ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第35話:『天才』へ真っ直ぐに

 準々決勝、第三試合。俺達の試合の時間になっても、決闘場は静寂に包まれたままだった。完全に、ラーミアの作り出した空気に呑まれてしまっている。

 

「行くぞ。スカイ」

 

「……うん!」

 

 暗い決闘場の裏から、日が差し砂煙の舞う決闘場へ出る。同時に、向かいの出入り口からも……二人の人影が見える。その片方は、見覚えがある。前、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)と共にいた黄髪の戦乙女(ヴァルキリー)だ。

 

「スピネル! お互い、勝ち上がれたね!」

 

「そっちこそ。随分な活躍じゃないの」

 

 対面した瞬間、スカイと黄髪の戦乙女(ヴァルキリー)――スピネルはその腕を交差させ、友好を示した。

 

「……仲良いな」

 

「最近、仲良くなったんだ」

 

 にっ、とスカイが俺へはにかむ。それと同時に、スピネルは手をばっと広げた。

 

「紹介するね、スカイ。この人が、私の魂導者(ソル)……マリウムさん! 略してマム! 出てきていいよ!」

 

 スピネルにマムと呼ばれて促されて出てきたのは、体のラインが出るセーターを身につけた糸目の女性。その第一印象は()()だった。どこがと言われると、その……。

 

「どう? マムのおっぱい……デッッカいでしょ! 見すぎたら怒るからね!」

 

「…………」

 

「……羨ましいなぁ」

 

 返答に困ることを言わないでくれ。スカイは胸を押さえて小声で何か呟いているし、観客の何人かは図星を突かれたように咳き込んでいるしで、皆困っている。

 

「もう。スピネルったら」

 

 いきなり胸から紹介をされた女性は、あらあらと笑いながら一歩前へ出た。

 

「あなたが、ルシアスくんね~。スピネルから話は聞いてますよ。なんでも、あの子のことを飛躍的に、進化させてくれたんですって」

 

「いやいや、俺はそんな……」

 

 俺が一歩引くと、スピネルは三歩前に踏み出して、俺に近づいてきた。

 

「謙遜しないでよ。私が飛躍的に強くなったのも。マムという魂導者(ソル)と契約できたのも。両親が喧嘩をやめてくれたのも。妹か弟ができたのも。全部アンタのお陰なんだから!」

 

「後半が俺のお陰だったら凄いを通り越して怖くねえか!?」

 

「だよね! ルシアスはすごいよね!」

 

「なんでスカイは乗っかってんだ!」

 

 つい、強く突っ込んでしまった。全く無関係の案件まで自分の功績にされて勝手に感謝されてはたまらない。

 

『10秒後に決闘を始める。自陣内で移動をしておけ』

 

「……! 恩はある、けど、勝つのは私だから!」

 

「いいや、ボクが勝つ!」

 

 和やかになっていた空気が、先生の決闘準備宣言によって一気に引き締まる。スカイは拳を構え直し、スピネルは、一気に距離をとった。戦いの邪魔をしないため、俺は決闘場の端へ移動すると……何故かマリウムさんも、それについてきた。

 

「いいでしょ?」

 

「……」

 

 柔らかい笑みを浮かべるマリウムさん。この人が何を考えているかは分からない。だからこそ……変に自由にさせるより近くで見ておいた方がいいか。

 

『――決闘開始!』

 

衝撃槍魔法(ショックスピア)!』

 

 見違えるほどの速さで、複数展開した白槍を射出するスピネル。だが、超速で射出された魔力槍は、相変わらずあてのない方向へ突き進んでしまった。

 

「……あ、あれ?」

 

 目を丸くするスカイ。気を取り直して練った魔力を魔法陣へ変質させようとした瞬間、宙を舞う魔力槍はその軌道を変え――スカイへ向かった!? ホーミングか!

