ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第30話:『天才』は誓い合う

 昼時。王都の外れの本屋があった場所よりさらに郊外の誰もいないような場所にて、ルシアスとスカイは二人でベンチに並んで座っていた。ルシアスが今朝作成したお弁当を取り出すと、スカイは喜んで食べ始める。

 

「うーん、美味しい!」

 

「せっかく王都に来たのに、わざわざ俺の手作り弁当なんか食う必要はあるのか? もっとこう、王都特有の洒落たお店とか……」

 

「この辺にボクが満足に食べれそうなお店なさそうだし、それに……」

 

 ルシアスの心配混じりの言葉に、スカイはハンバーグが刺さったフォーク片手に元気よく応えた。そのままハンバーグを口に入れ、噛み、飲みこむと再び語り出す。

 

「ほら、ボク結構好き嫌いあるからさ、ルシアスが作ってくれたご飯食べるのが一番気を使わなくて確実なんだよね。それに、風景が変われば味も変わる。お弁当、とっても美味しいよ!」

 

「……そうか。…………。……食べ終わるまで、さっきスカイが買った本、読ませてもらっていいか?」

 

「いいよ!」

 

 ルシアスが、釈然としない顔をしながらスカイが買ってきた戦乙女(ヴァルキリー)の活躍が特集された娯楽本を手に取る。ページを開くと、ラーミアへのインタビュー記事が紙面全体を覆うように記載されていた。

 

『歴史ある本誌の表紙を務めた感想をお聞かせください』

 

(ワタシ)以外不要じゃないか?』

 

 しかし、その内容は自己中心的であり、とてもではないが読んだ人へ好印象を与えるようなものではない。

 

「……ぶれねえなあ、アイツ」

 

「らーちゃんらしいよね!」

 

「こういう本はよく買うのか?」

 

「うーん、らーちゃんが載ってるの以外は買わないかなあ。ボク、あんまり本を読む習慣とかないし」

 

 表紙に大きく張られているラーミアの写真を指差しながらパンを口に入れるスカイ。スカイの言葉を聞いたルシアスは本を閉じ、表紙をスカイの方へ向けた。

 

「……本当にラーミアのことが好きなんだな、スカイは」

 

「うん! だって、らーちゃんと友達だったってことが、どうしようもないボクの()()()()()()なんだから! ボクの友達はこんなに凄いんだってこういう本を買うたびに実感するんだ!」

 

「…………」

 

「どうしたの? そんな怖い顔して」

 

 朗らかな笑顔を表に出すスカイに対して、ルシアスは一気にその眉をひそめた。急な表情の変化に、スカイがたじろぐ。ルシアスはそのままずっと眉の間に指を当て、何かを考えているような体勢をとっていたが……。

 

「……ルシアス?」

 

 スカイが声をかけると、体勢を戻し、スカイと真っすぐ目を合わせた。

 

「……まず、魔法が凄いな。初めて魔法を使ったのに正確に的に当てたあたり、魔法制御の技術も高い。これまで、魔法が使えなくても努力し続けてきたのも無駄じゃなかったんだろうな」

 

「……? 何を……?」

 

「身体能力も、最初の方は貧弱だったが目まぐるしく進化したし、飛行能力に関しても……」

 

「――っ!? 何言ってるのルシアス!?」

 

 言い聞かせるようにスカイを褒めるルシアス。脈略なく自分を褒められたと気づいたスカイの顔がボッと発火すると同時に、ルシアスはその眼を細めた。

 

「今のスカイが自慢できることだ。あと十個は言えるぜ?」

 

「え……ぇ……?」

 

「昔はどうだったか知らねえけどよ、今のスカイはそれだけ凄いんだ。だからもっと――自分を誇ってくれ。お前は、天才なんだから」

 

「ぅ、ぁ……」

 

(なんで……ルシアスはこんなにボクを褒めてくれるの……!?)

