ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第28話:『天才』はすれ違う

 依頼を受けるための受付所。本日ここで決闘祭のトーナメント表が張り出され、それに多くの戦乙女(ヴァルキリー)が群がる……はずなのだが。

 

「私の魔法を見ていただけませんか!?」

「ちょっと、ずるいわ! アタシが先に頼んだのですわよ!」

 

 何故か、俺が戦乙女(ヴァルキリー)に群がられていた。理由は分からない。俺はスカイという純金メッキが張りつけられているだけの、ただの張りぼてなんだがな。

 

 行く道を完全に塞がれてるし……窓から出るか?

 

 そんなことを考えていると、集っている戦乙女(ヴァルキリー)の1人、一番最初に俺へ声を掛けた、純朴そうな子が何かを思いついたかのように身体を跳ねさせた。

 

「そうだ! 決闘祭で一番いい成績をとった子がこの方を魂導者(ソル)にできるってのはどうでしょうか!?」

 

「はぁ!?」

 

 俺の意思を完全に無視した身勝手な提案だが、周りの戦乙女(ヴァルキリー)はそれはいい提案だと言わんばかりににわかに騒ぎだした。なんか、話の流れがおかしい。というか……。

 

「待て。なんで俺の戦乙女(ヴァルキリー)になるっていう話になってんだ!?」

 

「え? だって、あなたの戦乙女(ヴァルキリー)って決闘祭が終わったら退学になるんですよね? でしたら、()が必要ではないかと」

 

「…………」

 

 その言葉に、悪意はなかった。それが、自然の摂理かのように当然と語られ、周囲の戦乙女(ヴァルキリー)も無言の肯定をしていた。それはつまり、スカイの実力が認められて、退学が覆ると信じられていないということで……。

 

 いや、流石にこれは見過ごせない。俺に実力以上の期待がかけられている分には、俺のメンタルが削られるだけで済むが、そのせいでスカイの評価が不当に下げられるのは、我慢ならん。

 

 天才なのは、俺じゃなくてスカイなんだから。

 

「おい、流石にそれは――」

 

 戦乙女(ヴァルキリー)達に一言言ってやろうと、前に出た瞬間――黄金色の電流が壁を走り、道中にあった窓を乾いた音と共に破砕した。

 

 ……黄金の雷、ということは。

 

「くくっ。随分と面白そうな話をしているではないか」

 

 やっぱり。見ると、黄金色の天使羽を大きく広げるラーミアが受付と廊下の合間で立っていた。いきなりの破砕に、俺を取り囲んでいた戦乙女(ヴァルキリー)達の表情が強張る。その中の、純朴そうな戦乙女(ヴァルキリー)が恐れと共にラーミアの方へ振り返った。

 

「な、なんですか、あなたは……」

 

「何って参加者に決まっているだろう。くくっ。決闘祭で一番いい成績をとった戦乙女(ヴァルキリー)がルシアスを自分の物にできる、だったか?」

 

 半笑いで肩をすくめながら、ラーミアが戦乙女(ヴァルキリー)達を煽る。煽られた戦乙女(ヴァルキリー)達の表情は怒りが半分、怯えが半分といったところだ。やがて、怒りのグループにいたうちの1人が、気品のありそうなお嬢様戦乙女が、前に出てラーミアへ向かい合った。

 

「ふ、ふざけるんじゃないですわ! なんで既に空を飛べる貴方が――」

 

「――何か、文句があるのか?」

 

「…………っ!」

 

 ラーミアが眼をギラリと光らせると、気の強そうな戦乙女(ヴァルキリー)は身をすくめ、引き下がった。戦乙女(ヴァルキリー)達が静まり返ったのを確認したラーミアは金色の羽をさらに広げ、その力を誇示する。

 

「ないようだな。――ならば、とっとと散れ」

 

「ひぃいいいいいっ!」

 

 ラーミアが手をかかげ、黄金色の雷を放出すると、戦乙女(ヴァルキリー)達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、受付には俺とラーミアだけが残された。

 

 ラーミアが戦乙女(ヴァルキリー)達を追い払ってくれたのは、ありがたくはある、が……それはそれとしてラーミア自身が警戒対象だ。気をつけなければ。

 

「……で、手前は何しに来たんだ、ラーミア」

 

「ルールの確認だ。互いの存在を賭けた決闘のな」

 

