ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第34話:『天才』は跳ねのける

『多重収束・蒼奏魔砲(マジカライズド・ブルーカノン)

 

氷鏡障壁(フリージングミラー)

 

 準々決勝、第一試合。一部が凍り付いた決闘場にて、藍髪の戦乙女(ヴァルキリー)――ソゥの放つ魔力砲と、イリスの展開した氷の壁がぶつかり合う。決闘場での互いの距離は十分に離れており、ソゥの肩や腰に魔力氷が付いていること以外、互いに傷はない。

 

「……っ」

 

 金属をも砕く威力を持つ魔力砲を、さらに何重にも束ねた螺旋魔力砲。ソゥの放つ超攻性の一撃を食らった氷壁にヒビが入り始め、イリスの表情が僅かに歪む。だが、イリスは歯を食いしばりながらも必死に、ただひたすらに耐え続け……魔力砲が途切れたその瞬間、イリスは動き出した。

 

氷鏡凍波(フリージングウェーブ)

 

 イリスが杖を振ると、氷壁から魔力波が放たれる。螺旋魔力砲の持つ潤沢な魔力を十分に吸ったその波は、水が上から下へ流れゆくような確かな速度で、ソゥへ襲い掛かる。

 

「無駄」

 

 だが、ソゥもそれは予想できていたようで、地面を蹴り、波の範囲外へ脱出――。

 

「……えっ」

 

 したかのように思われた瞬間、ソゥの身体に付いていた魔力氷が青く光り、氷の波は不自然なほどに急旋回。ソゥは波に飲まれ、氷像と化してしまった。

 

『……0! 決闘終了! 勝者、イリス・ミタマペア!』

 

「ふぅ。手ごずったわね」

 

「……さむい」

 

 イリスは白い息を吐くと、無表情の氷像となったソゥを背に、ゆっくりと歓声で溢れる決闘場を立ち去った。

 

 *

 

「準決勝進出おめでと、イリス!」

 

「……気を引き締め直しなさい。本当の勝負はこれからよ」

 

 決闘場の裏に戻ってきたイリスを、スカイが笑顔で迎え入れる。対するイリスの顔には喜びの感情が一切なく、むしろさらなる集中をしているようだ。

 

「うーん」

 

「どうした、ミタマ」

 

 見るとミタマが浮かない顔をしていたため、声を掛ける。

 

「出番がないなーって。せっかく、イリスと一緒の決闘祭なのに」

 

 どうやら、自分の出番がないことを気にしているようだ。戦乙女(ヴァルキリー)が強いと魂導者(ソル)は戦闘中にやることがなくなるのは、仕方ないことだ。と、ミタマへ伝えようとした瞬間、イリスが氷の粒をミタマの背中へ投げ入れ、ミタマの体が大きく跳ねた。

 

「――わひゃっ!?」

 

「あなたの出番はこの後だって、何回も言ったでしょ」

 

「それは分かってるよ? でもさ~~」

 

 不満げに頬を膨らせるミタマ。イリスの口ぶり的に、ミタマが決闘祭で活躍をしていないのは、意図的ってことか? だとしたら、どういう……。

 

「らーちゃんが戦うから。見よ、ルシアス!」

 

 スカイに呼びかけられ、思考を打ち切り意識を決闘場へ移す。決闘場でラーミアと対峙しているのは……金髪縦ロールに高貴なドレス。その装いや態度から、どこぞの令嬢だろうか。そういえば、決闘祭のトーナメント表が出た際、俺へ魂導者(ソル)になるよう要求した令嬢戦乙女(ヴァルキリー)の中に、あの子がいた気がする。

 

「おーっほっほっほ! (わたくし)が貴女の伝説を終わらせてみせますわ!」

 

「威勢がいいな。叩き潰しがいがある」

 

『――決闘開始!』

 

 先生の宣告と同時に、ラーミアの背中の羽から、黄金色の羽毛が相手の令嬢戦乙女(ヴァルキリー)へ向かって放たれる。彼女は、その羽毛を一切避けようとせず、その身で受け止めた。

 

 令嬢戦乙女(ヴァルキリー)が羽毛に包まれる。バリバリバリバリ! という破裂音と共に、黄金の光が決闘場を全体へ飛び散った。

 

「えっ。あれ、大丈夫?」

 

 スカイがそう口にするのも無理がないほど、人間一人が影しか見えなくなるほどの極光が、轟音と共に決闘場中に迸っている。

 