 

「……うーん」

 

(なんでスカイはこんな自己評価が低いんだ)

 

 ルシアスの真っ直ぐな言葉に、スカイは顔が真っ赤なまま伏せて何も言えなくなってしまった。二人はそのまま黙り込み、ルシアスが何か行動をしようとするたびにスカイが過剰反応してしまうせいか、微妙な空気が流れ始めた。

 

「そういや、食後のデザート作ってきてなかった。王都だし、ちょっと探せばいいもんあるだろ、買ってくるわ」

 

「……うん」

 

 二人共、微妙な空気に耐え切れなくなったのか、ルシアスが一度距離をとるために立ち上がったのを、スカイは止めなかった。

 

 *

 

(これ滅茶苦茶甘いらしいし、スカイも気に入るだろ)

 

 両手に鮮やかな色の果実を持ちながら、元居たベンチに戻るルシアス。スカイが待っているはずのそこにはもう二人、招かれざる客がいた。

 

「なあ、アンタ。恵まれない騎士にちょーっとお恵みをくれちゃくれねえか?」

 

「ケケケ……。それが嫌ならさ、ちょっと来てくれよ。アンタ、身体はアレだが、顔はいいし、好きモンにはいい値で売れるだろ」

 

「……そんな、困るよ」

 

 大柄と小柄の二人組の男が、スカイへ絡んでいる。二人共鍛えられた体に薄汚れた鎧と剣を身に着けており、『騎士崩れ』といった風体だ。そんなガタイのいい二人と相対してしまったスカイは、見るからに身体を縮こませてしまっていた。

 

「悪い、スカイと話したいならまず俺を通してくれ」

 

「……わっ、ルシアス」

 

「あぁ?」

 

「なんだぁ手前?」

 

 それを眼に入れた瞬間、ルシアスは疾風より早くスカイの元へ駆け寄り、騎士崩れ達との間に割り込んだ。いきなり割り込まれた二人は、不機嫌を隠さず露わにする。

 

(……昼間からかなり飲んでんな)

 

 強い酒の匂いに、ルシアスも僅かに顔をしかめたが、後ろにいるスカイを一瞬ちらりと見るとその表情を元に戻し、騎士崩れへ向かって一歩前へ進み寄った。

 

「この子の魂導者(ソル)だ。アンタらの言い分は俺が聞かせてもらうから、まずは落ち着いてくれ」

 

 ルシアスの言葉を聞いた二人組は吹き出し、ゲラゲラと笑い出した。

 

「あぁ!? 魂導者(ソル)!? 《ヴァルキリー》にくっついて甘い汁を啜るだけの寄生虫がよく俺達の前に出てこれたもんだ!」

 

「そうだそうだ! そこの戦乙女(ヴァルキリー)のでけえケツの後ろにでも隠れてなぁ!」

 

「でかっ……!?」

 

 品のない罵声が効いてしまったのか、スカイは手を後ろに回しお尻を隠すような体勢となる。一方のルシアスは眉一つ動かさず、騎士崩れをなだめるように手を前に出した。

 

「確かに、あんたらの立場だと魂導者(ソル)は気に入らねえだろうが、だったら戦乙女(ヴァルキリー)には手を出すのは止めてくれねえかな」

 

「そうはいかねえよ。だって、俺たちがこんなに不幸なのは、手前ら戦乙女(ヴァルキリー)のせいなんだからよぉ!」

 

戦乙女(ヴァルキリー)の、せい……?」

 

 スカイが問い返すと、小柄な騎士崩れがさらにその笑みを深め、キンキンと耳に障る甲高い声で話し始めた。

 

「俺たちが持ってた仕事とか全部、戦乙女(ヴァルキリー)に全部奪われてついに冷や飯食らいになっちまったんだ! だから、騎士が貧乏なのも俺達がここまで堕ちたのも、手前ら戦乙女(ヴァルキリー)のせいだ!」

 

「……その様子を見るに、堕ちたのは自業自得もあるだろ。それに、こういうのは実力第一だ。命に関わる仕事だしな」

 