 ラーミアはつかつかとトーナメント表に歩み寄ると、その中心部に金色の羽根を突き刺し、目立たせた。

 

「我らが戦うのは決勝だ。故に、決勝にたどり着く前に敗退した場合、絶対的な敗北となる。一回戦だろうと準決勝だろうと関係はない」

 

「それが妥当だな」

 

 ……そもそも優勝しないとスカイの退学を覆せないから、優勝以外は全て負けだ。引き分けはない。

 

「……ふふっ」

 

「どうした急に」

 

 急にラーミアが口に手を当てて、柔らかい表情で笑い出した。……こっちの笑い方を見るのは5年前以来だ。一体どうしたというんだ。

 

「いや、なに。まさか貴様がカイちゃんと組むとはな。お陰で貴様を手に入れるのに()()()()()()()()()()()ではないか」

 

 ……ん? 今、ラーミアは『待った』と言ったか?

 スカイと組んだから一か月待ったってことは……。

 

「……もし、俺がスカイと組んでなかったら?」

 

「うん? あの森で戦乙女ごと貴様を叩き潰し、無理やりにでも契約を切らせてたに決まってるだろう?」

 

 ラーミアの返答を聞いた瞬間、背中からどっと冷や汗が流れだし、胃がきゅぅううと締まる。そんな俺の様子を意に介さず、ラーミアは指を三本立てた。

 

「これで、(ワタシ)は貴様を手に入れ、貴様は騎士としてその力を存分に振るい、カイちゃんは退学してもフリーの戦乙女(ヴァルキリー)としてやっていける。三方良しの素晴らしい未来だな!」

 

「……手前は結局、『自分が良ければ全てよし』だろ」

 

「くくっ。酷いこと言う。……間違ってはいないが」

 

 その言葉と共に、ラーミアは割れた窓を開き――。

 

「さらばだルシアス。残り一週間。決闘祭前には、ちゃんとカイちゃんと別れの挨拶を済ませておけよ」

 

 窓から身を乗り出し、その羽を大きく広げ飛び立った。

 ……割れた窓の破片を放置して逃げたのは、最早指摘するまでもないだろう。

 

 残された俺は、割れた窓の掃除と先生への報告を行った後、寮へ戻った。

 

 冷汗はまだ止まらない。いや、仕方ない。ラーミアに叩き潰されるのが、俺の『破滅』の第一歩。だとすると、原作知識など関係なく、スカイと組めてなかったら俺は詰んでいたのだから。

 

 ……とりあえず、帰ったらスカイへ契約してくれたことへの感謝を伝えよう。

 

 そうだ。これまで作ったハンバーグ料理の中で、一番美味しかったものをリクエストしてもらおう。感謝の気持ちを伝えるには、それが一番いいと見た。

 

「戻ったぞ」

 

 そんな考えと共に、部屋のドアを開ける。

 居間にスカイはおらず、代わりにスカイの部屋のドアが半開きになっていた。

 

「スカイ……――っ!?」

 

 半開きになっていたドアから、部屋の中にいるスカイの様子が見えた瞬間――視覚と脳の中にある原作情報が直列に結びつき、息が詰まった。

 

 『ソルキリー』には数値化されていない隠しステータスが山のようにあり、それを知るためには、ヒロイン自身を観察するのが必須となっている。

 

 その上で、今のスカイは掛け布団を被ってうずくまっている上に、枕が涙で濡れている状態。それが指し示すのは、精神状態が最悪であるということだ。

 

 ……確か、こういう時は無理やり起こすのではなく、自分から起きるのを待った後、メンタルケアを行うのがいいんだっけか。ケアは……多分、ハンバーグ食わせるだけじゃ足りない。また別の何かを考えないと。

 

 それよりも問題は、契約解除されないか、だ。

 

 魂導者の一番の目的は、戦乙女に羽を生やすこと。だから、戦乙女闘装を習得後、魂導者のことを不要だと感じ、契約を解除する戦乙女は一定数いる。

 

 ……が、今スカイに離れられると滅茶苦茶困る。

 

 せめて大金を手に入れるまでとは言わずとも、破滅を回避するまで、ラーミアとの戦いまでは繋ぎとめておかないと。

 

 

――俺はスカイがいないと破滅以外の道がない、ただの凡人(モブ)なんだから。

 

 *

 

【side:スカイ】

 

 東の空から射す陽光を浴びながらグラスとカップを洗って片付け、席に戻っても、ボクの気持ちは晴れなかった。なんでルシアスはボクと契約したんだろう、ってもやもやした灰色の何かが、ずっと胸の中に残っちゃってる。

 

「よしっ! ルシアスに会いに行こ!」

 

 このままうじうじしていても何にもならないし、身を奮い立たせて立ち上がる。こういう時は、ルシアスの顔を見れば、いつだってもやもやが消えてくれるんだ!