 

「後ろだ!」

 

「――っ!?」

 

 俺が声をかけたことで顔を動かし、スカイの視界に白く輝く魔力槍がとらえられる。驚きに眼を見開かせながら、スカイは赤色の魔力を迸らせた拳を槍へ叩きつけた。衝突音と共に槍は砕かれ、その破片は地面へ落ちる。

 

「ちっ、流石にそう簡単にはいかないか」

 

「……凄いことするね。じゃあ次は、ボクの番だ」

 

 相手の攻撃を退けたスカイは、次は自分の番と言わんばかりに手に込めた魔力を魔法陣とし、魔法の展開を始めた。

 

竜炎槍魔法(ブレイズスピア)!』

 

「オオオオオオオッ!」

 

 魔法陣から放たれた炎竜が、口を大きく開けてスピネルを食らいかかる。自分の魔法を元に作られた槍型の炎竜を目の当たりにしたスピネルは冷静に魔法槍を展開し――その上に、飛び乗った。

 

軌道槍魔法(スピアレール)!』

 

 スピネルが飛び乗った瞬間、魔力槍は爆発的な勢いで射出。スピネルと炎竜は追って追われての関係となった。決闘場全体を使った、捕まれば即アウトの追いかけっこ。その勝者は……炎竜が消えるまで逃げ切ったスピネルだった。

 

「ヨシ!」

 

「……む」

 

 スピネルが槍から降りると、槍は壁に激突して砕けた。逃走が成功したスピネルの表情は晴れており、対するスカイは表情を強張らせている。

 

 しかし、俺は今の状態が悪いとは思えない。魔法がなくても相手の攻撃を退けられるスカイと、魔法を使わないと避けられないスピネル。時間が経てばどっちが有利になるかは明白だからだ。

 

 スカイにそのことを伝えようと顔を上げると……目の前に、布に包まれた大きな肌色――巨大な胸があった。

 

「お話をしましょ? 私、あなたにとても興味があるの」

 

「……決闘中ですよ。それに、皆に見られてますし」

 

「なら、ここはどうかしら?」

 

 マリウムさんが安全地帯を手で指してくる。……確かに、ここに入れば外からは見られないが、支援も届かなくなってしまう。だが、今魂導者(ソル)の命令が必要なのはスピネルの方に見える。それを封じられるのなら、乗ってもいいかもしれない。

 

 というわけで、マリウムさんに続いて安全地帯に入る。薄暗く狭い洞窟のような場所に二人で身を寄せると、どうしても距離が近くなってしまった。

 

「ではまず、自己紹介からしましょう。私はマリウム。こう見えて、元戦乙女(ヴァルキリー)なのよ~」

 

「俺はルシアスって言います。……元、戦乙女(ヴァルキリー)ですか」

 

「ええ。私はね、18になっても空を飛べなかった時のあの屈辱。それを次の世代に味わわせたくないの。厳しい試験も、元々、戦乙女(ヴァルキリー)関係の知識があったし、子供達もいっぱい応援してくれたから……頑張れたわ!」

 

 柔らかな笑みと共に、マリウムさんは朗らかな雰囲気を纏わせている。

 

 ……決闘中に何の話をしているんだ? と、あっけにとられていると、彼女は、俺の頭に手を乗せてきた。一瞬、弾こうかと思ったが、その手からは何の敵意や害意も感じず、むしろ優しさに溢れていたためやめておいた。

 

「でもね、魂導者(ソル)になっても、上手くいかないことがいっぱい。だから私はね、ルシアスくん。あなたのことを……尊敬、してるの」

 

「……尊敬、ですか?」

 

「ええ。その若さで、初めて担当した戦乙女(ヴァルキリー)、それも、才能がないと言われてた子を空に飛ばしちゃうなんて本当に凄いわ。戦乙女(ヴァルキリー)みんな、あなたが育てればいいんじゃないかって思っちゃうほどに」

 