 小柄な騎士崩れの叫びを窘めるようにルシアスが言葉を重ねると、小柄な騎士崩れは見るからに不機嫌を露わにし――腰に付けていたショートソードを引き抜いてルシアスへ突きつけた。いきなり剣を突き付けられたルシアスだったが、特にその表情を崩すことはない。

 

「…………」

 

「何より気に入らねえのはよぉ! そんな戦乙女(ヴァルキリー)のおこぼれを、手前みてえななんの力もない魂導者(ソル)風情が貰っているってことだ! 戦乙女(ヴァルキリー)のケツに隠れてるだけのクズが、調子乗ってんじゃねぇ!」

 

 小柄の騎士崩れが剣を抜くと、大柄の騎士崩れも下衆な笑みを浮かべ、背中に背負っていたバスタードソードを引き抜いた。

 

「つーわけで、アンタら二人、俺達の今夜の酒代になってもらおうか」

 

「ゲヘヘ……そっちの戦乙女(ヴァルキリー)は面はいいし、売る前に楽しむってのも――」

 

 大柄の騎士崩れが、バスタードソードの切っ先がスカイへ向けた――その瞬間。

 パンッ!! という快音がした。

 

 ルシアスの拳が、鋼鉄でできているはずの大剣を砕いた音だった。

 

「……あ? ぐばぁっ!?」

 

 ルシアスはそのまま、何が起こったのか分からない大男の顔面を蹴り飛す。勢いのまま転がった大男は、壁に激突すると動かなくなった。バスタードソードを砕いた時の余波か、その右手からは煙が立ちのぼっていたのを、息で吹き消した。

 

「……へぇっ?」

 

 何が何だが分からないまま呆けている小柄な男の肩を、ルシアスは鷲掴む。そこでやっと、小柄な男は『誰』と相対しているかを知り、極寒の地にシャツ一枚で繰り出したかのように体が震え出した。

 

「……俺はさ、アンタらの苛立ちも分かりはする。だから、衛兵に突き出す前にある程度聞いてもいいって思ってたんだ。でもよ、()()()()されたらダメだわ」

 

「ひっ……!」

 

 顔面を引きつらせ逃げようとする小柄な騎士崩れだったが、ルシアスの肩を掴む力が強すぎるせいか、いくら身をよじっても離れられない。肩を掴むルシアスの顔が小柄な男の耳にゆっくりと近づく。

 

 

「――戦乙女(ヴァルキリー)に剣向けてんじゃねえよ、()()()

 

 

「……な、なんだお前っ!? 何なんだよぉ!?!?」

 

 ルシアスが耳打ちした瞬間、小柄な男の足が限界を迎え、体ごと崩れ落ちる。だが、ルシアスは逃がさないと言わんばかりに屈み、崩れ落ちた男と目線を合わせた。

 

「ひぎぃ……!!」

 

 小柄な騎士崩れの表情が更なる恐怖で強張り、今にも気絶してしまいそうになる。

 ルシアスはそんな様子を全く気にかけず、辺りに散らばるバスタードソードの破片を手で指しながら口を開いた。

 

「とりあえずアンタには、色々掃除した後そこのデカイのと一緒に衛兵へ出頭してもらおうか」

 

「もし、しなかったら……?」

 

 ルシアスは、騎士崩れの言葉に一切答えず……地面に落ちていたショートソードを拾い上げ――その刃を粉々に握り潰した。

 

「ひ、ひぃいいいいいいいいいいっ!!」

 

「さ、行こうぜ」

 

 身体を跳ねさせ、地面に落ちたバスタードソードの破片をいそいそと拾い上げ始めた小柄な男を背に、ルシアスはスカイの手を引き、歩き出した。歩き出した際には、スカイの震えが繋がれた手ごしにルシアスへ伝わっていたが、歩き続けるうちに段々と震えは収まっていった。

 

 震えが止まり、充分に人通りが出てきた頃。ルシアスは振り返り、スカイへ優しく語りかけた。

 

