ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第29話:『天才』と羽無き者達

 翌朝。ルシアスとスカイは、地図で言う学園の真北に位置する王都へ来ていた。王都は多くの人でごった返しており、まさしく盛況といった具合だ。

 

「やっぱ、いつ見ても王都はすごい人だな。つっても、まだ数回しか来たことねえんだけどさ」

 

「あ、うん、そうだね……」

 

 そんな人ごみの中を歩く二人。だが、スカイは万全の体調ではないようで、少しだけ足元がおぼついていない。

 

「……大丈夫か?」

 

「ごめん、ちょっと……」

 

(うぅ……。ルシアスとデートだなんて、色々考えすぎて、昨日はあんまり眠れなかったよぉ……)

 

「了解。じゃあ、人混みは負担になりそうだしやめとくか」

 

(スカイは昨日がっつり昼寝したからな。寝不足気味でも仕方ないか)

 

 スカイの容態を考えたルシアスはゆっくりと進路を変え、大通りから脇道へと入った。そのまま歩いて行くと、町中を通る大きな川にあたった。周囲には人は少なく、親子連れやらが数人いるくらいだ。

 

「……おぉ、水が綺麗だね」

 

「治水設備がしっかりしてんだな。流石王都と言ったところか」

 

 清流を眺めながら、思い思いの感想を言いあう二人。そのままのんびりとした時間が続くと思われたが……。

 

「ピーヒョロッ!」

 

「うわあああああんっ!」

「きゃぁあああ! やめて!」

 

「――っ!?」

 

 鳥の鳴き声と、子供と女性の叫び声。二人が声のした方を見ると、鳶が男の子の被っている帽子を奪おうと襲いかかっていた。男の子の抵抗もむなしくすぐに帽子は奪い取られ、鳶は満足そうに空へ飛び去った。

 

「だ、誰か! あの帽子を! 息子の誕生日に買ったものなんです――!」

 

「ボクが行くよ! 戦乙女(ヴァルキリー)――」

 

「待った! 今日は休息日、魔法は使わない、だろ?」

 

 母親と思わしき女性の呼びかけに応え、翼を展開しようとするスカイへルシアスが平手を向けて制止する。スカイは詠唱は止めたが、焦りを滲ませた顔をルシアスへ向けた。

 

「で、でも、早くしないとあの鳥が行っちゃう……」

 

「だから、俺が行く」

 

「えぇ!?」

 

 スカイが驚きの声をあげる間もなく、ルシアスは駆け出し――跳んだ。その跳躍によって建物の屋上に飛び乗ったルシアスはそのまま屋根を飛び移り、どんどんと鳶へ近づいて行く。

 

「――はぁっ!」

 

「ピィイイイイイッ!?」

 

 勢いのまま屋上から跳躍したルシアスは――空を飛翔する鳶に肉薄。鳶は驚愕のあまり咥えていた帽子を離してしまった。

 

「悪いな、返してもらうぜ」

 

 その隙を見逃さず、ルシアスが帽子をキャッチする。そのまま自由落下を始めたルシアスは、衝突音と共に両足で地面に着地した。強靭な足のバネが衝撃を吸収しきったのか、ルシアスには怪我一つない。

 

「す、すごいよルシアス! あんな高く飛んじゃうなんて!」

 

「あ……ありがとうございます!」

 

 スカイと男の子の母親が、ルシアスに駆け寄る。スカイは小さい体をぴょんぴょんと飛び跳ねて偉業を祝福し、母親は何度もルシアスに対して頭を下げた。

 

「ほい、ちゃんと大丈夫にしろよ」

 

 ルシアスは屈んで男の子と目線を合わせ、帽子を被せた。帽子を被せられた男児の眼が、急激に輝きだす。

 

「お……」

 

「お?」

 

「おにいちゃんかっこいい! ぼく、しょうらいおにいちゃんみたいになりたい!」

 

 憧れに満ちた男の子の言葉。だが、ルシアスの表情は浮かないものだった。

 

