ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第33話:『天』目指す決闘祭

 翌朝。俺達は皆、学園の施設である決闘場へ集められていた。決闘場には普段見慣れない大きな台が置かれ、その上には学園長が銀髪を揺らしながら立っている。

 

「これから行われる決闘祭は、戦乙女(ヴァルキリー)同士の戦いを天へ捧げることによって、神様に楽しんでもらうのと、これまで散っていった戦乙女(ヴァルキリー)の鎮魂をする。――という名目だけど、その実、学園以外で多くの戦乙女(ヴァルキリー)同士が戦える舞台なんてないから、国を沸かす娯楽として楽しませるのが目的よ。準々決勝からは貴族様が、決勝は王族が見に来るから、出世したければ頑張りなさい!」

 

 学園長の言葉を隠さない宣言が決闘場に響き渡る。余りに身も蓋もないことを言っているが、実際そうなのだから仕方がない。

 

 尚、原作では、この決闘祭はラーミア無双で終わるため、ラーミアが推しである派閥の貴族だけが得した気分になるなんとも微妙なイベントとなっている。

 

「じゃ、私の話は終わり。あとは任せたわ」

 

「ああ」

 

 学園長が壇上から降りると、代わりに魔法学の先生が壇上へ上がった。頭に付けているハチマキは、相変わらず風になびいている。その鋭い眼光に睨まれ、若干緩んでいた空気が一気に引き締まった。

 

「これより、ルールの説明を行う! まず、トーナメントの形式だが一回負けたら終わりだ! 一戦一戦、魂を込めて真剣に戦え! 続いて、決闘自体のルールだがこれは前に行った模擬戦と同じで――」

 

 魔法学の先生が一つ言葉を発する度に、周囲で話を聞いている戦乙女(ヴァルキリー)が一人、また一人とその口を固く締め、冷や汗を垂らす。緊張しているのだろう。

 

「――以上。神に見苦しいものを見せぬよう、正々堂々戦う事だ!」

 

「はいっ!」

 

 先生が宣言と共に話を終えると、スカイ含めた戦乙女(ヴァルキリー)は皆、体を跳ねさせるように背を伸ばした。

 

 *

 

 スカイの出番は後の方。そのため、俺達の決闘祭は、舞台裏からの観戦で始まった。まだ一回戦なのだが、流石は決闘祭。観客席は満席で、熱気に包まれている。

 

 観客席を見渡すと、いわゆる貴族の装いをしている人が少ない。トーナメントの最初の方は金で観客席が買えるが、後半になるにつれ貴族専用の招待席がどんどん増えていくという構造になっているためだ。

 

「ルシアス! 学校に出店があったよ!」

 

 離席していたスカイが、果実飴を両手に持ちながら俺へ走り寄ってくる。あの果実って前食ってゲロ甘だったやつだよな。それをさらに飴にするって、作った奴はどんだけ甘さに貪欲なんだ……?

 

「あっ! イリス出てる!」

 

 戦慄しているうちに一回戦がどんどんと進んでいたようで。いつの間にか、ミタマとイリスが決闘場のフィールドに出ていた。相手は……ああ、ミタマが影罠に嵌った時に出会った、桃髪の戦乙女(ヴァルキリー)、カレンだ。

 

 カレンはイリスと対面すると、急にその体を縮ませた。

 

「ぴぇっ!? そんな鋭い眼光で睨まないで欲しいのですわ!」

 

「イリー! いくら敵だからって、そんな怖い顔しちゃダメ!」

 

「……真顔なのだけど?」

 

『10秒後に決闘を始める。自陣内で移動をしておけ』

 

 なんか微妙に締まらない感じになっているが、これでも決闘前だ。魔法学の先生の放送によって、二人は所定の位置に着く。

 

『――決闘開始!』

 

「行きますわ! 桃色(ピンクボルト)――」

 

氷鏡凍地(フリージング・グラウンド)

 

「きゃっ――!? へぷっ!?」

 

 決闘開始の宣言直後、イリスのブーツの裏から放たれた魔力が地を這い、氷と化す。急に足元を凍らされたことで走りだそうとしたカレンは見事なまでにずっこけ、顔から地面へ倒れ込んだ。

