ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第36話:『天才』への企み

 準々決勝の熱気も冷めやらぬまま、夜が更けていく。

 そんな中、準決勝で矛を交える四人の戦乙女(ヴァルキリー)は、それぞれの方法で英気を蓄えていた。

 

【イリス&ミタマ】

 

 魔石の無機質な照明が、室内練習場を照らす。

 その片隅で、イリスは杖を構えていた。その視線の先には、魔物を模した的が十個。それぞれ頭や足などバラバラな位置に二重丸の板が張り付けられている。

 

「――ふっ!」

 

 イリスが杖を振ると、杖の先から十の魔力弾が放たれる。魔法弾はそれぞれ吸い込まれるように的へ向かい、直撃。的の中心だけを氷漬けにした。

 

 魔法を放ち終えたイリスへ、端で見ていたミタマが駆け寄り、声を掛けた。

 

「百発百中! さっすがイリー!」

 

「十発十中よ」

 

「誤差だよ誤差! それより、どしたの? 急に最終調整したいだなんて言いだしてさ」

 

「それはね……」

 

 イリスは、手に持つ杖をぎゅっと強く握りしめた。

 

「私があの雷羽冠天使(クラウニエル)に勝つには、自分の得意分野。精密性で勝つしかないって思っただけよ。絶対なる武器がないと、あの化け物には立ち向かえない」

 

「ふーん? イリーがそう言うのならきっとそれが正解だろうし。もう一本、行っちゃおうか!」

 

 ミタマが的へ魔力を入れ、修復を行おうとした瞬間。訓練場の出入り口のドアが開いた。振り返った二人の視線の先にいたのは、銀の長髪に短い白のローブ。戦乙女学園の学園長だった。

 

「精が出るわね、でも、もう終わりにしちゃいなさい。明日に響くわよ」

 

「……学園長先生」

 

「あっ、学園長だ。何しにきたの?」

 

 唐突に現れた学園長に対し、イリスは軽く一礼し、ミタマは手を振って歓迎の意思を示した。そんな二人を見た学園長は、薄い笑顔を浮かべる。

 

「別に大したことじゃないわ。ただ、発破をかけにきただけよ。全力を出し切りなさいってね」

 

「当然、全力は出すよ。その上で……勝つんだ、絶対に。そのための秘策が、わたし達にはあるんだからさ! なんていったって……」

 

「ミタマ」

 

「あっ、ごめん! まだ秘密だったんだコレ!」

 

 手をわたわたとさせるミタマ。そんな微笑ましい様子を見た学園長はその口角をさらに上げた。

 

「そんな凄い秘策なら、楽しみにしちゃおうかしら?」

 

「驚きすぎて目ん玉飛び出ちゃわないよう気を付けてね」

 

「流石にミタマが言うくらいの衝撃はないと思うけど。それでも絶対……学園長先生の期待外れにはならないから、見てて」

 

 真っ直ぐに学園長の眼を見据えた、イリスの言葉。それは、ニーズヘッグの呪いに囚われていたイリスへ、『強くなって呪いを乗り越える』という道筋を示した学園長に対しての、感謝と決意の言葉だった。

 

「……じゃあ、私はあの的片づけるから」

 

 婉曲的とはいえ、学園長へ感謝を伝えたのが恥ずかしくなったのか。イリスは顔を若干染めながら学園長から離れ、的の片付けを始めてしまった。

 

 学園長とミタマはしばらく、そんなイリスの後ろ姿を見てやれやれと肩をすくめていた……。

 

「……あっ!」

 

 が、少し経つと、ミタマが何かを思いついたかのように身体を跳ねさせると、学園長へ小声で話しかけ始めた。

 

「……ねえ先生。実はわたし、イリーに秘密でサプライズを仕込んでるって言ったら、驚く?」

 

「――!?」

 

 ミタマのいきなりのカミングアウトに、眼を剥いて驚く学園長。学園長の反応を見て、満足げな笑顔を浮かべたミタマは口の前で人差し指を立てた。

 