「……怖かっただろ、大丈夫か?」

 

「う、うん。もう、大丈夫だよ」

 

「そうか。ただ、なにかあったらなんでも言ってくれ。魂導者(ソル)として、出来る範囲のことはするつもりだ」

 

 『なんでも』という言葉を聞いた瞬間、スカイは心の中にいぶっていた何かが弾けたかのように身体を跳ねさせ、一歩前に出た。

 

「……あっ」

 

「なんだ、何かあったのか?」

 

「あ、いや、その……本当に、下らないことというか」

 

「スカイの言うことに下らないことなんてねえよ。遠慮せず、言ってくれ」

 

 ルシアスの眼に映るスカイは、顔に微妙に朱が差しており、なにかもどかしいものを我慢しているかのようにもじもじとしている。だが、ルシアスの言葉を受けたスカイは、意を決したように前へ一歩踏み出し、ルシアスの服の端をつまんだ。

 

「る、ルシアスは……お……ぉ、お尻が大きい戦乙女(ヴァルキリー)について、ど、どど、どう思っていますか!?」

 

「なんだその口調」

 

「――いいから、答えて!!」

 

 言ってしまったと言わんばかりに後悔の色を顔ににじませ、ルシアスにすがりつくスカイ。ルシアスは、少し考え込むような体勢をとった後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……まあ、足回りは太い方が好みか?」

 

「――ほんと!?」

 

「こういうのに噓ついてもどうしようもないだろ」

 

「ふえへへへ……そっか、そうなんだ……!」

 

 ルシアスの返答がよっぽど嬉しかったのか、スカイは両頬に手を当てて、喜悦に浸り出した。

 

(……? 足腰は強靭な方がいいに決まってるだろ)

 

 尚、ルシアスの視点は女の好みではなく、戦乙女(ヴァルキリー)としてのあるべき姿についてなのだが……スカイにはそれが気づきようがなかった。

 

 *

 

「昼飯も食って体力も回復しただろうし、そろそろ大通りに戻るか?」

 

「うん、そうしよう!」

 

 スカイの体調が戻ったため、二人はようやっとまともに王都散策を楽しみ始めた。

 

【①:熟れた果実】

 

「そうだ。これ、滅茶苦茶甘いらしいぜ」

 

「本当!? 食べてみるね!」

 

 ルシアスがスカイへ鮮やかな赤色に熟れた果実を手渡し、二人は同時に果実へかぶりつく。口に含んだ瞬間、スカイは眼を見開いたが、ルシアスは眉をひそめた。

 

「あっ! この果物美味しい! あと……十個は食べれるよ!」

 

「ダメだ。俺は合わねえ、甘ったるすぎる。でも、捨てるのも勿体ないしな……」

 

 処遇に困り、辺りを見渡すルシアスの手元から、スカイが果実を拝借した。

 

「じゃあ、ボクが貰うね! いただきま…………!」

 

 大口を開けるスカイ。

 だが、果実が口に入る一瞬前、スカイは口を開けたまま硬直してしまった。

 

「どうした、急に固まって」

 

「……いただきます!」

 

(ボク、今、ルシアスと間接キスしてる……!)

 

 果実をほおばるスカイの顔は、果実よりも真っ赤に熟れていた。

 

【②:姫と騎士】

 

「これからも粉骨砕身、この国のために尽くすことを、ここに誓います!」

 

「ウオオオオオオオオッ!」

 

 王女様の宣言に、民たちが沸きたつ。魔族がいるこの世界。魔へ堕ちる人間を一人でも減らすため、王都では定期的に鼓舞を目的とした王族の演説が行われるのだ。

 

 王女様が傍らにいた全身鎧の人物に連れられて退場すると、王女様を中心にできていた人の輪も少しずつ解散を始める。その端にルシアスとスカイもいた。

 

「いやー、いいもの見れたね! 王女様の演説なんてボク久しぶりに見たよ!」

 

「俺は王女をエスコートしてた奴が気になったな。多分あれ、戦乙女(ヴァルキリー)だろうし」

 