 

「ぴぃ~~! 起き上がれませんわ~!」

 

 イリスがさらに地面へ魔力を込めると、氷によってカレンは大の字で地面へ固定された。どうやらそれが戦闘不能扱いになったようで、先生がカウントダウンを始める。

 

『……0! 決闘終了! 勝者、イリス・ミタマペア!』

 

「おぉ、やっぱイリーすごいね」

 

「ほら、早く行くわよ」

 

「ぴぃ……」

 

 半泣きのカレンを背に、イリスは生み出した氷にクールな横顔を映しながら決闘場を立ち去った。

 

 *

 

「お疲れ、イリス!」

 

「一回戦を勝っただけなのに、大げさよ」

 

 舞台裏へ戻ってきたイリスを、スカイが笑顔で迎え入れる。イリスは眉一つ動かさないのを見たスカイは、手に持っている果実飴をイリスへ向かって突き出した。

 

「どんな時でも、勝利はすごいものだよ! ほら、これ食べて!」

 

「……私、甘い物食べないわよ」

 

「あっ、そうだった」

 

「――えっ!?」

 

 スカイとイリスの取り留めもない会話に、何故かミタマがいきなり身をのけぞらせて驚いた。俺と二人の視線がミタマへと向く。剣吞とした空気の中、最初に口を開いたのはイリスだった。

 

「何、ミタマ。私が甘い物苦手なのがそんなに不思議なの?」

 

「……なんでイリー、飴ちゃん常備してるの?」

 

「あっ……」

 

 ミタマの無邪気な質問を受けたイリスの顔に熱が入る。イリスがいつも持ち歩く飴が自分のためのものでないとするのなら誰のためか、その答えは簡単に絞られる。『答え』を察したのかスカイの顔がじんわりと赤くなり、躊躇いながらも口を開けた。

 

「イリーって、思ったよりボクのこと――むぐぅっ!?」

 

 照れくさそうに頬を搔くスカイへ、イリスは照れ隠しにスカイの手にある果実飴を奪い取って口の中へ突っ込んだ。

 

「えっ!? なになに!? なん――んむぐっ!?」

 

 続いて、どうしてスカイの口へ飴を突っ込んだのか分からず動揺して顔をぶんぶんと横に振るミタマに対しても、イリスは果実飴を口へ突っ込んだ。

 

 ……いや、照れ隠しにしてもミタマの口を塞ぐのはやりすぎじゃないか?

 

「……何か、言いたそうね」

 

 さっきまでのクールさは何処へ行ったのやら。懐から袋入り飴を取り出し、俺へ威嚇をするイリス。耳まで真っ赤なその顔からは、『余計なこと言ったら口に飴を叩き込む』という意思がありありと見てとれる。

 

「いや、何も。……それよりほら、ラーミアが戦うっぽいぞ」

 

 今のイリスに対して何を言っても余計な事判定を食らいそうだったので、話を逸らすことにした。実際、決闘場ではラーミアと相手の戦乙女(ヴァルキリー)が対峙しており、今にも決闘が始まりそうだ。

 

『――決闘開始!』

 

光彩の槍(ラスタースピア)!』

 

 号令と共に戦乙女(ヴァルキリー)がラーミアへ魔法の槍を向け、走り出した。戦闘経験豊富なラーミア相手に遠距離の削り合いは無理だと判断したのだろう。

 

 対するラーミアは詰まらなさそうに黄金の羽を大きく広げる。すると、広げられた羽から羽毛がぷつぷつと途切れ、戦乙女(ヴァルキリー)へ向かいだした。

 

「邪魔です――うぁっ!?」

 

 相手の戦乙女(ヴァルキリー)がふわふわと浮かび視界を阻む羽毛を槍で振り払う。だが、槍が黄金の光に触れた瞬間――バチッ、という音と共に羽毛が雷へ変わった。いきなり身体に高出力の雷を流された戦乙女(ヴァルキリー)は、その身を硬直させ、地面へ崩れ落ちる。

 

