ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう   作:マテリ-AL

44 / 52
第44話:『天才』の決別

 これは、ルシアスとラーミアがお互いを賭けた戦いの約束をした後の出来事。アルスター騎士家に訪れたラーミアは……ステンドグラス煌めく聖堂で、重装鎧を身につけた騎士数十人に囲まれていた。

 

「おいおい、(ワタシ)はちゃんとアポイントをとって訪れたのに、随分と歓迎されてないようだな」

 

 肩をすくめたラーミアの言葉に騎士達は全く反応せず、ただ剣を構えている。その後ろから真っ白な髭を蓄えた、目つきの鋭い筋骨隆々の壮年男性が現れた。その姿を見たラーミアは表情を緩め、わざとらしく恭しいお辞儀をする。

 

「やぁ、アルスター家の当主殿」

 

「戦乙女が、我ら騎士家に何の用だ?」

 

「そんな睨むなよ、せっかく――ルシアスの話をしに来たのに」

 

 ラーミアがルシアスの名前を出した瞬間、当主の顔がさらにこわばり、眉間のしわがさらに深くなった。

 

「……貴様か。貴様が、あれを魂導者なんていう女の尻に隠れてコソコソする下らん卑職へ引き込んだのか。折角、触れさせないよう遮断してきたのに……!」

 

「……? (ワタシ)はルシアスを魂導者の道に引き込んでなど――」

 

「問答無用だ、やれ!」

 

 当主の号令でラーミアを囲んでいた騎士達は一斉に剣を構え、ラーミアへ斬りかかった。

 

「……はぁ」

 

 ラーミアはため息をつくと、片手を天へ突き上げた。瞬間、天から黄金の雷がラーミアへ向かって降り注ぎ、天井のステンドグラスを突き破って着弾、炸裂する。

 

「ぐおおおおおおおおっ!?」

 

 炸裂によって放たれた魔力と風圧が、重装鎧を身につけているはずの騎士達を吹き飛ばし、感電させる。ラーミアに着弾した黄金の光が晴れた時、聖堂に立っているのはラーミアと当主の二人となった。

 

 周囲から漏れる騎士の呻き声を浴びながら、ラーミアが当主へ好戦的な笑みを向ける。

 

「よし、落ち着いたな。さあ、話をしようか」

 

「ちっ……何の用だ」

 

 苦々しい様子の当主に、ラーミアの目がギラリと光った。

 

「まずは、報告だ。(ワタシ)はルシアスを自分の騎士とする。そして、貴様らの使うような観賞用の下らん『演武』ではなく、ルシアスの才能に合った本当の剣を見つけるんだ」

 

「…………それは、我が家への侮辱か?」

 

「ああ、侮辱だ。罪のない子供に拷問に等しい訓練を強要した上に、洗脳教育までする家に相応しい、な」

 

「――騎士家に生まれた子に、才能に合った訓練を課し、騎士としての心構えを学ばせているだけだ! 貴様ら戦乙女の下らん尺度で測るのはやめてもらおうか!」

 

 そう語る当主の額には青筋が立ち、その目は真っ赤に血走っている。そのまま当主は、まくしたてるように言葉を続けた。

 

「――貴様ら戦乙女はいつもそうだ! 何が騎士と戦乙女の融和だ! 結局貴様らの狙いは、騎士を戦乙女の下部組織にすることだろう! 我らは戦うぞ! 剣聖という存在を未来へ残すために!!」

 

「……で、どうするつもりだ?」

 

「仕上げるんだよ、ルシアスを。剣聖の剣と騎士の心を持った――完璧な騎士にな!!」

 

 その時ラーミアは、当主の眼に穢れ切った信念と狂気を見た。それは、剣聖より始まり、千と数百年続いた騎士の歴史を、自分の代で終わらせまいとする決意……否、呪いだった。

 

 ラーミアはそんな、戦乙女が台頭するこの時代に騎士家へのしかかる重圧を……全て理解した上で、軽蔑し、見下した。

 

(そんな下らんことのために、ルシアスは……!)

 

 不機嫌そうに髪をかき上げるラーミア。それを見た当主は……ラーミアへ向けて剣を向けた。

 

「――そのためにまず、ルシアスを家へ連れ戻さなければな。拷問されたくなければ答えろ。あれは今、どこにいる?」

 

「……その程度も掴めない情弱じゃ、どれだけ強くても家の再興は不可能だろうに」

 

「――――!!」

 

 ラーミアの皮肉交じりの指摘を聞いた当主は、強く地面を踏み込みラーミアへ向けて剣で斬りかかった。そんな疾風のような一撃に対し、ラーミアは一瞥もせず、背中に広がる羽を広げて多量の羽毛を風に乗せて振りまくだけだった。

 

「ちっ――!?」

 

 羽毛が触れてはまずいものだと直感で感づいた当主は身を翻し、羽毛を躱そうとする。だが避けきれず、羽毛が数枚鎧へ付着し……黄金の雷へ変換された。

 

