ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第31話:『天』堕とす渡り鴉

 スカイと王都へ繰り出した翌朝。スカイはすっかり調子を取り戻したようで、元気よく朝食……ハンバーグ乗せパンケーキを美味しく完食してくれた。

 

「ごちそうさまでした。……えっと、これから訓練場だよね」

 

「ああ。もう決闘祭まで一週間切ってる。最終調整だ、ハードに行くからな」

 

「ルシアスが支えてくれるなら、ボクはなんだってするよ!」

 

 スカイの元気な返答を背に、弁当や訓練用の魔法道具を袋へ詰め込み、スカイと共に廊下へと出る。そのままイリス達と合流するはずだったのだが……。

 

「――よ、話いいか?」

 

「どうしたんですか?」

 

 その途中、図書室から出てきた司書さんに呼び止められてしまった。身体を司書さんの方へ向けると、まず目に入ってきたのは、司書さんの指につままれた黒色の球体。こげ茶色をベースとして、黒色の斑点が入った――先日のスタンピードで手に入れたベヒーモスの魔石だった。

 

 そうだ、あの魔石なんか変な魔力が入ってたから調査、解析してもらうために学園へ提出したんだ。今呼び止められたってことは、何か分かったってことかな?

 

「ルシアスが提出した魔石についてた黒色の斑点についてだが、ベヒーモスとはまた別の、魔族特有の闇の魔力だった」

 

 やっぱり、何か分かったのか。

 

「だが、過去にいたどの魔族のパターンとも合わなかった。全くの新種の魔族だ」

 

 いや、肝心な部分は何もわかってねえなコレ!?

 

「と、いうわけだ。どうする? 手元に残すか、新種のサンプルとして学園で買い上げるか、選べるが」

 

「買い上げでお願いします。闇混じりの魔石の価値なんてガラクタ以下ですし」

 

 うーん。ミタマの影罠とか強化されたベヒーモスとか、何か裏で手引きしてる魔族がいるっぽいのは分かってるんだけどな。雲をつかむように、正体が掴めない。

 

 ただ、どうにも俺は、ニーズヘッグを目覚めさせた『共犯者』とミタマを嵌めた奴が違う存在とは思えない。つまりそいつは、明確に俺達を狙っているわけで……。

 

 ん? イリスにも干渉しているかもしれないってことは……スカイの才能があれば探知とかできないのか? ……やってみるか。

 

「じゃあ、これは買い上げで。えーと、新種サンプル料20万に私が個人的に推してる分の5万で、合計――」

 

「待ってください司書さん。一回、その魔石俺に下さい」

 

「? まあ、いいが」

 

「ありがとうございます。じゃあ……スカイ、パス」

 

「わっ……え、なにこれ?」

 

 司書さんから魔石を受け取った俺は、その魔石をさらにスカイへ渡した。渡されたスカイは首をかしげ、きょとんとした顔をしている。そんなスカイに対して、俺は青色の痣を輝かせて命令(オーダー)を行った。

 

「その魔石にある闇の魔力……心当たりがないか探ってくれないか?」

 

「わ、分かった。やってみるね!」

 

 スカイが眼をつむり、魔石に対して赤色の魔力を当てる。長い時間がかかるかと思われたが、意外にもスカイは数秒後に眼を開いた。

 

「ボク、この魔力を知ってる、出会ったことがある。……二回」

 

「二回もだと!?」

 

 司書さんがスカイへ食って掛かる。スカイは深い集中力を維持しているようで眼の焦点は合っていなかったが、その表情は神妙だった。

 

「一回目は、ダンジョンが凍り付いた時。イリスとニーズヘッグの魔力に隠れて、この魔力も混じってた。二回目は、ルシアスが影罠に飛び込んだ時。こっちも罠の魔力に隠れてたけど、あった……確実に!」

 

「……なっ!?」

 

 分析の正確さか、全て繋がっていることか。どちらに驚いたかは知らないが、スカイの分析に、司書さんが絶句した。だが、ここで、スカイの表情がさらに強張った。

 

「ただ、この魔力の使い手、相当……危険だ。かなり精密に魔力隠蔽がされてるのに、この魔力からはそれを踏み越えた、確かな邪悪さを感じるんだ」

 

「……!」

 

 司書さんが眼を見開く。同時にスカイの集中力が切れたようで、固くなっていた姿勢がほぐれた。

 

「ふぅ……。ごめん、これ以上は……」

 

「いや、期待以上の成果だ、よくやったスカイ」

 

