ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第27話:『天才』と『剣聖』と『天の御子』と……?

 スタンピートが平定した翌日の朝。俺は学内施設の一つ。依頼等を受けるための受付を訪れていた。だが、目的は依頼ではない。

 

 今日、ここで決闘祭のトーナメント表が張り出されるのだ。決闘祭はラーミアとの決着をつける場。どういう対戦カードになるかで立ち回りが変わるため、スカイとの朝食を終えたらすぐに確認したかったのだ。

 

 受付は既に多くの人でごった返しており、巨大なトーナメント表を確認するのも一苦労だ。背を伸ばして確認をする。

 

 ……まず、俺達とラーミアは逆側のブロック。つまり、出会うのは決勝だ。そこはまずよかった。一回戦とかだと色々と怖すぎたからな。

 

 あとはイリス達だが……見つけた。イリス達も俺達と逆側で、かつ、ラーミアとも違う側。つまり、ラーミアとは準決勝、俺達とは決勝で戦うことになるって感じか。

 

 つまり、まずは決勝まで勝ちあがらないと話にならないってことだ。そのために、今日も訓練を――。

 

「……あのっ!」

 

「うん?」

 

 トーナメント表の確認を終え、寮の部屋に戻ろうと踵を返した俺の目の前に――純朴な雰囲気の少女が立っていた。少女は何故か足が震えており、その表情は決意と緊張で固まっているように見える。

 

「先日のスカイさんの飛翔、見せていただきました! その、あなたの魂導者(ソル)の腕を見込んで、一度でいいので、私の魔法を見ていただけないでしょうか!」

 

「……は?」

 

 目の前の少女が放った言葉の意味が分からず、身体が硬直してしまう。

 

 ……いや、魂導者(ソル)に魔法を見てもらいたいって気持ちは分かるぜ? 国中が注目する決闘祭も近いしな。だが、それで俺に来るってのが分からん。俺は魂導者(ソル)になって一ヵ月も経ってないし、これまでに功績を挙げてたとして、それは全てスカイの才能に依存したものなんだが!?

 

「ず、ずるい! アタシも見てほしいわ!」

「私も!」

 

「え、えぇ……」

 

 そうこう考えている間に、俺の前に人が大勢群がってきて、行く道を塞いでしまっていた。

 

 いや、あの……なんで?

 

 *

 

『あ、ありがとうございます……剣聖様!』

 

 少女は熱い涙を零しながら、剣聖へ縋るように抱きついた。

 

『このご恩、なんとお返しすればよいのか……! 私に差し出せるものなら、何でも――』

 

 少女の熱情を受け止めた剣聖は、その指先で優しく涙を拭い――。

 

『他者を助けるのは当然のこと、と言いたいところだけれど。どうやら私は、君の清らかな心に惹かれてしまったらしい。英雄としてではなく、一人の男として……君を求めている』

 

『それって――』

 

 はっと顔を上げた少女と剣聖の視線がかち合う。二人は言葉もなく、ゆっくりと顔を近づけていき――。

 

 

「~~~~~~っ!!」

 

 イリスが言葉にならない叫びと共に、バタンという音を立てて『剣聖伝説第二章・清浄なる護魂剣』を閉じる。その顔は真っ赤で、心の中で押しとどめられないほどの熱情に覆われていた。

 

(なんで、なんで、私は……)

 

 談話室で一人、本にまみれた机に突っ伏してどうにか平常心を取り戻そうとするイリス。だが、上手く行っていないようで伏せながらも足をバタバタと忙しなく動かしている。

 

 イリスがルシアスの剣を見てからというもの、イリスの中にある剣聖像は完璧にルシアスへ上書きされてしまっていた。だが、それだけならまだ、ここまでの醜態を晒すことはなかっただろう。

 

(全く性格の違うヒロインに、自分を投影して――!?)

