ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第25話:『魂導者』と『天の御子』

 目が覚めると、土の壁に囲まれたじめじめとした暗い道に一人立っていた。息を吸うと濃い闇の魔力特有の嫌な感じが鼻腔を突く。この感じ……ここ、ダンジョンだな。それも、結構ランクが高めの。ということはやっぱり、あの罠は地下ダンジョン転移の影罠だったか。

 

 地上顕現前の地下ダンジョンに出口はないので、ボスを倒さなければ出られない。いや、それより先に早くミタマと合流しないとだな。一人じゃ危険だ。

 

 できることもないし、とりあえずただ走る。そのまま数分、あてもなく走り続けると、遠くから魔法による戦闘音が聞こえてきた。

 

 ……待った、戦闘音? ミタマは戦乙女(ヴァルキリー)ではないから、魔法の戦闘音がするのはおかしいんだが――いや、考える前に確認するか。

 

 戦闘音のする方へ向かうと、複数の戦乙女(ヴァルキリー)と魔物が乱戦をしていた。

 

「くっ! 卑怯だぞ! 一対一で戦え!」

 

「ぴぃ~~! もう、無理です! 皆さん、逃げた方がいいですわーーー!!」

 

「……二人共、うるさい」

 

 シトラス髪、桃髪、藍髪の戦乙女(ヴァルキリー)がそれぞれ魔法を使って魔物と戦って……いや、桃色の娘は魔法使わず攻撃を避け続けているな。すごい逃げ足の速さだ。

 

「ギャハァッ!」

 

「ぐあぁっ!」

「……っ、ぅっ」

 

 魔物の中に魔法が使えるのが複数体紛れているせいか、戦乙女(ヴァルキリー)側が押されている……というか、結構ボロボロだ。このまま見ているわけにもいかないし、不意打ちでもするか。

 

「――らっ!」

 

「ギャヒィ……っ!?」

 

「……隙あり」

 

 不意打ちで魔物の集団へ飛び込み、地面を殴りつけて魔物をぶっ飛ばす。それによって魔物へ隙が出来たところに、藍髪の戦乙女(ヴァルキリー)が濃紺の魔力槍を大振りで横薙ぎし、魔物達の命を刈り取った。残った魔物は二体。ゴブリンメイジと、巨大オーク。

 

「ヒヒヒヒヒヒゴボォッ!?」

 

 ゴブリンメイジが紫色の炎を展開する前に腹をぶったたき、壁へ叩きつける。残った巨大オークは……。

 

「…………ゴッ!!」

 

 鉄骨めいた棍棒を横薙ぎしてきたため、跳躍して躱し、顔に蹴りを叩き込んだ。巨大オークがゴブリンメイジの上に倒れ、二体は同時に魔石へ変わる。

 

「おぉ……素晴らしい身体能力だ」

「……すごい」

 

 すると見ていた戦乙女たちから歓声があがった。いや、魔法使える身なんだから俺を誉めるのはおかしくねえか?

 

 一旦それはさておいて、魔物を倒し終わったため、戦乙女の方を向く。そこで、俺は見つけてしまった。戦乙女達の後ろにミタマが倒れているのを。

 

「ミタマ、大丈夫か!? ……何があったんだ」

 

「えっとですね……」

 

「私が話す」

 

 藍髪の戦乙女(ヴァルキリー)が前に出て、説明を始めた。曰く、戦乙女(ヴァルキリー)三人も同様に天然の影罠に捕まり、ミタマと合流したそうだ。

 

 ダンジョンを脱出するために、ミタマと戦乙女(ヴァルキリー)達は仮契約を結んだはいいが、うまくいかずボロボロに。責任を感じたミタマは、限界まで回復魔法を使ってしまい――こうして気絶してしまったようだ。

 

 同時に、3人には自己紹介をしてもらった。藍髪の子の名前はソゥ、桃髪の子はカレン、シトラス髪の子はレオノーラというらしい。

 

 ……ここまで聞いて、思い出した。これは、『ソルキリー』にあったクs……鬼畜イベント、『詰め戦乙女(ヴァルキリー)』だ。

 

 『詰め戦乙女(ヴァルキリー)』とは。ヒロインと分断され、ランダムに選ばれたモブ戦乙女(ヴァルキリー)三人を指揮し、補給の当てがない地下ダンジョンを攻略するランダムイベント……と言えば楽しそうだし、実際リソースを管理するのは結構楽しくはある。

 