「ぐぉおっ!?」

 

 感電し、勢い良く地面へ崩れ落ちる当主。地面に倒れ伏す彼を見たラーミアは心底詰まらなさそうに、当主に聞こえるような音量でブーツを鳴らした。

 

「ルシアスなら避けたぞ?」

 

「…………っ!」

 

 ラーミアに見下された当主は何か言いたげな様子だったが、感電による痛みが引いていないのか、歯を食いしばったまま震えている。

 

「そもそも貴様らは前提から間違えている。確かに騎士は剣聖から生まれた。だが、騎士と剣聖は似てるようでその実大きく離れてるんだよ。騎士は品行方正だが、忌々しい『剣聖伝説』によると剣聖は毎巻違う女を口説くほど好色なんだろ?」

 

 肩をすくめながら、ラーミアは話を続ける。

 

「ルシアスを騎士にしたいのであれば、過度な訓練は止めてまずは騎士としてのあるべき姿と世界への愛を刻むべきだったし、剣聖にしたいのならその才に合った見返りが渡されるべきだ。剣聖の剣と騎士の心を持った完璧な騎士ぃ? 破綻した理想に付き合わされ、洗脳までされたルシアスが哀れで堪らないな」

 

「ぐ……っ。き、さまは」

 

「……ん?」

 

 地を這い、身悶えしながらも口を開く当主へラーミアが耳を傾ける。

 

「貴様は、違うというのか……? あれを、自分勝手に、使わないと……」

 

「まず、『あれ』呼ばわりを止めろ、反吐が出る。その上で――(ワタシ)が、使う。当然、才に合った相応の対価を差し出してな。地位も、名声も、金も、女、は……(ワタシ)がいればいいな、うん」

 

「なん、だと……っ!?」

 

 額から青筋を立て、歯をむき出しにする当主。ラーミアは興味を失ったようにそんな彼へ背を向けた。

 

「くくっ。安心して這っていろ。()()()()、騎士の復権もしといてやる。戦乙女に全てを奪われた騎士を救ったなんて逸話があれば、丁度いい箔付けになるだろうよ。ま、今ある騎士家は消えるだろうがな」

 

 そう言い切ったラーミアは、薄暗い聖堂から光が満ちる外へ、導かれるように悠々と歩き去る。

 

 誰も、その歩みを止めることは出来なかった。

 

 *

 

「……と、いうわけでやる事がなくなった(ワタシ)はな! 貴様の家の書庫にお邪魔して、情報を――」

 

「――もう一度言うわ。ほんっとうに、何してんのお前!?」

 

 それが、話を聞き終えた俺の第一声だった。いや、本当にそれしか言うことがない。他人の実家へ襲撃したことをそんな嬉々として話さないでくれ。

 

 俺がドン引きしていると、スカイが一歩前に出て、ラーミアへ向き合った。

 

「……らーちゃんは、ルシアスを騎士にしたいんだね」

 

「ああ、そうだ。ルシアスは(ワタシ)の騎士となる」

 

「でも、ルシアスは剣を振りたくないって言ってて……」

 

「違うな」

 

 ラーミアはスカイへ手のひらを向け、言葉を制止した。

 

「さっきルシアスが話していたのは、『人前で剣を振らない理由』であって、『騎士になりたくない理由』ではない。そもそも、親方とやらに出会った時点でルシアスは騎士ではなく魂導者の道に進もうとしていた。つまり、理由は別にあるってことだ」

 

「……あっ!」

 

 ラーミアの言葉で、スカイは予想外の方向から殴られたかのようにのけぞる。

 コイツ、さっきのスカイとの話聞いてたのか。厄介なこと言いやがって。

 

 と言っても、俺が話せることは……本当に変わらない。

 

「俺が魂導者になった理由は前も言ったはずだぜ。空飛べる奴がいんのに騎士をやるのは馬鹿らしいから、支える方やった方がいくらかマシだって」

 

「――その結果、何が欲しいんだ? 地位、金、名誉、女……その全てが、少し剣を振るだけで手に入るんだぞ? なのに何故、騎士になろうとしない?」

 

「……買いかぶりすぎだ、俺にそんな価値はない」

 

「――あぁ、そうだな。()()、観賞用の剣を使う貴様にはそこまでの価値はない。だから(ワタシ)は――……いや、もう言葉を尽くすのにも飽きた。これが最後だ」

 

 そう言うと、ラーミアは背中から生やしている六枚羽をさらに大きく広げ、その威を示すかのように雷をその身体に迸らせた。超高圧の電流が鳴らす爆音と、眼が潰れそうなほど眩い黄金の光が空間を支配する。

 

 黄金をその身に纏ったラーミアは俺へその眼を、その手を真っ直ぐに突き付け……その口を大きく開いた。

 

「――(ワタシ)を選べ、ルシアス!! (ワタシ)が貴様に、その才能に合った剣と報酬をくれてやる! その代わり、貴様は(ワタシ)の騎士として、共に天を目指すんだ! 貴様に騎士(それ)以上の価値は、ない!!」

 

「…………は?」

 

 口から激情を、身体から魔力を吐き出すラーミアに対して俺が抱いた感情は、困惑だった。だってそうだ。俺に騎士以外の道を、夢を抱いて生きることを教えてくれたのは、ラーミアなのに……なんで、否定するんだ?

