ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

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第42話:『黄昏』の終わり

 フギンとの戦いを終え、結界から出たルシアスとスカイを待っていたのは、観客席からの歓声と太陽の祝福だった。先程まで薄暗い闇の世界に閉じ込められていたせいか、いつもは何とも思わない夕暮れの橙色がやけに輝いて見える。

 

「師匠! スカイちゃん! よかった、勝ったんだ!」

 

「ミタマ、飛び降りるなら気を付けて――」

 

「分かってるって!」

 

 ミタマとイリスが観客席から決闘場へ飛び降り、そのまま二人へ駆け寄る。まず、ミタマが勢いのままルシアスへ抱きついた。

 

「良かった。師匠、生きてた。見えなくなった時は、もうダメかと……っ!」

 

「ミタマ、人前で抱きつくのはやめてくれ。それにそんな抱きつかれると、俺の血でミタマが汚れて……」

 

「やだ。もっと深く繋がらせて……どっか行っちゃわないくらいに」

 

「お、おう……?」

 

 自分の存在を刻み込むかのように、身体を擦り付けるミタマに戸惑うルシアス。一方イリスは、優しくスカイの肩を支えた。

 

「早く回復しなさい。あなたの戦いは、まだ終わってないんだから」

 

「……魔族が入り込んでたけど、このまま決勝やるのかな?」

 

「やるわよ。魔族の侵入は結構前例あるし、特に決勝は神前決闘だから。どんなトラブルがあっても他の試合をすっ飛ばして、決勝だけは必ず行われるわ」

 

「そっか。じゃ、早く体調戻さないとね」

 

 スカイがイリスへにぱっとした笑顔を向ける。顔面中を冷や汗で濡らしながらも、上手く笑顔は作れていた。

 

「……本当に、強くなったわね」

 

 スカイの虚勢を悟ったイリスが、ぽつりと言葉を漏らす。

 

「? なんか言った?」

 

「何も」

 

 スカイの問いかけに、首をふいっと横に向けるイリス。そんなやり取りによって、少しの間和やかな時間が流れる。

 

「うぅ……!」

 

「――っ!」

 

 だが、魂が戻り、息を吹き返したエンリエッタが呻き声をあげたことで、イリスが臨戦態勢へ変わり――和やかな空気は崩れ去った。

 

「矛を納めてイリスちゃん。あの子はもう、何もできないわ」

 

「……学園長先生」

 

 だが、学園長が間に入って取りなすことでイリスがほんの少しだけ身に纏う空気を緩める。学園長はそのまま、エンリエッタの背中に手を当て、話を始めた。

 

「まず、言っておくわ。戦乙女にとって、魔族へ魂を売ることは神への重大な背信、許されざることよ」

 

「……っ」

 

「ただ、その上で……あなたが魔族の誘いに乗ってしまったのは、私の責任もある。もっと早く、あなたと魂導者を切り離すことができていれば、こんなことには……」

 

「反省点そこでいいんですか?」

 

 ルシアスの突っ込みに対し、学園長は首を縦に振った。

 

「ええ。あの魂導者ではエンリエッタちゃんの溢れる才能を伸ばせないどころか、邪魔になっているのは明らか。だったら、いない方がマシだわ」

 

「……そうですか」

 

 学園長の眼は真っ直ぐに、戦乙女の幸せを願っていて……それ以外は多少切り捨ててもいいと思っているようだ。学園長の言葉を聞いたエンリエッタは項垂れたまま、喪った右腕があった箇所を見ている。

 

「そっか。私にも、才能を信じてくれる人がいたんだ。もっと早くそれに気づけていれば、こんなっ、こんなことには……!」

 

「…………!」

 

 瞳に涙を溜めるエンリエッタ。スカイはいつの間にか、そんな彼女へ足を進めていた。スカイが近づいていると気づいたエンリエッタが、その眼を逸らす。

 

「……っ、見下したければ、見下しなさいよ」

 

「ううん。そんなことしない、できないよ。ただ、もし叶うのであれば、キミが自分の羽で飛んでる姿を見たいなって、そう思ったの」

 

「は? 私がアンタに何したか忘れたの? 散々いじめて、ついさっきもアンタに毒を食らわせたのに」

 

 エンリエッタの毒づきを、スカイは真っ直ぐに受け止め、爽やかな笑顔で返した。

 

「だとしても、キミとボクは同じ相手――らーちゃんの背を追っていた。キミは道がちょっと屈折しちゃっただけで、ボクも一歩間違えたらそうなっていたかもしれない。だから……嫌いになんてなれないよ」

 

「……ぁ」

 

 あまりにも真っ直ぐなスカイの言葉。

 

 その時、エンリエッタは鮮明に思い描いてしまった。

 もし、あの時スカイの手をとっていれば、きっと――戦乙女として切磋琢磨し合いながら、天を目指せていた。上を、向けていたのだと。

 