「買いかぶりすぎです。スカイが、天才だっただけで、俺は何も――」

 

 俺がそこまで言ったところで――彼女は、俺と目線を合わせ頭を撫でてきた。感じたこともないくすぐったい感触に、つい、言葉が止まってしまう。

 

「自分を、信じられてないようね。だったら、いっぱい褒めてあげちゃう。天才魂導者と言っても、まだ子供なんだから。ほら、ルシアスくんは、とっても偉い。えらい……えらいわ」

 

「や、やめてください、そんな……」

 

 ……こうして誰かに優しく褒められるのは初めてだから、どうすればいいか分からない。

 

 マリウムさんがさらに俺との距離を詰め、眼前に豊かな双丘を寄せてきた。香水のような甘い匂いがふわっと鼻腔を埋め尽くし、脳が痺れたように思考がほどけていく。マリウムさんが蕩けるような声で優しく頭を撫でられる感覚、まるで子守唄を聞いているような心地良い感覚が、身体へ浸透していって……。

 

 

 ――それでも、俺の眼はスカイとスピネルの決闘を捉え続けていた。

 

 今の戦況は圧倒的にスカイ有利。スピネルは壁際に追い詰められており、その息は明らかに荒く、魔力の使い過ぎか手が震えている。決闘場に舞い散っている魔力槍の破片が膨大であることは、そのまま彼女の消耗を表しているようだった。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

竜炎(ブレイズ)――』

 

「……!」

 

 スカイが魔法を展開しようとした瞬間、指から放たれたスピネルの魔力が地面を伝い、散乱していた槍の破片が――浮き上がった!? スカイはそのことに……気づいていない!

 

「――きゃっ!?」

 

 俺の頭を撫でるマリウムさんの手を振り払って安全地帯から出る。そして――。

 

『――飛べ! スカイ!』

 

「えっ!? う、うん!」

 

 右手にある魂導者(ソル)の紋様を天に掲げ、スカイへ命令(オーダー)を行う。スカイは、急な命令(オーダー)に驚きつつも、手に集めていた魔力を逆流させ、身体を包んでくれた。

 

戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)!』

 

崩壊槍封十字(コラプスピア・クロス)!』

 

 闘装(ドレス)を展開したスカイが、炎を噴射して空へ飛び立つとほぼ同時に、辺りに散らばっていた破片がスカイのいた位置へ急速に集約。ガォンッ! という重厚な音を立て、スカイの何倍もの大きさを誇る、十字型の一塊となった。

 

「危ねえ!?」

「あっぶな!?」

 

 俺とスカイの声が重なる。もし今スカイが空へ飛び立たなかったら、スカイはあの十字に取り込まれ、一発で戦闘不能になってしまっただろう。

 

 ……今、分かった。あの二人はただ一つの勝ち筋として、これを狙ってたんだ。だから、戦いを外から見れる俺をマリウムさんが安全地帯に惹きつけていたんだ。

 

 だが、その策は破れた。

 

「決めろ、スカイ」

 

「うん! 『竜炎槍魔法(ブレイズスピア)!』」

 

「耐えきって、立て直すわよ」

 

「ぐっ、負けない――!!」

 

 竜翼を生やして空を舞うスカイが、炎竜をスピネルへ向けて射出する。十字を盾にし炎竜を防ごうとするスピネルだったが、炎竜は十字を食い破って直進し、接地と共に爆散。轟音と炎が辺りにまき散らされる。

 

「まけ……か……ぐやじぃ……!」

 

 爆炎が晴れると、スピネルは焦げた身体から煙を立てて倒れ伏していた。

 

『……0! 決闘終了! 勝者、ルシアス・スカイペア!』

 

 決闘終了の宣告と共に回復魔法の散布が始まり、決闘場が歓声と拍手で包まれる。倒れ伏すスピネルを抱え上げたマリウムが、こちらへ近づき、その頭を下げた。

 