 

 ドアを開けて共用居間から廊下へ出る。確か、ルシアスはトーナメント表を見に受付に行ってるんだっけ。というわけで、ボクも受付に行こう。

 

「はぁ、はぁっ! もう、なんなのですわ、アイツ! ……()()()の癖に!」

 

 すると、廊下の奥、受付の方から戦乙女(ヴァルキリー)が複数人、歩いてきた。どういうわけか、ついさっきまで全力で走ってたみたいで、肩で息をしちゃってる。

 

 みんなはボクを見ると――急に眉をグッとよせて、ボクを睨みつけてきた。

 

「……チッ! たまたま天才魂導者(ソル)を捕まえただけなのに、随分な余裕ですわね」

 

「教えなさいよ。一体何をしてあんな凄い魂導者(ソル)と契約までこぎつけたのかしら?」

 

「え? どうしたの、みんな……?」

 

 そのままみんなは、ボクに詰め寄ってきて、ボクは壁際に追い詰められちゃった。ボクが手を前に出して窘めても、みんなは落ち着かず、むしろボクをじっと睨んできて……。

 

「……その身体だし、()()()わけではなさそうですわね」

 

「小さい子が好みなだけかもしれないわよ?」

 

「やめてっ!! ルシアスは、そんな人じゃない!!」

 

 一歩前に出て、みんなに立ち向かう。そうしたら、みんなは笑っているような、もっと怖い顔になって……。

 

「身体目当てじゃないとしたら、踏み台……かしら?」

 

「ふ、踏み台……?」

 

「だってあなた、一ヵ月で退学するからそれを名目に契約を切れるじゃない。その後、実績を貴族へ売り込めば……これ以上ないほどの早さで成り上がりが可能になるわよねぇ?」

 

「……っ!」

 

 否定したかった。でも、喉で言葉が詰まってしまった。

 

 ミタマが言うようにルシアスが『天の御子』だったら、どんな戦乙女(ヴァルキリー)でも空へ飛ばすことができて。だったら、わざわざボクと契約してくれた理由は、何?

 

「なるほど、それなら納得ですわね。所詮あなたは、天才魂導者(ソル)が自分の才能を見せつけるための踏み台なんですわ! おーっほっほっほ!」

 

 一番前の子が笑い出すのと同時に、他の子達も一斉に笑い出した。

 

 ……辛い。

 笑われることが、じゃない。それはもう、慣れている。

 

 ルシアスを信じたいのに、信じきれなくて。心の中にどす黒い何かが生まれ始めてて。こんなもの抱えたまま、ルシアスに、会いたくなくて……!

 

 このままじゃ、駄目だ。このままだと、ボクはまた、大切な人に――。

 

「――何をしているの?」

 

 聞き覚えのあるような、ないような声。声のした方を見ると、黄色い髪を三つ編みにした女の子が壁に肘を付けてもたれかかりながら、こっちをじっと見ていた。

 

 みんなが黄髪の子を見ると、その子は下を向いて、何かを吐き捨てるかのように口を開いた。

 

「大方、いい魂導者(ソル)を手に入れたことに嫉妬して囲んでたってとこだろうけど、そもそもあなた達、魂導者(ソル)と契約したことあるの?」

 

「……っ! わ、わたくしに合う魂導者(ソル)が見つからなかっただけで――」

 

「見つからなかったんじゃなくて、大した実力もないのに人を見下してばっかな子と契約したいと思ったお優しい魂導者(ソル)がいないだけじゃない?」

 

「なにを……!」

 

 黄髪の子の言葉がよっぽど癪に障ったのか、みんなはあの子の方を睨みつけた。その中の一人が嘲るように口を開く。

 