 このイベントがクソと呼ばれているのはただの一点。失敗するとダンジョンに潰され、圧死する所だ。そのせいで育成とは別に、この『詰め戦乙女(ヴァルキリー)』攻略法も頭に叩き込む必要が出てくるのだ。

 

 逆に言えば、俺にはもうこのダンジョンの攻略法が完璧に頭に叩き込まれているから問題ない……はずなのだが、これも不完全かもしれない。まずは、脱出成功率を可能な限り上げるため、ミタマが起きるのを待とう。

 

「状況は分かった。三人共疲れただろ。ミタマが起きるまで休憩とろうぜ。警戒は交代でな」

 

「やったぁ! 休憩時間ですわ~!」

 

「では、私が最初に見張りをさせていただこう」

 

「……まだ戦えるのに」

 

 *

 

「うぅ~~ん? うわぁっ!? 生きてる!?」

 

「勝手に殺すな」

 

「あっ、違う違う。わたし、もう死んだものと思ってたからさ!」

 

 目覚めてすぐ、ケタケタと笑うミタマ。だが、その裏にはミタマなりの諦観が見える。戦乙女(ヴァルキリー)達を集める前に……もう少し心を休ませた方がいいだろう。

 

「もう少し、休もうぜ。いろいろ話を聞きたいし。例えば……なんであんなところにいたのか、とかな」

 

「う゛っ……」

 

 ミタマは一瞬気まずそうな顔をしたが、大人しく、どうしてあの場にいたのかを語ってくれた。要するに……。

 

「……騎士と繋がり作ろうと近づいて、魂導者だから拒絶された、ねえ」

 

 その理屈で言えば、俺も一応魂導者なんだが……そうは見えなかったっぽいな。

 

「謝るからそんな顔しないでよ師匠! ……新しい繋がりが欲しかっただけなの」

 

「……ミタマってよく『繋がり』って言葉を使うけど、なんでそんなに『繋がり』を欲しがってんだ?」

 

 繋がりは絆と言い換えれるから、絆を重んじる原作ミタマの性格と乖離しているわけではないんだが……やっぱり、気になりはする。

 

 すると、ミタマは上に手をぐい~っと伸ばした後、俺の足を掴んできた。相変わらずの、軽薄そうな笑顔を浮かべている。

 

「あ~、それ聞かれちゃうか。まあ、師匠になら……話しちゃっていっか。まず、わたしは記憶喪失。つまり、誰のことも知らない。でもさ。わたしはそれよりも――誰も、わたしのこと知らないのが、怖かったの」

 

「誰も、覚えていない?」

 

「うん。この学校でも、王都に出てみても、色んな村に行ってみても。誰も、わたしのことを知らなかった。それが、何より……怖い」

 

 俺の脚を掴んでいる手が、微かに震えている。いつの間にかその表情からは元気が消え、前に見たような深窓の令嬢の雰囲気を纏っていた。

 

「――わたしは、からっぽだ。誰も、何も教えてくれない。だって、誰もわたしのことを知らないから。記憶を失う前のわたしは、誰との繋がりも、なかったから」

 

「……ミタマ」

 

 それはそうだ。だってミタマは天界から落ちてきた『天の御子』の子孫で、何よりプレイヤーが操作する『主人公』なのだから。ゲームが始まるまで誰とも繋がりがあってはならないうえに、ルートによって少しずつミタマの性格は変わっていく。

 

 例えばラーミアルートだとおもしれ―女要素が増し、スカイルートだと自信のないスカイを励ます言葉が増える。

 

 そして、イリスルートでは……物知りなイリスから知識を受け継ぐため無知な言動が多くなり、イリスの凍り付いた心を溶かすように暖かい心を持つようになる。それはこれまでのミタマとのやり取りで、十分に実感できた。

 

 ……こうして整理してみると、このゲームの主役はヒロイン達戦乙女で、主人公でさえも、その魅力を引き立てるための要素の一つに過ぎないのだろう。

 

「だからわたしは、とにかくたくさん繋がりが欲しい。もしわたしがまた記憶を失っても、繋がりさえあれば、わたしは……!」

 

 見ると、ミタマの眼の端に涙が浮かんでいる。氷獄でも吐露したが、ミタマは軽薄なようで意外とちゃんと抱えるものを抱えている。それが、今回の無茶な行動に繋がったのだろう。

 

 だとしたら、俺がかけるべき言葉は……。

 

「……なあ、ミタマ。新しい繋がりを欲しがるのもいいんだが、今ある繋がりをもっと深めることってできないか?」

 

「深める?」

 