「……完敗ねぇ。あなた達に勝つために、二人で頭を捻って策を練り上げたのだけど、ルシアスくんには通用しなかったわ」

 

「いや、まあ。魂導者(ソル)として、戦乙女(ヴァルキリー)から眼を離さないのは当然ですから」

 

 決闘場から出ると、安全地帯に入っていた時に感じたようなふわふわした感覚はどこかに行ってしまっていた。ということは、もしかして……。

 

「……マリウムさん、魅了(チャーム)の魔法かなんか、使ってましたか?」

 

「あら、分かっちゃうのね。流石だわ」

 

 ……やっぱり。元戦乙女だけあって、攻撃魔法が使えなくなったとしても、常人よりは魔法の扱いに長けている。何かしらの一芸は想定しておくべきだったか。

 

 そんな考察をしていると、マリウムさんが俺との距離を詰めてきた。その表情は、どこか申し訳なさそうだ。

 

「あと、ごめんなさいね。あなたのことは尊敬してるって言ったのは、噓じゃないの。だけど……」

 

「分かってます。『魂導者(ソル)戦乙女(ヴァルキリー)を勝たせるのが役目』、ですよね?」

 

「……本当に素晴らしい魂導者(ソル)なのね。ルシアスくんは」

 

 俺の言葉に表情を晴らしたマリウムさんは、すれ違いざまに……俺の耳元へ、その口を近づけた。

 

「あなたが許すのであれば、今度は、二人きりで語り合いましょう? 私、魂導者(ソル)として、本気であなたに興味が湧いちゃったわ」

 

「……っ!?」

 

 艶のある声でいきなり囁かれ、背中がびくんと跳ねてしまう。

 

「さ、この子を医務室へ連れてって……反省会、しないとね~」

 

 悠々と決闘場から出ていくマリウムさんの背中を見送る。なんというか、優しいようで強烈な人だったな。そんな考えと共に、スカイの方を見ると――。

 

「……むぅ」

 

 頬を、膨らましていた。なんでそんな不機嫌そうなのかを、聞こうとすると……。

 

「……ボクが勝手に不機嫌になってるだけだから。ルシアスは心配しなくていい」

 

「いや、魂導者(ソル)として――」

 

「いい! お胸が大きな人に好かれたことに、嫉妬なんてしてないから!」

 

「……うん?」

 

「なんでもないっ!」

 

 スカイは何かまずいことを言ってしまったと言わんばかりにじわりと頬を染め、早足で決闘場から出ていってしまった。

 

 結局……何に怒ってたんだ?

 

 *

 

 不機嫌なスカイは、イリス達と一緒に出店巡りへ行ってしまった。なんでも、今日からは貴族が来るからか格の高いお店が出店を出すらしい。

 

 今日のスカイの出番は終わったし、次の対戦相手の情報は魂導者(ソル)である俺が知っておけばいい。

 

 そういうわけで、俺は決闘場の魂導者(ソル)戦乙女(ヴァルキリー)の優先席で観戦をすることにした。準々決勝、第四試合。ここで勝った相手が準決勝で俺と戦う相手だ。

 

『――決闘開始!』

 

 先生の決闘開始宣言と共に、決闘場にいる二人が魔法を展開する。片方は……何回か俺たちに絡んできた赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)。もう片方は、仮面を被っており、傍らに弓を抱えていること以外何も分からない。

 

 情報がないのであれば、ちゃんとこの試合で観察してどういうタイプの戦乙女(ヴァルキリー)なのかを掴んでおかなければならない。赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)も、金髪の魂導者(ソル)を失ったことで逆に強化されているかもしれない。

 

「――こんにちは、ルシアスさん」

 

「うん?」

 

 左側から声を掛けられたため、少しだけ顔をそちらへ向ける。そこにいたのは、灰色の髪に中性的な顔立ち。ただ、なんというか、薄い笑みを浮かべて、俺に対して探る眼をしているような気がする。実家の関係者だったら勘弁願いたいんだが……。