 やっぱり、スカイの才能ならどこかで裏にいる魔族の魔力を検知していてもおかしくないと思ってたんだ。これで、裏に同一の何か、『共犯者』がいることが確定した。あとは、その『共犯者』を突き止めるだけなんだが……。

 

「噂レベルの話で変に動揺を与えないようにしようと思ってたが……これはもう、話すしかないな」

 

「……どういうことですか?」

 

 意味深な発言をした司書さんの方を向く。司書さんの眼は真っすぐで、とてもじゃないがふざけて何かを言っているようには見えなかった。

 

「貴様らを襲った魔族に心当たりがある。そいつは、戦乙女(ヴァルキリー)が作り出した光から生まれた影。数百年もの間、誰にも感知されず、秘密裏に魂導者(ソル)を闇へ引きずり落とし続けている。当然、今もな」

 

「そんな、恐ろしい魔族がいるの……?」

 

 信じられないかのように呟くスカイ。だが、俺も、内心信じられない気持ち、いや、信じたくない気持ちで溢れていた。

 

 司書さんの言が正しいのなら、俺は原作でそいつと()()()()()のだから。

 

「名は、『魂導者(ソル)堕とし』。名前の通り、魂導者(ソル)を堕とし続けることだけを目的とした――最凶の魔族だ」

 

 *

 

「はぁっ! せいっ! らぁああああっ!」

 

「右側のは魔力使わなくてもやれたろ。戦い方が雑になってるぞ」

 

「わ、分かった!」

 

 司書さんから話を聞き終えた俺達は、イリス達と合流し、訓練場で訓練を行っていた。今日の午前中のメニューは多くのゴーレムと組み手を行う、対物量実戦。だが、明らかに今日のスカイは、明らかに――。

 

「動きが大きいですね。精彩を、欠いております」

 

「ゴーレムさんにも、分かるか」

 

「ええ。それに、何か事情があることも。……聞かせて、いただけませんか?」

 

「ああ、分かった」

 

 俺は、『魂導者(ソル)堕とし』についてと、話を聞いたスカイが、俺が殺されるかもしれないと、顔面蒼白になったことを話した。

 

 ただ、俺はこの話に相当量の気を使った。絶対、原作知識を混ぜ込まないように。

 

 なぜかと言うと、『魂導者(ソル)堕とし』ことフギンがラーミアルートのラスボスだからだ。

 

 元々はオーディン様に仕える渡り鴉で、ラグナロクでオーディン様と共に死んだはずなのだが、その死体を魔族の使い魔として再利用されてしまった。それだけならただの使い魔なのだが、天の御子を目の当たりにしたことで肉体がオーディン様を思い出して魂と不整合を起こしてバグり、使い魔を超えた凶悪な自我を獲得したのだ。

 

 『ソルキリー』としては、誰とも契約を行わずに羽を生やした特異な戦乙女(ヴァルキリー)であるラーミアと最後に戦うのが、誰かと契約しなければ戦えない特異な魔族であるフギン(とついでに俺)という構成となっている。

 

 原作の俺はそんなフギンに魂を売り、尖兵(かませ)としてラーミアと何度も……死ぬまで戦わせられる。だから、フギンは俺を破滅へ導く中でも最凶の存在で、正直なるべく関わりたくなかった。

 

 そんなわけで、感情が表に出ないように言葉を選んだ説明を終えると……。

 

「そんな、そんな……まさかっ!」

 

 ゴーレムさんは、人造の存在とは思えないほどの生々しい感情を表に出した。動揺によって指揮系統が混乱したのか訓練用ゴーレムがその動きを止め、それに動揺したスカイが走り寄ってくる。

 

「何があったの!?」

 

「それは俺が聞きたい。どうしたんだ、ゴーレムさん」

 

 ちゃんと、情報は吟味してたはずなんだが……。

 

「……話を、させていただいても?」

 

 俺とスカイが頷くのを確認すると、ゴーレムさんはその魔石を赤く光らせた。

 

「……前、この訓練場の宝珠が老朽化し、動きを止めた時。私は『この訓練場は未完成』と言いましたよね」

 

「ああ、言ったな」

 

「それは、完成前にこの訓練場の創造主様が……殺されたからです」

 

「殺された……?」

 

「詳しく教えてくれ」

 

 俺の言葉に僅かにこくりと頷いたゴーレムさんは、その魔石を青く光らせた。

 

「私の創造主様が魂導者(ソル)になったのは、あの子のお姉様が戦乙女(ヴァルキリー)学園へ入学したのと同時でした。お姉様のために、あの子は魂導者(ソル)となったのです」

 

「お姉ちゃんのため、だったんだね」

 

