ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第26話:『魂導者』は刻み込まれる

 真っ赤な夕日が照らす、森に囲まれたある村。ルシアス達が最初に救援したその村には今、イリスが展開した氷の防壁が建てられている。

 

 本来であれば、それで防衛機能として十分だった。実際、氷壁の周りには魔物型の氷像が数十体まばらに置かれており、青空氷像展の様相を呈している。

 

 だが、ここで『渡り鴉』が干渉した。彼が打った一手は、ルシアス達がダンジョンから村へ戻った一点を狙っての襲撃。スタンピートに参加した魔物の中で最も格の高いベヒーモスを、その黒き魔力によってさらに強化させ、差し向けることだった。

 

 牙や角が異様なまでに肥大化した巨大な獣が、筋骨隆々の四つ足を駆動させて氷壁へ向かって走り出す。一回目の突撃。氷壁に大きなヒビが入り、反撃でベヒーモスの角が凍りつく。だが、それでも、ベヒーモスは突撃をやめない。

 

「ブオオオオオッ!!」

 

「なっ……!? 防壁が……!」

 

 だが、それでも――ベヒーモスの突撃を止めるに至らなかった。氷壁のヒビへ狙いを澄ました二度目の突撃によって、氷壁に大きな穴が作られ、途端に後ろで控えていた数十体の魔物が、我先にと言わんばかりに村の中へ入り込んできた。

 

 魔物の轟叫。荒れ狂う足音。人々の悲鳴。様々な異音が入り交じり、昨日まで平穏だった村が恐怖へ沈んでいく。

 

「せ、せめて村人は守り切るん……ぐはぁっ!」

 

 騎士隊長の叫びもむなしく、続々と魔物が村へ押し入る。先陣を切っていたベヒーモスが騎士たちを弾き飛ばすと、村人たちが避難している村長の家へ巨体を向ける。ベヒーモスの口から黒色の唾液が垂れるのと、奥で震えている村人が恐怖で震えるのはほぼ同時だった。

 

「ひ、ひぃっ……!」

 

「ブヒヒヒヒィ……!」

 

 ベヒーモスが眼を黒く血走らせ足を溜める。それを見て、これからどうなるかを予見してしまった村人達の顔の絶望の色が濃くなった。

 

「ブヒャアアアアアアアアッ!!」

 

 愉悦交じりの絶叫と共に、ベヒーモスが弾け飛ぶように巨大な木造建築へ駆け出す。その突撃が家を破壊し、多くの人を轢き殺す……より前に人影が上空から降り立ち、その道筋を阻んだ。

 

「……ブギャッ!?」

 

 その人影に衝突した瞬間、ベヒーモスはまるで山に衝突したかのような錯覚に襲われ、その足が止まる。ベヒーモスの真っ黒な目に映るその人影の正体は、地上へ戻ってきたルシアスだった。

 

「ふぅ、危なかった」

 

 ルシアスはベヒーモスの突進を受け止めても、一歩も後ろへ下がらなかった。それどころか、腕へ更に力を込め……巨大なサーベルを思わせるその角を、ぶち折った。

 

「ブオオオッ!?」

 

 自慢の角が砕けたことに驚愕したベヒーモスが僅かにのけぞる。その一瞬の隙を見計らい、ルシアスの胴回し蹴りがベヒーモスの脳天へ向かって放たれた。

 

「――らっ!!」

 

「ブヒァッ!?」

 

 頭をカチ割られたベヒーモスは地面に倒れ、動かなくなり……やがて、黒い靄と共に黒い斑点付きの魔石へと変わった。

 

「ん? この魔石……いや、考えている場合じゃないな」

 

 ベヒーモスの魔石を拾い上げ、即胸ポケットに仕舞ったルシアスが辺りを見渡す。そこは、地獄絵図だった。騎士たちは余力が残っていないせいか、侵入してきた魔物達にぼろ雑巾にされており、今にもその儚い命を落としてしまいそうだ。

 

(ミタマの聖属性魔法で一か所に集まっている村人を魔物から守ることはできるが、散っている騎士は無理だ。だから、この局面を死者なしで突破するには……)

 

「……チッ!」

 

 頭の中で最善手を導き出したルシアスは小さく舌打ちをすると――腰に掛けている剣に手をかけた。

 

(使ったら、俺がアルスターの人間だと騎士共にばれる。だが、使わねえと……人が死ぬ…………ああ、クソッ!!)