 

 ……いや、やめろ。これ以上『執着』を表に出すな、見て見ぬふりをしろ。執着が俺を破滅へ導くのだから、押さえつけろ。

 

 どのみち、俺はラーミアの手をとるつもりはない。俺という騎士にそこまでの価値がないこと。これまで倒してきた敵は全て戦乙女でも倒せることを俺は知っている。

 

 俺が手を取らないことを察したラーミアは、その手を引っ込め……たかと思うと、代わりに蒼銀の剣を引き抜き、俺へ突き付けてきた。

 

「そうか。応えないか。ならば、貴様を奪い去る。この世界のどこに逃げても追いかけて、貴様という存在を(ワタシ)のものにする。これは――確定事項だ!!」

 

「――待ってよ、らーちゃん!!」

 

 ラーミアの宣言に対し、スカイが横入りをした。

 

「……っ! ……どけ、カイちゃん」

 

 スカイへ剣を向けることになったラーミアは僅かに怯む。しかし、一瞬後には眼光をさらに鋭くし、スカイの喉元へ剣を突き付けた。だが、スカイも全く怯まない。力強く光るその眼をラーミアへ向け、火花を散らせる。

 

「なんで、ルシアスの意思を無視するの? そんな、無理矢理強要するようにルシアスを騎士にしても……誰も、幸せにならないよ!」

 

「――(ワタシ)が幸せになる。意思なんてどうでもいい。ただ、ルシアスが(ワタシ)の騎士になれば、それでいいんだ」

 

「……そんなっ!!」

 

 何の悪びれもしないラーミアの言葉に、スカイがたじろぐ。だが、完全には引かず、ラーミアから顔を逸らしただけだった。苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、スカイは呟く。

 

「……変わったね、らーちゃん。昔から強引な所はあったけど、そんな、そんな……誰かの意思を無視するようなことは、言わなかった」

 

「かっこよくなったとは、言ってくれないのか?」

 

「言わないよ、言いたくない」

 

「……ふんっ、そうか」

 

 詰まらなさそうに鼻を鳴らすラーミアに対して、スカイは歯を食いしばりながら一歩前へ踏み出し、ラーミアへ対抗の意思を示すように立ちふさがった。剣を突き付けられた状態で前へ進んだことで喉の薄皮が切れ、細く赤い液体が流れだしている。

 

 ……スカイ、無理はするなよ!?

 

「……させない、させないよ! ボクはルシアスの意思を無視なんてしたくないし、何より――ルシアスは、ボクの魂導者だ!! らーちゃんにも、渡さない!!」

 

「悪いが、これだけは(ワタシ)も譲れない。カイちゃん……いや、スカイ・ジーニアス! 明日、貴様を叩き潰し、ルシアスは(ワタシ)の騎士となる! 誰がなんと言おうともな!!」

 

 互いに闘志を剥き出しにするスカイとラーミア。正直、俺は驚いている。スカイが……ここまで、モチベーションを出してくれていることに。スカイはずっと、退学阻止のためだけに戦っていると思っていた。

 

 言いたいことは言い終えたのか、ラーミアは剣を仕舞い、俺達に向かって背を向けた。

 

「さらばだ、スカイ。……貴様が(ワタシ)と戦えるほど成長した喜びとは別に、明日(ワタシ)は、一片の容赦もなく貴様を粉砕する」

 

「いいや。明日、ボクはらーちゃんに並ぶ……違う、超えるんだ!」

 

 スカイの宣言を背に受けたラーミアは返答もなく羽を消し、夜の闇にその姿を消した。後には俺とスカイだけが残され……スカイが俺の方を向いて申し訳なさそうに身を竦めた。

 

「ご、ごめんね、ルシアス。その……余計な事、言っちゃったかな」

 

「いいや、よく言ったスカイ。だから一つ、明日勝つためにスカイへ伝授したい、ラーミアの弱点がある」

 

「……えっ!? そんなのあるの!? 何!?」

 

 ……スカイの心は俺に伝わった。スカイが俺の騎士になりたくないという意思を汲んでくれるのならば俺は、それを少しくらい返してもいいのかもしれない。どうせ既に、スカイへ俺の剣を見せちまってるしな。

 

「イリスとの戦いで分かったんだが、ラーミアは俺の剣を、アルスター流剣聖道を使う。だから、アルスターの剣が『観賞用』と呼ばれる理由……()()を教えてやる」

 

 ……天才騎士呼ばわりが馬鹿馬鹿しくなるほどの、()()()なのをな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。