「ふ、ふふ……」

 

「……ほぅ」

 

 光が収まると、そこには……余裕そうな様子の令嬢戦乙女(ヴァルキリー)が傷一つなく立っていた。その手には、金色に光る宝珠が握られている。きっと、あれが何かしたのだろう。それを確認したラーミアの眉が興味あり気に上がり、彼女は空いている手を口に当てて高笑いを始めた。

 

「ほーっほっほっほ! やはり、貴女の雷は我が家が開発した雷を吸収する宝珠で簡単に封じられるようですわね! 『雷羽冠天使(クラウニエル)』などと持て囃されておりますが、対策すればこの通り。さあ、皆様見てください! 見事、私が躾けてみせましょう。散々我ら貴族を踏み台にした――卑しい、()()()めを!」

 

「あっ」

「えっ?」

 

「……あ?」

 

 俺とスカイの驚きの声と、ラーミアの極低音が重なる。ラーミア相手に生まれの煽りをするって……あいつ、死にたいのか?

 

「まさか、本当にあの忌々しい『雷羽冠天使(クラウニエル)』を倒せるの!?」

 

 宣言を聞いた観客席は、主にラーミアと敵対する派閥の貴族中心に盛り上がっていた。いや、盛り上がってる場合じゃねえんだが……!?

 

「さあ、これから私の反撃の時間! 見事、天使を撃ち落としてみせますわ!」

 

「……ただ貴く生まれただけの癖に、(ワタシ)を見下すのか?」

 

 ラーミアは顔を伏せ、強く唇を嚙み、拳を握りしめている。その眼にはもはや、相手の令嬢など全く映っていない。完全に自分の世界に入り込み――その身体から殺意と共に魔力を迸らせている。

 

「だめだ。ここからじゃ声は届かない。じゃあ……!」

 

「ちょっと待て、どこいくつもりだ」

 

 スカイが走り出したため、俺もそれを追う。こうして走っている間も、俺はずっと胃の痛みがおさまらなかった。

 

 俺は、スカイが王女様だったことを知らなかった。イリスが侯爵家出身だったことも。原作知識になかったためだ。それでも、ラーミアの過去だけは知っている。

 

 孤児院に入る前。ラーミアの環境は最悪だった。年端も行かぬままに貧民街へ捨てられ、その日の食事すら誰かから奪わなければならない。そんな生活の中で生きるために他人へ噛み付き続けたラーミアへついた蔑称が『野良犬』なのだ。

 

 戦乙女(ヴァルキリー)となった後もラーミアは王族の眼に留まるまでずっと、『野良犬』と呼ばれ、生まれにより差別され続けていた。それが言葉にできないほどの苦痛だったのは想像に難くなく……それを掘り返されたラーミアが何をするかは、誰にも分からない。

 

「着いた!」

 

 意識をスカイへ戻す。スカイを追いかけた先は、観客席だった。決闘場を見ると、令嬢戦乙女(ヴァルキリー)が、まだ魔法の展開をしている。ラーミアの雷を受け止められる宝珠を作れる家は凄いが、本人の実力は大した事ないようだ。

 

 そんな彼女に向かって、再びラーミアが黄金の羽毛を放つ。羽毛は先程と変わらぬ軌道で令嬢戦乙女(ヴァルキリー)へ向かって舞っている。

 

「無駄ですわ! そんなものをいくら放っても――」

 

 令嬢戦乙女(ヴァルキリー)がそこまで言った瞬間、ラーミアは地面を蹴り、羽毛を裂くように直進。彼女の下にたどり着くや否や、その首を掴んで地面へ叩きつけた。

 

「――かぱっ!?」

 

 背中と地面の衝突音と共に、肺から空気が抜けたような声をあげる令嬢戦乙女(ヴァルキリー)。ラーミアは表情一つ変えず、その手から宝珠を奪い取り――握り潰した。

 

「3秒後に貴様の貴い命は消える。言い残すことはあるか?」

 

「……え?」

 

「3」

 

 ラーミアがカウントダウンを重ねると、砕けた宝珠から黄金の極光が漏れ始める。あの宝珠が炸裂したら、ただでさえ強力なラーミアの雷を圧縮した魔力が放たれる。何の防御態勢もとらずにそんなものを喰らったら――。

 

「2」

 

「だ、だめ……!」

 