「ああ。友人(スカイ)相棒(イリス)といった……ちゃんとした繋がりはもう作れてるんだ。だから、増やすんじゃなくて深める。共に時間を過ごし、お互いの存在を魂に刻み込めば、忘れようと思っても忘れられなくなると思うぜ?」

 

「なるほど。……深める、かぁ」

 

 ミタマは俺の言葉に納得してくれたようで。その表情がだんだんと晴れて行く。ついには、感情が内側で抑えきれなくなったようで、元気よく立ち上がって、さらに俺を立たせ、手を握ってきた。

 

「にひひ……ありがと、師匠! ちょっと、元気が湧いてきた! わたし、イリーや、スカイちゃん、師匠と繋がりたいよ。もっと深く!」

 

「つ、つつ、つながるだと!? まさか、こんな所でおっぱじめるつもりか!?」

 

「うぉわーー!? いつの間に!?」

 

 レオノーラが足音を立てず近づいていたことに動揺して、ミタマが吹っ飛んだ。……なんか、レオノーラの顔が真っ赤だ。どういう想像をしてたんだ。

 

 レオノーラは俺たちが立ち上がったのを確認すると、気を取り直して三本指を立ててきた。

 

「まず、我ら三人で相談した結果、ミタマ殿との仮契約をルシアス殿へ移そうという話になった。お二方も、それでよろしいな?」

 

「いいよ。わたし、何の役にも立てなかったし」

 

「では、ルシアス殿。皆を呼んでくるから、仮契約を頼むぞ」

 

「……ああ」

 

 レオノーラの号令で、俺の手に戦乙女(ヴァルキリー)達が集まり、仮契約を始める。

 

 仮契約は本当に軽い契約で、こうして自由に切ったり付けたりができる。だが、こうして付け替えるということは、俺が主人公に代わって指揮権(コントローラー)を握るということで……不安だ。

 

「そうだ。ルシアス凄い強いし、一緒に戦ったり……」

 

「ダメだぞ、ソゥ。我ら戦乙女は誰かを守るために存在しているのだから」

 

「……そ、そうですわ! それにそういうのは、私達のためになりませんわ!」

 

 ソゥの提案に対して、カレンとレオノーラが反論する。

 いや、別に俺は脱出率上げるためなら囮程度にはなってもいいんだが?

 

 まぁ、それは最悪の手段として、今はやれるだけやってみるが。

 ……ただ、あんま期待しないでくれよ?

 

 *

 

 結論から言うのであれば――ルシアスの指揮は、完璧だった。

 ダンジョンを進んでいくうちに遭遇した、スタンピードを思わせるほどの物量を持つ魔物の群れに対し――。

 

「グヒャヒャヒャヒャッ!」

 

「ぴぃ~~~~! やっぱ、怖いですわ~! でも、今は、仲間のために、頑張りますわ~!」

 

 まず、カレンが逃走する軌道に桃色の魔力を撒きながら、足で先頭を走る大きな蜘蛛型の魔物を筆頭とした魔物達を攪乱した。

 

「――そこで魔法を!」

 

「わ、分かりましたわ! 『桃色走電(ピンクボルト・ドライブ)!』」

 

 ルシアスの命令に呼応してカレンが地面を強く踏みつけると、ブーツが音を立てて鳴り、地面に撒かれた桃色の魔力に電流が走る。それによって魔力を踏んでいた蜘蛛は感電して動けなくなった。

 

「動けなくなった奴は一旦放置。それよりも、奥に魔法を使おうとしている奴がいるから、阻止を頼んだ」

 

 ルシアスの言葉通り、奥に潜んでいた赤く輝く魔石を核としたスライムが、ダンジョンを漂う魔力を核へ集め、広範囲殲滅魔法を使おうとしている。

 

「キィイイイイイイイ……ゴォッ!?」

 

地重剛閃(グラウンド・パニッシュ)

 

 だが、魔力が溜まり切る直前、ダンジョンの闇から現れたレオノーラが重厚な剣閃を放つと、スライムは核ごと真っ二つになった。

 

「今の私は、仲間を守るための剣だ。……容赦はしない」

 

 スライムを切り落としたレオノーラへ魔物達の視線が向く。しかし、それより前に彼女は大地と同化するようにその姿が溶け消え、見えなくなった。急な不可視の一撃に、魔物達の間に動揺が広がる。

 

「さて、仕上げだ。全力の一撃を叩き込んでやれ」

 

「全力で、叩き潰す」

 

 ルシアスの命令を聞いたソゥが、複数の魔法陣を展開する。

 

蒼奏魔道砲(マジカライズド・ブルーカノン)