 

 『剣聖伝説』は章ごとにヒロインが変わり、当然その性格も変わる。だが、ヒロインがどんな性格をしていても、今のイリスにとっては強制的に、ルシアス(剣聖)のヒロインは自分になってしまうのだ。

 

 ……それだけ、ルシアスに惹かれてしまったのだ。

 

「はぁ…………ん?」

 

 溜息をつくイリスに、『第五章・万魔城割り』の文字列が眼に入る。『剣聖伝説』の五章は一つの区切り。剣聖が一章から共に歩んできた幼馴染を魔の居城から助け出した後――()()()()()()()()()()()()()()

 

「……っ」

 

 瞬間、イリスの喉がこくっと鳴る。イリスは頬を熱に浮かせたまま、震える手で、『剣聖伝説』の第五章を――。

 

 

「入るぞ」

 

「――――!?!?」

 

 掴み取ろうとした瞬間、ラーミアが談話室の扉を轟音と共に開いた。急な侵入者に驚愕しすぎたせいかイリスは机ごとひっくり返り、本に埋もれてしまう。

 

「……取り込み中だったか?」

 

「…………余計なお世話よ。それで、何の用?」

 

「くくっ。殊勝な態度だが、本に埋もれてたら意味がないな」

 

 半笑いで手をぱたぱたと振るラーミアを、イリスが山積みの本の中から睨みつけるると……イリスが埋もれている本へ眼をやったラーミアが、口を開いた。

 

「『剣聖伝説』、か」

 

「それがどうしたの。というか、あなたは何を――」

 

 

「貴様、ルシアスの剣を――『白銀の光』を見たな?」

 

「……!? なんで、そんなこと……」

 

「分かるんだよ。(ワタシ)も、見たからな」

 

 イリスの眼が驚愕で見開かれる。だが、『(ワタシ)もそうだ』と聞いた瞬間、イリスの表情から驚きの色を消え、逆に怒気に満ちた瞳でラーミアを睨み返した。

 

「もし、ルシアスのことを誰かに話したら――!」

 

「安心しろ。(ワタシ)もルシアスの剣について誰かに話すつもりはない。競合相手(ライバル)は、可能な限り少ない方がいいからな」

 

「……ライバル?」

 

 イリスの問い返しを無視して、ラーミアは言葉をつづけた。

 

「ただ、一つ聞かせろ。貴様はルシアスの剣をどう見ている?」

 

「何よ、急に……」

 

「別に、話したくなければ話さなければいい。ただ、(ワタシ)自身、ルシアスの剣について知る人と出会うのが初めてでな。興味があるんだよ」

 

「……そう。そんなに言うなら、話してあげるわ」

 

 ラーミアの言葉にイリスの眼がぎらりと光った。やがて、イリスは自分の中で考えを整理し終えたのか、はきはきと通る声で語りを始めた。

 

「私にとってルシアスの剣は、剣聖の奇跡の再現。あの白銀の光は、アルスター家が代々教えを繋いできた剣聖道が、実を結んだ証――」

 

「下らん」

 

「なっ……!? あなたが言えっていったのに、何よその態度は!」

 

 語り始めた瞬間に一蹴され、流石のイリスも額に青筋が浮かぶ。だが、ラーミアはイリスを一顧だにせず『剣聖伝説』を握りしめながら語り出した。

 

「――知っているか? アルスター家の男には、ルシアス以外に剣聖道の三章より先を振るえる人間はいない」

 

「……え?」

 

「ルシアスの放つ白銀の光は、アルスター家の教えの果てじゃない。ルシアスの、()()()()()()()だ」

 

 衝撃の真実に、イリスの眼が見開かれ、ラーミアの姿を真っすぐに捉える。イリスの眼に映るラーミアの姿は、笑顔ではあったが目がまるで笑っていない。それどころか、何かとてつもない怒りを湛えているように見えた。

 

「つまりだな、アルスター家のしていることは、時代遅れの剣聖の真似事でルシアスの才能を食いつぶしているだけ。その結果、当のルシアスには逃げられているのだから喜劇にもなりやしない」

