ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第32話:『天才』と祭の前夜

 一週間ほど後。俺とスカイは最終調整として、ゴーレム訓練場の最高戦力である超巨大ゴーレム――守護者と対峙していた。

 

「制! 圧!」

 

 守護者が巨腕を振りかざし、スカイへ打ち下ろす。対するスカイは、真っ直ぐに鋼鉄の巨腕を見据えたまま、腕を後ろへ引き――。

 

「――はぁっ!」

 

 赤色の魔力を拳へ込め、守護者の拳に正面から拳で返した。

 

「ぐぅっ……!?」

 

 打ち合いの衝撃が辺りに発散し、守護者側の拳から二の腕にかけてが砕ける。破片がボロボロと地面へ落ち、破片同士がぶつかって甲高い音を立てた。

 

「――蹂躙!」

 

 だが、それでも守護者は攻撃をやめない。今度は足を大きく上げ、スカイを踏みつぶしにかかった。スカイのいた場所へ守護者が足を降ろすと、ドスン、という重々しい音と共に土煙が舞う。

 

 だが、よく見ると、土埃に紛れて斜面となっている守護者の足を駆け登っている小さな影があった。その影は守護者の身体にある凹凸を頼りに、巨大なゴーレムを駆け上がっていく。

 

「はぁっ!」

 

 やがて、小さな影――スカイが大きく跳躍し、守護者の顔の位置に嵌め込まれている魔石の前に現れた。構えられたその手に展開されている魔法陣は、今にも聖竜の炎が噴き出しそうなほどに脈動している。

 

「撃墜っ!」

 

 守護者は目の前に現れたスカイにも全く怯まず、魔石から極太の光線を放ちスカイを打ち落とそうとした。

 

竜炎牙魔法(ブレイズファング)!』

 

 そんな破壊兵器の一撃に対して、聖炎を纏った竜腕で守りに入るスカイ。橙の光線と赤く燃える腕が轟音を立ててぶつかり合う。いや、どうやら光線が撃ち負けているようで、花火のように四方八方へ飛散していた。

 

「これで――どうだっ!」

 

 守り続けた結果できた、光線が止まった一瞬の隙を見逃さなかったスカイは、壁を蹴って急降下。守護者の腹目掛けて、その竜腕を振り下ろした。

 

「ごぁあああああああっ!?」

 

 空気を揺らすスカイの一撃によって守護者の身体は大きく砕け、その体はバラバラになった。轟音と共に地面へ落ちる守護者を背に、スカイが腕を掲げる。

 

「勝った!」

 

「ああ、よく頑張った。これで……最終調整完了だ」

 

 勝ち誇るスカイへ、労いの言葉をかける。動きをよく知っているとはいえ、飛行や支援なしで守護者……実力的にはAランク相当に正面から勝てたのはかなりの安心要素だ。

 

「よし! 明日からの決闘祭、絶対に勝ってみせるからね!」

 

 スカイは俺の言葉に対し、満面の笑顔で返してくれた。

 そんなスカイを見ていると、別室からスカイの決闘を見ていたミタマ、イリス、ゴーレムさんが決闘部屋に入って来た。

 

「あんなでかいのをやっつけちゃうなんて、すごいよスカイちゃん!」

 

「勝ったからいいけど。あんな殺意の高い攻撃、まともに喰らったら訓練じゃ済まないんじゃないの?」

 

「いえ、それは大丈夫です。悠久の宝珠は現在スカイ様の魔力で動いておりますので……スカイ様がとっさに身の危険を感じられた場合、守護者は止まります」

 

 説明を終えたゴーレムさんはスカイと俺の前に立ち、恭しく一礼をした。

 

「お疲れ様です、スカイ様。この訓練場で教えられることは全て教え切りました。あとは決闘祭、あなたが勝利と栄光を掴むその時を……楽しみにしております」

 

「ありがとね、ゴーレムさん。決闘祭に勝つ……だけじゃなくて、この訓練場を作った子の仇だってとれるよう、ボク、頑張るから!」

 