 

「ギャヒイイイイイイッ!?」

 

「グオオオオオオオッ!?」

 

 詠唱と共に全ての魔法陣から青色の魔力砲が放たれる。魔力砲は魔物の群れに突き刺さった瞬間、大爆発。大勢いたはずの魔物は全てはじけ飛び、後には黒い靄と魔石だけが残った。

 

「これ、いい……」

 

 大量の魔物が自分の魔法によって黒い霧に変わったのが余程気に入ったのか、ソゥは恍惚とした顔で体を震わせた。

 

「よし、上手く行ったか」

 

「……す、すっご!」

 

 戦闘が終了し、ほっと一息をつくルシアスにミタマが駆け寄る。その眼はルシアスへの尊敬で輝いていた。

 

「まさか、戦乙女(ヴァルキリー)それぞれに合った戦い方を見つけ出しちゃうなんて……どうして分かったの!?」

 

「カレンは反射神経がすごい上に雷が目立つから回避盾ができる。レオノーラは意識しなくても大地と一体化して気配を消せるから暗殺向き。ソゥは魔力溜めるのに時間がかかるけど、一発の魔力量が凄いから砲台にうってつけだ」

 

(……全部、原作知識(こたえ)ありきなんだけどな)

 

 内心自嘲しながら、ミタマへ教授を行うルシアス。だが、ミタマの眼で輝く星は消えないばかりか、その光量が増すばかりだった。

 

「それよりもすごいのは、みんなにその戦法をとらせるよう説得したところ! 最初は皆、師匠が言ってた戦い方嫌がってたし!」

 

 そう。ミタマの言う通り。戦乙女(ヴァルキリー)達はルシアスから提示された戦い方を始めは嫌がっていた。

 

『ぴぃ~~!? 私が前に!? 無理無理無理! 死んでしまいますわーー!!』

 

『暗殺だと!? ……っ。私は正々堂々を信条としている。仲間を守るためとはいえ、そんなことはできない』

 

『後ろは嫌だ。もっと戦わせて』

 

 という風に。三者三様にルシアスの命令(オーダー)を拒否していたのだ。仮契約であるため、命令(オーダー)自体に従うメリットも少なくなっているのも、それを後押ししていた。

 

 だが結局、こうしてルシアスの指揮に従って行動をしてしまっている。それは、ルシアスがそれぞれの行動原理を読み取った上で、説得を行ったためだ。

 

「戦えとは言わない。ただ、逃げるだけでいい。たったそれだけで誰かのためになるんだ、最高だろ?」

 

 カレンはどれだけ怯えても仲間を見捨てて逃げなかったことを察知し。

 

「三人で一つのチームと捉えてほしい。そうすれば、やっていることが不意打ちではなく、仲間が作ってくれた隙を突くという行いになる。――その上で、俺達は絶対に不意打ちをしない。それで、許してくれるか?」

 

 レオノーラが持つ正々堂々の概念を書き換え。

 

「アンタはまだ、安全地帯から一方的に敵を蹂躙する快感を知らない。……俺が教えてやるよ」

 

 ソゥは戦いたいというより、相手を叩き潰して気持ちよくなりたいタイプであることを見抜いた。

 

 短い対話の中で、ルシアスが戦乙女(ヴァルキリー)にやる気を出させていくのも、ミタマからすれば快刀乱麻を断つ活躍に見えたのだ。

 

「師匠が言葉を一言放つたび、見るからに戦乙女(ヴァルキリー)が乗り気になってて……すごくすごかった! さっすが師匠!」

 

「……ミタマの失敗を踏み台にしただけだ。大したことはしてない。それより、そろそろ進むぞ。戦乙女(ヴァルキリー)達が行っちまう」

 

「わかった!」

 

 ――この後も、ルシアスの指揮は完璧であり続けた。

 ルシアスの命令(オーダー)で作られた戦乙女(ヴァルキリー)三人の陣形は、その辺の魔物が何体束になろうが全く敵うものではない。

 

 その手ごたえは、戦乙女(ヴァルキリー)達にも伝わっており……。

 

(こんなに気持ちよく戦えるなんて、夢みたいですわ……!)

 

(もしかすると、我らは今、生まれて初めて……)

 

戦乙女(ヴァルキリー)として、100%の力で戦えている……?)