 

「おっと、いきなりすいませんね。私は怪しいものではありませんよ。ただ……フェザリオン家の使者ってだけですから」

 

「……!」

 

「その様子ですと、我らとスカイの因縁も知っているようですね。話が早いです」

 

 フェザリオン公爵家。スカイの母親と因縁があり、その恨みからスカイを退学させるよう権力を使って働きかけている元凶。それを知らされてから改めて見ると、その服装も質素なようで素材自体は高価なものが使われているように見える。

 

「もしかして、スカイの退学を解除してくれるんですか?」

 

「あ、それはないので安心してください」

 

「……だったら、何の用だ?」

 

「まあまあ。まずは、一緒に決闘を見ましょうよ」

 

 使者に促されて決闘場へ眼を戻す。ただ、何をするかは分からないので、使者からも眼は離さない。

 

天弓の射手(サジタリウス)

 

 決闘場では、仮面の戦乙女(ヴァルキリー)が魔法を詠唱し、大小様々な矢が数十本、彼女の周りで扇状に展開されていた。彼女は、その内の一本、小さめの矢を拾い上げ、手に持つ弓にかけて引き絞り……射出した。

 

 射出された光の矢は瞬く間に二倍、四倍、八倍……と倍々ゲームのようにその数を増やしていき。数秒後、数百もの数の矢がまるで迫りくる壁のように赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)の体を貫かんと襲い掛かった。

 

「――くっ!」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は風に乗って射程外へ滑り込むのに精一杯といった様子だ。仮面の戦乙女(ヴァルキリー)はそれで攻撃の手を緩めず、もう一本。今度は大きめの矢を持ち、射出を行う。

 

「うぅっ……!?」

 

 放たれた矢は超速で壁に激突すると、ゴムのように跳ねて反射。反発係数が1より大きいのか、さらにその速度を増した。その猛撃に対し、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は四つ足となって伏せ、獣のように逃げ惑うことしかできていない。

 

 そこからの決闘展開は、片方が追い、片方が逃げる。

 狩人が獣を追い掛け回す、一方的な狩りだった。

 

 あの仮面の戦乙女(ヴァルキリー)、かなりの実力者だ。魔力の量、制御、それに身のこなし、どれをとってもかなりの高水準。高水準すぎて――。

 

「……あれ、本当に学生か?」

 

 思わず、そう口からこぼれてしまった。

 

 相手している赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は、なんやかんや言っても新入生上位の実力者。そんな彼女を一方的に追い詰められる実力を持っているのに、これまで無名だったのは、少し考えづらい。

 

「おっ、もう気がつきましたか。流石ですね」

 

「……うん?」

 

 すると、横に座っていた使者がぱん、と手を叩いた。その顔には薄い笑みが浮かんでいる。というか、その言葉と態度、あと仮面の戦乙女(ヴァルキリー)の実力からして……。

 

「あの仮面の中身、別人に入れ替わってるな。アンタらの差し金か?」

 

「ええ。今戦っているのは、うちの若手の出世頭です。既に羽を得ておりますし、先日、Bランクダンジョンを単独で踏破した実績も持っております」

 

「そんなエリートがなんで学生に交じって……」

 

「スカイを潰すためですよ。決勝行く前に潰せば、王族の眼には触れませんから」

 

 なんの罪悪感もなく朗らかに笑う公爵家の使者。正直、俺はかなり引いている。たった一人のためにそこまで権力使うのか……と。

 

「そんなに、スカイのことが憎いのか?」

 

「スカイが……というよりは、『折羽姫』が、ですね。あれ、見る人が見たら我らのことが書かれているって分かるんですよね。なので、発売当時は貴族間で散々陰口叩かれました。その報復を、母親は死んでたので子供へするんですよ」

 

「……なんだその理由」

 

 なんだ? 俺は今、魔族と話をしているのか? こいつらがスカイを攻撃するのは、要するに面子のためで、一銭の得があるわけでもない。そもそも『折羽姫』って公爵家の自業自得の話でもあるし。そんなもんのために子供相手にここまでの手間をかけるとか、頭おかしいんじゃねえの?