「え、鎧着てたのに騎士じゃないの!?」

 

 スカイが問い返すと、ルシアスは僅かに眼を細めた。

 

「いや、騎士は少し前に要人護衛から完全に外された。戦乙女(ヴァルキリー)にとって代わられたんだ。まあ、精密な攻撃魔法を使えるタイプの戦乙女(ヴァルキリー)の方が護衛にも向いてるし……昔に比べて戦乙女が増えた分の、時代の流れって奴だな」

 

「……そう、なんだ」

 

戦乙女(ヴァルキリー)に全てを奪われた』

 

 スカイの胸へ先程の騎士崩れの言葉が去来し、少しだけ息が詰まる。元は騎士のものだった仕事がどんどんと戦乙女(ヴァルキリー)へ流れていっているのを、肌で感じてしまったのだ。

 

「だとしたらなんで、あの戦乙女(ヴァルキリー)は鎧を着てたんだろ」

 

「昔は『騎士は姫の剣』とか言われてて、その蜜月関係は数百年間も続いてたんだ。それを急に戦乙女(ヴァルキリー)へ変えるのは民に不安を呼ぶから、まずは中身を入れ替えるという形にしてんだろ。ま、数年後には、あの鎧も外れてるだろうがな」

 

「う、うーん」

 

 目を伏せるスカイを見たルシアスは、少しだけ申し訳なさそうにそんなスカイの肩に手を置いた。

 

「悪いな、変な事言っちまって。そんな深く考えこまなくてもいいぞ」

 

「いや、でも、ルシアスの着眼点をボクも理解できるようになっとかないと……」

 

「それは別に。俺が凄いんじゃなくて――もっと凄い王女様を毎日見てるから、あの王女様へあんま興味がいかなかっただけだ」

 

「え?」

 

「……今のなし。行くぞ」

 

 失言を誤魔化すかのようにスカイの肩から手を離し、いそいそと歩き始めるルシアス。スカイは、数秒間考え込むポーズを維持した後。

 

「……ふえっ!? な、なな、何言いだしてるのさルシアス――!!」

 

 『凄い王女様』が自分のことを指し示していると思い至ったスカイは、顔をボッと燃え上がらせて、ルシアスの後を追いかけて走り出した。

 

【③:星に誓いを】

 

 太陽が地平線の果てに消えた頃。王都を楽しみ終えたルシアスとスカイは学園へ戻り、芝生へ座り込んで、星空を仰ぎ見ていた。星空は月から五等星まで多くの星が思い思いの輝きを放っていたが、その日は特に黄金色の輝きを放つ一等星が一番よく見える日だった。

 

 少しだけ遊び疲れたのか、頭を一切介していないような表情で星をぼーっと眺めるスカイへ、ルシアスが水筒を差し出す。

 

「飲むか?」

 

「あっ、ありがと。それにしても、久しぶりの王都だったけど……楽しかったね!」

 

「ああ、楽しかった。でも正直、俺よりスカイの方が慣れてた気がするな。経験あるのか?」

 

「経験があるっていうより、ボクのいた孤児院が王都の外れにあったからね。小さい頃はらーちゃんと一緒にこっそり抜け出して遊んでたな……懐かしい」

 

「ああ、なるほどな」

 

 腑に落ちたと言わんばかりに、視線をスカイから星空へ移すルシアス。すると今度は、スカイがルシアスへ顔を向けた。

 

「ルシアスは、王都へ行ったことあるの?」

 

「ああ、数回だけあるな」

 

「へぇ、何しに行ってたの?」

 

 スカイが問いかけると、ルシアスは僅かに眼を細めた。

 

魂導者(ソル)の教本を買うため、だな」

 

「え? わざわざ教本を買うためだけに王都に行ったの?」

 

 スカイの問いかけに、ルシアスは深く頷いた。

 