 スカイの口から、感動の言葉が漏れる。

 ……戦乙女(ヴァルキリー)って基本15歳で学園に入るから、その弟ってほぼ確実にそれより年下だよな。魂導者(ソル)に年齢制限はないとはいえ、とんだ天才だ。

 

「ええ。二人に、は親がおりませんでしたから。それはもう大切にお互いを想っておりました。こんな広大な訓練場を作るほどに。今でも思い出せます。土と鉄片にまみれ、『お姉ちゃんのため頑張るんだ』とはにかむ、創造主様の愛しいお姿が」

 

「おぉ……」

 

 そこまで話したところで、ゴーレムさんはその魔石を――赤く光らせた。

 

「そんなある日の、依頼中の話です。創造主様は他のペアと協力して依頼に当たっておりました。そこで――事は、起こりました」

 

 ゴーレムさんが、赤の光をこれ以上ないほど強くする。壁で反射しても熱を感じるそれは、直接当てれば肉でも焼けそうだ。

 

「姉様が多量の魔物を相手するため空を飛んだその隙に、創造主様はお姿を消しました。姉様が三日三晩探した結果、創造主様は、見つかりました。魔物に、食い荒らされた状態で……!」

 

「そんな! 他のペアもいたんでしょ、何してたの!?」

 

 スカイから発された質問に、ゴーレムさんは首を振った。

 

「誰も、『何も覚えていない』とのことでした」

 

「そんなわけ――」

 

「いや、あり得る。イリスも記憶が混濁してただろ?」

 

「……あっ!?」

 

 俺の指摘に、スカイがはっと息を吞む。そんなスカイの様子を見て、ゴーレムさんはゆっくりと頷いた。

 

「ええ。私もその可能性に至ったのはつい先程。それまで私は、適当な言い訳で創造主様を嵌めたものと、そう思い込んでおりました。薄汚い魂の持ち主がゴーレム作りの天才である創造主様へ嫉妬し、その足を引っ張ったものだと……!」

 

 鉄でできたその手を、強く握りしめるゴーレムさん。ゴーレムのはずなのに後悔の表情が見えてしまうほど、その姿は慙愧の念に溢れていた。恐らく、この訓練場に入ってきた人に魂の査定をしていたのも、それが原因なのだろう。

 

 やがて、顔を上げたゴーレムさんは、両の腕を伸ばして俺達二人を抱きしめるように包み込み、その頭を下げた。

 

「お願いします。必ず、『魂導者(ソル)堕とし』を討ってください。あの子の仇を取ってほしい、だけではありません。それ以上に――こんな非道を息を吐くように行う凶悪な魔族を、これ以上のさばらせてはならない。そう思ってしまうのです」

 

「と、当然だよ! 絶対、勝ってみせるから!」

 

 ゴーレムさんの頼みに、動揺しつつも精一杯応えようとするスカイ。ただ、俺はちょっと別の疑問が湧いてしまっていた。

 

「ただ、相手は歴史の陰に隠れ続けた存在だ。どうやって倒す? 今の所、スカイが魔力を探っていって、しらみつぶしに洗うぐらいしか思いつかねえが」

 

「……返り討ちにすれば、いいと思います」

 

「返り討ち?」

 

 実感がわかずに問い返すと、ゴーレムさんは自分の肩においている手を、俺の顔へ向かって突き出す。指は二本、立っていた。

 

「千年の歴史の中で誰一人、逃れることも見つける事すらもできなかった『魂導者(ソル)堕とし』の干渉を、ルシアス様は二度も退けております。これは、相手にプライドがあった場合大きな傷をつけているでしょう。それに……」

 

「それに?」

 

「――ルシアス様は天才ですから。きっと、『魂導者(ソル)堕とし』もあなたの才能が放つ輝きから、目を離せなくなってしまっておりますよ」

 

「……なんだそりゃ」

 

 なんか、よく分からん理由を断言された。相手はラスボス格なのに、そんな変な理由で凡人(モブ)な俺が執着なんてされてたまるかよ。

 

 ただ、正直これまでの経験から、物事は悪い方に考えておいた方がいいってのはよーく分かった。だったらまず、とにかく、ラスボスに対抗できるよう、スカイを強くしないと。

 

「訓練再開だ、スカイ。相手が誰だろうが、まず自分が強くならねえと」

 

「あ、うん! 頑張らないと!」

 

 俺の合図で、訓練用ゴーレムの方へ駆け出すスカイ。その表情からは先ほどまでの焦りは消えていて、代わりにすごく凛々しい顔つきになっていた。

 