「……俺なんかより、戦乙女(ヴァルキリー)の方が高く飛べるだろ」

 

「たしかに! じゃあぼく、う゛ぁるきりーになる!」

 

「ごめんね、それは無理なのよ」

 

「え?」

 

 男の子の無邪気な宣言をした瞬間、母親が男の子を窘めるように頭を撫でた。

 

「あなたは男の子だから、戦乙女(ヴァルキリー)にはなれないわ。他の物を目指しましょう?」

 

「分かった! じゃあやっぱり、おにいちゃんみたいになるね!」

 

「……そうか。そうだよな」

 

「……!?」

 

 男児の言葉を聞いたルシアスのその表情を見た瞬間、スカイはその身が鉄の塊になったかと錯覚するほど、体が固まった。

 

 ルシアスの表情は今にも泣き出しそうなほどの悲しそうで、それでいて納得しているかのように穏やかで、何よりも――寂しそうで。

 

(ルシアス。なんで……そんな顔をしてるの?)

 

 困惑を露わにするスカイ。対するルシアスはすぐに表情を元に戻し、歩き出した。

 

「悪いな、時間とらせて。行こうぜ」

 

「あ、うん……」

 

 結局スカイは何も聞けないまま……頭を下げる母親を背にルシアスを追い始めた。

 

 *

 

 相変わらず、王都を歩く二人。だが、スカイは先程のルシアスの表情が頭に残ったまま消えないせいか、話しかけられないでいた。

 

(このままじゃダメだ! 何か新しく話題を見つけないと!)

 

 首をきょろきょろと振り、何か打開策を探すスカイ。そんなスカイの眼に入ったのは――。

 

「――あっ!」

 

 ()()を見つけたスカイは、一目散に()()へ向かって走り出した。店に入ったスカイはそれを手に取り、ルシアスへ向かって掲げた。

 

「ルシアス! これ見て!」

 

「それは……本?」

 

 スカイが掲げたのは、現役の戦乙女(ヴァルキリー)の活躍が特集された娯楽本。その表紙には――『雷羽冠天使(クラウニエル)』、戦乙女(ヴァルキリー)としてのラーミアの名前があった。

 

「――らーちゃんの本! 新しいの出てたんだね、買わなくちゃ!」

 

「……なんでそんなの集めてんだ」

 

「それはね、ボクがらーちゃんの、一番のファンだからだよ!」

 

 屈託のない笑顔を浮かべながら、スカイは本を抱え店の奥へ進んでいく。ルシアスはスカイが笑顔を見せてくれたことに安心しながらも、それに続き本屋へと入った。最近建てられた本屋なのか部屋の中の照明は新しく、他のお客さんも高価な装いの淑女が多い。

 

「こんな僻地に本屋……商売として成り立ってるのかね」

 

「――成り立っているんですよ! 今は娯楽本ブームでしてね!」

 

「……!?」

 

 つぶやきに明朗な男の声で反応されたルシアスがたじろぐ。ルシアスが声のした方を見ると、明るい色の燕尾服を着て、丸眼鏡をかけた壮年の紳士。その姿を見た瞬間、ルシアスはある確信をした。

 

(この人、前世の俺と同じ……語りたがるタイプのオタクだ!)

 

 ルシアスの確信の通り、壮年の紳士は丸眼鏡をクイッと押し上げ、語り始めた。

 

「元々この国の活版印刷や製紙技術は高かったのですがね。どうにも売れる本というものがなかったのですよ! ですが、十年ほど前発売された()()()がこの国に娯楽本ブームを引き起こしたのです! それが――こちらの本です!」

 

 壮年の紳士が取り出した本は、『折羽姫(アンフェザリオン)』だった。それを見たルシアスが若干眉をひそめる。しかし、とにかく語りたがった紳士はそれに気づかなかったようで、さらにルシアスへ本を見せつけた。

 

「こちらの本が、この国へ娯楽本ブームを引き起こしたのですよ。何故か当時、高位の貴族が発禁を行おうとしましたが、王女様の『面白いわ』の一言で再び売られるようになったという逸話も有名ですね!」