 気づけば、エンリエッタは大粒の涙を流しながら顔を上げていた。

 

「……っ! 勝って。ラーミアに勝って! 私は、あなたが天に立つ姿を見たい!」

 

「うん、勝つよ。絶対に!」

 

「あと、その、ビンタしてごめん……!」

 

「いいよ」

 

 対等に正面から向かい合い、気持ちを通じ合わせるスカイとエンリエッタ。そんな二人を不機嫌そうに眺めていたイリスへ、学園長が声をかけた。

 

「不服そうね」

 

「……ええ」

 

「どっちにしても、多少は許してあげなさい」

 

 学園長の眼がエンリエッタの右腕があった場所へ向かう。既に回復魔法が散布されているにも関わらず、失われたその腕は治る兆しも見せなかった。

 

「分かってるわよ、けど……あんな傷負わされて、引っかからないわけないでしょ」

 

 イリスの視線がルシアスへ向かう。その衣服はフギンの手によって作られた夥しい数の傷から流れ出た血で赤く染まっていた。

 

 視線に気づいたルシアスは、少し気まずそうな顔をしながら頭を掻いた。

 

「俺は魂導者だから、戦乙女であるスカイが許すなら俺も許すのが筋だ。この傷も、ほぼ薄皮切られたようなもんだしな。それに……」

 

「それに?」

 

「……いや、何でもねえ」

 

(そういや、スカイに剣見せちまったんだよな。今の所何も言ってこねえけど、何考えてんだろ……)

 

 スカイを視界に入れながら、両眉の間に指を当てて思考の海に沈むルシアス。そんな彼の足元に黄金の羽が突き刺さった。

 

「……うん?」

 

 ルシアスが羽を拾い上げる。すると、羽にはこう書かれていた。

 

『勝つのが遅い。夜8時、スカイと学園裏』

 

「……随分と強引なことで。つーかアイツ、どこ行った?」

 

 ルシアスが決闘場を見渡す。

 しかし、ラーミアの姿は既に見えなくなっていた。

 

 *

 

 太陽が今にも地平線に沈みそうな黄昏時。橙色の光に照らされた森の上空にて、一匹の渡り鴉――フギンが翼を広げ、学園から逃げるように飛んでいた。よくよく見ると、その翼どころか全身がボロボロであり、高度制御すらおぼつかない。

 

「はっ……はっ……まだだ。まだ、終わってねえ! 最後の、策を……!」

 

「させるとでも?」

 

「――はっ!?」

 

 フギンが聞こえてきた声の方を向こうとしたその瞬間、黄金色の雷がフギンへ着弾した。

 

「ぐぁああああああああっ!?」

 

 叫び声と共に翼が焼け、雑草の生えた地面へ墜落するフギン。その上から、長い脚がフギンを踏みつける。ぼきっ、という翼が折れる音がした。

 

 フギンを踏みつけた人物の正体、それは六枚羽を生やしたラーミアだった。

 

「が、手前、天使様……!」

 

「貴様は負けたんだ。大人しく退場したらどうだ?」

 

「は、ははっ……。ルシアスを守りに来たか。随分過保護なこって」

 

 皮肉気な笑みを浮かべるフギンに対し、ラーミアの表情は『無』だった。

 

「違う。(ワタシ)が貴様を追いかけた理由はただ一つ――(ワタシ)を侮辱した貴様に、制裁を加えるためだ」

 

「は? 何だそりゃ!? そんな下らん理由で殺されるなんて――」

 

「黙れ。(ワタシ)を見下す奴は――神でも許さん」

 

 ラーミアが、六枚の羽を無理矢理その身体へ仕舞う。黄金の雷がラーミアの身体を逆流し、ある一点――踏みにじられ地を這いつくばるフギンへ集約し、黄金の極光を放つ。

 

「ぐぅあああああああああああああああああっ!!!!」

 

 地の底から怪物が這い出てきたような苦悶と絶望に満ちた絶叫と共に、金色の眼を持つ渡り鴉――フギンは山のような黒色の塵となって霧散。後には豆粒程度の魔石だけが残された。

 

「くくっ。大量の付属品がくっついていただけで、貴様自身の大きさはこの程度か。その身の矮小さを嗤うか、むしろこの程度の存在からあそこまで大きくなったのを褒めるか……」

 

 ラーミアは黒色の塵に囲まれながら、魔石を見下していたが……。

 

「まあ、どっちでもいいか」

 

 すぐに興味を失ったかのように、魔石を踏み割り粉々にした。

 

 太陽が地平線の果てへ完全に沈み消え、世界が闇に閉ざされる。黄昏が終わる頃、ラーミアが黄金の羽を広げてその場から飛び去った。

 

 ただ――彼女は気づけなかった。

 塵に触れた右手の紋様が一瞬、黒く光ったことを。

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