 胸を張り、拳を握りしめ、凛と宣言をするスカイ。本当に、スカイは成長してくれた。肉体(からだ)も……精神(こころ)も。

 

 ここで、スカイのお腹がくぅと鳴った。

 

「……お腹、空いちゃった!」

 

「じゃ、寮に戻るか。すぐ料理作るからよ」

 

 恥ずかしそうに頬を染め、俺へ微笑みかけるスカイ。

 ……成長しても、この笑顔だけは変わんないんだな。

 

 *

 

 寮へ戻り、ミタマやイリスと一緒に夕食を摂る。今日の献立、チーズインハンバーグを食べ終えると、スカイの眼が細まり、うつらうつらと船を漕ぎだした。最終調整での疲れと、満腹による幸福感の相乗効果によって眠くなっているのだろう。

 

 スカイもそれを自覚しているようで。椅子から立ち上がり、ふらふらと自分の部屋へ戻ろうとしている。あの様子だと、シャワーを浴びたらすぐに寝てしまうだろう。

 

 だが、部屋へ入るその寸前。スカイは足をピタリと止め、俺の方を振り向いた。その眼は眠気を無理矢理抑えるように、ぱちくりと大きく開かれている。

 

「ルシアス。その、一つ言いたいことがあるんだけど、いい?」

 

「どうした?」

 

「寝ちゃう前に、明日という本番を迎える前に、改めてありがとうって感謝を伝えたいって思ってさ。こうしてボクが戦えるくらいに成長できたのは全部、ルシアスのお陰だから。ほんとうにありがとう、ルシアス!」

 

 眠い目をこすりながらも真っ直ぐに、一つ一つの言葉を丁寧に選んで俺へ伝えようとしてくれるスカイ。ただ、受け取る側としては正直……。

 

「スカイが天才なだけだし、気が早すぎだ。育てるだけじゃなくて、勝たせてこその魂導者(ソル)。こういう礼とかは全部終わった後に言ってくれ」

 

「ふえへへへ……確かに、ちょっと早かったかも。じゃあ、えーと……」

 

「おやすみだな、スカイ」

 

「うん。おやすみ、ルシアス」

 

 若干ぽわぽわした様子のスカイが、眼を眠そうに擦りながら寝室へ入る。残されたイリスとミタマの方を見ると……何故か、イリスの頬が若干赤らんでいた。

 

「……貴方達、いつもそんなやり取りしてるの?」

 

「そんなって、どんなだ?」

 

「その互いの気持ちを臆面なく伝え合うやり取りよ。よくもまあ、そんな恥ずかしいこと出来るわね」

 

 腑に落ちないようにぶつぶつと呟くイリス。スカイが天才なのは、火が熱かったり戦乙女の羽が綺麗だったりするのと同じで、当然のことだ。今更恥ずかしいとか言われても、どうにもピンと来ない。

 

 すると、ミタマがイリスの手をとった。その眼はキラキラと光り輝いている。

 

「いいじゃんいいじゃん! わたしたちも、あんなことしてみようよ、イリー! ほら、わたしを褒めてー!」

 

「その頭の中お花畑な所は羨ましいと思ってるわ」

 

「えっ!! 聞いた師匠!? イリスが!! 褒めてくれた!!!」

 

「……皮肉なんだけど」

 

「ヒニクってなに? お肉?」

 

「…………」

 

 ……あ、イリスが負けた。ミタマ相手に言葉を弄しても意味ないんだから、素直になればいいのに。

 

 ここで、目の端に時計が見えた。今の時刻は9時、寝るには少し早いくらいだが、十分に夜としては深まっている。

 

「そろそろ、イリス達も部屋に戻って決闘祭の準備したほうがいいんじゃねえの。明日はあくまで一回戦とはいえ、不調で事故とかシャレにならんだろ」

 

「確かに。部屋戻ろ、イリス」

 

「その前に……」

 

 ミタマが呼び掛けをすると、イリスの表情から迷いの色が浮き出てきた。そのまま逡巡を巡らせていたイリスは、俺へつかつかと歩み寄ると――。

 