「もしイリーに黙っててくれるのなら、先生にだけは教えたいと思ってるんだ。ちょっと仕込みが必要かもだしね」

 

「へぇ……じゃあ、教えてくれないかしら」

 

「よし、じゃあね……」

 

 ミタマが学園長の耳へ口を近づけ、もごもごと何かを話す。ミタマが口を動かすたびに、学園長の顔が驚愕と歓喜の色に染まっていく。

 

「――と、いうわけなんだけど。補助、お願いしていいかな~?」

 

「……確かに、それは最高のサプライズね。了承したわ。あなたの作戦が上手く行くために、私も協力してあげる」

 

「にひひ~! ありがと! じゃ、わたしはイリーの手伝いしてくるから、明日はよろしくね!」

 

 無邪気な笑みを浮かべながら、的を片づけるイリスの後についていくミタマ。

 

「もう一つの秘策次第だけど、これは本当に……明日が楽しみね」

 

 その後ろ姿を見た学園長はそう、ほくそ笑んだ。

 

 *

 

【ラーミア】

 

 月の光に照らされても薄暗い、ゴミまみれの部屋。一口でゴミと言っても、煌びやかに光る大粒の宝石から虫がたかる生ゴミ、おどろおどろしい魔に侵された魔石から聖光漏れる十字架まで、多種多様な価値を持つ物が乱雑に捨て置かれている。

 

 そんな部屋の隅っこに配置されている大型のベッドにて、胸の大きい金髪の女性――ラーミアが黒色の下着姿で眠っていた。

 

 その傍らに置かれているのは、蒼銀の剣と、ボロボロの手紙。そして、煌びやかに輝く王冠のレプリカ。

 

「……んぉ?」

 

 情けない声をあげて、薄く目を開けるラーミア。そのまま身をよじらせると、豊かな胸が跳ね、下着からこぼれそうになる。

 

 寝ぼけ気味のラーミアはまず、王冠のレプリカを掴む。その王冠へ彫られている、『culminant(カルミナント)』の文字を捉えた瞬間、ラーミアの体が僅かに弛緩した。

 

「……皮肉だな。名を持たぬがゆえに、王女より名を貰うという栄誉を預かるとは」

 

 薄笑いを浮かべながら王冠から手を離したラーミア・カルミナントは次に、ボロボロの手紙を手に取り、開いた。

 

『がんばれ、らーちゃん

             すかい』

 

 子供の書いた、字の大きさもバラバラなくしゃくしゃの手紙。ラーミアは、その字を愛おしそうに撫でた後、手紙をしまい――その隣にある蒼銀の剣を握りしめた。

 

「ルシアス。必ず、貴様を手に入れて……ぐぅ……」

 

 そう宣言をしながら、ラーミアはもう一度ベッドへその体を沈めた。

 

 *

 

【ルシアス&スカイ】

 

 中央に机と椅子、端っこにソファが配置されている広い部屋――学園寮の共同居間。本日の夕食、煮込みシチューハンバーグパイを食べ終えたスカイとルシアスは、お茶を飲みながら話し合いを始めていた。

 

「まず、今日はちゃんと早めに寝て休めよ、スカイ。戦乙女闘装(ヴァルキリードレス)は一応最上位魔法。その疲れは見えないところに蓄積してるもんだからな」

 

「うーん。でも、らーちゃんはいっつも羽を展開してる気がするけど」

 

「アイツ羽出してから結構経ってるし、もう慣れ切ってんだろ。それより問題は、明日の準決勝……エンリエッタとどう戦うかだ」

 

 ルシアスの言葉に、スカイは微妙な顔をして首を傾げた。

 

「一回、勝ってはいるんだよね。でも……」

 

「今日の試合を見るに、劇的に化けたと見ていい。世間的には偶然ラッキーパンチが刺さった扱いだが、違う。アレは実力だ」

 

 そう断言するルシアスの頭の中には、先程の試合が浮かんでいた。狩人が獣を追い詰めているようでその実、獣が息をひそめていたあの一戦。

 

