……?

 

 そんなことを考えながらエプロンを脱いで手を洗い、長机に着席をする。

 そのまま四人で食前の挨拶を済ませ――食事会が始まった。

 

「モグモグモグモグ……ごくんっ! やっぱり、ルシアスの作るご飯は美味しいなぁ!」

 

 スカイはとにかくハンバーグをほおばっている。

 頬袋が膨らんでいる姿を見ると、本当に小動物みたいだ。

 

「どう? 美味しいでしょ!」

 

 ミタマは色んな料理をたくさん皿に盛り、イリスに渡している。

 ミタマの中ではイリスの労いをする会であるため、そっちが優先なのだろう。

 

「……ミタマ、気が早い。まだ食べてないわ」

 

 促されたイリスは、慣れた手つきで銀食器を動かし、ハンバーグを一口サイズに切り分けている。その所作には気品が溢れていた。

 

「……ん」

 

 破片を口に入れると……普段は強張っていることの多い、イリスの頬が緩んだ。

 これはこれで、腕を振るったかいがある反応だ。

 

「――美味しかったんでしょ!」

 

「……人の感想を奪うな。というか、ミタマも食べなさい」

 

「了解! いただきます!」

 

 元気よくハンバーガーを持ち上げ、かぶりつくミタマ。勢いが良すぎたせいか、トマトソースが口の周りに髭のように散乱してしまっていた。

 

「むぐむぐ……ほひひひへ(おいしいね)

 

「ああもう、何してるの! ほら、こっち向いて!」

 

 ミタマの口周りが拭かれたを確認したところで、俺もハンバーグを切り分け、食べる。うん、悪くない。前世と比べても遜色ない味が出せている。

 

 姦しく食事をしていると、イリスが銀食器の動きを止めた。

 その眼は、机の上に積まれた料理に向いている。

 

「これだけの料理を作るお金って、もしかして……」

 

「うん。()()()()を使っちゃった」

 

「ちゃんと帳簿にまとめてあるから、後で読んどいてくれ」

 

 『あのお金』とは、ニーズヘッグを倒したことでイリスの家から貰った報奨金のことだ。報奨金を八等分し、各人1/8ずつ受け取り、1/2は共用のプール金とした。今回はミタマの同意を得てそのプール金を使ったのだ。

 

 ちなみに、これだけ使ってもプール金は一割も減らなかった。どうやら、フィンブル家は娘から呪いがいなくなったのが相当に嬉しいようだ。

 

「腐らせとくよりはと思って使ってみたんだが、使い方見直した方がよかったか?」

 

「いや、これでいいわ。あのお金は、ルシアスとの共同――」

 

「共同……何?」

 

「……んん゛っ! いや、何でもない。忘れて」

 

 何故か急に咳き込み出したイリス。その頬は僅かに桃色に染まっていた。結局、何を言いたかったのだろうか。

 

「おーい! ルシアスのご飯が冷めちゃうから早く食べよ!」

 

「そうだね、食べよー!」

 

 スカイに促され、俺達は食事に戻る。

 そのまま、和やかに食事会は進んでいった。

 

 

「ご馳走様でした! ふぅ。満腹だよ! ……ん? どうしたの二人共?」

 

「……スカイ。あなた、こんなに量食べられたの?」

 

「竜の力振るうと、食事も竜相当になるんだ」

 

 信じられないように呟くイリスと目を丸くして驚くミタマ。そう呟くのも当然だろう。食事会に出てきた山積みの料理の八割はスカイの腹の中に消えたのだから。

 

「いやあ、これもルシアスのご飯が美味しすぎるからだね!」

 

「……まあ、前みたいに食べられないよりはマシね」

 

 腹を膨れさせたスカイの自信満々の発言に、イリスは少しだけ表情を緩めた。

昔は偏食気味だったスカイがこうして沢山食べられるようになったのに、イリスとしても感じるものがあるのだろう。

 

 そんな二人の様子を横目に、山積みの皿を片付けていると……ミタマがキッチンからコーヒーを持って来て、イリスの前に置いた。

 

「ほいっ、食後のコーヒー! スカイちゃんも飲む?」

 

「あー……ボクはいいや」

 

 眼を背けながらコーヒーを手で拒否するスカイを見て、イリスの口角が上がった。

 

「……ふっ。仕方ないわね。スカイはお子ちゃま舌なんだから――熱゛っ!?」

 

「そういうイリスは猫舌じゃん!」

 

「……ふー、ふー」

 

 スカイの反論を無視し、イリスはコーヒーに息を吹きかけている。どうやら、コーヒーが好きなようだが熱いのは苦手なようだ。意地を張るイリスを見て、スカイとミタマは少しだけ困ったように薄い笑顔を向け合った。