 そんな彼女の眼に映ったのは、視界を埋め尽くす黄金の川だった。何でもないように風に流されるそれが自分の身体へ叩き込まれたらどうなるかを想像してしまったようで、その顔が恐怖で引きつる。

 

「こ、降参、降参します!」

 

『決闘終了! 勝者、ラーミア!』

 

「……下らんな」

 

 膝を地面に突き、両手を上げて降参をする戦乙女(ヴァルキリー)を見たラーミアは詰まらなさそうに地面を蹴ると、大空へ飛び立ち消えた。

 

 まさしく圧巻と言わんばかりのラーミアの戦い方に、スカイ達の顔が引きつる。

 

「流石、らーちゃんだね。まさか……」

 

戦乙女(ヴァルキリー)同士の戦いで、魔法すら使わず勝つなんてね」

 

 スカイとイリスが恐れ交じりの言葉でラーミアを讃える。魔法を使うのではなく、ただ魔力をぶつけるだけで勝つ。確かに、自分の力を示すにはこれ以上ないほどのやり方だ。

 

「スカイちゃん達、そろそろ出番だよー」

 

「出番だってよ。行くぞ、スカイ!」

 

「うん、行こ!」

 

 だが、一番大事なのは、どういう経緯を辿ろうが、勝てることだ。ラーミアに影響されないよう気を引き締め直したら、俺はスカイの後を追って歩き出した。

 

 *

 

 土埃舞う決闘場へ足を踏み入れ、対戦相手と対峙する。一回戦の相手は、カレン同様、地下ダンジョンで出会ったシトラス髪の戦乙女(ヴァルキリー)――レオノーラ。彼女は俺達を確認すると、ぐっと身体に力を入れた。

 

「ルシアス殿。貴方には恩があるが、ここは正々堂々と勝たせてもらうぞ!」

 

「ボクも、負けるわけにはいかないんだよね!」

 

 大剣を構えながら闘気を放つレオノーラ。それに呼応されたのか、スカイも拳を前に出した。

 

『10秒後に決闘を始める。自陣内で移動をしておけ』

 

 決闘開始前の準備時間宣言がなされても二人は全く距離を縮めず、構えたまま闘気をぶつけ合っていた。

 

『――決闘開始!』

 

竜炎牙魔法(ブレイズファング)!』

 

 決闘の開始宣言。それと同時にスカイが先に竜腕を展開し、レオノーラへアッパーを仕掛けた。

 

地重峰盾(グラウンド・マウントシルド)!』

 

 それに対抗して、レオノーラが剣を盾にして魔法を詠唱する。瞬間、彼女の身体が強大な巨山になったかのような錯覚に襲われた。

 

 スカイの拳とレオノーラの守護はぶつかり合い、拮抗……したように見えた。

 

「う、おぉおおおおおおっ!」

 

 スカイが咆哮をすると、レオノーラの守護魔法に段々と亀裂が入っていき――。

 

「――だっ!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 スカイが腕を振り抜くと、守護は粉々に砕け散った。その余波で、術者である彼女の身体は安全地帯へと叩きつけられる。

 

『場外接地により決闘終了! 勝者、スカイ・ルシアスペア!』

 

「やった! 勝ったよ、ルシアス!」

 

「ああ、よくやった」

 

 スカイと喜びを分かち合っていると、レオノーラが安全地帯から出てきた。負けたというのに、その顔は晴れやかだ。

 

「まさか、私の一番得意な守護魔法を砕かれるとは。流石、ルシアス殿に育てられた戦乙女(ヴァルキリー)、文句もつけようもない完敗だ。是非、勝ち上がって優勝をするところを見せてくれ!」

 

「うん! 絶対優勝してみせるから、見てて!」

 

 互いの手を握り、二人は健闘をたたえ合う。

 正面からぶつかり合って完全勝利するのは、イリスともラーミアともまた違う、スカイならではの強者の戦い方。調整は完璧だ、文句のつけようもない。

 

 こうして、スカイ、イリス、ラーミアという三人の強者は一片の陰りもないまま、決闘祭の準々決勝まで駒を進めることとなる。




明日は2話投稿です。
(8:18,20:18)
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