 ククッ……。その調子でどんどん強くなって、俺を破滅から守ってくれよ、天才。

 

 *

 

 夜も昼もない薄暗い洞窟にて。金色の眼を持つ渡り鴉――『魂導者(ソル)堕とし』ことフギンは、翼をたたみ、その顔を隠すかのように思い悩んでいた。

 

 議題は、これまでの自分の失態について。ニーズヘッグと影罠で二度、否、ベヒーモスの襲撃も合わせたら三度、フギンの策は敗れている。これは、数百年もの間魂導者(ソル)を堕とし続けたフギンにとって、初めての出来事だった。

 

「やっちまった。これ以上仕掛けようにも……証拠を残しすぎた」

 

 フギンは魂導者(ソル)を殺した後、地下へ潜り自分の魔力を変性させことで、探知魔法にひっかからないようにしている。だが、それには年単位の時間がかかってしまう上に……。

 

「そもそも――オレが()()という証拠が表に出た以上、これまでのような活動は不可能になるだろうな。歴史を掘り返され、尻尾を掴まれる可能性まである。……潮時、だな。まあ、最後の相手が天の御子なら文句ねえか」

 

 黒羽を開き、天を仰ぐフギン。だが、そんなフギンへ向かって足音をどかどかと鳴らして近づく誰かがいた。

 

「おい、どうなってる! 二回も情報を渡してやったのに。なんでまだ、アイツが死んでないんだ!」

 

「ああ、兄弟か。それについては――ごぼぉっ!?」

 

 現れたのは、金髪の魂導者(ソル)。彼は出会い頭に――握りこぶしでフギンを殴り飛ばした。フギンはぶっ飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

「アンタがっ、無能なっ、せいで! ルシアスは死なないどころか、手に入れてやがる! 金も、名誉も、女もっ! 手に入れるのはこの僕じゃなきゃいけないのに!」

 

「がっ!? ぐぉっ!?」

 

 子供が癇癪を起こし、自らのおもちゃを壊すように。金髪の魂導者(ソル)はフギンを踏みつけ、壁に叩きつけ、自らの激情を慰める道具とした。地面に叩き釣られるたびにフギンの身体は裂け、砕け、傷の隙間から黒色の靄が漏れていく。

 

魂導者(ソル)になれば、パパみたいに誰からも平伏されると思っていたのに。なんで、どいつもこいつもこんなに逆らうんだ! 天才の僕に!!」

 

「……へぇ。ありがてえな」

 

 金髪の魂導者(ソル)が叫ぶと、フギンは朗らかな笑みを浮かべ、魂導者(ソル)の手からするっと離れた。急な脱出に、魂導者(ソル)の顔がさらに歪む。

 

「なっ!?」

 

()()()()()()()。それでこそ、魂導者(ソル)を堕とし続けた甲斐があるってもんだ」

 

「はぁっ……!?」

 

 フギンの金色の眼が、金髪の魂導者(ソル)を捉える。彼は、フギンが何を言っているか分からないようで。そんな様子を見たフギンは、やれやれと肩をすくめた。

 

「有能な魂導者(ソル)が減れば、魂導者の功績が減って社会的価値が落ちる。それで、だんだん軽視されていくんだ。そもそもさ、おかしな話だろ? 魂導者が支えないと戦乙女は飛翔()べないのに、世間には権力だけで魂導者になるグズや、魂導者を軽視するアホ戦乙女(ヴァルキリー)で溢れてやがる。とんだ笑い話だ。その調子で、世界ごと堕ちちまえばいい」

 

「……は、はぁ?」

 

「えっ。これでも結構噛み砕いたつもりなのに理解できてねえの? さっすが権力だけの腐敗魂導者(ソル)。マジで能力低いんだな」

 

 衣一つ着せない直球の侮辱。金髪の魂導者(ソル)の額に青筋が入り、血管が千切れそうなほどに浮き出す。

 

「――てめぇ!」

 

 金髪の魂導者(ソル)が懐から宝石付きのナイフを取り出し、フギンを刺しにかかる。瞬間、金色に光るフギンの眼が魔の本性を露わにしたかのようにどす黒く光った。

 

『契約履行』

 

 フギンがそう呟いた瞬間、金髪の魂導者(ソル)の手にある刻印が黒く発光。漆黒の魔力が手を起点として彼の体全てへ侵食し始めた。自らの体の異変に気付いたのか、金髪の魂導者(ソル)は走るのを止め、自らの身体を押さえつける。

 

「あ、あぁ!? なんだこれ!? な、何をした!?」

 