「そ、そういうあなたこそ将来の心配をした方がいいんじゃないかしら? ()()()()()()()()()()()()あなたに、何の価値が――」

 

戦乙女(ヴァルキリー)の価値は家柄じゃなくて実力。貴方たちが欲している天才魂導者(ソル)がそう言ってたわよ?」

 

「なっ……!?」

 

「――そもそも、決闘祭まであと一週間しかないのにこんな所で他人(ひと)の足引っ張ってるなんて信じらんない!! 天を目指してるのなら、少しは本気で努力してみたらどう!?」

 

「……っ」

 

 黄髪の子が一喝すると、みんな黙り込んじゃって。一人、また一人、とぼとぼと歩いてどこかへ行ってしまった。後に残ったのは、ボクと黄髪の子だけだ。

 

「ぁ、えっと……」

 

 どういうわけか、黄髪の子は顔が見れないみたいに、ボクから顔を背けて、何かをごにょごにょ言っている……あっ、そうだ! まず、お礼言わなきゃ!

 

「ありがと――」

 

「――ごめんなさい!」

 

 ボクがお礼を言おうとした瞬間、黄髪の子は大きく頭を下げてボクへ謝ってきた。……いや、頭を下げるべきはどっちかといえばボクじゃないかな!?

 

「なんで、謝って……!?」

 

「私、権威を笠にしてあなたをいじめるのに加担してた!こんな程度で貴方に許されようとは思っていないけど、まずは、謝らせて……!」

 

「ごめん、思い出せない! 1から説明して欲しいな!」

 

 何について謝ってるのか分からないので、最初から説明してもらった。

 どうやらこの子は、伯爵家の戦乙女(ヴァルキリー)の取り巻きをしていたらしい。それで、みんなでボクを校舎裏に追い込んだり、ボクを助けに来たルシアスに向かって『衝撃槍魔法(ショックスピア)』を撃ったり――。

 

「あっ! 思い出した!」

 

「でしょ、だから、私を恨んでくれても――」

 

「ありがとね! 君の衝撃槍魔法(ショックスピア)を見てボクは、竜炎槍魔法(ブレイズスピア)を思いついたんだ。あれがあるのとないのでは、ボクの戦い方も大違いだったと思うし、本当に助かったよ!」

 

「…………!?」

 

 ボクがお礼を言うと、黄髪の子は眼を見開いた。何に驚いてるんだろう……と思ってる合間に、黄髪の子は溜息をついて後ろを向き、歩き出した。

 

「……はぁ。気にしてないなら別にいいわ。だったら決闘祭準々決勝、()()は容赦なく貴方に勝ちに行くだけだから」

 

「『私達』ってもしかして、キミも……」

 

「……君じゃなくて、スピネル。スピネル・ウィブロット」

 

 黄髪の子、いや、スピネルは、自分を指差してそう言った。

 自己紹介してくれたなら、ちゃんとそう呼ばないと。

 

「えっと、じゃあ……スピネルも、魂導者(ソル)と契約したの?」

 

「えぇ。()()()()()()の言う通り毎日瞑想を続けてたら、いつの間にか契約したいってお誘いが来ててね、喜んで引き受けさせてもらったわ」

 

「…………」

 

 『どこぞの天才』ってきっと、ルシアスのことだよね。

 そう思った瞬間、また、どくんっ、てどす黒い何かが胸の中にできちゃった。

 

「じゃあね、また決闘祭で会いましょ」

 

 ボクがどす黒い何かを持て余してる間に、スピネルはどこかへ行っちゃって。全く頭が働かなかったボクは、いつの間にか部屋に戻って、布団をかぶっていた。

 

 ……分かってる、こんなことしてちゃダメだって。

 ルシアスは、凄いんだから。その戦乙女(ヴァルキリー)であるボクは、期待に応え続けないといけなくて。落ち込んでる暇なんてなくて。

 

 もし、ルシアスが天の御子なんだとしたら、戦乙女(ヴァルキリー)は誰でもよくて。期待に応えられなかったら、ボクは見捨てられて――。

 

「……っぁ!」

 

 そう自覚した瞬間、目からボロボロと熱い雫が零れ落ちてくる。

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。見捨てられたくない。置いてかれたくない。

 だって、ボクは。

 

 

――ルシアスがいないと魔法も使えない、ただの落ちこぼれなんだから。

 

 *

 

「うぅ……ん、……あぁっ!?」

 

 自室のベッドで目をさましたスカイはまず、絶望した。既に日が沈んでしまっていたからだ。それはつまり、決闘祭までの大切な一日を潰してしまったという事で。

 

(……最低だ、ボク)

 

 自己嫌悪に苛まれ、スカイはベッドから出れなくなってしまう。

 結局、スカイがベッドから出たのは、起きてから十五分後だった。

 

(ルシアスに怒られちゃうからな。いや、怒られるならまだマシで、もしかしたら何の興味もなくしちゃう、とか……っ!)