 

「時代遅れの、剣聖の、真似事……?」

 

 ラーミアがイリスの地雷を容赦なく踏みつける。頭に血が上ったイリスは、両手の拳を指が掌を突き破りかねないくらいの力で握りしめた。

 

「ああそうだ! ルシアスの持つ白銀の光は、未来を切り開く剣才の象徴。それを過去の再現なぞに使っているのだから――星のように輝く才能を、泥に捨てているも同然だ!!」

 

 ラーミアが『剣聖伝説』を持つ手に黄金の魔力を込める。すると、破裂音と共に『剣聖伝説』が爆散した。数百あるページが、ラーミアとイリスの間に垣根を作るように、紙吹雪となって舞い散る。

 

 

「だから、(ワタシ)がその才能を有効に使ってやるんだよ! 最高の戦乙女(ヴァルキリー)に仕える()()()()としてな! それ以外の未来は――ルシアスに相応しくない!!」

 

 

「そんなことはさせない。たとえルシアスの剣が未来を描けないとしても、その剣は確かに、私を救ってくれた。ルシアスは、私の――()()()()()()()だ!!」

 

 

 解釈違いと同担拒否。二つの執着が魔力となって放たれ、ぶつかり合う。その余波で談話室が悲鳴をあげるように軋んだ。

 

 ラーミアが爆散させた本の紙吹雪が収まった頃、ラーミアは魔力の放出を止め、薄い笑顔を浮かべた。

 

「くくっ。一歩も退かぬか、気に入ったぞ。ルシアスのついでに、貴様とも()ってやる。もし決闘祭で貴様が勝ったら、(ワタシ)はルシアスのことを諦めよう」

 

「……私が負けたら?」

 

「何もいらん。どうせ勝つ勝負に何かを賭けさせるほど、(ワタシ)は情がないわけでもないのでな」

 

「……っ!」

 

 明らかな嘲りを向けられ、イリスは歯を食いしばる。その姿を見たラーミアは笑みを深め、悠々と談話室の出口に向かって歩き出した。

 

「くくっ。思いの外有意義な時間を過ごせたな――」

 

「――それはそれとして。あなた、ちゃんと散らかした本は片づけるのよね? あと、図書室の本を壊すと司書さんが怖いわよ?」

 

「……これは、貴様の本ではないのか?」

 

「私のは付箋と書き込みまみれだから、じっくり読みたい時は図書室で借りるのよ……というか、私のなら壊してもいいと思っていたわけ?」

 

「…………スゥー」

 

 イリスが地面に散らばった『剣聖伝説』のページを指差す。ラーミアは無言で談話室の扉を開くと、背中に生える黄金色の光を放つ天使羽を大きく広げ――。

 

「――さらばだ!」

 

「待ちなさい!!」

 

 逃げるように、談話室から消え去った。

 

 *

 

 一方、ルシアスとスカイの共同居間。朝食を終えたスカイの元に、墨を潰したように艶のある黒髪を持つ少女――ミタマが遊びに来ていた。二人はお菓子と飲み物を傍らに置き、優雅な女子会と洒落込んでいる。

 

 始めの方は取り留めのない談笑をしていた二人。だが、突然、ミタマが何かを思い出したかのように顔を上げた。

 

「あ、そうだ! いきなりで悪いんだけど。もしかして、戦乙女(ヴァルキリー)が空を飛ぶのって思ったより重大だったりする?」

 

「本当にいきなりだね。どうしてそう思ったの?」

 

「いや、昨日スカイちゃんが皆の前で空を飛んだ時にさ、周りの人の見る目が変わったなーって」

 

 ミタマが思い出したのは、スタンピートが終結した後の帰り道の一幕。学園生達の話題がスカイが羽を生やし、空を飛んだこと一色に染まっていたこと。

 

(わたし、『戦乙女(ヴァルキリー)は空を飛べて一人前』ってこと以外知らないんだよね。だから、なんで皆そんなに驚いたのか分かんない……から、知りたい!)