 

 ルシアスが心底忌々しく、剣を引き抜こうとした瞬間――。

 

 

 

『――竜炎球魔法(ファイアボール)!』

 

「オオオオオオオオオッ!」

 

 上空から飛来した太陽のような輝きと熱量を放つ炎球が、魔物の群れの真ん中に墜落し爆散した。皮膚に染み込む熱波と共に、炎球から生まれた大炎竜が吠える。

 

「ヒィイイイイイッ!」

 

 圧倒的強者である炎竜の咆哮を受けた魔物達は命の危機を感じたのか、眼の前の騎士を放り出して脱兎のごとく逃げ去った。

 

「……スカイか」

 

 上空を見上げるルシアスの眼に、大きな竜翼を生やしたスカイが映る。ここ数日の特訓の成果が出たのか、その飛翔からは初めて空を飛んだ時のぎこちなさが完全に消えていた。

 

 同時にスカイもルシアスを見つけたのか、竜翼を羽ばたかせながら、大声と共に手を振った。

 

「おーい!! 二人共戻ってこれたんだね!! 今そっちにイリスが向かってるからさ、それまでは頑張って!」

 

「頑張るもなにも、もうやる事ねえっての。でも、まあ……」

 

 ルシアスが、剣から手を離す。

 

「最高だよ、お前は」

 

 その眼は、悠々と空に羽ばたくスカイの竜翼を、真っすぐに貫いていた。

 

 *

 

 脅威である魔物は去ったが、まだ問題は残っていた。それは、魔物の襲撃を受けた騎士達が死の淵に瀕していることである。

 

「ぅ……うぅ……」

 

「まずいなこれ、はやく治療を……ポーションがもうない?」

 

 しかも、二度目の襲撃を想定していなかったせいで、ポーションや医療用品の備蓄もない。このままでは、騎士たちは傷の治療も満足にできず、死んでしまうだろう。

 

「師匠」

 

 声に反応して振り返ったルシアスの眼がミタマと合う。ミタマは真っ直ぐな視線をルシアスへ向けながら、魔力を練り上げ始めていた。それを見たルシアスが、僅かに肩の力を抜く。

 

「……行けるか?」

 

「――当然!」

 

 ルシアスに背中を押され、騎士達に近づいていくミタマ。近づいていくミタマにまず気づいたのは、騎士隊長だった。

 

「きみは……くっ!」

 

「ごめんね。わたしさ、誇りとかどうでもいいんだよね。ただ――目の前で苦しんでる人がいたら、助けるだけだからさ!」

 

 罠に捕まる前とは違う、芯の通った宣言をするミタマ。そんな凛とした態度の彼女に対して、騎士隊長は伏せたまま歯嚙みした。

 

「だが、我ら騎士は、魂導者(ソル)には……!」

 

「そもそもさ。魂導者(ソル)も騎士も、当然戦乙女(ヴァルキリー)も、誰かを守るためにいるんだったら――協力した方が絶対いいに決まってるじゃん!」

 

「……!」

 

 にっ、とミタマが優しい笑顔を騎士隊長へ向ける。その優しくも風格のある笑顔を見た騎士隊長ははっと息を飲んでその眼を見開いた。

 

「よっし! 魔力溜まった!」

 

 身体にクリーム色の魔力を溜め終えたミタマは、両手を祈るように合わせ――。

 

『――聖天の息吹(セイントブリーズ)!!』

 

 瞬間、ミタマの身体から放たれたクリーム色の魔力が、勢いのまま広場内を循環し始めた。聖天の愛(セイントラブ)から守護の要素を減らし、回復のみを目的としたその聖属性魔法は、騎士達の体へ染み入り、致命傷であっても問答無用に生命を与え続けている。

 

「にひひ~! 誰も死んでないみたいだね、よかったよかった!」

 

「お、おぉ……」

 

「聖女様……」

 

 後光が差すほど神々しいミタマの笑顔を見た騎士達から感動の声が漏れる。時間が経ち、騎士たちの傷が癒え切ったのを確認したミタマは、ルシアスの方を向いてドヤ顔サムズアップをした。

 

「――やったよ! 褒めて!」

 

「ああ。よく、貫き通したな。かっこよかったぞ」

 

「ふふん。わたしには天の御子がついてるからね。かっこ悪い所見せてらんないよ!」

 

「……天の御子?」

 

 いきなり昔の偉人の名前が出てきたせいか、ルシアスが僅かに眉をひそめる。だが、すぐにその表情から疑問の色が消えた。

 

「ああ、そうだな。ミタマにはご先祖様(てんのみこ)がついてる。きっと、さっきの素晴らしい魔法も見届けてくれただろうよ」

 

(ミタマ、()()()()()()()()()()であることを思い出し始めたっぽいな。いい傾向だ)

 

「そうそう! これからも師匠(てんのみこ)に、わたしの凄い所をバンバン見せてくつもりだから、覚悟しといてね!」

 

()()()()()()()()()師匠が見てるんだから、無様晒してられないよね!)