「オレはさ、常々思ってんだよ」

 

「あ、熱い熱い熱い! 誰か、誰か助けてくれっ! パパ! 助けて!」

 

「――魂導者(ソル)が皆、お前みたいな無能のグズだったら楽なのになって」

 

「うわぁああああ……あぁああ……ぁ……」

 

 黒色の魔力に侵食されたことでボロボロと身体が変質し、最終的には元の面影をなくした、黒色の人型へと変貌した金髪の魂導者(ソル)。フギンは人間だったものに近づくと、その身体から黒く濁った魂を取り出し、啜り始めた。

 

「うわっ、味薄っす! よっぽどペラペラな人生送ってきたんだな」

 

 人間の魂を啜りながら食レポを始めるフギン、そんな彼の耳に誰かが走って来る音が聞こえた。

 

 

「今の叫び声は何――……っ!?」

 

 叫び声が聞こえたのか、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)が洞窟へ飛び込む。魂を啜っている途中のフギンを見てしまった彼女は、絶句し、その身体を硬直させた。

 

 そのタイミングで丁度魂を啜り終え、眼を金色に戻したフギンは、朗らかな笑みを浮かべながら赤髪の戦乙女の方へ振り向いた。

 

「ああ、兄弟の戦乙女(ヴァルキリー)。丁度いいタイミングだ」

 

「それより、その、そいつは……」

 

「魂を食ったから……まあ、死んだって考えてくれればいい。無能な魂導者(ソル)堕とすのは主義に反するんだが、肉体(ボディ)が欲しくてな」

 

「……っ!」

 

 フギンの言葉に、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)が再び絶句する。それを見たフギンの口角が、歪んだように上がった。

 

「――で、どうすんだ? アンタの人生、もう詰んでるけど」

 

「つ、詰んでる!? どこが!?」

 

「まず、アンタは戦乙女(ヴァルキリー)として、魂導者(ソル)を死なせたことへの責任問題を追及される。捜査の過程で、既に二人の契約が切れてたこと、それを家ぐるみで隠蔽してたことが発覚し、良くて追放悪くて没落。ついでに、泥沼の政争に巻き込まれている間に20を超え、戦乙女(ヴァルキリー)としても翼を失って死ぬ。簡単だろ?」

 

「ぅ……でも、元凶の魔族を差し出せば!」

 

 苦し気な敵意を込めた赤髪の戦乙女の反論に対して、フギンは余裕そうに肩をすくめる。

 

「元凶がオレだってどうやって証明する? 強けりゃ言い訳できたんだろうが、オレは見るからに弱いぜ?」

 

 フギンの言葉通り、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の眼に映るフギンは、その辺のゴブリンよりも弱々しく、矮小に見えた。尚、それはフギンの高い隠蔽能力によるものなのだが……彼女はスカイと違い天才ではないため、それを見破れない。

 

「そんな、そんな……っ!」

 

(こんな雑魚倒しても……どうにもならないじゃない……!)

 

 自らの破滅に対して、何もなすすべがないと思い込んだ赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、しとしとと眼から透明な液体を流しながら、地面に崩れ落ちた。

 

 フギンは待ってましたと言わんばかりに羽を広げて飛び上がり、戦乙女(ヴァルキリー)の肩へ停まる。

 

「っ、う、うぅ……!」

 

「ごめんな。どんなに泣かれても、オレには破滅をどうにかすることはできないんだわ。ただ……破滅の方向性を変更させることはできる」

 

「……方向性を、変える?」

 

「ああ。最終的に破滅することは変わらない。でもさ、人生で一回くらい――」

 

 フギンの嘴が、戦乙女(ヴァルキリー)の耳へ近づく。

 

 

「――天才に、勝ちたくないか?」

 

 

 理路整然と破滅を提示し、精神的に不安定になったところへ甘美な毒を垂らす。

 そんなフギンの話術は、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の心に染み込んでしまったようで。

 彼女は、充血して真っ赤な眼を大きく見開き――。

 

「……勝ちたい。どうせ、この先の私の人生に何もないなら、その全てを投げ打ってでも――ラーミアを、越えたい!」

 

 ボロボロと涙を流しながら、フギンへ向かって拳を突き立てた。

 その姿を見たフギンが、薄い笑みを浮かべる。

 

「――契約完了だな。姉御」

 

「……なによ、姉御って」

 

「ああ、悪い悪い。人間の個体名覚えるの苦手でな。許してくれや」

 

 たとえその果てに待つのが魔族の尖兵へ成り果てる『破滅』だけだとしても。

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、天を望んだ。

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