 

 ……主人公とヒロインが作り出す、和やかな時間。凡人(モブ)な俺の身に余るようなこの幸せに、永遠に包まれていたいような気もする。

 ただ……。

 

「このままでいいのか?」

 

「うん? どうしたのルシアス?」

 

「……ああ。声に出てたか」

 

 どうやらスカイに聞こえてしまっていたようだ。が、しかい、これはスカイに共有しておきたい話だ。流し台に皿を置いて、机に戻り、スカイへ向き合う。

 

「いや、イリスを襲った災厄をどうにかできたのはいいんだが、その災厄が現れたのがあまりにも唐突すぎてな。何か、裏があるんじゃねえかって思うんだ」

 

 実際、ニーズヘッグが『共犯者』を示唆するようなことを言っていた。その『共犯者』を捕まえない限り、完璧な安心はできない。

 

 俺の言葉に、スカイは大きな頷きで返してくれた。

 

「……確かに。あのダンジョンで感じた僅かな闇の魔力はニーズヘッグのものじゃなかった。ということは、もう一体あそこには魔族がいたってことだよね」

 

「ああ。だからイリスにはその辺について話を聞きたいんだが……」

 

 その言葉と共に、イリスに視線を向けると――。

 

「ふー……ふー……!」

 

 湯気の消えたコーヒーに対して、まだ息を吹きかけている。

 いつまでやるつもりだ、と俺が突っ込もうとするより先にスカイが動いた。

 

「――そこまでやるくらいなら、氷で冷やしちゃいなよ!」

 

「黙りなさい。ぬるくなったホットコーヒーとアイスコーヒーには、夏と冬ほどの差があるのよ」

 

「せいぜい秋と冬だよ!」

 

 スカイの突っ込みを意に介さずコーヒーに息を吹きかけ続けるイリス。このままだとイリスとスカイがまた喧嘩漫才を始めてしまうのを察したのか、二人の間にミタマが割って入った。ナイス判断だ。

 

「それよりイリー。お話お願い」

 

「……実はね。その辺、記憶が混濁しててはっきりとはしてないのよね。ただ、一つだけ言えるのは――」

 

 ミタマに促され、イリスが話を始めようとした瞬間、部屋内に設置された通信用の宝珠が光り出した。

 

『――学園長より、全校生徒に招集命令。決闘場に集合しなさい』

 

「全校生徒に、招集命令って……!? どういうこと!?」

 

 全校招集って……もしかして、あの突発(ランダム)イベントか?

 

 *

 

 ほぼ同刻。

 

 司書が、気だるげに学園長室の扉を開く。

 

 学園長室には、相変わらず短いローブを着用している学園長が、窓から射す光を浴びながら豪華な机の前に立っていた。

 

「――なんの用だ。わざわざ読書時間を割いて来てやったんだから、相応に実のある話をしてくれるんだろうな」

 

「ええ。だって、ルシアス君にも関係がある話ですもの」

 

「……ほう?」

 

 ルシアスの名が出たことで、司書のクマを作った眼が僅かに開かれ、そのまま学園長室備え付けのソファに座る。それを見た学園長は、さらに言葉を続けた。

 

「話題はイリスちゃんに憑いてたS級災厄、ニーズヘッグについての話よ」

 

「ああ。封印が解かれて、それにルシアスも巻き込まれたって話か」

 

「ええ。私が課した封印を、内側から無理やり食い破って受肉した。何かしら、魔側の干渉があったのは間違いないわ」

 

 学園長は神妙な顔で指を立て、司書に提案するように見せつけた。

 

「ただ、当事者であるイリスちゃんに記憶の混濁があって、覚えているのは僅か一言だけらしいわ。それで……」

 

「知恵を借りに来たってわけか。その魔族はなんて言ってたんだ?」

 

「『魂導者(ソル)二人、巻き添えにして死んでくれ』だってさ。魔族にしては理性的なこと言ってるわね…………うん?」

 

魂導者(ソル)を、狙う……? まさか……」

 

 学園長が怪訝そうに司書の方を向く。司書は顔面を青くし、額に冷や汗を浮かばせながら何かを考えこんでいた。

 

「司書ちゃん? もしかして、心当たりがあるのね?」

 

「……ああ。あくまで個人の手記ベースの話だがな」

 

 吐き捨てるようにそう言うと、司書は懐から本を取り出した。

 

「それは……『戦乙女学園偉人九選』?」

 

「……この本に何故、魂導者(ソル)が書かれていないのか。いや、そもそも何故『天の御子』以来、魂導者(ソル)が名をはせないのか。それは――とある『魂導者(ソル)堕とし』の名を持つ魔族が。優秀な魂導者(ソル)を殺し続けているからだ。それも、数百年以上な」