 

 一見嚙み合っているようで、全く嚙み合っていない二人。このまま話を進めれば、どこかで食い違う部分が出てくるのかもしれない。

 

「ミタマ……!」

 

「あ、イリー!」

 

 しかし、それよりも先にイリスがミタマ達に声をかけたことによってやり取りは打ち切られた。そのまま遠くから走り寄ってくるイリスを見たミタマが気まずそうに頬を掻く。

 

「あ、コレ、わたし絶対怒られるよね。ねえ師匠、怒ってるイリーをなだめたりは……」

 

「まあ、別にいいが……」

 

 ルシアスは、そこまで言いかけたところで何かに気づいたかのように僅かに眼を見開き、後ろを向いて悠々と歩き出した。

 

「――いや、やっぱ二人っきりの方がいいだろ。俺は村人達の様子見てくるわ。結構ショッキングなシーン見せちまったしさ」

 

「ですよねー! じゃ、大人しく怒られてくるね!」

 

「……ああ」

 

 ルシアスが立ち去り、イリスがミタマの元にたどり着くまで残り数秒。ミタマの頭の中は、色々な考えでいっぱいだった。

 

(わたし、イリーにどれだけ怒られるんだろ。ビンタ? げんこつ? いや、言葉だけで滅茶苦茶詰められるかも……?)

 

 そこまで考えたところで、ミタマは首を一度ぶんと振り、考えを吹き飛ばした。

 

(いいや! 悪いことをしたのはわたしだし、イリーにどれだけ られても、受け入れよっと!)

 

「いやーほんと、心配かけてごめんね。イリー!」

 

 両の平手を向け、ミタマがあっけらかんと軽い謝罪を行う。そんな反省が見られない、気持ちよく怒れるような態度のミタマに対して――。

 

 

「――ミタマ!!」

 

 イリスは駆けだした勢いのまま、人目を気にせず、その身体を強く抱きしめた。身長差があるせいか、イリスがミタマに覆い被さるような体勢になる。

 

「………………えっ?」

 

 ミタマの眼が驚愕によって、見開かれる。

 

「このおバカ……っ! 心配、かけさせないでよ……っ!」

 

「ぇ……ぁ……」

 

 ボロボロと涙を流してミタマの無事と再会を喜ぶイリスと、何と答えていいか分からず眼を泳がせるミタマ。

 

「……っ。……ごめん、なさい」

 

(あぁ……これが、師匠が言ってた魂に刻み込まれる感覚かぁ。わたし、刻み込まれちゃったなぁ……)

 

 やがてミタマは、胸の中からとうとうと湧き出てくる熱い感情に流されたまま、透明な雫を垂らす眼を閉じ、イリスとの繋がりを、ただ感じ始めた。

 

 *

 

 数十秒か、数分か、数十分か――とにかくたくさんの時間が過ぎた頃、イリスはミタマからゆっくりと離れた。改めてその顔を見ると、涙で眼が真っ赤に充血している部分以外は普段の無感情なイリスに戻っていた。

 

「じゃ、防御魔法の再付与したし、そろそろルシアスも戻って来るだろうから、私は防壁を直してくるわ。ルシアスにもちゃんとお礼言っときなさい」

 

「当然! ダンジョンから出れたのは、師匠のおかげだからね! 本当、凄かったんだよ!」

 

「…………っ!?」

 

(もしかしてルシアス、ミタマの前で剣を振った……!?)

 

 ミタマの快活な言葉に、イリスがその身を硬直させる。

 

(ミタマって、ヒーローとかそういう系に憧れるタイプよね? もし、ミタマが剣聖としてのルシアスを好きになっちゃったら、私は……どうすればいいの? ルシアスは、私だけの、剣聖様なのに……!!)