 

「……そうなんですか」

 

(フェザリオン公爵家が差し止めしようとしたけど、失敗したんだな。そんでそれは、一般には伝わってないんだな……)

 

 裏の事情を察しながら紳士の話を聞いていたルシアスだったが、ふと、ある疑問が思い浮かんだ。

 

「そもそも、なんで『折羽姫(アンフェザリオン)』はそんな人気が出たんですかね?」

 

 ルシアスがそう質問した瞬間、紳士の目がギラリと光る。ルシアスは長い語りを予感して質問したことを少しだけ後悔した。

 

「――それはですね。戦乙女(ヴァルキリー)制度によって抑圧されていた感情が、影響しているのですよ!」

 

「抑圧された、感情?」

 

「はい。まず、力を持つ少女の中でも、戦乙女(ヴァルキリー)になれるのはほんの一握り。それ以外は――」

 

 紳士は、本を左手に持ち替え、右手で指を折り始めた。

 

「そもそも戦乙女(ヴァルキリー)として生まれなかった。生まれたとして、環境が悪かった。途中で挫折した。才能が足りず、羽を手に入れられなかった……等々、様々な理由でその一生を地から離れられずに終えます」

 

 指を折り終えた紳士は、右手に『折羽姫(アンフェザリオン)』を持ち替えた。

 

「当然、ある程度は納得をして現実と折り合いをつけていくものですが、それでも心の中に鬱憤は溜まります。『折羽姫(アンフェザリオン)』はそんな戦乙女(ヴァルキリー)になれなかった女性の、心の中の鬱憤を晴らすものだったのです。『羽の折れた戦乙女(ヴァルキリー)が、竜の王子様に空へ連れてってもらう』という形で!」

 

「……なるほど」

 

(……空に飛べなかった戦乙女(ヴァルキリー)の心に刺さったってことか)

 

 ルシアスの頷きを確認した紳士は、本を両手に持ち替え――前へ押し出した。

 

「――と、いうわけでお客様も一冊どうですか!?」

 

(しまった! セールストークだった!)

 

「『折羽姫(アンフェザリオン)』自体は持っているかもしれませんが、表現をマイルドにした子供本、どういう背景でこの本が作られたのか等が考察された考察本、独自に登場人物の深掘りを行った派生本等、関連書籍は数百冊ありますので、必ずやお客様の好みに当てはまる本もあるでしょう!」

 

(いくら流行ったからって、一つの本をどんだけ擦るつもりだ!?)

 

「興味があるのでしたら、是非とも一冊……!」

 

(うっ。ここまで聞いちまった以上、興味ないとも言いづらいんだよな……)

 

 半分押し売りのような形で、紳士に『折羽姫(アンフェザリオン)』を買わされそうになるルシアス。断るための名分に悩むルシアスの視界の端に――買い物を終えたスカイが映った。

 

「――ツレ待たせてるんで、これで失礼します!」

 

「わぁっ……!?」

 

「あっ、お客様!」

 

 スカイの手を引き、急いで本屋から出るルシアス。本屋から少し歩いた所でルシアスはスカイから手を離した。

 

「悪いな、ダシに使って。つーかあの人店員だったのか……」

 

「う、うん……」

 

「……!」

 

 ルシアスがはっとしたように目を見開く。ルシアスの眼に映っていたのは、顔を背けルシアスの方を見ないようにするスカイの姿であった。

 

(……しまった! スカイが『折羽姫(アンフェザリオン)』に対していい印象持ってる訳ない! なのに、スカイの前であんな話をして――反省しろ!)

 

 歯を強く食いしばり、自戒するルシアス。

 

(さっき、ルシアス、ボクのことを()()って言ったよね……! しかも、お店から出ていく時にボクの手を握ったし、絶対お店の人にそういう関係だって思われちゃってるよね! うぅ……ルシアスの顔が見れないよぉ……!)

 

 尚、スカイは全く別のことを考えていたのだが。

 それを指摘できる人は、その場に誰一人いなかった。

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