「……ん? うおっ!?」

 

「えっ、何してるのイリー!?」

 

 顔をずいと俺へ近づけ、距離を急に詰めてきた。いきなりキスでもするかのように顔を近づけられ、どうしても怯んでしまう。

 

「一つ、確認したいんだけど。貴方とラーミアの間には因縁があるのよね?」

 

「え? あ、ああ、そうだ」

 

 元々人形のように整った顔立ちをしているイリスの、至近距離の上目遣いという、途轍もない破壊力を持ったそれを直視できず、眼を逸らしながらイリスの問いに合意する。

 

 いや、待て。なんでイリスがラーミアのことを気にしてんだ?

 丁度、俺のそんな疑問に答えるかのように、イリスはその口を開いた。

 

「でも、貴方達とラーミアが戦うのは決勝なのよね。お互いにそれ以前で負けたらどうなるのかしら?」

 

「決まりはないが……両者敗北扱いで、実質引き分けだろうな」

 

「そう、だったら……」

 

「だったら?」

 

 俺が問い返すと、イリスは俺の右手をとり、優しく包むように両手で握りしめた。いきなりの自分の手を撫でられるという状況に慣れていないため、こそばゆい気持ちになってしまう。

 

「もし、私達が準決勝でラーミアに勝った場合――私達に、報酬をくれないかしら」

 

「……具体的には?」

 

 ここでまず問い返したのは、イリスの眼が冗談を言っているように見えなかったからだ。報酬と言っても俺に払える物なんて特にないのに、イリスは俺の何が欲しいのだろうか……?

 

「貴方の時間を一日、24時間だけ欲しいの。……いえ、ミタマを合わせれば二人分だから、48時間ね」

 

「……うーん?」

 

「ダメ……かしら?」

 

「わ……わたしも、師匠の時間欲しいな」

 

 見たことがないくらいおずおずと眼を伏せ、口をすぼませて自信なさげに提案を行うイリスとミタマ。正直、この時点で大分断りづらいのだが……一旦、改めてこの提案を受けるのがいいのかを考えてみよう。

 

 考えるべきは、決闘祭での優勝を狙うのならばイリスとラーミアのどちらが上がってくるのが望ましいか。

 

 ……だとすると、答えは決まっている。イリスだ。氷使いのイリスに対して炎使いのスカイは有利が取れる。相手にミタマがいるのが不安要素だが、ミタマは決闘祭にスカイの退学が掛かっていることを知っている。だったら、全力で戦うが、奇跡などを起こしてまで無理矢理勝ちにはいかないくらいの塩梅に収まるだろう……多分。

 

 だとすると、ここでイリスの提案を受けてモチベーションを高めてもらった方が絶対に得な場面であり、そのための対価が俺なんかの48時間というのは破格に安いように思える。が、念の為……。

 

「その時間で俺に何させる気だ?」

 

「それは、私だけのために剣を……んん゛っ! ……ダンジョンに潜るだけよ」

 

「にひひ~。師匠につきっきりで色んなことを教えてもらいたいな~」

 

 うん、二人の返答的に、特に変なことをさせられる心配も……いや、今イリス何か言いかけてなかったか?

 

「気のせいよ」

 

 気のせいなら別にいいか。

 

「まあ、いいぜ。正直、なんで俺の時間なんかを欲しがるかは分からんが」

 

「……感謝するわ。じゃ、部屋へ戻るわよ。ミタマ」

 

「了解! おやすみなさい、師匠!」

 

「ああ、おやすみ」

 

 別れの挨拶と共に二人は出ていき、部屋には俺だけが残される。

 

 ふと窓を見ると、既に祭りの空気に呑まれてしまったのか、決闘祭前夜だというのに多くの戦乙女(ヴァルキリー)が外に出て訓練や談笑等、思い思いの行動をしていた。

 

 何にせよ、この決闘祭の結果で俺とスカイの人生は大きく変わる。

 良い方向へ変えるため、破滅を回避するためなら、俺は何とだって契約してやる。

 

 ……悪魔以外でな。

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