 

 司書の宣言に、学園長は眼を剥いた。

 

「なっ……!? そんなことが…!?」

 

「――噂だ。証拠は、どこにもない。ただ、優秀な魂導者(ソル)ほど()()()()()で死にやすいというデータがあるだけだ」

 

「……そう」

 

 学園長は頭を抱え、目をつぶり、深く何かを考えている。司書は気だるげに本を机に投げ捨て、両手を挙げた。

 

「安全のために学園から出さないように――と考えているだろうが、それは『魂導者(ソル)堕とし』の思う壺だろうよ。行動を制限されるなんて、創造性が売りの魂導者(ソル)にとっては一番嫌な事だろうからな」

 

「だったら――」

 

「信じてみればいいさ。ルシアスの言う、『新しい可能性』とやらを。実際、方法は知らんがニーズヘッグを――S級災厄を退けてるんだろ?」

 

 司書と学園長、二人の眼が合う。

 司書が薄い笑みを浮かべると、学園長は眼を伏せた。

 

「その、方法が分からないってところが問題なのよ。スカイちゃんの炎はすごいし、ミタマちゃんも特別な雰囲気を身にまとってるけど、それだけで倒せるほどS級災厄――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()存在は、甘くない」

 

「じゃあ、天才(ルシアス)がなにかしたんだろうよ」

 

「そうなのよね。多分、何かをした。ラーミアちゃんが言ってた『白銀の光』っていうのが気になるんだけど――」

 

 そこまで言った瞬間、学園長室に備え付けの宝珠が眩い光を放った。

 

『スタンピード発生。該当地区の戦乙女(ヴァルキリー)では戦力不足のため、学園戦力に出動を要請する。繰り返す――』

 

「――っ! まずは、全校生徒に通達ね」

 

 宝珠から放たれた通告を聞いた学園長が、一気に仕事の顔になる。それを見た司書はつまらなさそうに本を開いた。

 

(領地に影響があると嫌だからどうにかしたいが、自前の戦力を使いたくない。だから、出資してる学園へ押し付ける。栄光と格式ある学園といっても使われる側だな)

 

 *

 

 同刻。先日、ニーズヘッグが顕現したダンジョンがあった山にて。

 渡り鴉――フギンは大木に停まり、既に閉じ切ったダンジョンをじっと見ていた。

 

「……ニーズヘッグパイセンが、死んだ。呪いとして逃げることもできず、殺しきられた」

 

 フギンが、金色の眼をゆっくりと閉じる。

 

「なあパイセン、なーにがあったんだ? アンタは、単騎で国とやり合えるS級災厄だろ。それに、あの戦乙女(ヴァルキリー)連中じゃパイセンを倒すなんて絶対無理だ。じゃあ、魂導者(ソル)のどっちかが奇跡を起こしたんだろうな」

 

 フギンが眼を細く開き、爪を強く締めた。

 枝がミシッという悲鳴をあげる。

 

「はぁ……困るんだよなぁ。第二の『天の御子』誕生とか――」

 

 そこまで語ったところで、破砕音がフギンの足元から鳴る。

 どうやら、その爪が大木の枝を砕いたようだ。

 

「おっと」

 

 足場を失ったフギンは、その黒き羽根を広げ、上空へと飛び立った。

 暫く、あてもなく空を彷徨ったフギンの眼に、ある光景が飛び込んでくる。

 

「……ん? ああ。スタンピードか」

 

 それは、大量の魔物が示しを合わせたかのようにダンジョンから飛び出し、侵略を始める。一つの地域で複数のダンジョンを放置しすぎた結果起きる現象、スタンピードだった。

 

 魔物の氾濫であるため、本来、魔族にとっても喜ばしい出来事のはずなのだが……フギンは、つまらなさそうに鼻を鳴らしていた。

 

「ダメだありゃ。魔物の質が悪いし、指揮できる魔族もいない。村を何個か潰して、騎士をそこそこ殺せれば御の字ってところだろ」

 

 批評を終え、興味なさげに行き先を変更しようとした一瞬前、フギンは何かを思い出したかのように動きを止め、近場の木に停まりなおした。

 

「ただ、あの辺の戦乙女(ヴァルキリー)ってしょっぱいのしかいないよな。ということは、学園戦力が出てきてもおかしくない」

 

 フギンが、どこからともなく黒色の宝珠を取り出し、嘴で加える。

 

「兄弟使って情報貰って……パイセン殺した疑惑の魂導者(ソル)が出てくるようなら――()()か、()()()()だな」

 

 宝珠に黒い魔力を込めた渡り鴉――『魂導者(ソル)堕とし』から表情が消え、その表情は『無』となった。

 

「天へ届く前に、オレが堕とさないと」

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