 

 魂導者(ソル)に自分の力を魂の奥底から引き出してもらえる喜びを感じながら、夢中になって戦い続ける戦乙女(ヴァルキリー)達。その勢いはとどまることを知らず。この地下ダンジョンのボス、魔法を弾く力を持った魔鋼鉄製の鎧と巨大な斧を身につけたアーマードミノタウロス(巨大な牛の化け物)ですら……。

 

「グロォオオオオオオオオオオッ!」

 

桃色封雷陣(ピンクボルト・シーリング)、ですわ!』

 

「グロォオッ!?」

 

 カレンが地面に魔力を撒き、完成した星型魔法陣から無防備な足裏へ強力な電流を流すことで、ミノタウロスの足を完全に止める。だが、それでも、攻撃を拒絶するために、ミノタウロスは巨大な斧を無軌道に振り回していた。

 

「グラアアアアアアアアッ!」

 

『――地重崩撃(グラウンド・ブレイク)ッ!』

 

「グゥッ!?」

 

 そこに、死角から現れたレオノーラの一撃がクリーンヒット。アーマードミノタウロスの鎧が砕け、ボコボコとした筋肉質な肉体が露わになる。

 

『多重収束・蒼奏魔道砲(マジカライズド・ブルーカノン)

 

「グオオオオオオオオオオオッ!?」

 

 ほぼ同時に、ソゥが複数の魔法陣を展開。放たれた十数本の青色魔力砲が一つに収束し、鎧が剥がれた箇所目掛けて突き刺さった。魔力砲はミノタウロスの体を貫き、大爆発。地下ダンジョンの強大なボスは内部から破壊され、黒い靄へと変わった。

 

 靄を浴びながら、レオノーラが檄を飛ばす。

 

「よし。次はどこだ!?」

 

「いや、これで終わりだ。さっきのがボスだったからな」

 

 ルシアスの言葉の通り、ミノタウロスが魔石と化した瞬間帰還の魔法陣が展開された。光の満ち溢れ方からして、数十秒も経たずダンジョンから脱出できるだろう。

 

「え? もう終わりですの?」

 

「……あれ、ボスだったんだ」

 

「戦う前にボスだから気を付けろって言ったはずなんだが!?」

 

 拍子抜けしたような顔をするカレンと不満げなソゥに、突っ込みを入れるルシアス。特に、カレンは戦いを嫌がっていたはずなのに。いつの間にかボスを倒したことに気づかないほど、戦いを楽しんでしまっていた。

 

 はぁ。と、ため息をつきながら、ルシアスは三つの袋を戦乙女(ヴァルキリー)達それぞれの足元に向かって放り投げる。

 

「三人が稼いだ魔石を等分しといたから、確認しといてくれ。あと、ダンジョン出る前に……仮契約も解除しとくか」

 

 ルシアスは右腕にある仮契約の証。それぞれ、桃、シトラス、藍色の魔法陣に触れ仮契約を解除しようとしている。

 

「あ、ま、待ってくださいまし……っ!」

 

「本契約にしてくれたりはしないか。……残念だ」

 

「……むぅ」

 

 戦乙女(ヴァルキリー)達は、それを不満げな顔で眺めている。しかし、ルシアスはそんな執着の籠った目線に気付くことはなく、仮契約を解除した。

 

 そんなルシアスに、いっそう熱を帯びた視線を向ける一人と一匹。

 

 一人は、ルシアスの活躍を一番近い場所で見続けたミタマ。もう一匹は、地下ダンジョンの外(いちばん遠い所)から監視していた渡り鴉――フギンこと、『魂導者(ソル)堕とし』。

 

(……すごい。師匠が命令するたびに、戦乙女(ヴァルキリー)の魂が喜んでた)

(成程な。こんな天才いたらそりゃ、ニーズヘッグパイセンも殺られますわ)

 

 原初の魂導者(天の御子)の子孫と魂導者(ソル)堕とし――正反対の立場を持つ一人と一匹。だが、何故か、ルシアスに対する見解だけは一致していた。

 

(前々から思ってたけど、ついに理解(わか)った)

(本当に長かったが、やっと見つけた)

 

 一匹と一人が思い浮かべたのは、1000年前に神を救ったある英雄。

 

(――師匠が、次代の天の御子だ!!)

(お前を殺す。天の御子!)

 

 

 尚、当のルシアスは……。

 

(……良かった。原作(ゲーム)通りに行ってくれた。やっぱ俺、スカイじゃねえと駄目だわ。失敗したら死ぬってのは心臓に悪い!)

 

 冷や汗をぬぐいながら、ほうっと安堵の溜息を吐いていた。

 

 誰も、何も気づかないまま。脱出魔法陣の光がダンジョンを満たし、ルシアス達は地下ダンジョンから跡形もなく消え去った。

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