 

 俺が顔を引きつらせていると、公爵家の使者。灰色の髪をした女性は、再び手を鳴らして、俺の方を向いた。

 

「ああ。安心してください! 我らが潰したいのはあくまであれだけ。あなたのことはむしろ、高く評価しています。なのでここで提案です。あれが退学したら、貴方を我らお抱えの魂導者(ソル)になりませんか?」

 

「……俺が、公爵家の魂導者(ソル)に?」

 

「ええ! お金はいくら欲しいとか。休みはどれくらい欲しいとか。そういった要望があれば、可能な限り、我らの力で叶えますよ! どうですか!?」

 

 スカイへの憎しみを語っている時と同じトーンで俺への勧誘をする公爵家の使者。

 ……皮肉な話だ。こいつらが欲している俺の力は、ただの勘違い。逆恨みをしているスカイの才能が凄すぎて、俺に力があるように見えているだけなのだから。

 

 どっちにしろ、原作知識がなくなった俺はただのひよっこ。

 とてもじゃないが公爵家お抱えなんかになれる器じゃない。

 

 何より俺は――単純にこいつのことが気に入らない。

 申し出は袖にしよう。そう決めた瞬間、反対側から声をかけられた。

 

「くくっ。悪いな。もう先約が入ってる。下らん勧誘は止めてもらおうか」

 

「……ラーミア」

 

 声をした方を向く。そこにいたのは、金髪に黄金の鎧。ギラリとエメラルド色の眼を光らせたラーミア。その姿を見た瞬間、使者は露骨に顔を引きつらせた。

 

「うわっ、ラーミアだ」

 

「おいおい、そんなに(ワタシ)のことが嫌いか?」

 

「ええ。嫌いですね。王女と繋がりのある貴方さえいなければ、そもそもあれはこの学校に入学できませんでしたし、一ヶ月と言わず今すぐ退学させられたんです。今私が動いているのはだいたい貴方のせいなんですから、好きになれるわけないですよ」

 

 嫌そうな顔で虫でも追い払うかのような手の動きをして、ラーミアへ拒絶の意思を示す使者。それに対しラーミアは、肩をすくめている。

 

「くくっ。(ワタシ)もカイちゃんと仲良くしようとしない奴にかける情などないがな」

 

「……そこが、謎なんですよね。なんで、貴方とあれってそんなに仲がいいんですか? あなたからすれば、あれは歯牙にもかけないくらいの弱者でしょうに」

 

 ……それに関しては、俺も気になっていた。

 

 スカイとラーミアの仲がいいというのは、原作にない情報だ。ゲームが完全版でないというのと、同じ孤児院出身という情報でとりあえず納得はしていたが……なんかたまに、それだけではない感情を感じることがある。

 

 そんなことを考えていると、ラーミアは口に手を当て、柔らかい笑みを見せた。

 

「ふふっ。(ワタシ)はな、カイちゃんに恩がある。……大切なものを、貰ったんだ」

 

「……大切な、もの?」

 

「ああ。何にも代えられない、大切なものだ。くくっ。貴様が(ワタシ)の騎士になるのならば教えてやってもいいぞ?」

 

「……じゃあいいや」

 

 知りたい気持ちはあるが、流石に人生には代えられん。せめて、もう少し値切れないかと思案していると……使者が鼻を鳴らした。

 

「ふんっ。貴方の境遇的にどうせパンを貰ったとか、そんな下らないオチですよ。羨ましいですね。私も息してるだけで誰かに守られたいです」

 

「……くくっ」

 

 使者の言葉を聞いたラーミアは、吹き出すように笑い出した。

 