 

「……分かった。まあ、隠すことじゃないし」

 

「よっしゃ、ありがとう!」

 

 ガッツポーズをするミタマを見ながら、スカイはグラス入りのジュースを一気に飲み干すと、ゆっくりと語り出した。

 

「実はね、翼のない戦乙女(ヴァルキリー)は18歳になると普通の女の子に戻っちゃうの」

「えぇっ!? どういうこと!?」

「うわっと!」

「あ、ごめん!」

 

 スカイから放たれた衝撃発言に眼を剥き、ミタマは机から身を乗り出した。それによってスカイの手元にあったグラスが倒れそうになるが、ギリギリで掴んで持ちこたえ、話を続ける。

 

「自分の翼を持たない戦乙女(ヴァルキリー)の力は、早い人は18、どれだけ遅くても20になると衰え始めて、数年で完全に力が消えちゃう。例外なくね。そうならないためには、闘装(ドレス)を――翼を手に入れる以外にないんだ」

 

「つまり、翼を生やした戦乙女(ヴァルキリー)は永遠の17歳ってことなのか! なんか……神秘的だね!」

 

「……神秘的かな?」

 

 ミタマが真剣な顔で感想を言うが、スカイの反応は芳しくない。ミタマはそのまま、「えっと……」と、自分の中でスカイが教えてくれたことを咀嚼すると、急にその眼を見開いた。

 

「――つまり、スカイちゃんは一生、戦乙女(ヴァルキリー)として働けるようになったってことじゃん!? すごいよそれ!」

 

「そんな、一生は働けないよ。……それに、すごいのはボクじゃなくてルシアスの方だし」

 

 スカイの言葉に、ミタマはその話題を待ってましたと言わんばかりに再び身を乗り出した。

 

「そうそう、師匠も、凄いんだよ! 昨日、わたしが敵の罠に嵌って、師匠が助けに来てくれたじゃん。その時師匠は、初対面の戦乙女(ヴァルキリー)の力を引き出してたんだ!」

 

「えっ。ルシアス、そんなことできたの……?」

 

「にひひ~! わたしはね、師匠はどんな戦乙女(ヴァルキリー)でも空へ飛ばしちゃう()()()()だって思ってる! だからわたし、もっと深く師匠と繋がりたいんだ!」

 

「…………っ!」

 

(違う、ルシアスは天の御子じゃない。だって、ルシアスが天の御子だったら、()()()、空へ飛ばすことができるんだったら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!)

 

 スカイは何かを言いたげに姿勢を前へ移したが、喉で言葉が詰まってしまったのか、そのままの体勢で固まってしまった。

 

(でも、天の御子じゃないとしたら、ルシアスは一体なんなんだろう……?)

 

「……んん? どうしたの、スカイちゃん」

 

「あ、えっと、その……」

 

 挙動不審をミタマに察され、しどろもどろになるスカイ。せめて、何か言葉を出そうと、口を開いた瞬間――ミタマのポケットが、赤く光った。

 

「あっ、イリーから招集命令来た。この色は……『談話室』か。ごめんねスカイちゃん、話はまた今度しよ! じゃね!」

 

「あっ……」

 

 ミタマはポケットから赤く輝く『通信の宝珠』をスカイに見せながら椅子から立ち上がり、急いで部屋から立ち去った。

 

「……戦乙女(ヴァルキリー)闘装(ドレス)

 

(ねえ、ルシアス。ルシアスはなんで……)

 

 部屋に一人残されたスカイはいつの間にか竜翼を展開し、指で撫でていた。

 

(退学寸前の『ダメな子』なボクなんかと、契約してくれたの?)

 

 だが、結局考え事の結論は出なかったようで。

 スカイは翼をしまい、粛々と机上の食器を片付け始めた。




本日は二話投稿です。
次の話はいつも通り20:18です。
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