 

 スカイが恐る恐る、共同居間へのドアを開く。

 

 扉を開いた先には、机の上にノートを広げ何かを考え込むルシアスがいた。

 

「あ、おはよう、スカイ。今、夕飯用意するからな」

 

 スカイが起きてきたのを確認したルシアスは、すぐにノートを仕舞って立ち上がり、キッチンへ足を向ける。

 

「あ……」

 

(ダメだボク。ルシアスの顔を見ると、どうしても、安心しちゃって……っ!)

 

 その姿を見たスカイは、一瞬だけ安堵の表情に戻った……が、すぐにその表情を曇らせ、言い訳するように口を開いた。

 

「えっと、ボク……」

 

「まず、飯食おうぜ。腹減ってたら、何事も悪い方に考えちまう」

 

 ルシアスが、キッチンから持ってきた大皿の蓋を開く。そこには出来立てのハンバーグが鉄板の上に乗り、溢れ出す肉汁が軽快な音を立てて跳ねていた。スパイスの焼ける匂いが部屋中に行きわたり……スカイのお腹がくぅと鳴る。青白かったスカイの頬がじわりと赤くなった。

 

「……うぅ」

 

「ほら、冷めちまうぞ」

 

 パンとスープを並べ終えたルシアスが座りやすいように椅子を引く。スカイはルシアスに促されるまま椅子に座り、ハンバーグを食べ始めた。だが、いつもより明らかに食を進めるペースが遅い。それを確認したルシアスも対面の先に座り、スカイと同じペースでハンバーグを口に運び始めた。

 

 ハンバーグを飲み込んだスカイがゆっくりと、懺悔するかのように口を開く。

 

「今日はごめん、ルシアス。その、寝ちゃって……」

 

「あ、それは俺が悪い」

 

「え、えぇ……!?」

 

 ルシアスのあっけらかんとした回答に、スカイは動揺してフォークを落としてしまった。落ちたフォークは鉄板にぶつかり、甲高い音を響かせる。それを全く気にせず、ルシアスは言葉を続ける。

 

「最近、スカイに無理をさせちまっていた。毎日飛行訓練してた上に、スタンピートでかなりの時間飛行をして……それで、まともな休息がとれていなかった反動が来たんだろ? それを管理できていなかったのは、魂導者(ソル)である俺の失態(ミス)だ」

 

「でも……」

 

「まだ、疲れ残ってるだろうし。明日は、全力で休もうぜ」

 

「全力で、休む?」

 

 スカイの問い返しに、ルシアスは大きく頷いた。

 

「ああ。二人で、王都にでも行こう。決闘祭へ最後の調整を行う前に、全力で心も身体もリフレッシュするんだ」

 

「王都に、二人で……」

 

 スカイはルシアスの言葉の意味をうまくかみ砕けないまま、落としたフォークを拾い上げ、ハンバーグの破片を摘まみ、口に運んだ――。

 

「――――!?」

 

(え!? こ、これって、その、デートってやつじゃないの!? な、なんでルシアスはボクに、こんな提案を……!? いや、待って! 多分、ルシアスのことだから、これにもきっと、何か意味が……!?)

 

 瞬間、思考を巡らせ終えたスカイの顔が、ぽんっ、という音が出そうなほどの勢いで赤くなる。だが、そんな熱に浮いた顔を隠すようにスカイは大きめのパンを持ち上げ、その隙間からルシアスの様子を伺いだした。

 

 尚、視線の先、当のルシアスは……。

 

(王都でどうにか……スカイに機嫌を取り戻してもらわねえと!)

 

 背中を冷や汗で濡らしながら、心の中で全く違う算段を立てていた。

 お互いを想い合う故に全く嚙み合わないまま、夜は更けていく。

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