(だとすると、エンリエッタはその実力を隠してたってことになる。……ダメだ、事前対策するには情報が足りねえ)

 

 眉の間に指を当て、思考の海に沈むルシアス。スカイはそんなルシアスの姿を見て……ぴょん、っと椅子から飛び跳ねるように立ち上がった。

 

「じゃあ、先に決勝戦。らーちゃんかイリスの対策をしようよ! 特にらーちゃんの対策には自信あるんだよね、ボク!」

 

「……うん? なんか、作戦でもあんのか?」

 

「作戦ってわけじゃないけど……いや、これは見てみた方が早いかも!」

 

 立ち上がったスカイは、そのまま自分の部屋のドアを開けた。それを見たルシアスの顔が、困惑交じりのものになる。戦乙女が許可しなければ、魂導者が戦乙女の寝室に入れないようになっているためだ。

 

「……部屋に入っていいのか?」

 

「大丈夫大丈夫! ちゃんと、床とか掃除してあるから!」

 

 スカイに促されるまま、ルシアスが部屋に入る。確かに、スカイの言う通り、部屋の床はチリ一つ落ちていないし、机の上も完璧に整理整頓されている。

 

 お、と小さく歓声をあげたルシアスに対し、誇るかのようにスカイはどやっと胸を張った。

 

 だが、床や机の下ばかりに目が行き、スカイは気づいていなかった。ベッドの上にショーツ類を干したまま、片づけ忘れていることを。

 

「…………!」

 

 小さなリボン付きの白い三角の布を眼で捉えてしまったルシアスは、片づけ忘れをスカイへ伝えようか一瞬迷い……結局、顔を逸らして全力で見なかったことにした。

 

「……? ルシアスどこ向いてるの?」

 

「……いや、ラーミア対策はどこにかなって」

 

「それはね、この部屋の中!」

 

 ルシアスの異変に気づかないスカイは、部屋の隅にある扉を示すように手を向ける。ここで気づかないと気づくのが寝る直前になり、ベッドの中で死ぬほど悶える事になるのだが、些細な事だろう。

 

「寮にこんな部屋あったっけか?」

 

「買ったんだ。ほら、ルシアスから魔石のお金貰った時にさ」

 

 学園の購買では、寮の部屋を増やす権利が売られている。戦乙女(ヴァルキリー)の生活を快適にするため、今の学園長が編み出した施策だ。尚、その真の狙いは学園へ金を還元させることである。

 

「じゃ、見せるね! じゃん!」

 

 そんな事情を露も知らないスカイは、揚々と新しくできた部屋のドアを開いた。

 

「……っ!?」

 

 開かれたドアの中を見たルシアスが、眼を見開く。その額からは冷や汗が垂れていることから、部屋の中にある『それ』がルシアスにとってかなりの衝撃だったことが伺える。

 

「『これ』が、ボクなりのらーちゃん対策……になるのかな?」

 

「……なるほどな」

 

(だから、原作でスカイはラーミアへ勝てたのか)

 

 冷や汗を流しながら、原作知識と擦り合わせて、一つの結論へ至ったルシアス。

 対するスカイは、自慢げな笑顔を浮かべていた。

 

 *

 

【エンリエッタ&フギン】

 

 赤髪に貴族装の少女――エンリエッタは、一面が岩肌まみれの薄暗い洞窟を、魔石製カンテラを片手に歩いていた。その表情は硬く、真っ直ぐに洞窟の奥の闇を捉えている。

 

 洞窟の最奥、行き止まりにたどり着くと、闇の中から金色の球体が出てきた。エンリエッタがカンテラを金色の球形へ向けると、その全貌、眼が金色に変色した金髪の魂導者(ソル)――の身体を乗っ取ったフギンがその姿を現した。

 

 フギンは少女の姿を認めると、表情を晴らしながらその口を開いた。

 

「よ。命令通り、劣勢を演出するため、10分間一発も攻撃に当たらなかったんだな。流石、凄いじゃねえか」

 

「…………!」

 

「……? なんでそんな驚いてんだ?」

 