 横にいるスカイは、守護用の結界に触れてしまいそうなほどに観客席から身を乗り出して叫んでいる。

 

「1」

 

 ここでやっと、令嬢戦乙女(ヴァルキリー)は自分の命が脅かされていることに気付いたのか、その顔が真っ青になった。

 

「い、命だけは……」

 

『やめろ! ラーミア!』

 

「0」

 

 先生の警告も意に介さず、ラーミアは今にも爆発しそうなほど膨張する宝珠から、手を離した。宝珠が崩壊を始め、秘められた絶対なる黄金の輝きが、決闘場の中心から観客席へ向かってあふれ出す。

 

「――らーちゃん! ダメ!!」

 

 スカイが、震える手で魂の底から響くように叫ぶ。

 刹那、『黄金』が世界に満ち溢れた。

 

「――あ」

 

「危ねえ!」

 

 崩壊の余波で放たれた魔力で、観客席の守護結界が甲高い音を立てて砕けていく。俺は観客席から身を乗り出すスカイに危険が及ばぬよう駆け出し、とっさにスカイを抱き寄せた。

 

 光はすぐに消えたので決闘場を見ると、ラーミアの拳の中に黄金が見える。恐らく、ラーミアがその手で握り込み、魔力の発散を無理矢理抑えつけたのだろう。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 令嬢戦乙女(ヴァルキリー)は息も絶え絶えで、顔面が恐怖でこれ以上ないほど引きつっている。それを見たラーミアは半笑いで、無害を示すかのように両手を開いた。

 

「冗談だよ。流石にそんな程度で殺さないさ。失格になるしな」

 

 おどけたようなラーミアの言葉に、緊迫していた観客席の空気が一気に緩む。

 ……本当か? ラーミアって結構根に持つタイプだったと思うんだが。

 

 そんなことを考えていると……ラーミアが令嬢戦乙女(ヴァルキリー)へ口を近づけた。

 

「――地に頭をこすり付け、カイちゃんに感謝しろ。命を救われたことにな」

 

「ひぃっ! あ、あばばばば……!」

 

 ラーミアが何か囁くと、令嬢戦乙女(ヴァルキリー)は口から泡を吹いて気絶した。……アイツ、絶対なんか言ったな。

 

 気絶した令嬢戦乙女(ヴァルキリー)の懐から黄金の結晶――恐らく予備の宝珠が転がったのを見たラーミアは、好戦的な笑みを浮かべながら宝珠を拾い上げた。

 

「そうだ。貴様らに、一つ言っておくことがある」

 

 朗らかな宣言によって、決闘場中の目線がラーミアへ向く。それを確認したラーミアは、宝珠を天高く投げ放ち――詠唱を始めた。

 

天雷の裁き(ライトニング・ジャッジメント)

 

 羽毛が丸まり銃弾型となり、宝珠へ向けて放たれる。雷弾がぶち当たった宝珠はこれまで雷を飲みこみ続けたのが噓だったかのように、簡単に砕けた。

 

「――貴様らの矮小(ちいさ)な価値観で、(ワタシ)を計ろうとするな」

 

 ラーミアの言葉は重く、決闘場の空気が再び張りつめたものになる。言いたいことを言い終えたのか、ラーミアは鼻を鳴らし、羽を広げて決闘場から飛び去った。

 

「……ふぅ。とりあえず、殺しはしなかったみたいだな」

 

「そうだね、本当によかった……。……っ!?」

 

 災害が無事去ってくれたことに、スカイと共に安堵の息をつく。だが、俺と目線を合わせたスカイの顔が、何かに気づいてしまったような顔をした後、その頬が眼に見えて分かるほど急速に朱に染まっていった。

 

「ぁ、えっと、ルシアス……」

 

 声に反応して見ると、俺の胸板に顔をうずめたスカイが、顔を真っ赤にしてもごもごと口を動かしている。しまった、結界の崩壊から守るときに抱き寄せてそのままだった。

 

「悪い、ちょっと力入れちまった。苦しくなかったか?」

 

「苦しくなんてなかったというか……むしろ、硬くて幸せだった、っていうか……」

 

「幸せ……?」

 

「――なんでもない! ほ、ほら、らーちゃんの試合は無事終わったし、行こ!」

 

 俺から離れ、顔を背けてずんずんと歩き出すスカイ。

 抱き寄せる時、力を強くしたのが……幸せ?

 

 ……うーん。やっぱりちょっと、スカイの考えていることが分からん。

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