 

 自らの魂導者への思慕とルシアスへの独占欲の板挟みに遭い、イリスは思考の渦に囚われてしまう。顔色が、まるで氷獄を象っていた魔氷のような青白さなりながらも、イリスは感情を言葉に乗せないよう意識しながら口を開いた。

 

「ふーん。何が、どう、すごかったの?」

 

「初対面の戦乙女(ヴァルキリー)を指揮しててね。その力を引き出して、戦い方を変えるよう説得して――ほんと、まるで天の御子みたいに指揮してたんだよ!」

 

「……そう」

 

(……よかった。ミタマの前で剣を使ったわけじゃないのね)

 

 ミタマの返答を聞き終えたイリスが、ほっと一息をつき、強張っていた身体を弛緩させる。何も知らない傍から見れば明らかな奇行に、ミタマはこてっと首を傾げた。

 

「……うん? どしたの、イリー」

 

「別に。その言葉、ちゃんと私じゃなくて本人にも伝えなさいってだけよ。じゃ、私は行ってくるから」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 ミタマの返答が想定したものではなかったと確認したイリスは、身にまとう雰囲気を少し緩ませ、ほっと一息ついた後……村の外れに向かって歩き出した。

 

「……そろそろ師匠、帰ってこないかなー」

 

 残されたミタマは、胸を弾ませて辺りをきょろきょろと見渡している。

 

「今、時間を貰ってもいいかい?」

 

「……うん?」

 

 そんなミタマに向かって控えめに声がかけられる。

 

 ミタマが振り向くと、そこには豪華な鎧に王子様系のイケメン――騎士隊長が佇んでいた。だが、その表情は沈んでおり、どこか申し訳なさそうだ。

 

「何か用あるの?」

 

「……まずは、謝らせて欲しい。君を拒絶したことを」

 

 騎士隊長が、頭を下げたまま言葉を続ける。

 

「君に助けられて、『騎士も魂導者(ソル)も人を助ける存在』と聞かされて目が覚めたよ。誇りで目が曇っていたのは僕たちの方だったことに」

 

「そんな謝らなくていいよ。わたしが助けたかっただけだし」

 

「いや、そうはいかない。お礼がしたいんだ」

 

「お礼?」

 

 首をかしげるミタマに、騎士隊長はゆっくりと口を開こうしとている。よく見ると、その頬はわずかに紅潮していた。

 

「今度、王都で僕と食事を――」

 

「――あっ!」

 

「……えっ」

 

 だが、ミタマは何かを見つけたかのように急に飛び上がると、真剣な雰囲気の騎士隊長を放置してどこへともなく走り出した。

 

「師匠!」

 

「うぉっ!?」

 

 ミタマの行先には、戻ってきたルシアス。ミタマは駆けだした勢いのまま、ルシアスへ飛びついた。いきなりの奇行に動揺したためか、ルシアスは避けることができず、そのままミタマを受け止めてしまった。

 

「ししょ~~!!」

 

「ちょっ、いきなりどうしたんだ、ミタマ!?」

 

 そのまま、ルシアスを離さないようにがっちりと強く抱きしめ、胸元に頬を擦りつけるミタマ。ルシアスは強く振り払うこともできず、ミタマと0距離密着してしまっている。

 

「えー……。あそこに騎士がいるんだが、繋がり、作っとかなくていいのか? 傷を癒やした恩がある今なら、話ぐらいはできるだろうし……」

 

 どうにか言葉によってミタマに離れてもらおうと、手を上手く使って騎士たちを指し示すルシアス。だが、ミタマは首を振って拒否の意をルシアスへ示した。

 

「うーん、いいや! 今は、もっと師匠と繋がりたい!」

 

「……俺なんかと、そんな繋がりたいか?」

 

「にひひ~! そんなに、繋がりたいんだよ!」

 

(わたしの魂にイリーが刻み付けられたみたいに。師匠の魂に、わたしを刻みつけたい!)

 

 可愛らしい執着と共に、ルシアスへ抱きつくミタマ。

 この繋がりは、戻ってきたイリスに引きはがされるまで続いた。

 

 

 

 

「…………っ」

 

「あっ。隊長が地面に崩れ落ちた」

 

「目の前であんな恋する乙女の顔されたら仕方がありませんよ」

 

「しゃーねーな。やけ酒に付き合ってやるか!」

 

「それは君が飲みたいだけでは?」

 

 尚、人知れず砕けた騎士隊長の恋は、騎士達でフォローしたにも関わらず半年引きずったが、当のミタマは知りようもないことである。

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