「ああ。俺の実家であるアルスター騎士家は色々とヤバい……くらいに厳しくてな。とてもじゃないが、魂導者の勉強がしたいなんて言えなかった。だから、家からこっそり抜け出して、子供でも気にしない系の仕事で金稼いで、王都にしか売ってねえ、いい教本を買ってたんだ」

 

 泥の混じった眼に満点の星空を映しながら、懐かしむように独りごちるルシアス。独白を聞いたスカイはルシアスの方へ向き直り、少し明るめの声色で語りかけた。

 

「ルシアスって、すごく、魂導者(ソル)になりたかったんだね。なにか、『夢』でもあったの?」

 

「……『夢』、か。ああ、()()()よ」

 

「……ぁ」

 

 ルシアスの横顔。星明かりに照らされたそれを見たスカイの口から吐息が歯の間から漏れだすような、小さな感嘆の声が出てしまった。

 

 ルシアスの表情は、今日の昼、帽子を鳥に奪われた時の子供へ見せたそれと同じ――寂しそうで、でも、どこか納得はしているような。そんな正にも負にも振り切れることのできない淡い感情が、層となって連なっていたのだ。

 

(また、この顔だ。なんで、ルシアスはこんなに寂しそうに……?)

 

「……俺、変な事言ってるな。忘れてくれ」

 

「え、あ、そ、そうじゃなくて……そうだ! そもそも、どうしてルシアスは魂導者(ソル)になったのかなってっ!」

 

 思考の海に沈んでしまったことで長時間言葉を発さなかったのを誤魔化すかのように、スカイがあまり思考を介さずに質問をした。

 

「それはだな……」

 

(金目的……なんて、スカイには言えねえよな。なんかそれっぽい理由考えねえと……)

 

 質問に不意を打たれたせいか、ルシアスも誤魔化しのために思考の海へ飛び込まざるを得なくなる。そのまま、二人共思考の海でもがき続けて十数秒経ったその時――満点の星空に、白銀の光が瞬いた。

 

 白銀の光自体は瞬きほどの輝きだったが、どんどんとその数を増やしていき、途切れる前兆すら見えない。

 

「あ、流れ星……というより、流星群?」

 

「今日、そういうのが見れる日だったんだな」

 

 多層に重なる神秘的な光が、二人を思考の海から引き上げる。真ん丸な瞳に星の輝きを映したスカイが、口角を上げた。

 

「ねえねえ、ルシアス。せっかくだしお星さまに何かお願いしようよ! 恥ずかしいから、言葉には出さずにさ」

 

「……そんなの、決闘祭での『必勝』以外になくないか?」

 

「じゃあ、それ以外で! 勝利はボク達の手でつかみ取るものだし!」

 

「それ以外で、か……」

 

 今度は、ルシアスの眼に流れ星の光が映る。数秒間、流れ続ける流星群を眺めたルシアスは腰に携えた剣に手を当てながら口を開いた。

 

「……思いついた」

 

「丁度、ボクも思いついたから……一緒に、願っちゃおうか!」

 

 スカイの言葉に応じて、二人は眼を瞑った。スカイはそれに加えて両手を祈るように合わせている。

 

(このままだと、契約を切られるかもしれん。正直柄じゃないが、星にも縋りたい気分だ。頼ませてもらおうか――)

 

(今までのボクにとってルシアスはただただ凄くて、雲の上の存在だった。でも、違った。ルシアスは凄いけど……多分、凄いだけじゃ手に入れられない()()を欲しがってるんだと思う。その何かをボクが手に入れることが出来たら、ルシアスはきっとボクを必要としてくれるはず。だから、お願い――)

 

 二人は同時に眼を見開き、それを見上げた。

 

(俺が凡人(モブ)だってことを隠し通させてくれ。スカイに、見捨てられないために)

(ボクはもっと、ルシアスの事が知りたい。ルシアスに、必要とされるために!)

 

 夜空を裂く白銀の光。

 その最後の一つが相反する二つの願いを託され、尾を引いて消える。

 

 どちらの願いを叶えるのかは、星だけが知っていた。

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