 首を傾げるフギンに対して、エンリエッタはその表情を驚愕からばつの悪そうな顔へ変えた。

 

「……こうして魂導者(ソル)に褒められるの、初めてだったから」

 

「は? 普段姉御が活躍した時はどうしてたんだよ」

 

「全部自分の手柄だって威張ってた」

 

 忌避するように呟かれたエンリエッタの言葉を聞いたフギンが、口の中の唾を吹き出す。そのまま彼は、ケタケタと楽しそうに大口を開けて笑い出した。

 

「さっすが、無能な魂導者はやることが違うなあ。もっとそう言うの聞かせてくれよ! 肴にするからさ」

 

「……嫌よ」

 

 一通り笑い終えたフギンは、話題を押しのけるかのように手を振り払い、口を開いて話を始めた。

 

「ま、死んだ奴のことはもういいとして。これで準決勝、あと一勝すれば姉御は憎きラーミアをぶちのめせるんだから、頑張ってくれよ?」

 

「えぇ。絶対に勝つわ。私はそのために……人としての尊厳を捨て去ったんだから」

 

 そう吐き捨てると共に、フギンの後ろに配置されている黒色のアイアンメイデンを睨みつけるエンリエッタ。それを見たフギンは、その扉を開けた。

 

 開かれたアイアンメイデンから、無数の鞘足のようなチューブが飛び出す。触手とも言い換えられるそれの先にはノコギリから魔石まで、様々な『改造道具』が取りつけられていた。それを見た途端、エンリエッタの顔は真っ青になる。その体が震えているせいか、歯同士がぶつかり合いカチカチという音が鳴った。

 

「しゃーないだろ? 流石に一週間で強くするにはこういう手段しかない。なんでもするって言ったのは姉御の方だし」

 

「分かってる。ただ、そもそもこの器具は何? どうやって作ったの?」

 

「あ、コレ? ゴーレム。100年ぐらい前、ゴーレム作成が得意な魂導者(ソル)の魂啜った時にそっち系の知識が手に入ってさ。それ使って作ってみたんだよ。作成に数十年かけた大作。その効果は、姉御が一番わかってるだろ?」

 

 アイアンメイデンの扉を閉じながら、顔だけエンリエッタへ向けて、ウィンクをするフギン。エンリエッタは100年前という単語に対して、僅かに眉をひそめた。

 

「……もう一つ、聞いていいかしら?」

 

「ご自由に」

 

「なんであなたは、わざわざ魂導者(ソル)を狙っているの? そんな力と100年なんて年月があれば、世界征服でもなんでもできると思うんだけど」

 

「……!」

 

 エンリエッタの質問に虚を突かれたのか、僅かに眼を見開くフギン。だが、次の瞬間には扉を閉め終えて、薄い笑顔を浮かべたまま彼女の方を向いた。

 

「そうだな、言語化してみると……まず、不快なんだ、魂導者って生き物が。優秀な魂導者を見るたびに吐きそうになる。それに正直……国よりも、優秀な魂導者の方が価値があるじゃん? 王族は替えが利くけど、優秀な魂導者って替え利かねえし。あとは……1000年前の復讐ってところか」

 

 1000年前という、さらにスケールのでかい単語を聞いたエンリエッタは、思考を放棄するかのように首を振った。

 

「……何言ってるのか分かんないわ」

 

「オレが言うのもなんだが、魔族は理解しようとするもんじゃねえぜ? ま、それよりもさ、明日はオレも出るから話し合わせとかよろしくな」

 

「え? 出るの?」

 

「ああ。新しい肉体も馴染んだしな」

 

 そう語るフギンの表情からは先程までの緩さは消えており、その眼は魔の本性を表すかのようにどす黒くなっていた。フギンの急な変化に動揺したエンリエッタが言葉を詰まらせたことで、何一つ音のしない、静寂の時間が訪れる。

 

 ここでフギンは眼の色を黄金へ戻し、天を仰いだ。

 

「……長い旅路だった。だが、これで終わりだ」

 

 次の黄昏に復讐は終わる。

 渡り鴉の旅路も、また。

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