「なんですか」

 

「それだけか? 公爵家の癖に、随分発想が矮小(ちいさ)いな」

 

「……へぇ」

 

 ラーミアの嘲りに、使者の眼に怒りの火が灯る。使者はそのまま手を開き、ラーミアに対抗するように口角を上げた。しかし、その眼は笑っていない。

 

「本来は準決勝スカイを倒したら中身を元に戻す予定でしたが、気が変わりました。ラーミア。我ら公爵家の力で貴方の伝説を終わらせてみるというのも面白そうですね」

 

「くくっ。――攻撃を一発でも当てられていたのなら、素晴らしい宣言なのだがな」

 

「……え?」

 

 素っ頓狂な声をあげる使者。そう。今ラーミアが言ったように……今、決闘場では、仮面の戦乙女(ヴァルキリー)は数百数千もの矢を放っている。しかし、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は走り、伏せ、跳び、風を使って軌道を変えることで、一発もその矢に当たっていないのだ。

 

 使者が席から身を乗り出す。決闘場にいる赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)は相変わらず走り回っていたが、懐からバイブ音のようなものがすると、ふっと息を吐いた。

 

「……そろそろいいのね」

 

 赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)が確かにそう呟くと同時に、一息で自分へ降り注ぐ矢の間をすり抜け、仮面の戦乙女(ヴァルキリー)の真ん前へ辿り着く。

 

「え――」

 

風獣牙撃(ウィンドファング)

 

「がっ……!?」

 

 獣が風を纏わせた拳を、驚きの声を漏らす狩人へ叩きつける。一撃を叩きつけられた狩人は、壁へ叩きつけられ、呻き声もなく動かなくなった。

 

『……0! け、決闘終了! 勝者、エンリエッタ!』

 

 先生の動揺交じりの決闘終了宣言が決闘場中へ響き渡る。

 

「は……あ……あぁ……?」

 

 急転直下で敗北したせいか、公爵家の使者は口をぱくぱくさせたまま動かなくなってしまった。そんな彼女へ、ラーミアが近づき、肩へ手を置く。

 

「さて。貴様は今、その采配でフェザリオン公爵家の面子を潰したわけだが。どんな()()が、下されるんだろうなぁ?」

 

「あ……ぐ……うぅ……!」

 

 ラーミアがそう囁くと、使者は地面へ崩れ落ち、頭を抱えたまま動かなくなってしまった。ラーミアが、使者から目線を切る。興味を失ったのだろう。

 

 そんなラーミアの視線の先には、赤髪の戦乙女(ヴァルキリー)――エンリエッタがいた。彼女は決闘が終わったというのに裏へ戻らず、俺達の側へ歩いてきている。

 

「見てみてルシアス! この果実飴、なんと前の十倍もの砂糖が濃縮してあるんだって! 美味しそうだよね!」

 

 同時に、スカイが甘味の兵器をその手で持ちながら、俺へ走り寄ってきた。そんなスカイの姿を確認したエンリエッタの眼がギラリと光り、その口が大きく開く。

 

「――スカイ・ジーニアス!!」

 

「……!?」

 

 いきなり自分の名前を呼ばれ、その身を硬直させるスカイ。エンリエッタは決闘場から観客席にいるスカイへ向かって真っ直ぐに、その指を突き付けた。

 

「私の名前は、エンリエッタ・エコーズ・エアリエ ! もう、アンタを下には見ない! ただ私は――アンタを踏み台にして、ラーミアを超える!!」

 

「……ほう?」

 

「…………!」

 

 エンリエッタのあまりに唐突な宣戦布告に対し、ラーミアは嬉しそうに笑みを浮かべ、スカイは――。

 

「いいや。勝つのは――らーちゃんへ並ぶのは、ボクだ!!」

 

 信念の籠った瞳をエンリエッタへ向け、指を天へ突きつけた。

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